客や取引先からの理不尽な言動(カスタマーハラスメント)に苦しんでいるとき、あなたには3つの手段があります。
1つ目は会社に対応を求めること。会社には従業員の安全に配慮する義務があり(労働契約法5条)、2026年4月からはカスハラ対策が法律上の義務になりました。2つ目は加害者本人への損害賠償請求。暴言や土下座の強要などは不法行為(民法709条)にあたります。3つ目は労災の申請。カスハラでうつ病などになった場合、労災認定の対象になります。
「自分が我慢すればいい」と抱え込む必要はありません。
- そもそもカスハラとは何か
- 会社に何を求められるか
- 会社が守ってくれないときの手段
- 加害者本人に慰謝料を請求できるか
- カスハラで労災は使えるか
- 退職を考えるときの注意点
カスタマーハラスメントとは
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引先などから受ける、著しい迷惑行為のことです。厚生労働省は、要求の内容に妥当性がない、または要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもので、労働者の就業環境が害されるものと整理しています。
たとえば次のような言動が典型です。
- 長時間にわたる執拗なクレーム・電話
- 暴言、人格を否定する言葉
- 土下座や過剰な謝罪の強要
- 「SNSにさらす」などの脅し
- 正当な理由のない金銭・商品の要求
- 従業員個人への付きまとい
正当なクレームとの違いは、要求そのものが理不尽か、あるいは要求の伝え方が常識を超えているかという点にあります。
会社に対応を求める
会社には従業員を守る義務がある
会社(使用者)は、労働者が安全に働けるように配慮する義務を負っています。これを安全配慮義務といい、法律にも明記されています(労働契約法5条)。この義務は、社内のハラスメントだけでなく、客や取引先といった社外からの迷惑行為にも及びます。
ですから、カスハラに苦しんでいるときは、まず会社に状況を伝え、対応を求めることができます。具体的には、加害者への対応を会社に任せる、担当を外してもらう、複数人で対応する体制をとってもらう、といったことです。
2026年4月からカスハラ対策は会社の義務に
さらに、2026年4月からは、事業主にカスタマーハラスメントを防止するための措置を講じることが法律上義務づけられました(改正労働施策総合推進法)。相談窓口の設置や、被害を受けた従業員への配慮などが会社に求められます。
会社が何もしてくれない場合、この義務を果たしていないと主張する根拠になります。
会社が守ってくれないとき
会社に相談しても放置される、かえって「客の言うことを聞け」と言われる——そうしたケースもあります。会社が安全配慮義務を果たさず、その結果として心身に不調をきたした場合、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
会社との交渉や請求は、労働問題を扱う弁護士に相談するのが確実です。会社に義務違反があるかどうかは、被害の深刻さ、会社が状況を把握していたか、それでも何もしなかったかといった事情から判断されます。証拠を残しておくことが重要です。
加害者本人に慰謝料を請求できるか
カスハラの加害者本人に対しては、不法行為に基づく慰謝料を請求できます(民法709条)。暴言、脅迫、土下座の強要、長時間の拘束などは、権利を侵害する違法な行為だからです。
ただし現実には、加害者の氏名や住所がわからないことが少なくありません。その場合は、防犯カメラの映像、録音、やり取りの記録などをもとに相手を特定する作業が必要になります。悪質で刑事事件に発展しうるケース(脅迫罪・強要罪・業務妨害罪など)では、警察への相談も選択肢です。
カスハラで労災は使えるか
使えます。2023年9月の労災認定基準の改正で、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」ことが、精神障害の労災認定で評価される出来事として明記されました(厚生労働省)。
つまり、カスハラが原因でうつ病や適応障害などになった場合、それが労災と認められれば、治療費や休業補償を受けられます。労災は会社に落ち度がなくても給付される制度で、会社が労災申請に協力しなくても、労働者自身が労働基準監督署に請求できます。
退職を考えるときの注意点
心身が限界のときは、退職も正当な選択です。その際、カスハラが原因で退職に追い込まれた場合は、自己都合ではなく会社都合(特定受給資格者・特定理由離職者)として扱われる可能性があります。失業給付の受給開始時期や期間が有利になることがあるため、離職票の記載には注意してください。
また、退職前にカスハラの記録や、会社に相談したのに対応されなかった経緯を残しておくと、後の損害賠償請求や失業給付の手続で役立ちます。
よくある質問
まとめ
カスタマーハラスメントは、我慢するしかないものではありません。会社に対応を求める、加害者本人に慰謝料を請求する、労災を申請する——状況に応じて使える手段があります。とくに2026年4月からは会社のカスハラ対策が義務になり、労働者が声を上げやすい環境が整いつつあります。
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