コラム
更新日: 2026.08.21

物損事故の慰謝料|例外の3類型と請求できる7つの費目

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

車をぶつけられて、修理に何十万円もかかる。仕事にも生活にも支障が出て、腹立たしい思いをした。それなのに、慰謝料は請求できないと言われる。納得しにくい話ですが、これには理由があります。

この記事では、物損事故で慰謝料が原則として認められない理由と、例外的に認められた裁判例、そして慰謝料の代わりに何をいくら請求できるのかを、裁判例と条文にもとづいて説明します。買替諸費用については2026年4月の税制改正で扱いが変わった点にも触れます。

結論から

Q. 物損事故で慰謝料はもらえますか?

原則としてもらえません。車や物の損害は、修理費などの財産的な賠償を受けることで回復されると考えられているからです。

Q. 例外はありますか?

あります。裁判で認められてきたのは、おもに家屋への飛び込み事故墓石の損傷ペットの死傷の3つの類型です。単に高価な車が壊れたというだけでは認められません。

Q. 慰謝料が出ないなら、何を請求できますか?

修理費、時価額、買替諸費用、評価損、代車費用、休車損害、廃車費用です。争いになりやすいのは評価損と代車費用で、ここは交渉の仕方で金額が変わります。

物損事故で慰謝料が原則もらえない理由

民法は、他人の権利を侵害した者に損害賠償の義務を負わせ(民法709条)、財産以外の損害についても賠償の対象になると定めています(民法710条)。条文だけを読めば、物が壊された場合にも慰謝料を請求できそうに見えます。

ところが裁判所は、物損については慰謝料を認めない扱いを続けてきました。理由はこうです。

物が壊された場合の損害は、修理費などの財産的損害が支払われることで、通常は回復が果たされる。だから原則として、それとは別に慰謝料を請求することはできない。
(大阪地裁 平成12年10月12日判決)

つまり「お金で元どおりにできる損害は、お金を払えば終わり」という考え方です。壊れた車が直り、直らなければ買い替える費用が出る。それで損害は埋め合わされたのだから、そこに精神的苦痛を上乗せする必要はない、ということになります。

もっとも、同じ判決は例外の余地も認めています。通常人であっても、財産的損害のてん補だけでは回復されない程度の精神的苦痛が生じると認められる場合には、慰謝料の請求も認められる、としました。次に見るのがその中身です。

例外が認められるのはどんな場合か

裁判所が使っている判断の枠組み

物損で慰謝料が認められるかどうかについて、裁判所はおおむね次のような枠組みで判断しています。

東京地裁 平成元年3月24日判決

財産的な権利を侵害された場合に慰謝料を請求できるのは、①その物が被害者にとって特別の愛着をいだかせるようなものである場合や、②加害行為が害意を伴うなど、相手方に精神的打撃を与えるような仕方でなされた場合など、被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害する特段の事情があるときに限られる。

ただし、被害者個人のきわめて特殊な感情まで保護されるわけではなく、一般の人の常識に照らして判断される。

ここで重要なのは後半です。「自分にとってはかけがえのない車だった」という気持ちだけでは足りません。誰が見ても財産的な賠償だけでは足りないと感じる事情が必要になります。

①家屋・建物への飛び込み事故

もっとも認められやすいのがこの類型です。自宅に車が突っ込んでくるという出来事は、建物の修理費を支払えば終わりとは言いにくいからです。

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裁判例事案
大阪地裁 平成元年4月14日店舗兼居宅に車両が突入した事故
岡山地裁 平成8年9月19日深夜、大型トラックが民家に飛び込んだ事故
神戸地裁 平成13年6月22日大型貨物自動車が家屋に衝突し、約半年間のアパート暮らしを余儀なくされた事案
大阪地裁 平成15年7月30日他の車を避けようとハンドルを切った車が、建物玄関前にいた人を跳ね、玄関も損壊した事故

