相手方の保険会社と示談の話が折り合わない。かといって、いきなり裁判を起こすのは負担が大きい。そんなときに使えるのが、交通事故紛争処理センター(紛セン)です。交通事故の賠償に詳しい弁護士が、中立の立場で無料で和解のあっ旋をしてくれる公的な仕組みです。
ただし、紛センはどんな事故でも使えるわけではなく、弁護士に依頼したほうがよい場面もあります。この記事では、制度の中身と使い方を公式情報にもとづいて説明したうえで、紛センで足りるケースと、弁護士に頼むべきケースの見分け方まで、大阪の被害者側の弁護士が解説します。
結論から
Q. 紛争処理センターとは何ですか。
自動車事故の賠償トラブルを、中立公正の立場から無料で解決する公益財団法人です。交通事故に詳しい弁護士が第三者として和解のあっ旋を行います。全国11か所にあり、大阪支部もあります。
Q. 使う最大のメリットは何ですか。
無料で、弁護士の基準に近い水準の和解を目指せることです。あっ旋がまとまらなければ審査を申し立てられ、審査会の裁定に相手方の保険会社は拘束されますが、被害者は不同意なら従わずに裁判へ進めます(片面的拘束力)。被害者に一方的に有利な仕組みです。
Q. どんなときは弁護士に頼むべきですか。
治療中・後遺障害の等級で争う・過失割合や因果関係が激しく争われる・相手が任意保険に入っていない、といった場合です。紛センは治療や等級認定が終わってからしか使えず、相手が任意保険未加入だと利用できないためです。
交通事故紛争処理センターとは
交通事故紛争処理センター(略して「紛セン」)は、自動車事故による損害賠償の紛争を、中立公正の立場から無料で解決する公益財団法人です。交通事故の賠償問題に詳しい弁護士が、当事者のあいだに入って和解のあっ旋を行います。
相手方の保険会社の担当者は、あくまで相手側の立場で交渉してきます。被害者は素人、相手は交渉のプロという構造的な不利があります。紛センは、そこに中立の弁護士が入って話をまとめる点に意味があります。
全国11か所・大阪支部もある
紛センは全国11か所に置かれています。東京本部と、札幌・仙台・名古屋・大阪・広島・高松・福岡の各支部、さいたま・金沢・静岡の相談室です。申込みは、被害者本人(申立人)の住所地、または事故が起きた場所を管轄するセンターに行います。大阪府内の事故であれば、大阪支部が窓口になります。
利用の流れ
紛センの手続は、大きく次の順で進みます。いずれも事前の電話予約が必要です。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ①電話予約 | まず電話で予約する。あっ旋が可能な状況か確認され、初回相談日が決まる。後日、利用申込書・利用規定が郵送される。 |
| ②法律相談・和解あっ旋 | 担当の弁護士が中立の立場で双方の主張を聞き、あっ旋案を示す。通常は3〜4回ほどの期日を重ね、期日のあいだに解決案を調整していく。双方が合意すれば和解成立。1回あたり1時間以内が目安。初回は電話での利用もできる。 |
| ③審査(省略あり) | あっ旋がまとまらないときは、審査会に審査を申し立てられる。法律学者・裁判官経験者・弁護士で構成された審査会が裁定を出す。 |
| ④解決・終了 | 和解成立、または手続終了。 |
ステップ① 電話で予約する
何をする:申込みは、被害者本人(申立人)の住所地、または事故地を管轄するセンターに電話します。大阪府内の事故なら大阪支部です。予約の際、あっ旋ができる状況か(治療や等級認定が終わっているか等)を確認されます。
何が届く:受付されると、後日「相談期日のお知らせ」「利用申込書」「利用規定」が郵送されてきます。利用規定に同意したうえで、利用申込書を提出します。このとき、相手方の保険会社名・担当者名(代理人弁護士名)・連絡先の確認が必要です。
ステップ② 法律相談・和解あっ旋
何をする:担当の弁護士が中立・公正な立場で、双方の主張を聞き取ります。一度の期日で解決することはまれで、通常は3〜4回ほどの期日を重ねます。1回の期日は1時間以内が目安で、期日のたびに担当弁護士が論点を整理し、あっ旋案(解決案)を少しずつ調整していきます。その過程で、追加の資料を提出したり、自分の主張をまとめた書面(主張書面)を提出したりすることもあります。双方があっ旋案に納得した段階で、和解成立です。初回は電話での相談もできます。期日を重ねるため、解決まで数か月かかることも珍しくありません。
何を用意する:提出書類は原則コピーで、返却されません。主に次のものです(診断書などは新たに取り直す必要はありません)。
| 必ず要るもの | 場合により要るもの |
|---|---|
| 交通事故証明書/事故発生状況報告書/保険会社の賠償金提示明細書/診断書・診療報酬明細書/通院交通費の明細・領収書/すでに受け取った金額のわかる資料 | 後遺障害診断書・等級認定の結果(後遺障害があるとき)/休業損害証明書・源泉徴収票(休業損害を請求するとき)/実況見分調書・ドラレコ映像(過失や被害の程度が争いのとき)/修理見積書(物損) |
