コラム
更新日: 2026.08.19

後遺障害認定とは|期間・デメリットと非該当時の対処法

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

まず結論
後遺障害の等級は、誰が決めているのですか?
損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)が、提出された書類だけを見て決めています。保険会社が独自に判断しているわけではなく、また被害者や医師から直接話を聞く手続きもありません。つまり、書類に書かれていないことは判断材料になりません。
非該当になったのは、症状が軽いと思われたということですか?
正確には「将来においても回復が困難ではない」と判断された、ということです。非該当の認定は、まず他覚的所見による裏づけがないとして12級13号を否定し、次に自覚症状を①受傷機転②治療経過③医学的要因の3つから検討して14級9号も否定する、という順序で行われます。どの段階で否定されたのかによって、打つべき手は変わります。
認定された等級が、そのまま賠償額を決めるのですか?
決めません。自賠責の等級表は、もともと自賠責保険の支払限度額を定めるための表であって、損害賠償額を算定するための表ではないからです。逸失利益の計算に使う労働能力喪失率の表も裁判所を拘束しないため、等級どおりの割合で決まるとは限りません。

交通事故のけがが完治せず症状が残ったとき、賠償額を大きく左右するのが後遺障害等級の認定です。ところが、この手続きは被害者から見えにくく、「なぜ非該当なのか分からない」「どこに何を出せばよいのか分からない」という相談が絶えません。

この記事では、大阪市中央区なんば・心斎橋の難波みなみ法律事務所の弁護士が、誰がどうやって等級を決めているのか、なぜ非該当になるのか、納得できないときに何ができるのかを、実務に即して整理します。

後遺障害認定とは|誰が、何を見て決めているのか

自賠責保険の実務では、損害保険料率算出機構(損保料率機構)が独占的に後遺障害等級の認定を行っています。

この機構は、もともと保険料率を算出して保険会社が保険料を決めるための組織です。その算出過程で行われる損害調査の結果を、各保険会社が自ら行うべき損害調査に代えて利用するという慣行になっており、実際の調査は機構の下部組織である自賠責損害調査事務所が担当しています。

つまり、あなたの等級を実際に判断しているのは、相手方の保険会社の担当者ではありません。保険会社から届く通知は、料率機構の調査結果を伝えているにすぎません。交渉相手を間違えないことが、最初のポイントです。

審査は書面だけで行われます

後遺障害の審査に、面談はありません。被害者本人が症状を説明する機会も、主治医が口頭で補足する機会もなく、提出された書類だけで判断されます。

後遺障害診断書に書かれていない症状は、存在しないものとして扱われます。だからこそ、診断書の記載内容が決定的に重要になります。書き方については後遺障害診断書の書き方の記事で詳しく解説しています。

請求の方法は3通りあります

手続き根拠だれが請求するか
事前認定(一括払い)約款上の取扱い相手方の任意保険会社が、被害者に代わって自賠責へ照会する。被害者は後遺障害診断書を渡すだけで済む
被害者請求自賠法16条
(直接請求)
被害者自身が、相手方の自賠責保険会社に直接請求する。認定されれば自賠責の支払基準による金額が先に直接支払われる
加害者請求自賠法15条加害者が被害者に賠償金を支払ったうえで、自賠責保険会社に請求する

被害者にとって実際に選択肢になるのは、事前認定と被害者請求の2つです。この違いは後ほど詳しく説明します。

症状固定を決めるのは主治医です|保険会社ではありません

後遺障害の手続きは、症状固定から始まります。症状固定とは、治療を続けてもこれ以上の改善が見込めない状態のことです。

症状固定の時期を判断するのは、あなたを診てきた主治医です。保険会社が「そろそろ症状固定にしてください」と言ってくることがありますが、それは支払いを打ち切りたいという保険会社の都合であって、医学的な判断ではありません。

ただし、症状固定後は治療費が出なくなります

症状固定は「治療の終わり」を意味するわけではありません。しかし賠償実務では、症状固定日以降の治療費・通院交通費・休業損害は、原則として相手方に請求できなくなります。症状固定日より後の分は、後遺障害の問題として処理されるからです。

だからこそ、保険会社は早く症状固定にしたがり、被害者側は医学的に妥当な時期まで治療を続けたいという対立が起きます。治療の打ち切りを打診された段階でご相談いただければ、主治医の見解を踏まえて交渉できます。