神戸地裁の事案のように、住まいを失って仮住まいを強いられたといった生活そのものへの打撃があると、慰謝料が認められやすくなります。

②墓石の損傷

車が墓石に衝突して損傷させた事故について、慰謝料が認められた例があります(大阪地裁 平成12年10月12日判決)。墓石は、金銭に換算できない意味を持つ物の典型です。同じ判決が「物損に慰謝料は原則として認められない」と述べたうえで、この事案では例外を認めた点に意味があります。

③ペットの死傷

法律上、ペットは「物」として扱われます。しかし裁判所は、事故でペットが死亡した場合や、死亡にも匹敵する重い傷害を負った場合には慰謝料を認めてきました。

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裁判例事案
東京高裁 平成16年2月26日事故で愛犬が死亡した事案
大阪地裁 平成18年3月22日事故でセラピー犬が死傷した事案
名古屋高裁 平成20年9月30日飼い犬に関する事案

認められなかった例も知っておいてください

逆の結論になった裁判例も見ておくと、線引きの感覚がつかめます。

東京地裁 平成元年3月24日判決

事故でメルセデスベンツが損傷した事案。被害者はこの車を仕事に使っており、修理期間の約1か月はタクシーを使って仕事をせざるをえなかったと認定されました。

それでも裁判所は、前記の特段の事情を認めるに足りる証拠はないとして、慰謝料の請求を認めませんでした。精神的苦痛は、財産的損害の賠償とは別に慰謝料を認めるべき程度には至っていない、という判断です。

高級車が壊れた、思い入れのある車だった、というだけでは慰謝料は認められません。1か月タクシー通勤を強いられても否定されています。実務上、車両の損害で慰謝料が認められることはほとんどないと考えておいたほうが現実的です。

だからこそ、次に説明する財産的な損害をどこまで拾い切れるかが、受け取れる金額を左右します。

慰謝料の代わりに請求できる7つの費目

物損事故で請求できるのは、次の費目です。慰謝料が出ないぶん、ここを一つずつ積み上げていくことになります。

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費目内容争いやすさ
修理費車を直すのに必要かつ相当な費用低い
時価額修理費が高くつきすぎる場合に、修理費に代えて支払われる事故時の車両価格
買替諸費用買い替えにかかる登録・車庫証明・納車などの費用
評価損修理しても残る「事故車」としての価値の下落分高い
代車費用修理・買替えの間に借りた車の費用高い
休車損害営業車が使えず得られなかった営業利益高い
廃車費用全損車を廃車にするための法定費用低い

このほか、レッカー費用や積載していた物の損害も、事故と結びつく範囲で請求できます。

修理費と時価額|経済的全損の分かれ目

時価額はどうやって決まるのか

車が壊れたときの損害額の出発点は修理費です。ただし、修理費がその車の価値を大きく超えてしまう場合は、修理費ではなく時価額が賠償額になります。

では時価額はどう決めるのか。最高裁がはっきりと基準を示しています。

最高裁 昭和49年4月15日判決

事故で損傷した中古車の事故当時の価額は、原則として、同一の車種・年式・型で、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得するのに要する価額によって定める。

ポイントは「買ったときの値段」でも「減価償却した帳簿価格」でもないという点です。いま同じような中古車を市場で買い直そうとしたらいくらかかるか、が基準になります。中古車価格情報誌の掲載額がそのまま採用されるとは限らず、同型車の実際の販売価格を示して争う余地があります。

経済的全損とは何か

経済的全損とは、車がぺしゃんこになったという意味ではありません。修理はできるけれど、直すより買い替えたほうが安くつく状態のことです。判定式は次のとおりです。

適正な修理費用 > 事故前の車両時価額 + 買替諸費用

この不等式が成り立つと経済的全損となり、賠償されるのは修理費ではなく時価額+買替諸費用になります。買替諸費用を左辺ではなく右辺に足す点を見落とさないでください。ここを入れるかどうかで、全損になるかどうかの境目が動きます。

