コラム
更新日: 2026.08.22

交通事故の逸失利益|計算方法とライプニッツ係数

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

後遺障害の等級が認定されたあと、賠償額のなかでいちばん大きくなるのが逸失利益です。慰謝料より大きくなることも珍しくありません。

ところが、この逸失利益は保険会社の提示額と、弁護士が算定した額とで、最も差が開きやすい項目でもあります。計算式そのものは単純なのに、式に入れる数字の決め方で争いになるからです。

この記事では、計算の仕組みを示したうえで、実務でどこが争点になるのかを具体的に説明します。金額を試算できる計算ツールも用意しました。

結論から

Q. 逸失利益はどうやって計算するのですか?

基礎収入 × 労働能力喪失率 × ライプニッツ係数の3つを掛けるだけです。喪失率は等級ごとに決まっており、係数は喪失期間から決まります。

Q. どこで争いになるのですか?

「基礎収入をいくらとみるか」と「労働能力喪失期間を何年とみるか」の2つです。とくに14級では、保険会社が喪失期間を3〜5年で提案してくることがよくあります。

Q. ライプニッツ係数は何%で計算するのですか?

年3%です。そして2029年3月まで3%であることが、すでに確定しています。令和8年4月からの法定利率について、法務省が据置を告示したためです。

逸失利益とは、症状固定より後の減収のことです

交通事故の賠償で、収入の減少にあたる項目は2つに分かれています。分かれ目は症状固定です。

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項目いつの減収か考え方
休業損害事故から症状固定まで実際に休んで減った収入。給与明細などで実額を証明する
逸失利益症状固定よりあと後遺障害が残ったために将来失われる収入。実額ではなく計算で出す
逸失利益は「まだ発生していない損害」です。だからこそ、実際にいくら減るかを証明することができません。そこで実務は、等級ごとに「これだけ働く力が落ちた」とみなす割合を決めて計算する、という方法をとっています。
後遺障害の等級が認定されていなければ、逸失利益は原則として認められません。
実際に収入が減っていなくても、逸失利益が認められることがあります。勤務先の配慮で給与が維持されている場合や、本人が痛みを我慢して同じ仕事を続けている場合です。
ただし保険会社は「減収がないのだから損害もない」と主張してきます。この場合は、業務にどのような支障が出ているか、昇進や転職にどう影響するかを具体的に主張していくことになります。

計算に使う数字は、3つだけです

逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × ライプニッツ係数
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数字何を表すか決まり方
基礎収入事故がなければ得られたはずの年収事故前年の年収が基本。ここが争点になります
労働能力喪失率働く力がどれだけ失われたか等級ごとに割合が定められています
ライプニッツ係数将来のお金を今の価値に直す数字労働能力喪失期間で決まる。ここも争点になります
ライプニッツ係数は、単純に年数を掛けないための仕組みです。将来10年かけて受け取るはずのお金を今まとめて受け取ると、その間の利息の分だけ得をしてしまいます。そこであらかじめ利息分を差し引きます。これを中間利息控除といいます(民法417条の2第1項、不法行為には同法722条1項により準用されます)。
そのため、10年分でも係数は10ではなく8.5302です。

手順は4つです

①基礎収入の額を確認する
②労働能力喪失率を確認する(等級ごとの表を見ます)
③労働能力喪失期間を決めるここが最大の争点です
④基礎収入に、労働能力喪失率と、喪失期間に対応する係数を順に掛ける
最初につまずきやすいのが①です。会社員の方の基礎収入は、源泉徴収票の「支払金額」です。「給与所得控除後の金額」ではありません。
給与所得控除は、所得税を計算するために差し引かれているだけのものです。逸失利益や休業損害の算定では考慮しません。課税証明書(所得証明書)を使う場合も同じで、「給与収入金額」を見ます。「給与所得」の欄ではありません。

まず、おおよその金額を出してみてください

逸失利益の自動計算

事故前年の年収を円単位で入力してください(例:400万円なら 4000000)

この年齢から67歳までを、原則の労働能力喪失期間とします

保険会社の提示と比べたい年数を選んでください

金額はここに表示されます

ライプニッツ係数は法定利率年3%で計算しています。労働能力喪失率は自賠責保険の支払基準に定められた割合です。この計算結果は目安であり、実際の賠償額は事案により変わります。

