コラム
公開日: 2026.08.22

交通事故の死亡慰謝料|2800万円の相場と遺族がすべきこと

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

ご家族を交通事故で亡くされた方に、まずお伝えしたいことがあります。慰謝料の金額は、保険会社から示された数字がすべてではありません。

死亡事故の賠償には、自賠責保険の基準、任意保険会社の基準、裁判で用いられる基準という3つの水準があり、その差は1,000万円を超えることがあります。そして、慰謝料は請求できる損害の一部にすぎません。

この記事では、死亡慰謝料の相場を3つの基準ごとに示したうえで、葬儀費用や逸失利益の扱い、誰が請求できるのか、そしてご遺族が最初に何をしておくべきかを、法令と公表裁判例に基づいて説明します。

結論から

Q. 交通事故の死亡慰謝料は、いくらですか?

裁判で用いられる基準では、一家の支柱で2,800万円、母親・配偶者で2,500万円、その他の方で2,000万円〜2,500万円が目安です。この金額は、亡くなった本人の分とご遺族固有の分を合わせたものとして定められています。本人分に遺族分を足し算するのではありません。

Q. 自賠責保険からは、いくら支払われますか?

慰謝料は、本人分400万円に、請求権者の人数に応じた550万円〜750万円を加えた額です。被扶養者がいれば200万円が加算され、上限は1,350万円にとどまります。裁判基準の2,800万円との差は、最大で1,450万円です。

Q. まず、何をしておけばよいですか?

支払いの領収証を残すことと、示談を急がないことです。葬儀費用は、実際に支出したことの立証を求められることがあります。請求書ではなく領収証を保管してください。また、加害者の刑事手続が終わるまで、事故の状況を示す記録を十分に確認できないことがあります。過失割合が固まらないうちに示談してはいけません。

交通事故の死亡慰謝料の相場【3つの基準】

死亡慰謝料は、亡くなった方の家庭内での立場によって金額の目安が決まります。そのうえで、どの基準で計算するかによって金額が大きく変わります。

裁判で用いられる基準(弁護士基準)

裁判実務では、地域ごとにまとめられた算定基準が使われます。東京の運用をまとめたものが「赤い本」、大阪の運用をまとめたものが「緑本」、日弁連交通事故相談センターが全国向けにまとめたものが「青本」です。大阪の裁判所に係属する事件では、緑本の基準が用いられます。

← 横にスクロールできます →

亡くなった方の立場緑本(大阪基準)赤い本(東京)青本(全国)
一家の支柱2,800万円2,800万円2,800万円〜3,100万円
母親・配偶者2,000万円〜2,500万円
(区分を分けず「その他」でまとめる)
2,500万円2,500万円〜2,800万円
その他
(独身者・お子さん・高齢の方など)
2,000万円〜2,500万円2,000万円〜2,500万円
緑本は「一家の支柱」と「その他」の2区分しか置いていません。赤い本や青本のような「母親・配偶者」という中間の区分がないため、大阪では、母親や配偶者が亡くなったケースで2,500万円を主張するには、幅の上限であることを個別の事情から根拠づける必要があります。ここは基準の違いがそのまま金額に直結する場面です。

なお、これらの基準額は固定されたものではありません。赤い本は平成28年版から、青本は令和2年版から、それぞれ死亡慰謝料の水準が引き上げられています。古い記事や古い書籍の金額をそのまま前提にしないでください。

この金額には、ご遺族固有の慰謝料が含まれています

ここは誤解が多いところです。「本人の慰謝料2,800万円」と「遺族の慰謝料」を足し算できるわけではありません。

民法711条は、被害者の父母・配偶者・子に、固有の慰謝料請求権を認めています。しかし、被害者本人の慰謝料を決めるときにも、近親者が受けた精神的苦痛はすでに考慮されています。本人の慰謝料請求権と、近親者固有の慰謝料請求権は、重なり合う部分があるのです。

また、近親者の多くは、亡くなった本人の慰謝料請求権を相続しています。固有の請求権を行使したかどうかで総額に差が出るのは相当ではありません。そこで算定基準は、死亡慰謝料を「本人分および近親者分を含んだもの」として定めています。

「本人分2,800万円+遺族3人分」という計算を示された場合は、金額の根拠を確認してください。基準額そのものが両方を含んだ額として設計されている以上、単純な足し算にはなりません。逆に、ご遺族が固有の慰謝料を主張しなかったからといって、それを理由に基準額から差し引かれることもありません。

