コラム
公開日: 2026.08.22

共同親権とは?2026年4月施行の新ルールを弁護士が解説

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

2026年(令和8年)4月1日、離婚後の子の養育に関する民法のルールが大きく変わりました。これまで日本では、父母が離婚するときは必ずどちらか一方だけを親権者と定めなければなりませんでした。改正後は、父母の双方を親権者と定めること、いわゆる「共同親権」を選ぶことができるようになりました。

もっとも、「共同親権になったから、これからは何でも元配偶者の同意がいるのか」という不安の声を、当事務所でも数多くお聞きします。結論から申し上げると、それは誤解です。法律は、日常のことは父母の一方が単独で決められる仕組みをきちんと用意しています。

この記事では、大阪で離婚事件を扱う弁護士が、法務省の公表資料に基づいて、共同親権の制度を実務目線で解説します。

目次
  1. 結論:共同親権は「選択肢が増えた」制度であって、原則が変わったわけではない
  2. 2026年4月の民法改正で変わった5つのこと
  3. 共同親権と単独親権は何が違うのか
  4. 離婚時に共同親権を選べるのはどのような場合か
  5. 共同親権でも単独で決められることがある(民法824条の2)
  6. 意見が対立したときの解決方法
  7. すでに離婚した人も共同親権に変更できるのか
  8. 養育費のルールも大きく変わった
  9. 親子交流と「監護の分掌」
  10. DV・虐待がある場合に知っておくべきこと
  11. 共同親権をめぐって弁護士に相談すべきタイミング
  12. よくある質問

結論:共同親権は「選択肢が増えた」制度であって、原則が変わったわけではない

最初に、この記事の要点を4つにまとめます。

共同親権の要点

  • 共同親権は「原則」ではありません。法務省は、単独親権と共同親権のどちらかを原則とし他方を例外とする定めではないと明言しています
  • DVや虐待のおそれがある場合、家庭裁判所は必ず単独親権としなければなりません(民法819条7項1号・2号)
  • 共同親権でも、日常のことは一方が単独で決められます(民法824条の2第2項)。急迫の事情があるときも同じです
  • すでに離婚している方も、親権者変更を申し立てることができます(施行前の離婚でも対象です)

制度の根拠となる法律は、「民法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第33号)です。令和6年5月17日に成立し、同月24日に公布されました。施行日は令和7年10月31日の閣議決定により令和8年(2026年)4月1日と定められています。

2026年4月の民法改正で変わった5つのこと

この改正は「共同親権の導入」だけが注目されがちですが、実際には子の養育に関するルールが全体的に見直されています。全体像を押さえておくと、ご自身に関係するのがどの部分かが見えてきます。

改正項目改正前2026年4月1日以降
離婚後の親権父母の一方のみ(単独親権)父母の双方を親権者とすることも可能
父母の責務明文の規定なし子の人格尊重義務・父母相互の人格尊重協力義務を明記(817条の12)
養育費取決めがなければ請求できない取決めがなくても法定養育費を請求できる(766条の3)
養育費の回収差押えには債務名義が必要一定額に先取特権が付与され、債務名義がなくても差押え可能(308条の2)
財産分与請求期間は離婚から2年請求期間が離婚から5年に延長

このうち財産分与の期間延長は、離婚後の方にとって影響が大きい改正です。「もう2年が過ぎたから諦めていた」という方でも、請求できる可能性が出てきました。詳しくは財産分与の記事で解説しています。

共同親権と単独親権は何が違うのか

親権とは、未成年の子を監護・教育し、その財産を管理する権利であり義務です。共同親権になると、この親権を父母が共同して行使することになります(民法824条の2第1項)。

ここで多くの方が誤解されるのですが、「共同して行う」とは、父母双方の署名・押印が常に必要という意味ではありません。法務省も、契約締結などの際に父母双方の署名押印が必須となるわけではないと明言しています。父母の一方が他方の同意を得て単独名義で行使することも含まれ、その同意は黙示のものでも構いません。

項目単独親権共同親権
親権者父母の一方父母の双方
重要事項の決定親権者が単独で決定父母の共同の意思で決定
日常の行為親権者が単独で決定父母の一方が単独で決定できる
急迫の事情があるとき親権者が単独で決定父母の一方が単独で決定できる
子の居所親権者が指定原則として父母の共同決定が必要
戸籍の記載親権者が記録される父母双方が親権者として記録される