治療費の打ち切りを打診されていませんか

症状固定の時期は、その後の賠償額を大きく左右します。当事務所は症状固定前の段階からご相談をお受けしています。

事前認定と被害者請求|資料をコントロールできるかの違い

手間だけを見れば、事前認定のほうが圧倒的に楽です。後遺障害診断書を保険会社に渡せば、あとは待つだけだからです。

それでも被害者請求を選ぶ理由は、提出する資料を自分でコントロールできる点にあります。

事前認定被害者請求(自賠法16条)
手間少ない。診断書を渡すだけ多い。画像・検査資料などを自分で取り付ける
提出資料相手方保険会社が揃えたものが提出される認定に有用と考える資料を、自分の判断で追加できる
お金を受け取る時期示談成立まで受け取れない認定されれば、自賠責の支払基準による金額が先に直接支払われる
異議申立ての宛先相手方の任意保険会社相手方の自賠責保険会社
事前認定で進めていた場合でも、途中から被害者請求に切り替えて、自賠責保険会社宛てに異議申立てをすることができます。「もう事前認定で出してしまった」という段階でも、打つ手はあります。

被害者請求のときに、必ず書き添えたいこと

自賠責保険に請求書類を送るとき、「後遺障害事案整理票も送ってほしい」と書き添えてください。

この整理票は、料率機構の担当者が通院した期間、診断書に書かれた所見、画像から読み取れた所見などを自分用に整理した書類です。存在自体があまり知られていませんが、請求時に一言添えておけば、認定結果と一緒に送られてきます。

審査を実際に担当した人がどこに着目し、どう検討したのかをたどれる資料です。非該当だったとき、次の一手を組み立てる材料になります。

認定結果には別紙も付いてきます。その結論に至った理由が書かれた、いちばん重要な紙です。初回の請求だと決まり文句の並んだ文章になっていることがほとんどですが、それでも「どの段階でつまずいたのか」は読み取れます。

認定までどれくらい時間がかかるのか

手続きおおよその期間
被害者請求 → 認定結果の通知約2か月
異議申立て → 再度の結果約3〜4か月
示談交渉約1か月
異議申立てをすると、解決までさらに半年近くかかることも珍しくありません。だからこそ、最初の請求でどこまで資料を整えられるかが重要になります。やり直すより、最初から通したほうが早く、確実です。

なぜ非該当になるのか|認定の判断構造

非該当の通知には、たとえば次のような文章が書かれています。

非該当の通知に書かれること

おおむね、次の3点を順に並べた文章が返ってきます。

① 提出された画像に、事故による骨折などのはっきりした外傷性の変化は見当たらない。② 診断書を見ても、訴えている症状を裏づける客観的な医学的所見に乏しい。③ そのうえで受傷の態様や治療の状況も踏まえると、将来にわたって回復が困難な障害とまでは捉えられない

この一文を裏返すと、非該当とは「あなたの症状は、この先よくなる余地がある」と判断されたということです。症状がないと言われたわけでも、話を疑われたわけでもありません。

この判断は、次の順序で行われます。

STEP 1他覚的所見による裏づけがあるか
画像所見などで障害の存在を医学的に「証明」できるかを見ます。ここで裏づけがないと結論づけられると、12級13号(13級以上)の該当性が否定されます。
STEP 2自覚症状を3つの要素から検討する
①受傷機転 ②治療経過(状況) ③医学的要因 の3つから、将来における回復困難性を検討します。
結論14級9号にも該当しない=非該当
3要素を総合しても「将来においても回復が困難」とはいえない、という結論になります。

3つの要素が問うていること

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要素問われていること判断材料
①受傷機転 そもそも、後遺症が残る程度の衝撃を身体に受けた事故だったのか 事故の態様がわかる資料。車の壊れ方、双方の車種と速度、転倒したかどうか、着ていた服や持ち物の傷み具合。刑事記録、保険会社が作った物損の資料、ドライブレコーダーの映像
②治療経過 その事故から生じるはずの症状を、事故直後から途切れることなく訴え続け、症状固定まで治療を受けきったのか 事故直後の症状、その後の変化、受けた治療の中身、通った期間と頻度(実治療日数)
③医学的要因 「証明」まではできないとしても、残った症状を医学的に説明できるだけの材料があるか XP・CT・MRIの画像所見、神経学的検査の結果
車にほとんど傷が残らないような事故は、①の点で不利に働きます。「そもそも受傷したのか」まで疑われてしまうからです。逆に、衝突したあと路面に投げ出されて身体を打ちつけたというように、一度の事故のなかで身体が複数回のダメージを受けているのであれば、それは分けて主張すべきです。