コラム:「一家の支柱」という区分について

算定基準にいう「一家の支柱」とは、その方の収入によって世帯の生計が維持されていた場合を指します。かつては、これを男性の会社員に当てはめるイメージで語られることが少なくありませんでした。

しかし、共働き世帯が片働き世帯を上回ったのは平成3年のことです。総務省の労働力調査によれば、令和4年の女性の生産年齢人口(15歳〜64歳)の就業率は72.4%、25歳〜34歳では81.4%、35歳〜44歳では78.4%に達しています。

「一家の支柱かどうか」は、性別や続柄ではなく、その方の収入が世帯の生計をどれだけ支えていたかで判断されるべきものです。共働きで双方に収入があった場合でも、亡くなった方の収入割合が大きければ、一家の支柱として主張する余地があります。ここを最初から諦めないでください。

自賠責保険から支払われる金額

自賠責保険の支払額は、金融庁と国土交通省の告示で定められています。担当者の裁量ではなく、決められた額が支払われます。

死亡による損害の内訳

← 横にスクロールできます →

項目自賠責保険の支払基準
葬儀費100万円
死亡本人の慰謝料400万円
遺族の慰謝料(請求権者1人)550万円
遺族の慰謝料(請求権者2人)650万円
遺族の慰謝料(請求権者3人以上)750万円
被扶養者がいる場合の加算+200万円
慰謝料の上限(本人+遺族+加算)1,350万円
逸失利益別途算定
死亡による損害の保険金額(上限)3,000万円

遺族の慰謝料を請求できるのは、被害者の父母(養父母を含む)、配偶者、子(養子・認知した子・胎児を含む)です。兄弟姉妹は、この請求権者には含まれません。

一家の支柱が亡くなり、配偶者と子2人が残されたケースを考えます。請求権者は3人なので遺族の慰謝料は750万円、被扶養者がいるので200万円が加算され、本人分400万円と合わせて1,350万円です。
これに対し、大阪の裁判基準では2,800万円差は1,450万円になります。ここが、死亡事故で弁護士に依頼するかどうかがもっとも大きく響く部分です。

事故当日または翌日に亡くなった場合の注意点

亡くなるまでに治療を受けた場合、その期間の治療費・休業損害・入通院慰謝料も損害になります。ところが自賠責の支払基準には、次の定めがあります。

事故当日または事故翌日に死亡した場合は、積極損害のみ。
つまり、即死や事故の翌日に亡くなったケースでは、自賠責からは入通院慰謝料も休業損害も支払われません。支払われるのは実際に支出した費用(治療関係費、死体検案書料、死亡後の処置料など)に限られます。
なお、死体検案書料や死亡後の処置料の実費は、この積極損害に含まれると明記されています。

ご遺族側に過失があった場合

自賠責保険には、被害者に重大な過失があった場合にだけ減額するという仕組みがあります。裁判や任意保険の交渉では過失割合どおりに減額されますが、自賠責は違います。

← 横にスクロールできます →

被害者の過失割合死亡・後遺障害傷害
7割未満減額なし減額なし
7割以上8割未満2割減額2割減額
8割以上9割未満3割減額2割減額
9割以上10割未満5割減額2割減額

被害者の過失が7割未満であれば、自賠責保険は減額されません。たとえば過失割合が3割の事故でも、自賠責の1,350万円はそのまま支払われます。任意保険会社との示談交渉が難航している間も、自賠責への被害者請求で先に一定額を受け取れる可能性がある、ということです。

もうひとつ、5割減額される場合があります。被害者が持病などを持っていたために死因が明らかでない場合など、受傷と死亡との間の因果関係の有無の判断が困難な場合には、5割の減額が行われます。ご高齢の方の事故で問題になることがあります。

慰謝料が相場より増える場合

加害者側の事情によって、基準額を上回る慰謝料が認められることがあります。裁判例では、次のような事情が考慮されています。

  • 飲酒運転、無免許運転
  • 著しい速度違反、殊更な信号無視
  • ひき逃げ(救護義務違反)
  • 事故後の著しく不誠実な態度

これらの事情がある事案では、3,000万円から3,600万円程度の慰謝料を認めた裁判例があります。基準額の2,800万円を数百万円上回る水準です。

ただし、これは加害者を懲らしめるための「制裁」として上乗せされるものではありません。日本の民事賠償に懲罰的損害賠償の制度はありません。あくまで、そうした事情のもとで遺族が受けた精神的苦痛が大きいことを、慰謝料額の算定に反映させたものと理解されています。
したがって、増額を求めるには「加害者が悪質だ」と述べるだけでは足りません。刑事記録などから、その事実を具体的に立証する必要があります。