なお、親権者が誰であるかは子の戸籍に記録されますが、住民基本台帳には記録されません。学校や病院が親権者を確認する方法については民法に特別の規定がなく、これまでどおり父母の申告等に基づいて判断されることになります。

離婚時に共同親権を選べるのはどのような場合か

協議離婚の場合は父母の話し合いで決める

協議離婚では、父母の協議によって、双方を親権者とするか一方を親権者とするかを定めます。子が複数いる場合は、子ごとに決めることになります。ただし、きょうだいを別々の養育環境に置くことが適切かという点も考慮要素になり得ます。

協議が調わない場合は家庭裁判所が判断する

話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所が判断します。このとき裁判所は、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければなりません(民法819条7項)。当事者の意見や、子が意見を表明した場合にはその意見も、適切な形で考慮されます。

重要なのは、この規定が「どちらかを原則」と定めたものではないという点です。法務省は、共同親権と単独親権のどちらが認められやすいかは一概にいえないとしています。ネット上には「これからは共同親権が原則になる」という記述も見られますが、正確ではありません。

必ず単独親権としなければならない場合

次のいずれかに当たるときは、家庭裁判所は父母の一方を親権者と定めなければなりません。裁量の余地はありません。

必ず単独親権となる場合(民法819条7項)

  • 1号 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき(児童虐待のケース)
  • 2号 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難と認められるとき

ここで見落とされやすい点を2つ補足します。

第一に、2号のDVは身体的暴力に限りません。法務省は、精神的DV・経済的DV・性的DV等によって父母が互いに話し合うことができない状態にある場合も、この要件に当てはまることがあると説明しています。

第二に、1号・2号は例示です。これらに当たらない場合でも、「父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」は単独親権としなければならず、さらにそうした事情がなくても、裁判所は子の利益のために単独親権と定めることができます。

合意がなくても共同親権となり得るケース

逆に、父母の合意がない場合でも、裁判所が双方を親権者と定めることはあります。法務省は、次のようなケースが該当し得るとしています。

  • 子と同居する親と子との関係が必ずしも良好ではないため、別居親が養育に関与することで子の精神的な安定が図られるケース
  • 同居親による養育に不安があり、関係機関の支援に加えて別居親の関与があった方が子の利益にかなうケース
  • 父母間の感情的な問題と、親子関係とを切り分けることができる父母のケース
  • 支援団体等を活用して子の養育について協力することを受け入れられるケース
  • 当初は高葛藤だったが、調停手続の過程で感情的な対立が解消され、親権の共同行使ができる関係を築けるようになったケース

最後のケースは実務上とても示唆的です。調停の入口で「相手とは口も聞きたくない」という状態であっても、それだけで結論が決まるわけではありません。他方で法務省は、調停を経てもなお父母間の感情的対立が大きく共同行使が困難と認められるときは、裁判所が共同行使を強制することを意図するものではないとも明言しています。

共同親権でも単独で決められることがある(民法824条の2)

ここが、共同親権をめぐる不安のほとんどを解消する条文です。民法824条の2は、父母双方が親権者であっても、一方が単独で親権を行使できる場面を明文で定めています。

そもそもこの条文は、新しい制約を課すために作られたものではありません。法務省は、改正前の解釈を明確化する趣旨の規定であり、改正前に単独で行使できていたものについて、この条文の新設によって単独行使できる範囲が制限されるものではないと説明しています。

単独で行使できる2つの場面

単独で親権を行使できる場面

  • 子の利益のため急迫の事情があるとき(824条の2第1項3号)
  • 監護及び教育に関する日常の行為(824条の2第2項)

どちらについても、単独で行使できる親は「現に子を監護している親」に限られません。別居親が親子交流の機会に子の世話をする場面も想定されているためです。

「急迫の事情」とは何か

「子の利益のため急迫の事情があるとき」とは、父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては適時に親権を行使できず、その結果として子の利益を害するおそれがあるような場合をいいます。法務省は具体例として次を挙げています。