労働能力喪失率は、等級ごとに定められています

3つの数字のうち、これだけは表を見れば決まります。自賠責保険の支払基準に、等級ごとの割合が定められているためです。

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等級労働能力喪失率等級労働能力喪失率
第1級100%第8級45%
第2級100%第9級35%
第3級100%第10級27%
第4級92%第11級20%
第5級79%第12級14%
第6級67%第13級9%
第7級56%第14級5%

国土交通省が公表している労働能力喪失率表(自動車損害賠償保障法施行令別表第2の場合)によります。介護を要する後遺障害を定めた同令別表第1の第1級・第2級は、いずれも100%です。

この割合のもとになっているのは、労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発第551号)です。労災の障害等級ごとに定められたものが、交通事故の実務でも使われています。
ただし、この表は絶対の基準ではありません。裁判では、被害者の年齢・職業・後遺障害の部位と程度・事故前後の稼働状況などを総合して判断されます。表より高い割合が認められることも、低い割合にとどまることもあります。
介護を要する後遺障害は、別の表を使います。高次脳機能障害や脊髄損傷で第1級が認定された場合は、自賠法施行令別表第1が適用されます。両目を失明して第1級となった場合は別表第2です。いずれも喪失率は100%です。
なお、裁判所は自賠責保険の等級認定に拘束されません。実務上は自賠責の等級認定の考え方に準拠して損害を算定していますが、裁判所が自賠責と異なる等級認定をすることもあります。
表どおりの割合が当てはまらない後遺障害もあります。顔などに傷あとが残る外貌醜状がその典型です。傷あと自体が直接に作業能力を奪うわけではないため、職業との関係で個別に判断されます。
男性でも認められます。平成22年6月10日以後に発生した事故については、政令の改正により外貌醜状の等級に男女差がなくなりました。裁判例には、口元に長さ約10cmの線状痕が残った男子高校生について、公務員として就職していたものの将来の転職の可能性などを考慮し、67歳まで2.5%の労働能力喪失を認めたものがあります。逆に逸失利益が否定された場合でも、慰謝料を増額する形で考慮されることがあります。

争点1:14級の労働能力喪失期間

実務でもっとも争いになるのが、ここです。

原則として、労働能力喪失期間は症状固定時から67歳までとされています。40歳で症状固定なら27年です。ところが第14級と第12級については、この原則がそのまま通りません。

むちうち(頸椎捻挫・腰椎捻挫)で14級が認定された場合、保険会社は労働能力喪失期間を3〜5年で提案してくることがよくあります。神経症状は時間の経過とともに軽減していく、という考え方によるものです。
第12級では10年程度が用いられることが多くなっています。

ですが、同じ14級でも中身が違います

弁護士から

むち打ち事案の14級であれば、3〜5年で提案してくることもよくあります。骨折による神経症状の場合も同様に3〜5年で提案してくることもありますが、むち打ちとは異なり、骨折に伴う神経症状の場合には10年以上の喪失期間が認められることもあります。

ここが見落とされやすい点です。同じ「第14級9号(局部に神経症状を残すもの)」でも、むちうちによるものと、骨折が治ったあとに残った神経症状とでは、意味合いが違います。
骨折は、画像で確認できる器質的な損傷です。骨癒合の状態や関節面の不整といった所見が残っていれば、症状が時間とともに消えていくとはいえません。それにもかかわらず、保険会社はむちうちと同じ3〜5年で提案してくることがあります。

そもそも、なぜ期間が制限されるのか

むちうちや打撲のあとに残った神経症状で期間が制限される理由として、実務では「訓練や慣れによって影響が次第に緩和されていく」「症状に永続性がない」といったことが挙げられています。

この理由づけは、器質的な損傷が残っている場合には当てはまりません。それにもかかわらず、むちうちや打撲以外の神経症状でも、5年や10年に制限している裁判例は一定数あります。「神経症状だから」というだけで一律に処理されてしまっているのが実情です。

期間を制限しなかった裁判例もあります

骨折に伴う神経症状で第12級が認定された事案では、症状の内容や程度によっては、就労可能年限(67歳)まで喪失期間が認められている裁判例があります。
第14級でも、骨折した部位の癒合状態が不良だったことを理由に、喪失期間を5年以下に制限しなかった裁判例があります。