なお、遺体の損傷が著しいなど、ご遺族が受けた衝撃の大きさを示す事情も、増額事由として考慮されることがあります。

高齢のご家族が亡くなった場合の慰謝料

「もう高齢だったから、慰謝料は低くなるのでしょう」——ご遺族から、こうお尋ねいただくことがあります。保険会社から、そう説明されたという方もいらっしゃいます。

しかし、公表されている裁判例を見ると、そうとは言えません。80歳以上の方が亡くなった事案の裁判例を集めると、そのほとんどが基準額の下限である2,000万円を下回っていません。

2,000万円を下回った例として、東京地裁が平成27年11月25日に言い渡した、94歳の男性について1,420万円を認めた判決がありますが、これはむしろ例外的な部類に属します。

年齢そのものは、慰謝料を大きく引き下げる理由になっていません。逸失利益は就労可能年数や余命に左右されるため年齢の影響を強く受けますが、慰謝料は「その人の命が失われたこと」に対するものだからです。
ご高齢の方の事故で低い金額を提示された場合、それは年齢を理由にした減額ではなく、単に自賠責基準か任意保険基準で計算されているだけである可能性があります。

慰謝料以外に請求できるもの【死亡事故の損害の全体像】

死亡事故で請求できるのは、慰謝料だけではありません。むしろ金額としては、逸失利益のほうが大きくなることが多くあります。全体像を先に押さえてください。

死亡事故による 損害 財産的損害 お金で失われた分 精神的損害 心の苦痛に対する分 積極損害 支出した費用 消極損害 得られたはずの収入 死亡慰謝料 本人分+近親者分 治療関係費 葬儀関係費 遺体搬送料 文書料 死亡逸失利益 休業損害 2,000万円〜

死亡事故によって生じる損害の分類

事故から亡くなるまでに治療を受けた期間があれば、その間の治療費・入通院慰謝料・休業損害も損害になります。数日でも入院していた場合は、必ず計上してください。ただし、前述のとおり自賠責では事故当日または翌日に亡くなった場合、この部分は支払われません。

葬儀費用はいくら認められるのか

← 横にスクロールできます →

基準葬儀関係費
自賠責保険100万円
緑本(大阪基準)150万円
赤い本(東京)150万円
青本(全国)130万円〜170万円

葬儀費用が損害賠償の対象になること、そしてその範囲は相当な額に限られることは、いずれも最高裁が示しています(最高裁昭和43年10月3日判決、最高裁昭和44年2月28日判決)。実際にかかった費用の全額が当然に認められるわけではありません。

葬儀費用に含まれるもの・含まれないもの

← 横にスクロールできます →

含まれるもの含まれないもの
・病院からのご遺体の運搬費
・火葬費
・葬儀業者に支払った費用
・自動車代
・僧侶へのお布施
・初七日、四十九日の読経料・回向料などの法要費
・香典返し
 弔問客から受けた贈与へのお返しであり、事故による損害とはいえないためです
・弔問客の接待費

仏壇の購入費やお墓の設置費用については、葬儀費用に若干加算されるケースや、一部を別途認めるケースがあります。当然に認められるものではありませんが、主張の余地はあります。

香典は、損害額から差し引かれません。いただいた香典の額が大きくても、そのぶん賠償額が減るということはありません。香典返しが損害にならないことと表裏の関係にあります。

遺体の搬送費用などは、葬儀費用とは別に請求できます

ここは見落とされやすい部分です。遺体の搬送料などは、葬儀そのものとは直接には関係のない費用なので、葬儀費用の枠とは別に、積極損害として認められます。つまり、葬儀費用150万円の中から出すのではありません。

← 横にスクロールできます →

裁判例葬儀費用とは別に認められたもの
京都地裁 平成14年7月1日遺体搬送費 48万円余
大阪地裁 平成15年9月24日遺体搬送費 47万2,500円
大阪地裁 平成18年4月7日事故現場である北海道までのご遺族の航空運賃 14万円余、遺体搬送費用 9万円余
神戸地裁 平成11年9月22日文書料等 1万5,800円
大阪高裁 平成16年3月5日死体検案書費用 2万8,000円
東京地裁 平成17年9月13日単身赴任していた被害者の死亡による引越費用 16万円余