  • DVや虐待からの避難(子の転居を含む)をする必要がある場合
  • 子に緊急の医療行為を受けさせる必要がある場合
  • 入学試験の結果発表後に入学手続の期限が迫っているような場合

DVからの避難について、法務省は極めて重要な説明をしています。急迫の事情が認められるのは、現にDVや虐待の被害に遭っているときやその直後のみに限られず、加害行為が現に行われていない間も、急迫の事情が認められる状態が継続し得るというものです。

また、「無断で子を転居させた場合に、DVや虐待の事実を立証しない限り義務違反に当たると判断される」というものではないとも明言されています。改正法は当事者の一方に立証責任を負わせてはいないためです。DVから逃れて子と避難した方が「無断で連れ出したことを責められるのではないか」と不安を抱かれることがありますが、法務省の解釈はそうした立場を取っていません。

「日常の行為」に当たるもの・当たらないもの

「監護及び教育に関する日常の行為」とは、日々の生活の中で生ずる身上監護に関する行為で、子に対して重大な影響を与えないものをいいます。法務省の解説資料に示された具体例を整理すると、次のようになります。

場面単独でできる(日常の行為)共同決定が必要
学校就学時健康診断の受診、給食費の納付やアレルギーの連絡、出欠の連絡、宿泊活動・水泳授業・学校行事への参加の同意、家庭訪問や三者面談への出席、学校生活に関する照会入学・退学・転学・留学・休学の手続、授業料の納付、就学校変更の申立て、特別支援学校への就学に関する意見聴取への応答、長期間の交換留学やホームステイへの参加
医療風邪・ぜんそく・アレルギー等、子の心身に重大な影響を与えない治療の決定、通常のワクチン接種、重大な影響を与えない薬の決定生命に関わる医療行為など、子の心身に重大な影響を与えるもの
居所(該当しない)転居は移動距離にかかわらず、同一学区内の転居も含めて基本的に共同決定が必要
旅行通常の期間の観光目的の旅行、短期間の観光目的の海外旅行目的・期間等によっては共同決定が必要となり得る
就労・習い事高校生の放課後のアルバイト、習い事に関する判断長期間勤務する会社への就職の許可
身の回り食事、服装、髪の色、人付き合いなどこれらのうち子に重大な影響を与えるもの
身分・財産(該当しない)子の氏の変更、養子縁組、財産管理(いずれも監護又は教育に関する行為ではない)

この表で最も実務に効くのは「転居」の行です。同じ学区内への引っ越しであっても、原則として共同決定が必要になります。子の生活に重大な影響を与え得るためです。共同親権を選ぶ場合、この点は事前に取り決めておくべき最重要事項といえます。

なお、DVや虐待からの避難が必要な場合は、前述の「急迫の事情」に当たるため、単独で転居させることができます。

相手に連絡しても返事がない場合はどうするか

共同で行使すべき事柄について協議を求めたのに、相手が反応しない。これは実際によく起こります。

法務省は、協議を求めた事柄の性質や父母間の関係等に照らして相当な期間内に反応がなかったり、特定の態度を示さなかったりする場合には、相手方から黙示的な同意があったと評価することができる場面も多いと説明しています。連絡が取れないというだけで手続が止まってしまうわけではありません。

もっとも、後になって「同意していない」と争われることを避けるため、いつ、どのような方法で、何を協議したいと伝えたのかを記録に残しておくことを強くお勧めします。メールやメッセージアプリの履歴が、後の調停や審判で決定的な意味を持つことがあります。

意見が対立したときの解決方法

特定の事項について親権行使者を決めてもらう

父母の意見が食い違って決められない場合、家庭裁判所は、特定の事項について、父母の一方が単独で親権を行使できる旨を定めることができます(民法824条の2第3項)。

ここでいう「特定の事項」とは、共同して行うべき事項を意味します。したがって、「日常の行為」や「急迫の事情があるとき」の対象となる事項は、そもそも単独で行使できるため、この指定の対象にはなりません。親権に基づく法定代理権の行使も含まれ、未成年者の法律行為についての同意権・取消権(民法5条)も対象となります。

重要なのは、この指定は家庭裁判所の審判等によってされるものであり、私的な文書で指定することは想定されていないという点です。「父母間の合意書に書いておけばよい」という運用はできません。

