交通事故でけがをした主婦の方から、「収入がないのだから休業損害は出ないと言われた」というご相談をよく受けます。これは誤りです。家事労働にも金銭的な価値があると認められており、収入がなくても休業損害は請求できます。
問題になるのは「出るか出ないか」ではなく、1日あたりいくらで、何日分認められるかです。ここで保険会社の提示額と、裁判所が認める水準との間に、大きな開きが生まれます。この記事では、大阪で交通事故の被害者側を扱う弁護士が、金額の決まり方と、提示額を検算する方法を説明します。
結論から
Q. 専業主婦でも休業損害はもらえますか。
A. もらえます。最高裁昭和50年7月8日判決が、家事労働に従事できなかった期間について財産上の損害を認めています。自賠責保険の支払基準にも、家事従事者については収入の減少があったものとみなす、と明記されています。
Q. 1日あたりいくらになりますか。
A. 裁判所が用いるのは賃金センサスの女性・学歴計・全年齢平均賃金です。令和7年の数値は年額437万700円で、1日あたり約1万1,975円になります。一方、自賠責保険と任意保険が最初に提示してくるのは1日6,100円です。1日あたり約5,875円の差があります。
Q. 何日分が認められますか。
A. 実務では、通院期間を区切って「家事がどの程度できなかったか」の割合を当てはめる逓減方式が中心です。保険会社が提示してくる「実際に通院した日数」は下限の目安にすぎません。
数字で見る現在地|1日6,100円と1万1,975円の差
主婦の休業損害でまず押さえていただきたいのは、使われている単価が2種類あるということです。担当者の対応が悪いという話ではなく、最初に提示される基準が違うのです。
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| 基準 | 1日あたりの単価 | 根拠 |
|---|---|---|
| 自賠責保険の支払基準 | 6,100円 | 平成13年金融庁・国土交通省告示第1号。任意保険会社もこれと同額で提示してくるのが一般的です |
| 裁判所が用いる基準 | 約11,975円 | 賃金センサス(賃金構造基本統計調査)の女性・学歴計・全年齢平均賃金。令和7年の年額437万700円を365で割った額 |
| 差額 | 約5,875円 | — |
この差は日数が積み上がるほど大きくなります。仮に180日分がそのまま認められるとすれば、6,100円なら109万8,000円、約1万1,975円なら215万5,500円です。同じけが、同じ通院で、100万円以上ひらきます。
なぜ最初は低い基準で提示されるのか
保険会社は、まず自賠責保険から回収できる範囲で提示額を組み立てます。自賠責の支払基準は法令に基づいて定められた定額の基準であり、裁判所が損害額を認定するときの基準とは別のものです。弁護士に依頼するか訴訟を起こさなければ、裁判所の基準で計算し直されることは通常ありません。提示額が低いのは担当者の裁量ではなく、使っている基準が違うからだとお考えください。
主婦の休業損害が認められる理由
最高裁は「家事労働は財産上の利益を生ずる」と判断している
家事労働には給料の支払がありません。それでも損害と認められるのはなぜか。この点を正面から示したのが最高裁昭和49年7月19日判決です。同判決は、家事に専念する妻について、次のように判示しました。
最高裁昭和49年7月19日判決
家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げているのである。
ただし、この昭和49年の判決は7歳の女子が亡くなった事案で、死亡による逸失利益が問題になったものです。けがをした主婦の休業損害について同じ考え方を確認したのは、その翌年の最高裁昭和50年7月8日判決です。
最高裁昭和50年7月8日判決
妻の家事労働が財産上の利益を生ずるものであり、これを金銭的に評価することが不可能といえないことは、当裁判所判例の示すとおりである。これと同旨の見解に立って、被上告人が本件事故による負傷のため家事労働に従事することができなかった期間について財産上の損害を被ったものとした原審の判断は、正当として是認することができる。
この2つは事案も判断の対象も違います。主婦の休業損害の根拠として挙げるべきは昭和50年7月8日判決です。インターネット上の解説では両者が混同されていることが少なくありませんので、書面で引用されるときはご注意ください。
自賠責保険の支払基準にも明記されている
訴訟にならない場面でも、根拠はあります。自賠責保険の支払基準は、休業損害について原則として収入の減少が必要としたうえで、次のただし書を置いています。
家事従事者については、休業による収入の減少があったものとみなす。
(自賠責保険の支払基準・平成13年金融庁・国土交通省告示第1号 第2の2(1)ただし書)
つまり、収入がないことは、それ自体では休業損害を否定する理由になりません。「無職だから出ない」と言われた場合は、この規定を示してください。
あわせて、同じ支払基準が日数と金額について次のように定めている点も押さえておいてください。示談交渉で有効に働きます。