「全損です」と言われたら、立証する責任は相手側にあります

保険会社から「経済的全損なので時価額までしか出ません」と言われることがあります。このとき知っておいてほしいのが、立証責任の所在です。

東京地裁 平成28年6月17日判決

被害車両が経済的全損となったこと、つまり適正修理費用が事故前の車両価格および買替諸費用の合計額を上回ることは、修理費相当額の賠償を免れようとする加害者(被告)の側で立証する必要があると解するのが相当である。

「全損だから時価まで」と主張する側が、それを裏づける責任を負います。被害者の側が「全損ではない」ことを証明しなければならないわけではありません。相手方の主張する時価額の根拠を示してもらい、同型車の実際の販売価格と突き合わせることから始めてください。

なお、経済的全損の場合、実際に買い替えたかどうかにかかわらず、買替諸費用は事故と相当因果関係のある損害として認められます(東京地裁 平成27年8月4日判決)。買い替えを迷っている段階でも、請求から外す必要はありません。

買替諸費用|認められる費目と認められない費目

買替諸費用は、費目ごとに扱いがはっきり分かれます。裁判例の傾向は次のとおりです。

新しく取得する車の分

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費目損害になるか理由
検査・登録手続費用なる車を取得するたびに必ずかかる法定の費用だから
車庫証明費用なる同上
登録・車庫証明の代行費用、納車費用なる販売店に依頼するのが通常の実情で、取得行為に付随するものだから
ナンバープレート代なる取得に伴い必ず必要になるから
リサイクル料金(再資源化等預託金)なる新たに預託し直す必要があるから
自動車重量税ならない事故がなくても車検のたびに負担するものだから
自動車税ならない事故車の分が月割で還付され、二重負担にならないから
自賠責保険料ならない事故車の分の返還を求めることができるから

事故車の分

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費目損害になるか理由
未経過分の自動車重量税なる還付制度がなく、新しい車の分と二重に納める期間が生じるから
廃車の法定費用なる事故がなければ支出しなかった費用だから
未経過分の自動車税ならない廃車の翌月以降の分が月割で還付されるから
未経過分の軽自動車税ならない還付制度はないが、新しい車はその年度分の納付が不要で二重納付にならないから
未経過分の自賠責保険料ならない解約して返還を受けられるから
○×を分けているのは「二重に払うことになるかどうか」です。重量税は還付の仕組みがないため、事故車の分と新しい車の分を重ねて負担する期間が生まれます。だから損害になる。自動車税は還付されるので二重負担が起きず、損害になりません。この理屈がわかっていれば、保険会社の一覧に載っていない費目でも、認められるかどうかを自分で判断できます。

なお、還付や返還を受けられる未経過分の税・保険料の額は、損害から差し引かれます(東京地裁 平成元年10月26日判決)。「返ってくるお金は、もらえない」ということです。

【重要】「自動車取得税」はもう存在しません

買替諸費用を解説する記事の多くが、いまも「自動車取得税」を費目に挙げています。しかし、この税はすでにありません。

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時期取得したときにかかる税
2019年9月30日まで自動車取得税
2019年10月1日〜2026年3月31日自動車税環境性能割/軽自動車税環境性能割
2026年4月1日〜課税なし(環境性能割も廃止)

2019年10月1日に自動車取得税が廃止されて環境性能割に移り、その環境性能割も2026年3月31日をもって廃止されました。あわせて「自動車税種別割」は自動車税に、「軽自動車税種別割」は軽自動車税に名称が戻っています。

いま車を買い替えても、取得の場面で課税される税はありません。したがって、買替諸費用として取得税を請求することもできません。古い解説記事や古い書式をそのまま使うと、存在しない費目を請求してしまうことになります。

評価損(格落ち損)はどこまで認められるか

評価損とは何か

評価損は、きちんと修理をしても、修理後の車の価値が事故前の価値まで戻らない場合の差額です。格落ち損とも呼ばれます。中古車として売るときに「事故歴あり」となることで値が下がる、あの分です。