遠方で事故に遭われた場合、ご遺族が現地へ向かう交通費や、ご遺体を地元まで搬送する費用は、決して小さな額ではありません。これらを葬儀費用とひとまとめにされていないか、提示書面を確認してください。

領収証を残してください

近時の東京地裁では、基準額の賠償を認めるにあたって、基準額以上の支出がされたことの立証を求める運用がとられています。
提出されるのは、葬儀会社や葬儀場の領収証、葬儀会社への振込を裏づける通帳や金融機関の振込依頼書などです。請求書ではなく、実際に支払ったことを示す領収証のほうが適切とされています。
ご葬儀の直後に書類の整理をするのは、本当に大変なことだと思います。それでも、領収証だけは捨てずにまとめて保管してください。

150万円を超える費用がかかった場合

ここは、正直にお伝えしておかなければならない点です。基準額を超える支出をしたことを立証しても、原則として基準額を超える賠償が認められるわけではありません。東京地裁の運用でも、そのように扱われています。

もっとも、事情によっては基準額を上回る額が認められた例もあります。

← 横にスクロールできます →

裁判例被害者認容額
大阪地裁 平成12年8月25日20歳・男性180万円
大阪地裁 平成14年3月7日24歳・女性170万円余
札幌地裁 平成13年7月11日49歳・男性(銀行支店長)200万円

社会的な立場から相応の規模の葬儀が必要だった場合など、個別の事情があるときは、基準額を超える主張をする余地があります。ただし、そのためには支出の内容と必要性を具体的に示す必要があります。

死亡逸失利益の計算方法

死亡逸失利益とは、亡くならなければ将来得られたはずの収入です。金額としては、死亡事故の賠償額のうちもっとも大きな部分を占めることが少なくありません。

死亡逸失利益 = 基礎収入 ×(1 − 生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

なぜ生活費を差し引くのか

亡くなった方が生きていれば収入を得られた一方で、その方自身の生活費も支出されたはずです。そこで、収入から本人の生活費相当分を差し引いたうえで計算します。これが「生活費控除率」です。傷害の事案の逸失利益にはない、死亡事案に特有の考え方です。

← 横にスクロールできます →

亡くなった方の立場赤い本(東京)緑本・青本
一家の支柱(被扶養者1人)40%一家の支柱および女性
30%〜40%
一家の支柱(被扶養者2人以上)30%
女性(主婦・独身・お子さんを含む)30%
男性(独身・お子さんを含む)50%50%
控除率は低いほど賠償額が大きくなります。被扶養者が何人いたかは、それだけで金額を左右します。同居していた親を扶養していた、学生の子どもの学費を負担していた——こうした事情は必ず主張してください。
なお、年金収入が中心の方については、生活費控除率を50%から60%とする例が多くなります。年金は本人の生活のために費消される割合が高いと考えられているためです。

ライプニッツ係数(年3%)

将来受け取るはずだった収入を今まとめて受け取るため、その間の利息分を差し引きます。令和2年4月1日以降に発生した事故では、年3%の法定利率で計算します。就労可能年数は原則67歳までです。18歳未満の方については、18歳から67歳までの期間に対応する係数を用います。

死亡逸失利益 かんたん試算

事故前年の年収を入力してください。専業主婦(主夫)の方は賃金センサスの女性全年齢平均額を用いるのが一般的です。

67歳を超えている方や、67歳までの年数が平均余命の2分の1より短い方は、平均余命の2分の1の年数を選んでください。

金額を入力して「計算する」を押してください。

年金を受け取っていた方が亡くなった場合

年金にも逸失利益が認められます。ただし、年金の種類によって扱いが分かれます。

← 横にスクロールできます →

年金の種類逸失利益
老齢年金認められる
障害年金認められる
遺族年金認められない

老齢年金や障害年金は、受給権者本人が保険料を拠出してきたことの見返りという性格を持ちます。これに対し遺族年金は、受給者本人が拠出したものではなく、遺族の生活保障のために支給されるものです。そのため、亡くなった方自身の逸失利益とは認められません。