つまり、神経症状であるということだけを理由に、期間を短く見積もる必要はありません。具体的な喪失期間は、症状の内容とその原因、認定された等級、年齢、職業に応じて、事案ごとに検討すべきものです。

5年と10年で、いくら変わるのか

年収400万円の方が14級(喪失率5%)と認定された場合で比べます。

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労働能力喪失期間ライプニッツ係数逸失利益
3年2.8286565,722円
4年3.7171743,420円
5年4.5797915,941円
10年8.53021,706,041円
5年と10年で、790,100円の差が出ます。係数が2倍になるためです。第12級(喪失率14%)であれば、同じ条件で2,564,636円と4,776,914円となり、差は221万円を超えます。
提示された示談案に「労働能力喪失期間 5年」と書かれていたら、その年数の根拠を確認してください。

期間を延ばすために示すこと

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示すこと内容
器質的な所見があること骨折後であれば、骨癒合の状態、関節面の不整、変形などの画像所見。神経学的検査の結果
症状が軽減していないこと症状固定後も通院を続けている実績、投薬やブロック注射の継続
仕事に支障が出ていること作業内容の変更、残業ができなくなった、配置転換、勤務先の陳述書
職種との関係身体を使う仕事であるほど、症状の影響が大きいと評価されやすくなります

等級そのものに納得できていない場合はこちら

争点2:基礎収入をいくらとみるか

もう一つの争点が基礎収入です。会社員で前年の源泉徴収票がある場合は、あまり争いになりません。問題になるのは、それ以外の立場の方です。

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立場基礎収入の考え方争いになりやすい点
給与所得者事故前年の年収(源泉徴収票)賞与の変動、若年者の将来の昇給
家事従事者(主婦・主夫)賃金センサスの女性・全年齢の平均賃金保険会社が低い金額を主張してくることがあります
兼業主婦実収入と女性平均賃金の高いほう合算はできません
個人事業主確定申告の所得+青色申告特別控除+専従者給与申告をしていない場合過少申告の場合にもめます
会社役員役員報酬のうち労務提供の対価にあたる部分実務では報酬額のおおむね50〜100%の間で判断されています
学生・生徒賃金センサスの全年齢平均賃金就労開始時期をいつとみるか
高齢者実収入。年金は原則として含みません就労可能年数が問題になります
失業者就労の意欲と能力があれば、失業前の収入などを参考にします再就職の蓋然性を示す必要があります

賃金センサスの数字

主婦や学生の基礎収入に使うのが、厚生労働省の賃金構造基本統計調査(賃金センサス)です。最新の令和7年分(令和8年3月24日公表)は次のとおりです。

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区分きまって支給する現金給与額(月額)年間賞与その他特別給与額年収
男女計370,500円1,009,600円5,455,600円
男性410,000円1,187,000円6,107,000円
女性304,700円714,300円4,370,700円

一般労働者・企業規模計(10人以上)・産業計・学歴計・年齢計の数値です。年収は「月額×12+年間賞与その他特別給与額」で計算しています。

どの年の賃金センサスを使うかは、決まりが一つではありません。損害は不法行為の時に発生すると考えられているため、事故が起きた年のものを用いるのが一般的です。もっとも、症状固定日が属する年のものを用いる例もあり、学生やお子さんについては最新のものを用いるのが原則とされています。示談交渉をしている年のものではない点にご注意ください。
なお、お子さんの逸失利益では、女児についても男女を合わせた全労働者の平均賃金を用いるのが一般的です。

主婦の方の逸失利益は、最高裁が認めています

最高裁 昭和49年7月19日判決

家事労働に金銭的な評価ができるかが争われました。

最高裁は、「家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならない」と判断しました。

この判断以降、家事従事者についても賃金センサス(原則として女性労働者の学歴計・全年齢平均賃金)によって逸失利益を算定する扱いが定着しています。

主婦の方が14級と認定された場合、女性・全年齢の平均賃金4,370,700円を基礎収入とすると、喪失期間5年で1,000,826円になります。「収入がないのだから逸失利益はない」という説明は誤りです。
一人暮らしの高齢の方については、判断が分かれます。家事労働の経済的価値は「他人のために行う」ところに見いだされているため、自分のためだけの家事では原則として認められません。
もっとも、将来ご家族と同居して家事を分担する可能性があるといった事情があれば、認められることがあります。裁判例には、一人暮らしの無職の高齢女性について、休業損害は否定しつつ、逸失利益については賃金センサスの女性・学歴計・65歳以上の平均年収の70%を基礎収入として認めたものがあります。