裁判所は、次のような理由で価値が下がると整理しています(東京地裁 昭和61年4月25日判決)。

① 修理技術上の限界から、性能や外観が事故前より潜在的に低下する
② 事故の衝撃で車体や部品に負担がかかり、修理直後は問題がなくても経年で不具合が出やすくなる
③ 修理後も隠れた損傷が残っているかもしれないという懸念が消えない
④ 事故にあった車は縁起が悪いとして嫌われる傾向がある

なお評価損は、車の交換価値が下がったことによる損害なので、請求できるのは所有者です。所有権留保付きのローンで買った車の使用者など、所有者でない人からは請求できません。

実際にはどのくらい認められるのか

弁護士の実感

評価損は、新車や高級車以外では認められない傾向です。そのため、実際に評価損が認められることは多くありません。そのうえで認められた場合でも、水準は修理費の20〜30%ほどという感覚です。

裁判例の傾向も、これと大きく違いません。初度登録からの期間、走行距離、修理の程度、車種などを総合して判断され、修理費を基準に30%程度を上限として認める事例が多いとされています。認められた金額が修理費を超えることはまずありません。

年式・走行距離との関係については、次のあたりが目安として語られます。

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車種初度登録からの期間走行距離
外国車・国産の人気車種おおむね5年おおむね6万km
上記以外の国産車おおむね3年おおむね4万km

これを超えると評価損は認められにくくなるとされています。あくまで傾向であり、確定した基準ではありません。

事故減価額証明書は取ったほうがよいのか

日本自動車査定協会の事故減価額証明書を取得して証拠にする方法があります。ただし、裁判での扱いは慎重です。

証明書が提出された事案でも、評価損の発生自体を認めない裁判例や、発生は認めても証明書記載額より低い額にとどめる裁判例が目立ちます。査定額はあくまで考慮事情の一つで、そのとおりの金額が認定されるとは限りません。

もっとも、証明書記載額の全額を認めた例もあります。東京地裁 平成25年1月9日判決は減価評価額57万4,000円の全額を、名古屋地裁 平成28年1月29日判決は減価額54万9,000円の全額を、それぞれ評価損として認めました。

弁護士の実感

証明書は、ないよりはあったほうがよいと考えています。そもそも評価損が認められる場面が限られるので、主張を裏づける材料は少しでも多いほうがよいからです。

ただし費用の負担には注意してください。裁判所が評価損の発生自体を認めなかった場合、査定料も損害として認められないとした裁判例があります(東京地裁 平成28年4月21日判決、平成29年1月30日判決)。逆に、評価損を全額認めたうえで査定料1万円も損害と認めた例もあります(浦和地裁 平成2年10月22日判決)。弁護士費用特約がない場合、査定料が自己負担で終わる可能性があることを見込んでおいてください。

代車費用|期間・金額・車種の考え方

代車費用が認められる条件

代車費用は、代車を使う必要性があり、かつ現実に代車を借りて費用を支払った場合に認められます。

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使い方必要性
営業車として使っていた認められる(修理中の代車は不可欠とされる)
通勤・通学に日常的に使っていた認められやすい
日常生活に欠かせない使い方をしていた認められる
近所への買い物や子どもの送迎にときどき使う程度認められにくい
レジャーや趣味のドライブにしか使っていない認められにくい

電車やバスで不都合なく代替できる場合には、公共交通機関の運賃の限度でしか損害と認めないとした裁判例もあります(東京地裁 平成13年8月30日判決、同年11月29日判決)。

ただし、「代車を使うまでもなく他の交通機関で足りた」ことを主張し立証するのは、代車費用を争う側、つまり加害者側です。被害者が「電車では無理だった」と先に証明しなければならないわけではありません。

いちばん揉めるのは「期間」です

裁判例が示している目安は次のとおりです。

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場面認められる期間の目安裁判例
修理する場合1〜2週間名古屋地裁 平成12年3月17日(10日)/大阪地裁 平成27年5月19日(14日)/東京地裁 平成29年1月13日(14日)
経済的全損で買い替える場合1か月程度大阪地裁 平成13年6月8日(30日)/静岡地裁沼津支部 平成28年12月16日(4週間)/京都地裁 平成23年2月1日(40日)