特に注意が必要なのが裁判手続です。法務省は、少なくとも裁判を開始する行為(訴訟の提起、家事審判の申立て等)については、共同親権者双方の名義で行うか、家庭裁判所の審判等によって親権行使者の指定を受けた父又は母が行う必要があるとしています。子のために訴訟を起こす場面では、この点を最初に確認しなければなりません。

無断で共同行使すべき親権を行使したらどうなるか

例外事由がないのに一方の親が無断で子を代理した場合、無権代理となり、その効果は子に帰属しません。ただし、取引の相手方を保護する仕組みがあります。

行使の方法効果
父母の共同の名義で行使した相手方が悪意でない限り、代理の効力は妨げられない(民法825条)
父母の一方の単独の名義で行使した民法825条では保護されないが、相手方に権限があると信ずべき正当な理由があれば民法110条で保護される

さらに、無断で共同行使すべき親権を行使した親の側には、その経緯や態様によっては、親権者の指定・変更の審判や親権喪失・親権停止の審判等において不利に考慮される可能性があります。他方の親権に対する侵害の程度によっては、損害賠償義務が生ずることもあり得ます。

逆に、先に決めた親と矛盾する行為を後から繰り返すことも問題になります。同居親が日常の行為に係る親権行使をした後、別居親がこれと矛盾する親権行使をした場合、子が被る不利益の内容や程度、その目的などに照らして、権利の濫用として許されない場合があり得ると法務省は説明しています。

すでに離婚した人も共同親権に変更できるのか

できます。法務省は、改正法の施行前に離婚した父母についても、施行後は父母の双方を親権者とすることを含む親権者変更の申立てをすることができると明言しています。

親権者変更の申立ては、子又はその親族がすることができ、子の利益のため必要がある場合に認められます。裁判所は、子の利益のため、父母と子との関係や父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければなりません。

養育費を払ってこなかった親は不利になる

ここは、離婚後の当事者にとって最も切実な論点だと思います。法務省は次のように述べています。

養育費の不払いと親権者変更

親権者ではない親が、一定の収入があるにもかかわらず、本来支払うべき養育費の支払を長期間にわたって合理的な理由もなく怠っていたという事情は、共同親権への親権者変更が認められない方向に大きく働く事情である。

逆のケースも押さえておきましょう。離婚後に共同親権と定めたものの、養育費の支払義務を負う親が支払をしない場合、そのことのみによって直ちに単独親権への変更が認められるわけではありません。ただし、支払がされなくなった事情によっては、単独親権に変更することが相当と判断される場合もあり得るとされています。

後からDVや虐待が明らかになった場合

協議や調停で共同親権と定めた後に、子がそれ以前の虐待の事実を述べたり、一方の親が自身のDV被害を話せるようになったりすることがあります。この場合も、単独親権者とする親権者変更の申立てをすることができます。

法務省は、一度親権者を定めていた場合であっても、新たに前回親権者を定めた時より前の重要な事情が判明したときには、そのような事情も考慮され得るとしています。「前の手続で言えなかったから、もう主張できない」ということはありません。

また、協議離婚の際にDV等を背景とする不適正な過程による合意で親権者が定められた場合について、民法819条8項は、親権者変更の裁判で家庭裁判所が父母の協議の経過その他の事情を考慮すべきことを明確化しています。この協議の経過を考慮するにあたっては、暴力等の有無や、調停・ADRの利用の有無等の事情も勘案されます。

養育費のルールも大きく変わった

共同親権の陰に隠れがちですが、養育費に関する改正は、実務的なインパクトという点ではむしろこちらの方が大きいかもしれません。2つの新制度が導入されました。

金額はいずれも令和7年法務省令第56号(令和7年12月12日制定・公布)で定められ、改正法と併せて令和8年4月1日から施行されています。

制度改正前改正後金額
法定養育費
(民法766条の3)
養育費の額について取決めがなければ請求できなかった取決めがなくても、離婚時から一定額を請求できる月額2万円 × 子の数
子2人なら月4万円
子3人なら月6万円
先取特権
(民法308条の2)
差押えには公正証書や調停調書などの債務名義が必要だった一定額までは債務名義がなくても差押えができ、他の一般債権者に優先して弁済を受けられる月額8万円 × 子の数まで
子2人なら月16万円まで
子3人なら月24万円まで