12級13号と14級9号を分けるもの|「証明できる」か「説明可能」か

むち打ちで首や腰に痛みが残った場合、可能性があるのは12級13号か14級9号です。この2つを分けているのは、症状の強さそのものではなく、医学的にどこまで裏づけられるかです。

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等級等級規定労災の認定基準自賠責実務の考え方
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの 通常の労務に服することはできるが、時には強度の疼痛のため、ある程度差し支えがあるもの 障害の存在が医学的(ないしは他覚的)に「証明」できるもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの 通常の労務に服することはできるが、受傷部位にほとんど常時疼痛を残すもの 障害の存在が医学的に「説明可能」なもの

「証明できる」とは

事故で身体に異常が生じ、その異常のせいで今の障害が出ている——ここまでを他覚的所見だけをたどって医学的に言い切れる状態を指します。

「説明可能」とは

言い切るところまではいかなくとも、事故で生じた異常から今の症状が出ていると筋道を立てて説明できる状態です。所見と症状が食い違っていないこと、つまり両者のつじつまが合うことが問われます。

この違いは実務でも大きな意味を持ちます。12級を基礎づけるまでには至らない検査結果であっても、14級を基礎づける要素としては使うことができるからです。「12級には足りない」ことと「何の意味もない」ことは、まったく違います。

神経学的検査は、どれも同じ重みではありません

むち打ちの他覚的所見を示すために、いくつもの検査が行われます。ただし、検査の性質によって、他覚的所見としての評価は大きく異なります。

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検査内容他覚的所見としての評価
XP・CT・MRI画像検査。むち打ちでは頸椎・腰椎の狭小化やヘルニアを示す所見が確認されることが多い画像上、客観的に認識できる。ただし事故との関係、症状との関係の説明が必要
筋電図針電極を筋肉に刺し、筋肉が活動する際の電気信号を確認する本人の意思が入り込む余地がないため、他覚的所見として重みがある
反射テスト腱反射・表在反射・病的反射。腱を叩く、皮膚を刺激するなどして反射をみる意思とは無関係に起こる反応を見るものなので、客観的な所見として評価されやすい
ジャクソンテスト頭部を背屈させ、医師が両手で下方へ押さえて椎間孔を狭め、神経症状の誘発をみる痛いかどうかを答えるのは本人。裏づけとしては補助的な位置づけにとどまりやすい
スパーリングテスト痛みのある側に頭を向けて圧迫し、神経症状の誘発をみる同上
下肢伸展挙上テスト
(SLRテスト)
仰向けで足をまっすぐ伸ばしたまま挙上し、疼痛が誘発されるかをみる(腰椎)同上
徒手筋力検査
(MMT)
筋力の低下を徒手的に0〜5の6段階で評価する本人が力を入れて初めて測れるため、純粋に客観的な所見とはみなされにくい
ジャクソンテストやスパーリングテストが陽性だったことを前面に出して申し立てても、12級が認められることはまずありません。それどころか非該当に終わることもあります。これらは医師が首や身体に力を加え、痛みが出るかどうかを本人に答えてもらう検査だからです。答えているのは本人である以上、客観的な裏づけとしては弱く見られます。「陽性と書いてあるから安心」とは考えないでください。
その点、筋電図や反射テストは本人の意思が結果を左右しないため、他覚的所見として受け止めてもらいやすい検査です。ただし、どの検査であっても、その異常が事故によるものか、そして今残っている症状と結びつくのかまで示せなければ、証拠としては働きません。検査結果は提出すれば足りるのではなく、何を意味するのかまで添えて初めて意味を持ちます。
画像や検査結果に説明を添える場面では、弁護士が医学文献を調べて自分の言葉で書いてしまうことは避けています。正確さを担保できないからです。担当の医師に確認をとり、必要であれば意見書をお願いしたうえで進めます。