弁護士の実感

代車で揉めるポイントは、圧倒的に「期間」です。

全損の場合、およそ1か月で代車の利用を打ち切られることが多いのですが、その限られた期間で新しい車を手配するのは現実には難しく、ここで対立が生じます。

分損(修理できる場合)でも、修理期間が長期に及ぶときは同じように代車期間が問題になります。

この対立には、交渉に使える足がかりがあります。

修理期間は、修理作業そのものにかかる日数だけではありません。加害者が対物賠償保険に入っている場合、まずアジャスターが事故車を確認し、修理の範囲と方法を修理業者と協議します。この協議がまとまらないと修理に着手しないのが通常です。
裁判例も、こうした修理の準備期間を含めて修理期間を考えるべきだとしています(東京地裁 平成12年3月15日判決、平成14年10月15日判決)。待たされた期間を「あなたの都合」にされないよう、やり取りの日付を残しておいてください。

京都地裁 平成23年2月1日判決は、保険会社の調査に時間を要したことを踏まえて40日間の代車使用の必要性を認めています。遅れの原因がどちらにあるかが争点になるということです。

逆に、被害者側の事情で修理に出すのや買替えが遅れた場合、その遅れた期間の代車費用は損害として認められません。修理工場に持ち込む、見積りを取る、買替車を探すといった動きは、記録に残る形で早めに進めておくのが安全です。

金額と車種のグレード

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車種1日あたりの認容額の水準
通常の国産車5,000円〜2万円程度
高級車1万5,000円〜3万円程度

代車は被害車両と同程度の車種が原則です。ただし、被害車両が高級外車であっても、高級外車でなければならない合理的な必要性を裏づける特別の事情がない限り、国産高級車の代車料の限度でしか認めない例が多くなっています(名古屋地裁 平成27年5月18日判決、大阪地裁 平成27年5月19日判決)。

休車損害|営業車が使えなかった場合

休車損害は、運送会社の貨物自動車やタクシーなど営業用の車が事故で使えなくなり、その間の営業利益を得られなかった場合の損害です。最高裁も、相当な修理期間または買替期間の範囲内でこれを損害と認めています(最高裁 昭和33年7月17日判決)。

代車費用が支払われる場合、休車損害は認められません。代車で営業を続けられたのであれば、営業利益の減少は生じていないからです。どちらを請求するかは、実際に代車を使ったかどうかで決まります。

なお、遊休車(すぐに代わりに使える予備の車)がある場合も、休車損害は認められにくくなります。保有台数と稼働状況の資料が必要になる費目です。

物損の時効は3年|人身より2年短い

見落とされやすい点です。物損の賠償請求権は、人身損害より2年早く時効にかかります。

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損害の種類時効期間条文
物損(車両・積載物など)損害と加害者を知った時から3年民法724条1号
人身損害(けが・後遺障害)損害と加害者を知った時から5年民法724条の2
共通事故の時から20年民法724条2号
けがの治療が長引いているうちに、物損だけ時効が完成してしまうことがあります。人身の交渉に気を取られていると起こりがちです。物損は先に片づける、あるいは時効の完成猶予の手当てをしておく、という判断が要る場面です。

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物損で弁護士に頼む意味はあるのか

物損だけの事故では、弁護士費用が賠償額を上回ってしまうことがあります。そこで効いてくるのが弁護士費用特約です。

弁護士費用特約は、人身の事故だけでなく物損の事故にも使えるものが一般的です。特約を使えば、評価損や代車期間のように金額は大きくないが争いになりやすい費目でも、費用倒れを気にせず主張できます。物損事故こそ、特約の使いどころです。

ご自身の保険だけでなく、同居のご家族の保険に付いている特約を使える場合もあります。まず証券を確認してみてください。

評価損や代車期間で保険会社と折り合いがつかないとき

難波みなみ法律事務所では、交通事故の被害者側のご相談を初回30分無料でお受けしています。「全損だと言われた」「代車を1か月で打ち切られた」「評価損は認められないと言われた」といった段階でのご相談で構いません。弁護士費用特約をお使いいただけます。