自賠責保険の支払基準も、逸失利益の対象となる「年金等の受給者」について、原則として受給権者本人による拠出性のある年金等を現に受給していた者とし、無拠出性の福祉年金や遺族年金は含まないと明記しています。

計算例:70歳の男性、年金年額200万円のケース
年金は平均余命までの期間について計算します。生活費控除率を50%、平均余命を15年(対応するライプニッツ係数11.938)とすると——
200万円 ×(1 − 0.5)× 11.938 = 約1,193万円
※ 平均余命は生命表によります。実際の事案では、事故時の年齢と性別に応じた数値を用います。
まだ年金を受け取っていなかった方については、最高裁の判断がありません。受給資格の要件を満たしている場合に限って認めるという考え方が有力ですが、裁判例の判断は分かれています。将来の受給が確実といえるかどうかが争点になります。

誰が請求できるのか

死亡慰謝料は、亡くなった本人に生じた権利を、ご遺族が相続するものです。ご遺族が新たに取得する権利ではありません。ここが、請求できる人の範囲を決める出発点になります。

慰謝料請求権は相続される

最高裁は昭和42年11月1日の大法廷判決で、この点を明らかにしました。死亡慰謝料は被害者の死亡によって当然に発生し、これを放棄したり免除したりする特別の事情が認められない限り、被害者の相続人が相続するという考え方です。その後も、最高裁昭和44年10月31日判決、最高裁昭和45年4月21日判決、最高裁昭和58年4月15日判決が、同じ枠組みを維持しています。

したがって、誰が請求できるかは相続のルールで決まります。
・配偶者は、常に相続人になります(民法890条)
・第一順位は子。子が先に亡くなっている場合は孫が代わります(民法887条)
・子がいない場合の第二順位は、父母などの直系尊属(民法889条1項1号)
・直系尊属もいない場合の第三順位は、兄弟姉妹(民法889条1項2号)
相続の順位は、自賠責保険で遺族の慰謝料を請求できる人の範囲(父母・配偶者・子)とは一致しません。兄弟姉妹は、自賠責の遺族慰謝料の請求権者には含まれませんが、他に相続人がいなければ相続人として本人分の慰謝料を請求できます。

相続人でない内縁の配偶者はどうなるのか

婚姻届を出していない内縁の配偶者は、相続人になりません。しかし、まったく請求できないわけではありません。

最高裁は平成5年4月6日の判決で、次のように判断しました。内縁の配偶者が他方の配偶者の扶養を受けていた場合において、その他方が自動車の運行によって死亡したときは、内縁の配偶者は、自分がその方から受けることができた将来の扶養利益の喪失を損害として、賠償を請求することができる。

この事案は、ひき逃げによって内縁の夫が亡くなり、内縁の妻が政府の保障事業から扶養利益分の支払を受けたところ、夫の相続人(疎遠だった妹ら)がこれを不服として争ったというものでした。最高裁は、内縁の配偶者も自賠法72条1項にいう「被害者」に当たるとしたうえで、次の点も示しています。

内縁の配偶者に支払われた扶養利益相当額は、相続人が受け取る逸失利益から差し引かれます。
亡くなった方の逸失利益は、その方が生きていれば得られたはずの利益であり、内縁の配偶者の扶養に要する費用は、その利益の中から支出されるはずだったものだからです。
つまり、内縁の配偶者が請求できることによって賠償の総額が増えるのではなく、同じ金額の配分が変わるということです。同じ趣旨の判断は、札幌高裁昭和56年2月25日判決にもあります。

長年連れ添った内縁の配偶者と、疎遠な兄弟姉妹が相続人として並ぶ——死亡事故では、こうした事態が現実に起こります。どちらの立場であっても、早い段階で弁護士に相談してください。