この2つは、養育費の実務を根本から変える可能性があります。これまでは「取決めをしないまま離婚してしまった」「公正証書を作らなかった」というだけで、回収が極めて困難になっていました。改正後は、少なくとも法定養育費という最低ラインが確保され、しかも一定額までは債務名義なしに差押えができます。

ただし、法定養育費の月額2万円は「子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用」を基準にした額です。算定表に基づく本来の養育費額より低くなることがほとんどです。あくまで取決めまでの暫定的な最低保障と考え、きちんと取決めをすることの重要性は変わりません。

親子交流と「監護の分掌」

改正法では、離婚時に父母の協議で定める事項として「監護の分掌」が明記されました(民法766条1項)。離婚時に父母の協議により養育計画を作成できることを明らかにする趣旨です。

監護の分掌とは、子の監護を父母が分担することをいいます。たとえば、子の監護を担当する期間を分担することや、教育に関する事項など監護に関する事項の一部を父母の一方に委ねることがこれに当たります。

親子交流監護の分掌
内容子と別居親が交流すること交流にとどまらず、具体的な監護の内容について話し合い、定めるもの
養育費への影響養育費は子の具体的な状況に応じて子の利益の観点から適切に定められるべきものであり、この点は改正法の施行後も変更なし

よくある誤解として、「共同親権になれば子は父母の家を行ったり来たりすることになるのか」というものがあります。法務省は、父母双方が親権を行使することになった場合でも、具体的な監護のあり方は別途、子の利益を最も優先して協議等で取り決めることになると説明しています。

つまり、監護を分掌して子が双方の家で養育されることも、基本的に父母の一方の家で養育されることも、どちらもあり得ます。また、共同親権になったことが親子交流の頻度や養育費の額を自動的に左右するわけでもありません。

DV・虐待がある場合に知っておくべきこと

改正法は、父母に対して相互の人格尊重・協力義務を課しています(民法817条の12)。この義務には文言上の例外が設けられていません。そのため、「DVがあっても協力しなければならないのか」という不安を持たれる方がいます。

法務省の説明は明確です。DV・虐待等の事案における加害行為を行った親については、そもそも父母相互の人格尊重・協力義務や子の人格尊重義務に反しているといえ、そのような親との協力にはおのずと限界がある。本条は、父母が共同して親権を行使することが困難な場合にまで、できない協力を無理に強要するものではないとしています。

また、DVや虐待を理由に単独親権を求めるために、医師の診断書等の客観的証拠が必ず必要というわけではありません。「おそれ」の判断では、それを基礎づける方向の事実と否定する方向の事実が総合的に考慮されるとされており、客観的証拠の有無に限らず諸般の状況が考慮されます。

もっとも、過去に虐待やDVをしたという事実は、今後の「おそれ」を基礎づける方向の重要な事実と認められ、おそれが肯定される方向に傾く大きな考慮要素になるとされています。証拠が残っているのであれば、それを整理して提出することの意味は大きいということです。

他方で、当事者が虐待やDVを主張したとしても、その主張が認められず、一切の事情を考慮した結果として父母の双方が親権者と定められることもあり得るとされています。主張するだけでは足りず、どう組み立てるかが結論を分けます。

子連れ別居は義務違反になるのか

父母双方が親権者である場合に、一方が正当な理由なく他方に無断で子の居所を変更したときは、個別具体的な事情によっては人格尊重・協力義務に違反すると評価される場合があります。

この判断で考慮されるのは、当該行為の動機や経緯、別居前後の協議の有無や内容、子の年齢や子の意向、従前の父母と子との関係や父と母との関係など、様々な事情です。

そして繰り返しになりますが、DVからの避難のような急迫の事情があるときは、子を連れて転居等をすること自体が義務に違反することはありません。法務省は、DVについては加害者・被害者の双方がDVの認識を欠いている場合があることも勘案した上で適切な判断がされることになる、とも述べています。