若い方は、いまの収入で計算すると不利になります

おおむね30歳未満の方は、実際の収入をそのまま基礎収入にすると不利になります。これから昇給していくはずの分が、まったく反映されないためです。
そこで実務では、学歴に応じた男女別・全年齢の平均賃金を用いるのが原則とされています。提示された示談案が事故前年の低い年収をそのまま使っていないか、確認してください。
これは若い方に限った話ではありません。現在の年収が賃金センサスの平均賃金を下回っていても、将来その平均賃金を得られる見込みがあるといえれば、平均賃金を基礎収入として算定されます。年齢だけで線を引かずに、ご自身の職歴や資格、勤務先の賃金体系から説明できないかを検討してみてください。
学生・生徒・お子さんの場合は、賃金センサスの男女別・学歴計・全年齢平均賃金を使います。大学在学中であれば「大学・大学院卒」の平均賃金を用います。
お子さんについては、女児は男女計の平均賃金、男児は男性の学歴計・全年齢平均賃金を基礎収入とするのが一般的な扱いです。

個人事業主の方の計算

確定申告書の「所得金額」がそのまま基礎収入になるわけではありません。所得金額に、青色申告特別控除額専従者給与額を足し戻します。
青色申告特別控除は、税額を計算するために差し引かれているだけのものです。給与所得控除と同じで、逸失利益の算定では考慮しません。

配当のような労働と関係のない収入は、基礎収入に含めません。逆に、副業の給与収入がある場合は加算します。年ごとの変動が大きい業種では、数年間の平均によることもあります。

実務で争いになるのは、確定申告の中身です

個人事業主の方でもめるのは、次の2つです。
①そもそも確定申告をしていない場合
②実際の収入より低い金額で申告している場合(過少申告)
いずれの場合も、申告書という一番わかりやすい資料がそのままでは使えません。保険会社は「申告額しか認められない」あるいは「収入の証明がない」と主張してきます。
ここは、正直に申し上げて簡単ではありません。実務では原則として事故前年の確定申告書に記載された額で認定していきます。申告額を上回る収入があったという主張は、裏づけが明確でなければ通りにくく、申告額どおりに認定される可能性が高くなります。
もっとも、事業の内容やご家族の生活状況からみて申告額が明らかに過少だと思われるケースでは、賃金センサスの平均賃金以下の水準に抑えたうえで、申告額と異なる額が現実の収入額として認定されることがあります。実務上は、申告額そのものか、賃金センサスの平均賃金のいずれかで算定されることが多くなっています。
判断の基準は厳しくなりませんが、証明できるかどうかは別の問題です。「申告を正しくしていなかったのだから、より厳格に判断すべきだ」という考え方は採られていません。裁判における立証の程度は「高度の蓋然性」で決まっており、それ以上のものを求める理由はないと説明されています。
もっとも、実際に申告額を超える所得を証明することは容易ではありません。帳簿、通帳の入金記録、請求書や領収書の控え、取引先との契約書といった客観的な資料を積み上げて、申告額を超える収入があったことを高度の蓋然性まで示す必要があります。ここが越えられず、申告額どおりに認定されることは少なくありません。
そのため、申告書以外の資料を積み上げていくことになります。帳簿、預金通帳の入金記録、請求書や領収書の控え、取引先との契約書、受注記録などです。取引先に照会をかけることもあります。資料の量も手間も増えるため、早い段階でご相談いただく意味が大きい場面です。
なお、事故のあとに修正申告をして、それを証拠として提出することがあります。有力な証拠になることもありますが、それだけでは足りず、他の証拠とあわせて修正前の申告より多くの収入があったと言えるだけの説明が必要になります。
確定申告書の控えに押される受付印は、令和7年1月から廃止されました。そのため、申告の内容を確認するには、e-Taxから申告データのPDFファイルを取得するか、税務署に個人情報開示請求をすることになります(法人はこの方法を使えません)。手続きに時間がかかるため、早めに動いてください。
赤字申告の場合は、さらに慎重な判断になります。もともと大幅な赤字だった事業で、事故のあとも赤字が拡大し続けている場合、その拡大分すべてが事故によるものとは認められにくくなります。
この場合は、損失の拡大額のうち事故と関係がある範囲を割合で認定する、あるいは賃金センサスの平均賃金を用いるといった方法がとられます。
ただし、赤字だからといって逸失利益まで否定されるわけではありません。休業損害は「現実に減った収入」を見るものなので、赤字だと認めてもらうのが難しくなります。これに対し逸失利益は、長期的な将来の収支を予測するものなので、いま赤字であることが直ちに結論を決めるわけではないのです。
裁判例には、赤字経営だった方について休業損害は否定しつつ、逸失利益については男性の年齢別平均賃金の60%を基礎収入として認めたものがあります。