休業損害の対象となる日数は、実休業日数を基準とし、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して治療期間の範囲内とする。
立証資料等により1日につき6,100円を超えることが明らかな場合は、自動車損害賠償保障法施行令第3条の2に定める金額を限度として、その実額とする。
(同支払基準 第2の2(2)(3))
読み取れることは2つあります。1つは、日数は「実治療日数その他を勘案して治療期間の範囲内」で決まるとされており、実際に通院した日数だけで決まるとは書かれていないこと。もう1つは、6,100円という金額にも例外の定めが置かれていることです。自賠責の枠内でも、6,100円と実通院日数が当然の前提になっているわけではありません。
「家事従事者」とは誰か
実務でいう家事従事者とは、家族のために家事労働に従事している人を指します。ポイントは2つあります。
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| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 性別・年齢 | 問いません |
| 対象となる家事 | 自分以外の家族のための家事。自分の身のまわりのことだけでは足りないと考えられています |
| 職業の有無 | 専業でも兼業でも家事従事者になり得ます |
男性が家事を担っている場合も同じです。妻が正社員として働き、夫が洗濯・掃除・料理などを行っていた事案で、休業損害と後遺障害の逸失利益をいずれも女性の全年齢平均賃金を基礎として算定した裁判例があります(横浜地裁平成24年7月30日判決)。主夫の基礎収入にも女性の平均賃金を使うのが裁判例の大勢です。男性の平均賃金ではない点に違和感を持たれるかもしれませんが、家事労働の経済的評価という観点から、女性労働者の平均賃金が用いられています。
逆に、否定されることもあります
家族と同居していても、家事労働の実態が乏しいと判断されれば、賃金センサスを基礎とする休業損害は認められません。娘と同居していた女性について、夫の単身赴任にともなって原告宅にいたにすぎず、当時稼働していた様子もないといった生活状況から、一家の主婦としての稼働をしていたとは認められないとした裁判例があります(名古屋地裁平成12年8月30日判決)。同居しているという事実だけでは足りず、実際に家事を担っていたことを示す必要があります。
いくらになるか|基礎収入は賃金センサス
使う数値は「女性・学歴計・全年齢」
家事労働には値段がついていないため、賃金労働者の平均賃金で代用します。使うのは、厚生労働省が毎年実施している賃金構造基本統計調査(賃金センサス)の第1巻第1表、産業計・企業規模計(10人以上)・女性労働者・学歴計・全年齢の欄です。
年収額は、次の式で計算します。
基礎収入 =「きまって支給する現金給与額」×12 +「年間賞与その他特別給与額」
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| 基準年 | 年額 | 1日あたり(÷365日) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 令和6年 | 419万4,400円 | 約11,492円 | — |
| 令和7年 | 437万700円 | 約11,975円 | 2026年3月公表。前年比+17万6,300円 |
金額が毎年動くため、どの年の数値を使うかで結論が変わります。令和6年と令和7年では1日あたり約483円の差があり、180日分なら約8万7,000円の違いになります。
最新年の数値は自分で計算して主張する
裁判所が参照する損害賠償額算定基準の書籍は、刊行時期の関係で、最新の賃金センサスを載せていないことがあります。公表されている賃金構造基本統計調査から自分で計算し、根拠を示して主張することになります。当事務所では、直近に公表された年の数値を用いて計算し、算出根拠を明示して交渉しています。
概ね60歳以上は「年齢別」になることが多い
全年齢の平均賃金を使うのが原則ですが、年齢が上がると、家事の負担が軽くなり体力的にも家事労働の能力が低下する傾向があるとして、評価が下がる場合があります。実務では、概ね60歳前後からは全年齢平均ではなく年齢別の平均賃金を用いる裁判例が多くなるとされています。70歳台では、年齢別の平均賃金によるか、全年齢平均の何割という形で認定されることが大部分です。
ただし、これは自動的に決まるものではありません。介護を担っているなど家事労働の実態が重い場合には、年齢別より高い水準が用いられることもあります。年齢だけで一律に下がるわけではないとお考えください。
兼業主婦は「合算」ではなく「高いほう」
外で働きながら家事も担っている場合の扱いは、誤解が多いところです。
よくある誤解:パート収入の分と、主婦としての平均賃金の分を、両方もらえる。
実務の扱い:実際の収入と平均賃金を比べて、高いほうを基礎収入にします。足し合わせることはしません。