共同親権をめぐって弁護士に相談すべきタイミング

実務上、次のような場面では早めのご相談をお勧めします。

  • これから離婚を進める方 共同親権を選ぶかどうかだけでなく、転居・進学・医療といった重要事項の決め方を、離婚時にどこまで取り決めておくかが後の紛争を左右します
  • 相手から共同親権を求められている方 DVや虐待の事情がある場合、819条7項に該当することを主張立証できれば、裁判所は必ず単独親権としなければなりません
  • すでに離婚していて、子の養育に関わりたい方 親権者変更の申立てが可能です。ただし養育費の支払状況が大きく影響します
  • 共同親権になった後、相手と意見が対立している方 特定事項の親権行使者の指定という手続があります
  • 養育費の取決めをしないまま離婚した方 法定養育費と先取特権により、これまでより回収の道が開けています

当事務所は大阪市中央区で離婚事件を多く取り扱っております。改正法は施行されて間もなく、家庭裁判所の運用も蓄積されていく段階にあります。ご自身のケースがどの類型に当たるのか、何を主張し、何を証拠として残すべきなのかは、事案ごとに大きく異なります。お早めにご相談ください。

よくある質問

2026年4月から共同親権が原則になったのですか?

いいえ、原則ではありません。民法819条7項は、父母双方を親権者とするか一方を親権者とするかについて、いずれかを原則とし他方を例外として定めたものではありません。法務省も、どちらが認められやすいかは一概にいえないとしています。個別具体的な事情に即して、子の利益の観点から判断されます。

共同親権になると、子どものことは全部相手の同意が必要ですか?

いいえ。民法824条の2第2項により、監護及び教育に関する日常の行為は父母の一方が単独で決められます。習い事、通常のワクチン接種、風邪の治療、学校行事への参加、高校生のアルバイトなどが該当します。また、子の利益のため急迫の事情があるときも単独で行使できます。一方、転居や入学・退学・転学の手続は共同決定が必要です。

DVを受けています。それでも共同親権にされてしまいますか?

民法819条7項2号に該当する場合、家庭裁判所は必ず父母の一方を親権者と定めなければなりません。ここでいうDVは身体的暴力に限られず、精神的DV・経済的DV・性的DV等によって父母が互いに話し合うことができない状態にある場合も含まれ得ます。医師の診断書等の客観的証拠が必ず必要というわけではありませんが、証拠があれば有力な事情となります。

すでに離婚しています。共同親権に変更できますか?

できます。改正法の施行前に離婚した父母も、施行後は父母の双方を親権者とすることを含む親権者変更の申立てが可能です。ただし、一定の収入があるのに合理的な理由なく長期間養育費を支払ってこなかったという事情は、共同親権への変更が認められない方向に大きく働きます。

共同親権だと、子どもを連れて引っ越しできませんか?

子の転居は、移動距離にかかわらず、同一学区内の転居も含めて基本的に「日常の行為」には該当せず、原則として共同決定が必要です。ただし、DVや虐待からの避難が必要な場合は「急迫の事情」に当たるため、単独で転居させることができます。この急迫の事情は、現に被害に遭っているときやその直後に限られず、加害行為が行われていない間も継続し得るとされています。

相手に連絡しても返事がありません。手続が進められないのですか?

協議を求めた事柄の性質や父母間の関係等に照らして相当な期間内に反応がない場合、黙示的な同意があったと評価できる場面も多いと法務省は説明しています。ただし後の紛争に備え、いつ・どのような方法で・何を協議したいと伝えたのかを記録に残しておくことをお勧めします。急迫の事情がある場合は、単独で親権を行使できます。

法定養育費はいくらもらえますか?

令和7年法務省令第56号により、月額2万円に子の数を乗じた額とされています。子が2人なら月額4万円、3人なら月額6万円です。取決めがなくても離婚時から請求できますが、算定表に基づく本来の養育費額より低くなることがほとんどですので、あくまで取決めまでの最低保障とお考えください。

子どもが複数いる場合、まとめて決めるのですか?

子ごとに決めます。協議離婚と裁判離婚のいずれの場合でも、未成年の子が複数いるときは、それぞれの子ごとにその子の利益の観点から判断されます。ただし、きょうだいを別々の養育環境に置くことが適切かという点も考慮要素となり得ます。

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