固定費を足せるかどうかは、休業損害と逸失利益で違います

固定費(地代家賃、リース料、損害保険料、従業員給与、租税公課など)を基礎収入に足せるかどうかは、どの損害を計算しているかで変わります。

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損害の種類固定費の加算理由
休業損害できる事業を再開・継続するため、無駄と分かっていても払い続けざるを得なかったから
後遺障害の逸失利益裁判例が分かれる下で説明します
死亡の逸失利益できない事業が再開・継続されることはなくなっているため。ご親族が事業を引き継ぐ場合でも、被害者との関係では事業継続のための支出は問題になりません

後遺障害の逸失利益では、両方の立場があります

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立場理由づけ
加算しない
(数のうえでは優勢)
症状固定より後は、事業の規模を縮めて固定費を抑えるという選択肢があるため、払い続けざるを得なかったとはいえない。事業を継続するなら固定経費は被害者側で負担すべきものであり、廃止するなら固定経費は発生しない。「逸失利益については、休業損害と異なり、固定経費分は損失とは解されない」と明示した裁判例もあります
加算する
(こちらの裁判例も複数)
後遺障害によって事業の規模が縮んだのに、それに合わせて固定費を減らすことができない場合は、事故によって過大な支出を強いられたといえます。この場合は休業損害と同じように加算するほうが実情に合う、という考え方です
つまり、常に加算できないわけではありません。否定する立場に立つ裁判例でも、減価償却費については加算するものがあります。
加算すべきでないと考えられているのは、事業を廃止した場合や廃止が見込まれる場合、そして事故のあと売上が増えている場合です。この場合は、無駄になった固定費がないためです。
固定費を減らせない事情があるのなら、それを具体的に示していく価値があります。

症状固定までの減収については、こちらで詳しく説明しています

無職の方・会社役員の方

逸失利益は働いていることが前提なので、無職の方には原則として認められません。ただし、就職が決まっていた場合や、労働能力と労働意欲があって就労する蓋然性が認められる場合には認められます。
もっとも、失業期間が何年も続いていて、単に就職活動をしていたという程度では、蓋然性を認めるのは困難です。基礎収入は、失業前の実際の収入、性別、年齢、学歴、経歴などから、実際に得られる蓋然性の高い金額を平均賃金なども参考にして決めます。
収入を裏づける資料が乏しい場合には、賃金センサスの平均賃金の70%といった水準で算定されることもあります。
会社役員の方は、役員報酬のうち労務の対価にあたる部分だけが基礎収入になります。利益の配当にあたる部分は含まれません。
もっとも、小規模な法人で、役員とはいえ他の従業員と変わらない仕事をしている場合には、少なくとも他の従業員の給与に相当する部分は労務の対価と判断されることになります。実務では、報酬額のおおむね50〜100%の範囲で、事案ごとに判断されています。
判断にあたっては、会社の規模(同族会社かどうか)、利益の状況、その役員の地位と職務内容、年齢、役員報酬の額、他の役員や従業員の職務内容と報酬・給与の額、事故後の報酬額の推移などが見られます。親族である役員と、そうでない役員の報酬額に差があるかどうかも、判断材料になります。
なお、役員報酬を受けている主婦の方については、労務の対価という性格が薄い場合でも、家事労働の評価をふまえて賃金センサスが用いられることがあります。