ご遺族が最初にすべきこと

ここまで金額の話を続けてきましたが、実際にご遺族が困られるのは、金額よりも「何から手をつければよいのか」という点です。順番に整理します。

  1. 領収証と明細を、ひとまとめに保管する
    葬儀会社の領収証、葬儀場の領収証、火葬の費用、遺体搬送の費用、死体検案書の費用、遠方であればご遺族の交通費。請求書ではなく領収証です。振込で支払った場合は、通帳や振込依頼書も残してください。封筒ひとつにまとめて入れておくだけで構いません。
  2. 示談を急がない
    保険会社から早い段階で金額の提示があることがあります。提示された金額が自賠責基準や任意保険基準で計算されているのであれば、裁判基準との差は1,000万円を超えることがあります。いったん示談が成立すると、後から金額を争うことは原則としてできません。
  3. 刑事手続の進み方を確認する
    事故の状況を示す実況見分調書や供述調書は、加害者の刑事処分が決まるまでは、原則として取り寄せることができません。過失割合を争うのであれば、これらの記録を確認してからでなければ判断できません。加害者が起訴されるのか不起訴になるのか、検察庁に確認しておいてください。
  4. 相続人を確定する
    賠償請求は相続人が行います。誰が相続人になるのかを確定するため、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を集める必要があります。前の婚姻でお子さんがいた場合など、ご遺族が把握していない相続人が判明することもあります。時間がかかる作業なので、早めに着手してください。
  5. 自賠責保険への被害者請求という選択肢を知っておく
    加害者側との交渉がまとまらなくても、被害者側から直接、自賠責保険に請求することができます(自賠法16条)。死亡事故では最大3,000万円が支払限度です。前述のとおり、ご遺族側の過失が7割未満であれば自賠責は減額されません。当面の生活資金が必要な場合の選択肢になります。
  6. 時効を意識する
    生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、損害および加害者を知った時から5年です(民法724条の2)。車両の修理費などの物的損害は3年です(民法724条)。5年は長いようで、刑事手続の終了を待ち、資料を集め、交渉を重ねると、あっという間に過ぎます。
これらを、ご遺族だけで進める必要はありません。戸籍の収集も、刑事記録の取り寄せも、自賠責への被害者請求も、弁護士が代わって行うことができます。ご葬儀と各種の手続だけでも大変な時期です。お手元にあるものを整理していただければ、あとはこちらで進められます。

ご家族を交通事故で亡くされた方へ

難波みなみ法律事務所では、交通事故の被害者側のご相談を初回30分無料でお受けしています。死亡事故は、賠償額の差がもっとも大きく出る類型です。自賠責の1,350万円と裁判基準の2,800万円の差は、そのままご家族のこれからに関わります。保険会社から金額の提示を受けたら、署名される前に一度ご相談ください。ご加入の保険に弁護士費用特約があれば、費用のご負担を抑えてご依頼いただけます。

相談を申し込む

よくある質問

Q. 交通事故の死亡慰謝料の相場はいくらですか?

裁判で用いられる基準では、一家の支柱で2,800万円、母親・配偶者で2,500万円、その他の方で2,000万円から2,500万円が目安です。大阪の裁判実務で用いられる緑本は「一家の支柱」と「その他」の2区分で、一家の支柱が2,800万円、その他が2,000万円から2,500万円です。これに対し自賠責保険の慰謝料は、本人分400万円と遺族の慰謝料550万円から750万円、被扶養者がいる場合の加算200万円を合わせて、上限1,350万円です。

Q. 本人の慰謝料2,800万円に、遺族固有の慰謝料を足せますか?

足せません。算定基準の死亡慰謝料は、本人分と近親者分を含んだ額として定められているためです。被害者本人の慰謝料を算定する際に近親者の精神的苦痛もすでに考慮されており、民法711条による近親者固有の慰謝料請求権と重なり合う部分があります。固有の慰謝料を主張したかどうかで総額に差が出るのは相当でない、という考え方によるものです。

Q. 高齢の家族が亡くなりました。慰謝料は低くなりますか?

年齢を理由に大きく下がるものではありません。80歳以上の方が亡くなった事案の公表裁判例を見ても、そのほとんどが基準額の下限である2,000万円を下回っていません。逸失利益は就労可能年数や余命に左右されるため年齢の影響を受けますが、慰謝料は失われた命そのものに対するものだからです。低い金額を提示された場合、それは年齢による減額ではなく、自賠責基準か任意保険基準で計算されているだけである可能性があります。

Q. 葬儀費用はいくらまで認められますか?

裁判基準では150万円が目安です。青本は130万円から170万円としています。自賠責保険は100万円です。実際にかかった費用の全額が当然に認められるわけではなく、相当な額に限られます。近時の東京地裁では、基準額の賠償を認めるにあたって基準額以上の支出がされたことの立証を求めており、葬儀会社の領収証や振込を裏づける通帳などが提出されています。請求書ではなく領収証を保管してください。