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よくある質問

Q. 物損事故で慰謝料はもらえますか?

原則としてもらえません。物の損害は修理費などの財産的な賠償を受けることで回復されると考えられているためです。ただし例外があります。

Q. 物損事故で慰謝料が認められた例はありますか?

あります。自宅など家屋への飛び込み事故、墓石の損傷、ペットの死傷の3つの類型で認められてきました。神戸地裁 平成13年6月22日判決は、家屋に大型貨物自動車が衝突し約半年間のアパート暮らしを強いられた事案です。

Q. 愛車が全損になりました。思い入れがあるので慰謝料を請求したいのですが。

認められません。裁判所は一般の人の常識に照らして判断するとしており、被害者個人の特別な感情までは保護されません。メルセデスベンツが損傷し、修理期間の約1か月タクシー通勤を強いられた事案でも慰謝料は否定されています(東京地裁 平成元年3月24日判決)。

Q. 経済的全損とは何ですか?

適正な修理費用が、事故前の車両時価額と買替諸費用の合計額を上回る状態です。修理はできても、直すより買い替えたほうが安くつく場合を指します。この場合、賠償されるのは修理費ではなく時価額と買替諸費用になります。

Q. 保険会社に「経済的全損なので時価額まで」と言われました。争えますか?

争えます。経済的全損であることを立証する責任は、修理費相当額の賠償を免れようとする加害者側にあります(東京地裁 平成28年6月17日判決)。まず相手方が主張する時価額の根拠を出してもらい、同じ車種・年式・型で同程度の使用状態の中古車の実際の販売価格と突き合わせてください。

Q. 買替諸費用として自動車取得税は請求できますか?

できません。自動車取得税は2019年10月1日に廃止されて環境性能割に移り、その環境性能割も2026年3月31日をもって廃止されました。現在、車を取得したときに課税される税はありません。

Q. 事故車の自動車税や自賠責保険料は請求できますか?

できません。自動車税は廃車の翌月以降の分が月割で還付され、自賠責保険料も解約すれば返還を受けられるため、二重の負担が生じないからです。一方、未経過分の自動車重量税は還付制度がなく新車分と重ねて負担することになるので、損害として認められます。

Q. 評価損はどのくらい認められますか?

新車や高級車以外では認められない傾向にあり、認められる場面自体が多くありません。認められた場合でも修理費の20〜30%程度が実務上の水準です。裁判例でも修理費を基準に30%程度を上限とする事例が多いとされています。国産車で初度登録から3年・走行4万km、外国車や人気車種で5年・6万kmを超えると認められにくくなります。

Q. 代車費用は何日分まで認められますか?

修理する場合は1〜2週間、経済的全損で買い替える場合は1か月程度が目安です。ただし修理期間には、アジャスターが修理範囲や方法を修理業者と協議する準備期間も含めて考えるべきとされています(東京地裁 平成12年3月15日判決ほか)。

Q. 全損なのに代車を1か月で打ち切ると言われました。どうすればよいですか?

1か月は目安であって上限ではありません。保険会社の調査に時間がかかったことを踏まえて40日間の代車使用を認めた裁判例もあります(京都地裁 平成23年2月1日判決)。遅れの原因がどちらにあるかが争点になるため、買替車を探した記録や保険会社とのやり取りの日付を残したうえで、期間の延長を求めてください。

Q. 物損事故の損害賠償に時効はありますか?

あります。損害と加害者を知った時から3年です(民法724条1号)。人身損害の5年(民法724条の2)より2年短いため、けがの交渉が長引いている間に物損だけ時効にかかることがあります。

監修:弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号49544)
難波みなみ法律事務所 代表弁護士。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。交通事故の被害者側の代理人として、物損・人身の双方を取り扱っています。
本記事は2026年8月時点の法令・裁判例にもとづいて作成しています。個別の事案の結論は事情によって異なりますので、具体的なご判断は弁護士にご相談ください。

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