これは、外で働いている時間は家事を犠牲にしているのだから、平均賃金で評価すればその中にすでに含まれている、という考え方によります。したがって、パート収入が平均賃金より低い方は、平均賃金を基礎にできることになります。年収130万円のパート勤務の方であれば、実収入ではなく437万700円を基礎に主張できる、ということです。
もっとも、この扱いには実務でも異論があります。家事労働の実態(家事に充てている時間、低年齢の子どもや介護を要する家族の有無、家事を分担してくれる人がいるか)が具体的に立証された場合には、加算を認めるべきだという考え方も示されています。実収入が平均賃金を上回る方については、この点を丁寧に主張する余地があります。
仕事を休んでいなくても請求できる場合がある
「有給を使ったので減収はありません」「勤務先が配慮してくれたので給料は減っていません」という方がおられます。勤務の面で減収がなかったとしても、それは家事労働に支障がなかったことを意味しません。賃金労働を休まなかった有職主婦であっても、家事労働が制限されていれば休業損害は認められます。
なお、給与所得者としての休業損害を勤務先に証明してもらう場合の書類の書き方は、休業損害証明書の書き方で詳しく説明しています。専業で家事をされている方には、この書類は必要ありません。
何日分が認められるか|ここが最大の争点
基礎収入よりも争いになりやすいのが日数です。会社員であれば「欠勤した日」がはっきりしますが、家事には出勤簿がありません。そこで、次の3つの考え方の間で調整されます。
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| 考え方 | 数え方 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 通院期間で数える | 事故日から症状固定(または治癒)までの日数 | 上限の目安 |
| 実通院日数で数える | 実際に病院へ行った日数 | 下限の目安 |
| 逓減方式 | 期間を区切り、その間の家事の制約率を当てはめる | 実務の中心 |
保険会社は「実通院日数」で提案してくることが多い
示談交渉では、基礎日額に実際に通院した日数を掛けた額を提示されることが少なくありません。しかし、実通院日数は「その日だけ家事ができなかった」ことを意味しません。むちうちで首が回らない方は、通院しない日も洗濯物を干せませんし、腰を痛めた方は掃除機をかけられません。実通院日数による計算は、実情を反映していない場合が少なくないと指摘されています。
逓減方式の考え方
けがの直後ほど家事ができず、回復するにつれてできることが増えていく。これが実際の経過です。そこで、入院期間は100%とし、その後は期間を区切って、その間の家事労働の制約率を定める方法が用いられます。
制約率の置き方は事案によって異なりますが、通院の初期を高く、後半を低くしていくのが一般的です。次は、通院6か月・入院なしのケースで、期間を3つに区切って計算した例です。
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| 期間 | 日数 | 制約率 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 1〜60日 | 60日 | 100% | 11,975円×60日 | 718,500円 |
| 61〜120日 | 60日 | 50% | 11,975円×60日×50% | 359,250円 |
| 121〜180日 | 60日 | 30% | 11,975円×60日×30% | 215,550円 |
| 合計 | 180日 | — | — | 1,293,300円 |
同じ事案で、保険会社が実通院日数60日として自賠責基準で計算すると、6,100円×60日=36万6,000円です。約92万7,000円の差が生まれます。制約率の置き方によって結論は上下しますので、この表はあくまで計算の仕組みを示すためのものですが、単価と日数の両方で差がつくという構造はご理解いただけると思います。
制約率は交渉で決まるものではありません。けがの内容、通院の経過、実際にできなかった家事の中身を積み上げて主張し、その結果として割合が定まります。「6か月通ったから何割」という決まった数字があるわけではない点にご注意ください。
認めてもらうためにすること
- 家事従事者であることを示す資料をそろえる。住民票や家族構成のわかる資料の提出を求められることがあります。誰と同居し、誰のために家事をしていたかがわかるようにします。
- できなかった家事を具体的に書き出す。「家事ができませんでした」だけでは金額になりません。買い物に行けず配達を頼んだ、風呂掃除を夫に代わってもらった、子どもの送迎ができず祖母に来てもらった、といった誰が代わりに何をしたかまで書きます。時期ごとに変化を書けるとさらに有効です。
- 提示された金額を検算する。単価はいくらか、日数は何を根拠に何日としているか。この2つを分解すれば、提示額がどの基準で作られているかがわかります。