ライプニッツ係数は、2029年3月まで年3%で確定しています

ここは時期によって数字が変わるため、古い情報に注意が必要な部分です。

法定利率の推移

中間利息を控除するときは、損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を使います(民法417条の2第1項。不法行為には同法722条1項により準用されます)。そして法定利率は、3年を一期として見直される変動制になっています(民法404条3項)。

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期間法定利率
令和2年3月31日まで年5%
令和2年4月1日〜令和5年3月31日(第1期)年3%
令和5年4月1日〜令和8年3月31日(第2期)年3%
令和8年4月1日〜令和11年3月31日(第3期)年3%
令和8年4月からの第3期も、法定利率は年3%で据え置かれることが確定しました。令和7年の法務省告示により第3期の基準割合が年0.4%と告示され、第1期の基準割合0.7%からの変動が1%未満だったためです。
つまり、2029年3月まで年3%で計算します。
令和2年3月31日以前に起きた事故は、年5%で計算します。係数が小さくなるため、逸失利益は今より低くなります。インターネット上には5%時代の係数表が残っているので、係数表を見るときは何%のものかを必ず確認してください。

ライプニッツ係数(年3%)

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年数係数年数係数年数係数
1年0.970911年9.252625年17.4131
2年1.913512年9.954030年19.6004
3年2.828613年10.635035年21.4872
4年3.717114年11.296140年23.1148
5年4.579715年11.937945年24.5187
6年5.417216年12.561150年25.7298
7年6.230317年13.166155年26.7744
8年7.019718年13.753560年27.6756
9年7.786119年14.323867年28.7330
10年8.530220年14.8775

法定利率年3%で計算した年金現価係数です。

労働能力喪失期間は、原則67歳までです

喪失期間の終わりは、原則として67歳とされています。症状固定時の年齢から67歳までの年数を使います。

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被害者労働能力喪失期間の考え方
原則症状固定時から67歳まで
高齢の方67歳までの年数が短くなる場合は、簡易生命表の平均余命の2分の1と比べて、長いほうを使います
18歳未満の方原則として18歳から67歳まで。大学進学が見込まれる場合は卒業時から起算することもあります
むちうちの第14級3〜5年とされることが多くなっています
むちうちの第12級10年程度とされることが多くなっています
高齢の方について、原則をそのまま当てはめると期間がほとんどなくなってしまいます。たとえば70歳で症状固定なら、67歳までの年数はゼロです。そこで平均余命の2分の1を用います。働いていた実績があれば、逸失利益は認められます。

18歳未満の方は、係数を引き算します

お子さんの場合、症状固定の時点ではまだ働いていません。そこで、働き始めるまでの期間を除く必要があります。これは、係数どうしの引き算で処理します。

①症状固定時の年齢から67歳までの年数に対応する係数
②症状固定時の年齢から18歳までの年数に対応する係数
③ ①から②を差し引いた数字が、使うべき係数です

たとえば5歳で症状固定を迎えた場合はこうなります。

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手順年数係数
①5歳から67歳まで62年28.0003
②5歳から18歳まで13年10.6350
③①-②17.3653
大学生や専門学校生の場合は、18歳ではなく卒業する年齢までの係数を差し引きます。就労を始める時期がその分だけ遅くなるためです。

提示額が低いと感じたら、どこを見るか

示談案に書かれた逸失利益の欄を見て、次の4点を確認してください。

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確認する項目見るポイント
①基礎収入事故前年の年収と一致していますか。主婦の方は賃金センサスの女性平均賃金が使われていますか
②労働能力喪失率認定された等級の割合になっていますか
③労働能力喪失期間ここが最重要です。年数の根拠は何ですか。むちうち以外なのに3〜5年になっていませんか
④ライプニッツ係数その年数に対応する正しい係数ですか。年3%のものですか
逸失利益の欄に「一括」とだけ書かれ、内訳が示されていない示談案もあります。その場合は、4つの数字をそれぞれ明らかにするよう求めてください。内訳が分からなければ、金額が妥当かどうかを判断できません。
なお、逸失利益は課税されません。心身に加えられた損害について支払われる損害賠償金は非課税とされています。示談金が大きくなっても、そのことで税金が発生する心配は基本的にありません。