等級ごとの金額|自賠責・大阪基準(緑本)・赤い本

後遺障害等級が認定されると、後遺障害慰謝料後遺障害逸失利益を請求できるようになります。慰謝料の金額は、どの基準で計算するかによって大きく変わります。

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等級 労働能力
喪失率
自賠責の
保険金額
自賠責基準の
慰謝料
緑本
(大阪基準)
赤い本
1級100%3,000万円1,150万円2,800万円2,800万円
2級100%2,590万円998万円2,400万円2,370万円
3級100%2,219万円861万円2,000万円1,990万円
4級92%1,889万円737万円1,700万円1,670万円
5級79%1,574万円618万円1,440万円1,400万円
6級67%1,296万円512万円1,220万円1,180万円
7級56%1,051万円419万円1,030万円1,000万円
8級45%819万円331万円830万円830万円
9級35%616万円249万円670万円690万円
10級27%461万円190万円530万円550万円
11級20%331万円136万円400万円420万円
12級14%224万円94万円280万円290万円
13級9%139万円57万円180万円180万円
14級5%75万円32万円110万円110万円

※自賠責の保険金額は自動車損害賠償保障法施行令 別表第二による支払限度額(慰謝料・逸失利益等を含む総額)。労働能力喪失率は昭和32年7月2日基発第551号による。介護を要する後遺障害(別表第一)の保険金額は1級4,000万円・2級3,000万円、自賠責基準の慰謝料は1級1,650万円・2級1,203万円。

14級9号でも、大阪基準(緑本)と赤い本ではいずれも110万円、自賠責基準では32万円です。基準が変わるだけで3倍以上の差が生じます。入通院慰謝料も含めた具体的な金額は、慰謝料の自動計算ツールでお確かめください。

「等級=賠償額」ではありません

ここは、多くの記事が書いていない重要な点です。

そもそも自賠責の後遺障害等級表は、自賠責保険金額(支払限度額)を定めるための表であって、損害賠償額を算定するための表ではありません。その元になっている労災保険の等級表も、障害補償の内容を定めるためのものです。

それでも損害賠償の実務では、等級表と損害算定が密接に結びついています。逸失利益を計算するときに使う労働能力喪失率は、被災労働者が第三者に対して持つ損害賠償請求権の金額を算定するために昭和32年7月2日基発第551号が示した表を借用しているにすぎません。

この喪失率表は、裁判所を拘束しません。実際、表と異なる喪失率によって損害を算定することはしばしばあります。もともと表の数値自体、しかるべき裏づけがあるものではなく、便宜上使われているものだからです。

したがって「14級だから労働能力喪失率は5%で確定」ではありません。職種や実際の支障の程度によっては、それ以上の主張が成り立つ場合があります。逆に、保険会社から「14級は5%、しかも喪失期間は5年まで」といった提示を受けたとき、そのまま受け入れる必要もありません。

併合と加重

後遺障害が2つ以上残った場合には、等級が繰り上がることがあります。

  • 13級以上に該当する後遺障害が2つ以上あるとき重い方の等級を1級繰り上げます。ただし、それぞれの等級に応ずる保険金額の合算額が繰上げ後の保険金額を下回るときは、その合算額が保険金額になります
  • 8級以上に該当する後遺障害が2つ以上あるとき重い方の等級を2級繰り上げます
  • 5級以上に該当する後遺障害が2つ以上あるとき重い方の等級を3級繰り上げます
  • 加重の場合既に後遺障害のある方が同一部位についてその程度を加重したときは、加重後の等級に応ずる保険金額から、既にあった後遺障害の等級に応ずる保険金額を控除した額が保険金額になります

後遺障害認定にデメリットはあるのか

「後遺障害の認定を受けると、何か不利になることはありませんか」というご質問をよくいただきます。結論から申し上げると、認定を受けないほうがはるかに不利です。

自動車保険の等級は下がりません

後遺障害等級の認定を受けても、ご自身の自動車保険のノンフリート等級には影響しません。後遺障害の認定は、相手方に賠償してもらうための手続きだからです。ご自身の保険を使うわけではありません。

なお、弁護士費用特約を使っても等級は下がりません。詳しくは弁護士費用特約の記事をご覧ください。

実質的なデメリットは「症状固定」のほうにあります

強いて挙げるなら、デメリットは認定そのものではなく、その前提となる症状固定にあります。

  • 症状固定日以降の治療費・休業損害は、原則として請求できなくなる後遺障害の手続きに進むということは、治療段階が終わったという整理になるためです
  • 事前認定で低い等級が出ると、そこが交渉の出発点になってしまう異議申立てで覆すことはできますが、時間がかかります。だからこそ最初の請求が重要です
逆にいえば、それだけです。認定を受ければ後遺障害慰謝料と逸失利益を請求できるようになり、賠償額は大きく変わります。「デメリットが心配だから申請しない」という判断には、まず合理性がありません。気にすべきは「申請するかどうか」ではなく、「どの手続きで、どんな資料を出すか」です。