交通事故紛争処理センターの一部の支部では、家事従事者の休業損害について、家族構成、身体の不具合の状況、家事がどの程度できなかったか、家事ができなかった期間はどうしていたかを申告する書式が用意されています。裁判所や第三者機関が知りたいのは、まさにこの4点です。相談の際も、この順番で整理してお持ちいただくと話が早く進みます。
ケース別の計算例
制約率の置き方は事案ごとに違いますので、以下はあくまで計算の仕組みを示すための例です。実際の割合は、けがの内容、通院の経過、家事の制限の程度を積み上げて主張し、その結果として定まります。基礎収入はいずれも令和7年の賃金センサス(日額11,975円)を用いています。
ケース1|むちうちで通院3か月、実通院40日
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| 期間 | 日数 | 制約率 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 1〜30日 | 30日 | 100% | 359,250円 |
| 31〜60日 | 30日 | 50% | 179,625円 |
| 61〜90日 | 30日 | 30% | 107,775円 |
| 合計 | 90日 | — | 646,650円 |
これに対し、自賠責の日額6,100円に実通院日数40日を掛けた提示額は24万4,000円です。差は約40万2,000円になります。
ケース2|骨折で入院10日、その後通院約6か月
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| 期間 | 日数 | 制約率 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 入院期間 | 10日 | 100% | 119,750円 |
| 退院後1〜50日 | 50日 | 80% | 479,000円 |
| その後60日 | 60日 | 50% | 359,250円 |
| その後60日 | 60日 | 30% | 215,550円 |
| 合計 | 180日 | — | 1,173,550円 |
入院している期間は家事が一切できませんので、100%で計算します。ギプスや固定具が外れる時期、家事のどの動作から再開できたかを、退院後の割合を決める手がかりにします。
ケース3|パート勤務(年収120万円)で通院4か月
兼業の方は、実際の収入と平均賃金を比べて高いほうを基礎収入にします。パート年収120万円は437万700円を下回りますので、賃金センサスの平均賃金を基礎にできます。
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| 期間 | 日数 | 制約率 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 1〜40日 | 40日 | 100% | 479,000円 |
| 41〜80日 | 40日 | 60% | 287,400円 |
| 81〜120日 | 40日 | 30% | 143,700円 |
| 合計 | 120日 | — | 910,100円 |
このケースで、勤務先を休んだ分の給与減が別途あるとしても、両方を足すことはできません。平均賃金による家事従事者としての休業損害か、勤務先の減収額か、高いほうで計算します。
立証資料の作り方
家事の記録は「動作」で書く
「家事ができませんでした」という書き方では、金額になりません。裁判所や保険会社が知りたいのは、どの家事が、どの程度、いつまでできなかったかです。次のように、動作の単位まで落として記録してください。
× 家事全般ができなかった
○ 首を上に向けられず、洗濯物を物干し竿にかけられなかった(事故後1か月間)。夫が帰宅後に干していた
○ 前かがみになれず、浴槽を洗えなかった(事故後2か月間)。週末に長女に頼んだ
○ 重い物を持てず、買い物に行けなかった(事故後3か月間)。ネットスーパーの配達を利用した
ポイントは、できなかった動作、その期間、代わりに誰が何をしたかの3点をセットにすることです。代替者がいたという事実は、家事の必要が現実にあったことの裏づけにもなります。
陳述書に書く4項目
争いになったときに提出する陳述書では、次の4点を押さえます。第三者機関の申告書式が求めている項目とほぼ重なります。
- 家族構成。誰と同居し、その家族のためにどの家事を担っていたか。小さなお子さんや介護を要するご家族がいる場合は、その負担の内容まで書きます。
- 身体の不具合の状況。どこがどう痛み、どの動作ができなかったか。診断書やリハビリの記録と時期が食い違わないように整えます。
- 家事がどの程度できなかったか。全部できなかったのか、一部できたのか。時期によってどう変わったか。
- できなかった期間の対応。誰が代わりに行ったか、外注したか、放置したか。
症状の推移と家事の制限が結びついていないと、逓減方式の主張は通りません。たとえば「3か月目から家事を再開できた」と書いておきながら、診断書では6か月目まで同じ症状が続いているという場合、どちらの説明も信用されにくくなります。記録は治療の経過と突き合わせながら作ってください。