示談案の逸失利益に、疑問を感じたら

難波みなみ法律事務所では、交通事故の被害者側のご相談を初回30分無料でお受けしています。示談案をお持ちいただければ、逸失利益の4つの数字がどう置かれているかをその場で確認します。労働能力喪失期間が短く見積もられているケースは少なくありません。署名する前にご相談ください。弁護士費用特約をお使いいただけます。

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よくある質問

Q. 逸失利益はどうやって計算するのですか?

基礎収入 × 労働能力喪失率 × ライプニッツ係数の3つを掛けます。基礎収入は事故前年の年収、労働能力喪失率は後遺障害の等級ごとに定められた割合、ライプニッツ係数は労働能力喪失期間から決まる数字です。

Q. 休業損害と逸失利益は何が違うのですか?

分かれ目は症状固定です。事故から症状固定までの減収が休業損害、症状固定より後の減収が逸失利益です。休業損害は実際に減った額を証明しますが、逸失利益はまだ発生していない損害なので計算で出します。

Q. 後遺障害の等級が認定されなくても、逸失利益はもらえますか?

原則としてもらえません。逸失利益は後遺障害が残ったことを前提とする損害だからです。等級に納得できない場合は、異議申立てを検討することになります。

Q. 実際には収入が減っていません。それでも請求できますか?

できる場合があります。勤務先の配慮で給与が維持されている場合や、痛みを我慢して同じ仕事を続けている場合です。ただし保険会社は「減収がない」と主張してくるため、業務にどのような支障が出ているか、昇進や転職にどう影響するかを具体的に示していく必要があります。

Q. 14級の労働能力喪失期間は何年ですか?

むちうちであれば3〜5年で提案されることが多くなっています。ただし、骨折が治ったあとに残った神経症状の場合は事情が異なり、10年以上の期間が認められることもあります。画像で確認できる器質的な所見が残っているためです。提示された年数の根拠を必ず確認してください。

Q. 労働能力喪失期間が5年か10年かで、いくら変わりますか?

年収400万円で14級(喪失率5%)の場合、5年なら915,941円、10年なら1,706,041円です。790,100円の差になります。12級(喪失率14%)であれば同じ条件で2,564,636円と4,776,914円となり、差は221万円を超えます。

Q. ライプニッツ係数は何%で計算しますか?

年3%です。令和2年4月1日以後に発生した事故に適用されます。それ以前の事故は年5%です。なお令和8年4月からの第3期も、法務省の告示により年3%で据え置かれることが確定しており、2029年3月まで3%です。

Q. なぜ10年分なのに係数が10ではないのですか?

将来受け取るはずのお金を今まとめて受け取ると、その間の利息の分だけ得をしてしまうためです。そこであらかじめ利息分を差し引きます。これを中間利息控除といい、民法417条の2第1項に定められています。10年の係数は8.5302です。

Q. 専業主婦でも逸失利益は認められますか?

認められます。基礎収入には賃金センサスの女性・全年齢の平均賃金を用いるのが一般的です。令和7年の数値は4,370,700円で、14級・喪失期間5年であれば1,000,826円になります。「収入がないから逸失利益はない」という説明は誤りです。

Q. 会社員の基礎収入は、源泉徴収票のどの金額ですか?

「支払金額」です。「給与所得控除後の金額」ではありません。給与所得控除は所得税を計算するために差し引かれているだけのもので、逸失利益や休業損害の算定では考慮しません。課税証明書を使う場合も「給与収入金額」を見ます。

Q. 個人事業主の基礎収入はどうなりますか?

確定申告書の所得金額に、青色申告特別控除額と専従者給与額を足し戻します。実務でもめるのは、そもそも確定申告をしていない場合と、実際の収入より低い金額で申告している場合です。この場合は、帳簿、通帳の入金記録、請求書や領収書の控え、取引先との契約書などで実収入を積み上げていくことになります。もっとも、申告額を超える所得を証明することは容易ではなく、申告額どおりに認定されることも少なくありません。

Q. 確定申告の金額より、実際の収入は多いのですが。

裁判所は申告額を超える収入を認めることに慎重で、容易には通りません。一定の金額が申告されている場合、実際の収入がそれ以上だという裏づけが明確でなければ、申告額どおりに認定される可能性が高くなります。ただし、事業の内容やご家族の生活状況からみて申告額が明らかに過少だと思われるケースでは、賃金センサスの平均賃金以下の水準に抑えたうえで、申告額と異なる額が認定されることがあります。