認定に納得できないとき|3つのルート

非該当だった、あるいは想定より低い等級だった場合、被害者がとりうる手段は3つあります。

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手段回数特徴結果の重み
①異議申立て 制限なし 等級を出した保険会社に、書面で再検討を求める。書類は損害保険料率算出機構へ送られ、弁護士・学者・医師などで構成される審査会にかけられる 新しい医証か、事実の捉え方の誤りを具体的に示せるか。そのどちらかがなければ動かない
②紛争処理機構
への申請
1回のみ 一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構。自賠法23条の5の指定紛争処理機関(ADR)。弁護士・医師らの紛争処理委員会が書面審査で判断(原則非公開) 被害者に不利になる変更はされず、保険会社は審査の結果に拘束される
③訴訟 加害者に対する損害賠償請求訴訟の中で、後遺障害の有無と程度について裁判所の判断を仰ぐ 裁判所は自賠責の認定結果に拘束されない(ただし相当程度重視している)
紛争処理機構への申請は1回限りで、その調停結果に不服があっても異議申立てはできません。使うタイミングを誤ると、この手段を失います。また、提出できるのは自賠責保険に提出した関係資料だけとされていますので、新しい資料で勝負したい場合には向きません。
日弁連交通事故相談センター、交通事故紛争処理センター、そんぽADRセンター、交通調停では、後遺障害等級認定を争うことは基本的にできません。これらの機関の趣旨になじまないためです。「ADRに持ち込めば等級を見直してもらえる」というのは誤りですので、ご注意ください。

訴訟でひっくり返すときのハードル

裁判所は自賠責の認定結果に拘束されず、訴訟で提出された証拠によって後遺障害の有無と程度を判断します。もっとも、実際には自賠責の認定結果を相当程度重視しています。これと異なる等級を主張する場合には、医学的知見を踏まえた十分な主張立証が求められます。

異議申立てで結果を変えるために必要なこと

異議申立ての手続き自体は何度でもできます。しかし——

新しい医証を添えるか、調査事務所の事実の捉え方のどこが間違っているのかを具体的に突きつけるか。このどちらかがなければ、何度出しても結論は動きません。同じ資料を付けて「納得できません」と書いても、同じ答えが返ってくるだけです。

先ほど見たとおり、非該当とは「この先よくなる余地がある」という判断でした。裏を返せば異議申立てとは、その見立てを覆すだけの材料を積み上げる作業です。3つの要素ごとに、何を足せるのかを見ていきます。

①受傷機転を補強する

  • 事故の激しさを、資料で語らせる車がどう壊れたか、双方の車種と速度はどうだったか、転倒したか、着ていた服や持ち物はどうなったか。こうした事実がそのまま衝撃の大きさを物語ります。刑事記録、保険会社が作った損害レポート、車両の写真、ドライブレコーダーの映像を集めます
  • 身体が何度ダメージを受けたのかを分けて書く衝突したあと路面に投げ出されて打ちつけた、というように一連の事故のなかで複数回の衝撃があるなら、まとめずに一つずつ挙げます
  • 車の損害が小さい事案こそ、医師の意見が効きますその程度の事故でもこの症状は起こりうる、と医学的に言ってもらえる意見書があれば、資料の弱さを補えます
後遺障害の請求には「事故発生状況報告書」が必ず要ります。この書面は、請求を出す前にそのときどんな姿勢でいて、どこにどう衝撃を受け、どの症状がいつから出たのかまで丁寧に書き込んでおきたい書類です。図と一言で済ませてしまうと、あとで①受傷機転を争うときの足場を自ら失うことになります。

②治療経過を補強する

  • 通院の密度を数字にする単純な通院日数ではなく、その病院が開いていた日のうち何日通ったのかで見ます。2日に1日通っていたというような密度であれば、それ自体が症状の重さを語ります
  • 受けた治療の中身を挙げる消炎鎮痛薬を出し続けている、神経ブロック注射を打っている、ペインクリニックにかかっている。痛みが強くなければ医師がそこまでしない治療を受けているなら、必ず異議申立書に書きます
  • 症状固定日より後の通院実績を出す料率機構に出すよう求められる書類ではありませんが、効き目は大きい材料です
症状固定のあと、健康保険を使うなどして自腹で通院を続けていたなら、その領収書と診療明細書は必ず出してください。