Q. 香典返しや弔問客の接待費も請求できますか?

請求できません。香典返しは弔問客から受けた贈与へのお返しであり、事故による損害とはいえないためです。弔問客の接待費も同様です。一方で、病院からのご遺体の運搬費、火葬費、葬儀業者に支払った費用、自動車代、僧侶へのお布施、初七日や四十九日の読経料・回向料などの法要費は、葬儀費用に含まれます。なお、いただいた香典が損害額から差し引かれることはありません。

Q. 遺体の搬送費用は葬儀費用に含まれますか?

葬儀費用とは別に、積極損害として認められます。遺体の搬送料などは葬儀そのものとは直接には関係のない費用だからです。裁判例では、京都地裁平成14年7月1日判決が遺体搬送費48万円余を、大阪地裁平成15年9月24日判決が47万2,500円を、大阪地裁平成18年4月7日判決が事故現場である北海道までの遺族の航空運賃14万円余と遺体搬送費用9万円余を、それぞれ葬儀費用とは別に認めています。

Q. 死亡逸失利益はどのように計算しますか?

基礎収入に、1から生活費控除率を引いた数値を掛け、就労可能年数に対応するライプニッツ係数を掛けて算出します。生活費控除率は、一家の支柱で被扶養者1人なら40%、被扶養者2人以上なら30%、女性は30%、男性は50%が目安です。就労可能年数は原則67歳までで、18歳未満の方は18歳から67歳までの期間で計算します。令和2年4月1日以降に発生した事故では、年3%の法定利率でライプニッツ係数を求めます。

Q. 年金を受け取っていた家族が亡くなりました。年金の逸失利益は認められますか?

老齢年金と障害年金については認められます。受給権者本人が保険料を拠出してきたことの見返りという性格を持つためです。これに対し遺族年金は認められません。受給者本人が拠出したものではなく、遺族の生活保障のために支給されるものだからです。自賠責保険の支払基準も、対象を拠出性のある年金等を現に受給していた者とし、無拠出性の福祉年金や遺族年金は含まないと明記しています。生活費控除率は50%から60%とする例が多くなります。

Q. 事故の当日に亡くなった場合、入通院慰謝料は請求できますか?

自賠責保険からは支払われません。自賠責の支払基準は、事故当日または事故翌日に死亡した場合は積極損害のみとしているためです。支払われるのは治療関係費、死体検案書料、死亡後の処置料などの実費に限られます。なお、これは自賠責のルールであり、加害者に対する損害賠償請求そのものが制限されるわけではありません。

Q. 亡くなった家族に過失がありました。自賠責保険は減額されますか?

過失割合が7割未満であれば減額されません。自賠責保険は重大な過失があった場合にだけ減額する仕組みだからです。7割以上8割未満で2割、8割以上9割未満で3割、9割以上10割未満で5割の減額となります。裁判や任意保険会社との交渉では過失割合どおりに減額されるため、この点は自賠責の大きな特徴です。

Q. 内縁の配偶者も請求できますか?

相続人にはなりませんが、扶養を受けていた場合には、将来の扶養利益の喪失を損害として請求できます。最高裁平成5年4月6日判決が、内縁の配偶者は自賠法72条1項にいう「被害者」に当たると判断しています。ただし、内縁の配偶者に支払われた扶養利益相当額は、相続人が受け取る逸失利益から差し引かれます。賠償の総額が増えるのではなく、配分が変わるという点にご注意ください。

Q. 死亡事故の損害賠償請求に期限はありますか?

生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から5年で時効になります(民法724条の2)。車両の修理費などの物的損害は3年です(民法724条)。刑事手続の終了を待って資料を集め、交渉を重ねていると、5年は決して長い期間ではありません。

あわせて読んでいただきたい記事

この記事は、難波みなみ法律事務所の弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号49544)が執筆しました。記載内容は、民法、自動車損害賠償保障法および同法施行令、金融庁・国土交通省告示による自動車損害賠償責任保険の支払基準、総務省の公表統計、公表裁判例によります。個別の事案の見通しは事情により異なりますので、詳細はご相談ください。

関連記事

「離婚」カテゴリーのピックアップコラム

「遺言・相続」カテゴリーのピックアップコラム

「労働問題」カテゴリーのピックアップコラム

「顧問契約」カテゴリーのピックアップコラム

「債務整理」カテゴリーのピックアップコラム

「不動産」カテゴリーのピックアップコラム

よく読まれている記事
PAGE TOP