混同しやすい3つの損害
主婦の方のご相談で、しばしば混ざってしまうものを整理します。これらは別々に計算され、それぞれ請求できます。
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| 項目 | 何に対する賠償か | 対象期間 |
|---|---|---|
| 休業損害 | 家事ができなかったことによる収入相当額の損害 | 事故から症状固定または治癒まで |
| 入通院慰謝料 | けがをして治療を受けたことによる精神的苦痛 | 同上 |
| 後遺障害の逸失利益 | 後遺障害が残ったことによる将来の労働能力の低下 | 症状固定より後 |
休業損害と慰謝料は、対象期間が同じでも別の損害です。「慰謝料をもらったから休業損害はない」ということにはなりません。慰謝料の金額の決まり方は交通事故の慰謝料計算で、症状固定より後の損害については逸失利益で説明しています。
「休業補償」との違い。労災保険から支払われるものを休業補償給付といいます。家事従事者は労災の対象になりませんので、通勤中や業務中の事故でない限り、この制度は使いません。名前が似ていますが別の制度です。
示談の前に確認すること
自賠責の傷害部分には120万円の枠がある
自賠責保険で支払われる傷害による損害は、治療費・休業損害・慰謝料などを合計して120万円が限度です(自動車損害賠償保障法施行令第2条)。治療が長引いて治療費だけで枠が埋まると、休業損害として自賠責から支払われる金額は残りません。その場合、休業損害は任意保険会社との交渉で確保することになります。「自賠責の枠がないので出せない」と言われても、加害者に対する請求権がなくなるわけではありません。
過失割合の影響
ご自身にも過失がある事故では、計算した休業損害から過失分が差し引かれます。単価と日数で積み上げた金額が、そのまま手元に残るわけではない点にご注意ください。
示談したあとの追加請求は難しい
示談書に署名をすると、原則としてその金額で確定します。休業損害の計算根拠に納得できないまま署名しないでください。単価はいくらか、日数は何を根拠に何日としているか。この2点を必ず確認し、書面で説明を求めてください。
保険会社が持ち出す主張と、その限界
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| 言われること | どう考えるか |
|---|---|
| 収入がないので休業損害は出ません | 誤りです。自賠責保険の支払基準に、家事従事者は収入の減少があったものとみなす、と定められています。最高裁昭和50年7月8日判決も家事労働の休業損害を認めています |
| 実際に通院した日数で計算します | 自賠責保険の支払基準でも、日数は実休業日数を基準に、傷害の態様や実治療日数その他を勘案して治療期間の範囲内とされています。実通院日数だけで決まるとは書かれていません |
| 1日6,100円が基準です | 自賠責保険の支払基準の額です。裁判所が損害額を認定する際に用いる基準とは別のものであるうえ、支払基準自体にも、立証資料等により6,100円を超えることが明らかな場合の定めが置かれています |
| ご家族が同居しているので家事はしていないはずです | 同居家族がいることは、むしろ家族のための家事をしていた事情です。誰のためにどの家事をしていたかを具体的に示します |
| お仕事の給料は減っていませんね | 賃金労働で減収がなくても、家事労働が制限されていれば休業損害は認められます |
| ご高齢なので家事の負担は軽いはずです | 年齢だけで決まるものではありません。介護など負担の重い家事を担っていれば、その実態に応じた評価を求めます |
反論の組み立て方は共通しています。いずれも「家事労働の実態」を示すことが答えになります。症状の推移と、それによって家事がどう制限されたかを結びつけて説明できるかどうかで結論が変わります。単に平均賃金の日額に症状固定までの日数を掛けた金額を請求するだけでは、実務では通りにくいのが現実です。
認められない場合・注意が必要な場合
自分のためだけの家事
休業損害の対象になるのは、自分以外の家族のための家事労働だと考えられています。一人暮らしで、自分の身のまわりのことができなくなったという場合は、家事従事者としての休業損害ではなく、介護費用などの実費が問題になります。
もっとも、事故の後に家族構成が変わった場合の扱いは別です。事故後、症状固定前に夫が亡くなって単身になった主婦について、家事従事者としての休業損害と後遺障害の逸失利益を認めた裁判例があります(東京地裁平成25年1月30日判決)。事故の時点で家事従事者であったかどうかが基準になるという考え方です。
家政婦や保育を頼んだ費用との関係
家事ができないあいだ、家政婦を頼んだ、保育料が余分にかかった、という場合があります。この費用は実費として損害になり得ますが、本人の休業損害と足し合わせることはできません。本人の休業損害と、支払った費用とを比較して、高いほうを認めるのが原則です。平均賃金で計算した休業損害を請求したうえで、さらに家政婦代を上乗せする、という請求は通りません。