お金を自分で払ってでも病院に通わざるをえない。その事実こそが、症状がこの先も残ることを何よりも雄弁に示すからです。「もう治療費が出ないから」と通院をやめてしまうと、この一番強い材料を自ら手放すことになります。

③医学的要因を補強する

  • 画像と検査結果をもう一度読み直すむち打ちであれば、MRIを撮っているという事実を示すところが出発点になります
  • もともとあった変性所見を、あえて拾う脊柱管狭窄、椎間板膨隆、椎体骨棘形成。こうした加齢による変化が事故前から存在し、しかし当時は何の症状も出ていなかった。この組み合わせは主張しておく価値があります
  • 骨折事案では、見落としを疑ってかかる認定結果に「骨癒合は良好」「骨折が判然としない」と書かれていても、それが正しいとは限りません。骨折した箇所や関節面のわずかなずれが読み飛ばされていることがあります。経過診断書や後遺障害診断書でそうした所見に触れている医師がいるなら、直接確認して画像上どこを指すのかを教えてもらい、そのうえで主張します
  • 症状が出ている理屈まで書くその所見から、なぜ今の痛みやしびれが生じるのか。そのつながりを異議申立書のなかで説明します。必要であれば医療照会を行い、医師の見解を添えます

医療照会は、先回りしておくのが有効です

異議申立てが出されると、自賠責の側はほぼ例外なく、その理由に関わる医療機関へ照会をかけるかどうかを検討します。

ということは、相手が主治医に何を尋ねるかは、認定結果を読めばおおよそ見当がつくということです。であれば、こちらが先に主治医に確認し、回答を書面でもらっておくほうが有利に働きます。

そして、後遺障害診断書の予後欄や照会の回答に「回復は困難」といった一文があるなら、それは見逃せません。長く診てきた主治医が、この症状は戻らないと判断したという事実になるからです。異議申立書のなかで、はっきり書いておきます。

自覚症状は、別の書面で補うこともできます

後遺障害診断書には自覚症状を書く欄があります。ところが、ここが一行で終わっていることが珍しくありません。そうなると、審査する側は「何を評価すればよいのか」の手がかりを失います。評価の対象そのものが見えないわけですから、判断が厳しくなるのは当然です。

  • 自覚症状だけを書いた報告書を別に用意する診断書の欄に収まりきらない分を、どの部位に、どんな種類の症状が、どの程度残っているのかまで書き下ろして補います
  • 医師への質問状は「答えやすさ」で設計する自由記述で長文をお願いしても返ってきません。認定に必要な事実を引き出せる問い方に絞り、選択肢を用意するなど回答欄の側も工夫します。事故状況の資料など判断材料になるものは、質問状に添えて送ります
  • 症状の移り変わりを継続的に記録してもらう頸椎捻挫・腰椎捻挫について、症状や神経学的所見の推移を書き込んでいくひな形があります。事故直後から埋めていってもらえれば、症状が途切れていないことを示す資料になります
ご本人が書いた日記も資料にはなりますが、期待しすぎないでください。カルテと違って書き手が当事者である以上、都合よく書けてしまうもの、と見られる余地が残るからです。それでも書いていただくのなら、「痛い」で終わらせないことです。どんな種類の痛みで、そのせいで何ができなくなり、前と比べてどう変わったのか。そこまで書けて初めて資料になります。

それでも新しい材料がないときは

新しい客観的な証拠をどうしても用意できないのであれば、自賠責という土俵での勝負はそこで終わっています。粘って同じ申立てを繰り返すより、示談交渉や訴訟という別の土俵に移るほうが、結果的に早く、実りもあります。裁判所は自賠責の判断に縛られないからです。
なお、異議申立ての回数に制限はありませんが、自賠責保険会社に対する請求には3年間の消滅時効が適用されます。その期間内に手続きを行う必要がありますので、時期の管理にはご注意ください。

後遺障害認定のよくある質問

後遺障害の等級は誰が決めるのですか?