Q. 個人事業主です。固定費を基礎収入に足せますか?

どの損害を計算しているかで変わります。休業損害では足せます。後遺障害の逸失利益については裁判例が分かれており、数のうえでは加算を否定するものが優勢ですが、常に足せないわけではありません。後遺障害で事業の規模が縮んだのにそれに合わせて固定費を減らせない場合には、加算した裁判例が複数あります。否定する立場でも減価償却費は加算する例があります。逆に、事業を廃止した場合や事故のあと売上が増えている場合は加算すべきでないと考えられています。なお、死亡の逸失利益では、事業が再開・継続されることはなくなっているため加算できません。

Q. 賃金センサスは、いつの年のものを使いますか?

決まりが一つではありません。損害は不法行為の時に発生すると考えられているため、事故が起きた年のものを用いるのが一般的です。ただし、症状固定日が属する年のものを用いる例もあり、学生やお子さんについては最新のものを用いるのが原則とされています。いずれにせよ、示談交渉をしている年のものではありません。

Q. 確定申告書の控えに受付印がありません。

確定申告書の控えへの受付印の押捺は、令和7年1月から廃止されました。申告の内容を確認するには、e-Taxから申告データのPDFファイルを取得するか、税務署に個人情報開示請求をすることになります(法人はこの方法を使えません)。時間がかかるため、早めに準備してください。

Q. 会社役員です。役員報酬のどこまでが基礎収入になりますか?

労務の対価にあたる部分だけです。利益の配当にあたる部分は含まれません。実務では、会社の規模、利益状況、その役員の職務内容、他の役員や従業員の報酬額との差などを見て、報酬額のおおむね50〜100%の範囲で判断されています。

Q. 20代です。いまの収入で計算されると不利になりませんか?

なります。おおむね30歳未満の方は、これから昇給していくはずの分が反映されないためです。そこで実務では、学歴に応じた男女別・全年齢の平均賃金を用いるのが原則とされています。示談案が事故前年の低い年収をそのまま使っていないか確認してください。

Q. 子どもの逸失利益はどう計算しますか?

賃金センサスの平均賃金を基礎収入とし、係数の引き算で計算します。症状固定時の年齢から67歳までの係数から、18歳までの係数を差し引いた数字を使います。たとえば5歳で症状固定なら、62年の係数28.0003から13年の係数10.6350を引いた17.3653です。大学生の場合は卒業する年齢までの係数を差し引きます。

Q. 事故当時、無職でした。逸失利益は請求できますか?

原則として認められませんが、就職が決まっていた場合や、労働能力と労働意欲があって就労する蓋然性が認められる場合には認められます。失業期間が何年も続いていて単に就職活動をしていたという程度では困難です。基礎収入は、失業前の実際の収入、年齢、学歴、経歴などから決めます。

Q. 顔に傷あとが残りました。男性でも逸失利益は認められますか?

認められる場合があります。平成22年6月10日以後の事故については、政令の改正により外貌醜状の等級に男女差がなくなりました。傷あと自体が直接に作業能力を奪うわけではないため職業との関係で個別に判断されますが、将来の配置転換、昇進、転職への影響を示すことで認められています。逸失利益が否定される場合でも、慰謝料の増額事由として考慮されることがあります。

Q. 何歳まで働くものとして計算しますか?

原則として67歳までです。高齢の方で67歳までの年数が短くなる場合は、簡易生命表の平均余命の2分の1と比べて長いほうを使います。18歳未満の方は原則として18歳から67歳までで計算します。

Q. 逸失利益に税金はかかりますか?

かかりません。心身に加えられた損害について支払われる損害賠償金は非課税とされています。

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この記事は、民法、自動車損害賠償保障法および同法施行令、国土交通省が公表している労働能力喪失率表、法務省が公表している法定利率に関する資料、厚生労働省の賃金構造基本統計調査にもとづいて作成しています。労働能力喪失率および労働能力喪失期間は事案ごとに個別に判断されるものであり、記載した年数は実務上よく用いられる目安です。実際の賠償額は、後遺障害の内容、職業、年齢、過失割合等により変わります。ご自身のケースについては弁護士にご相談ください。

執筆:弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号49544)/難波みなみ法律事務所(大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403)

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