もともと家事ができない状態だった場合
事故の前から病気などで家事労働に制限があった場合、基礎収入が減額されることがあります。事故によってどこまで悪化したのかを切り分ける必要があります。
よくある誤解
誤解1:主婦には休業損害証明書が必要。専業で家事をされている方に勤務先はありません。証明してもらう相手がいないのですから、この書類は不要です。
誤解2:自賠責の6,100円が上限。上限ではありません。自賠責保険から支払われる範囲の基準であって、加害者に請求できる損害額の上限ではありません。支払基準自体にも、立証資料等により6,100円を超えることが明らかな場合の定めがあります。
誤解3:兼業なら収入と平均賃金を足せる。足せません。高いほうを基礎収入とするのが実務の扱いです。
誤解4:領収書がないから請求できない。休業損害は実費の賠償ではありません。領収書は必要ありません。必要なのは、家事ができなかったことを説明する具体的な事実です。
よくある質問
Q. 専業主婦ですが、収入がなくても休業損害を請求できますか。
A. 請求できます。自賠責保険の支払基準は、家事従事者について休業による収入の減少があったものとみなすと定めています。最高裁昭和50年7月8日判決も、負傷のため家事労働に従事できなかった期間について財産上の損害を認めています。
Q. 1日あたりいくらで計算されますか。
A. 裁判所が用いるのは賃金センサスの女性・学歴計・全年齢平均賃金です。令和7年の年額は437万700円で、365で割ると1日あたり約1万1,975円になります。自賠責保険の支払基準は1日6,100円で、約5,875円の差があります。
Q. パートで働いています。パート代と主婦の分を両方請求できますか。
A. 両方を足すことはできません。実際の収入と賃金センサスの平均賃金を比べて、高いほうを基礎収入とするのが実務の扱いです。パート収入が平均賃金を下回る場合は、平均賃金を基礎として請求できます。
Q. 仕事は休んでいないので減収がありません。それでも請求できますか。
A. 請求できる場合があります。賃金労働の面で減収がなかったとしても、家事労働が制限されていれば休業損害は認められます。勤務の状況とは別に、家事にどのような支障が出たかを示すことになります。
Q. 夫が家事をしています。主夫でも休業損害は認められますか。
A. 認められます。家事従事者に性別の要件はありません。妻が正社員、夫が家事を担っていた事案で、女性の全年齢平均賃金を基礎として休業損害と逸失利益を認めた裁判例があります(横浜地裁平成24年7月30日判決)。
Q. 一人暮らしでも家事従事者として認められますか。
A. 原則として認められません。休業損害の対象になるのは自分以外の家族のための家事労働だと考えられているためです。自分の身のまわりのことができなくなった場合は、介護費用などの実費の問題になります。
Q. 70歳です。年齢を理由に減らされますか。
A. 概ね60歳前後からは、全年齢平均ではなく年齢別の平均賃金が用いられる裁判例が多くなります。ただし年齢だけで自動的に決まるものではありません。介護を担っているなど家事労働の実態が重い場合には、より高い水準が用いられることもあります。
Q. 実際に通院した日数分しか出ないと言われました。
A. 実通院日数は下限の目安にすぎません。自賠責保険の支払基準でも、休業損害の対象となる日数は実休業日数を基準とし、傷害の態様や実治療日数その他を勘案して治療期間の範囲内とされています。通院しない日も家事に支障が出ていたのであれば、期間を区切って家事労働の制約率を当てはめる逓減方式で主張します。
Q. 家政婦を頼みました。その費用も別に請求できますか。
A. 本人の休業損害と足し合わせることはできません。本人の休業損害と、実際に支払った費用とを比較して、高いほうを認めるのが原則です。
Q. いつまでの分が休業損害の対象になりますか。
A. 原則として症状固定または治癒までです。症状固定の後は、後遺障害が残っていれば逸失利益の問題に移ります。症状固定の時期は治療の打ち切りとは別の判断ですので、医師の見立てを確認してください。
提示された休業損害が妥当か、その場で検算します
単価はいくらか、日数は何を根拠にしているか。この2点を分解すれば、提示額がどの基準で作られているかがわかります。難波みなみ法律事務所では、交通事故の被害者の方の初回相談を30分無料でお受けしています。弁護士費用特約をお使いいただける場合もあります。
電話 06-6786-8103(受付 9:00〜22:00)/夜間・土日祝、電話・メール・LINEでのご相談にも対応しています。
相談を申し込むあわせて読みたい
監修:難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号49544/中小企業診断士)。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。交通事故の被害者側のご相談を大阪で承っています。