損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)が決めています。自賠責保険・共済の実務では、同機構が独占的に後遺障害等級認定を行っており、各保険会社はその調査結果を自社の損害調査に代えて利用しているためです。保険会社から届く通知は、機構の調査結果を伝えているにすぎません。

後遺障害の審査で、面談や聞き取りはありますか?

ありません。審査は提出された書類だけで行われます。被害者本人が症状を説明する機会も、主治医が口頭で補足する機会もないためです。後遺障害診断書に書かれていない症状は、存在しないものとして扱われます。

認定までどれくらいの期間がかかりますか?

被害者請求の手続きから認定結果の通知まで、概ね2か月ほどです。異議申立てを行った場合は、再度の結果が返ってくるまで概ね3〜4か月かかります。示談交渉にはさらに1か月ほどを見込んでください。

非該当と言われました。もう覆せませんか?

覆せる余地はあります。ただし、同じ資料をもう一度出しても結論は変わりません。新しい医証を足すか、調査事務所の事実の捉え方のどこが誤っているのかを具体的に示すか。そのどちらかが必要だからです。まずは認定結果の別紙を読み、どの段階でつまずいたのかを特定してください。症状固定のあとも自腹で通院を続けているなら、その領収書は有力な材料になります。

後遺障害の認定を受けると、自分の保険の等級は下がりますか?

下がりません。後遺障害の認定は、相手方に賠償してもらうための手続きであり、ご自身の自動車保険を使うものではないためです。弁護士費用特約を使った場合も等級は下がりません。実質的なデメリットは、症状固定日以降の治療費や休業損害が原則として請求できなくなることだけです。

14級だと労働能力喪失率は5%で決まりですか?

決まりではありません。逸失利益の計算に使われる労働能力喪失率の表は、昭和32年7月2日基発第551号が示したものを借用しているにすぎず、裁判所を拘束しないためです。実際、表と異なる喪失率で損害を算定することはしばしばあります。そもそも自賠責の等級表は、自賠責保険の支払限度額を定めるための表であって、損害賠償額を算定するための表ではありません。

事前認定と被害者請求は、どちらを選ぶべきですか?

提出資料をコントロールしたいのであれば、被害者請求です。事前認定では相手方の保険会社が揃えた資料が提出されるのに対し、被害者請求では認定に有用と考える資料を自分の判断で追加できるためです。また、認定されれば自賠責の支払基準による金額が示談を待たずに直接支払われます。なお、事前認定で進めていた場合でも、途中から被害者請求に切り替えて異議申立てを行うことができます。

ジャクソンテストが陽性でした。12級は認められますか?

それだけでは難しいのが実際です。これらは医師が首や身体に力を加え、痛みが出たかどうかを本人に答えてもらう検査だからです。答えているのが本人である以上、客観的な裏づけとしては弱く見られます。陽性を前面に出して申し立てても12級が認められることはまずなく、非該当に終わることさえあります。本人の意思が結果を左右しない筋電図や反射テストのほうが、他覚的所見として重く扱われます。

交通事故紛争処理センターで等級を争えますか?

基本的にできません。日弁連交通事故相談センター、交通事故紛争処理センター、そんぽADRセンター、交通調停はいずれも、後遺障害等級認定を争うという趣旨になじまないためです。自賠責の判断そのものを争うのであれば、異議申立て、自賠責保険・共済紛争処理機構への申請、訴訟の3つになります。

後遺障害の等級認定でお困りの方へ

大阪市中央区なんば・心斎橋。年間500件以上のご相談をお受けしています。交通事故のご相談は初回無料です。

  • 症状固定前の段階からご相談いただけます治療費の打ち切りを打診された段階でも、症状固定の時期を含めて対応します
  • 原則として被害者請求で進めます提出する資料を自分の判断で組み立てられるためです
  • すでに非該当の結果が出ている方の異議申立てだけでもお受けしますまず認定結果の別紙を拝見し、どの段階で否定されたのかを確認します

監修:弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会 登録番号49544/中小企業診断士)。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案についての法的助言ではありません。後遺障害等級の認定は個々の事案の医証・事故態様・治療経過等によって結論が異なります。記載した金額は自動車損害賠償保障法施行令別表、および大阪地裁の運用(緑本)・「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(赤い本)によるもので、実際の賠償額を保証するものではありません。労働能力喪失率は昭和32年7月2日基発第551号によります。手続きの所要期間は目安であり、事案により前後します。

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