ステップ③ 審査(まとまらないとき)
何をする:あっ旋が不調に終わったときは、当事者が希望すれば審査に回されます。法律学者・裁判官経験者・経験豊富な弁護士から選ばれた審査員(合議は3名)が、当事者から改めて説明を聞き、裁定(結論)を出します。審査まで進まず、あっ旋の段階で解決するケースが大半です。
この裁定について、相手方の協定保険会社等は尊重する義務を負います。一方、被害者が裁定に同意するかどうかは自由で、不同意ならセンターの手続はそこで終了します(前に述べた片面的拘束力です)。不同意でも、そのまま裁判に進む道が残ります。
公式の案内によれば、あっ旋3回までで約70%、5回までで約90%が和解に至っています。
紛センを使うメリット
費用が無料
紛センの利用そのものは無料です。弁護士に和解あっ旋をしてもらっても費用はかかりません。ただし、診断書などの医療書類を取り付ける費用、センターまでの交通費、コピー代・通信費などの実費は自己負担になります。
弁護士の基準に近い水準を目指せる
保険会社が最初に提示する金額は、多くの場合、任意保険会社の社内基準による低めの額です。紛センでは交通事故に詳しい弁護士があいだに入るため、裁判で用いられる基準(いわゆる弁護士基準)を意識した水準で話が進みやすくなります。
審査の裁定は「被害者に一方的に有利」
あっ旋がまとまらず審査になった場合、その裁定には特徴があります。相手方の保険会社(協定保険会社等)は審査会の裁定を尊重する義務を負います。一方で、被害者は裁定に同意すれば和解、不同意なら従わずに手続を終え、裁判に進むことができます。
デメリット・注意点
治療・等級認定が終わってからでないと使えない
紛センに申し込めるのは、原則として治療が終了してからです。後遺障害がある場合は、自賠責保険での等級認定(異議申立てを含む)が完了してからの申込みになります。つまり、後遺障害の等級そのものを紛センで争うことはできません。等級で争うなら、その前段階を弁護士とともに進める必要があります。
本人の出席が原則・時間もかかる
あっ旋や審査の場には、賠償を請求できる本人が出席するのが原則です(本人が出られない事情があるときは、配偶者や親子が委任状などを提出して代理出席できる場合があります)。また、あっ旋は1回1時間以内を数回重ねる形なので、解決まで数か月かかることも珍しくありません。
紛センが使えないケース
次の場合は、紛センでは対応できません。
相手方が任意保険(共済)に入っていない、相手方の保険会社が不明、または協定外の保険会社と契約している場合です。紛センの審査は、相手方の任意保険が協定保険会社等で、約款上、被害者に直接請求権が認められる事案を対象としているためです。相手が任意保険未加入の「無保険」事故では、そもそも交渉のテーブルが違ってきます。
紛センと弁護士は、どちらがよいのか
紛センと弁護士への依頼は、対立するものではありません。争点の性質で使い分け、あるいは併用するのが実務的です。
| こんなケース | 向いている進め方 |
|---|---|
| 治療・等級認定が済み、争点が金額中心 | 紛センのあっ旋が有効。無料で弁護士基準に近い水準を目指せる。 |
| 後遺障害の等級で争う | 等級認定・異議申立ては紛センの対象外。弁護士と進める。 |
| 過失割合や因果関係が激しく争われる | 主張・立証の巧拙が結論を左右する。弁護士による代理が有利。 |
| 相手が任意保険未加入 | 紛センは利用不可。弁護士に相談する。 |
「弁護士に頼むと費用が心配」という方は、弁護士費用特約を確認してください。自動車保険に付いていれば、弁護士費用を自己負担なしで賄えることが多く、当事務所は特約がある場合は着手金無料で対応しています。等級認定や過失の主張は弁護士が担い、金額の詰めは紛センも使う、という組み立ても可能です。
よくある質問
Q. 交通事故紛争処理センターの利用に費用はかかりますか。
利用そのものは無料です。交通事故に詳しい弁護士による和解あっ旋を、費用なしで受けられます。ただし、診断書など医療書類の取付費用、センターまでの交通費、コピー代・通信費といった実費は自己負担になります。
Q. 紛センは全国どこにありますか。大阪にもありますか。
全国11か所にあり、大阪支部もあります。東京本部と、札幌・仙台・名古屋・大阪・広島・高松・福岡の各支部、さいたま・金沢・静岡の相談室です。申込みは、被害者本人の住所地または事故地を管轄するセンターに行います。
Q. どのくらいの期間・回数で解決しますか。
一度の期日では終わらないのが通常で、多くは3〜4回ほどの期日を重ねます。1回の期日は1時間以内が目安で、期日のたびにあっ旋案を調整し、必要に応じて追加資料や主張書面を提出します。公式の案内では、あっ旋3回までで約70%、5回までで約90%が和解に至っています。解決まで数か月かかることも珍しくありません。
Q. 審査の結果には、必ず従わないといけませんか。
被害者は従う必要はありません。審査会の裁定について、相手方の保険会社は尊重する義務を負いますが、被害者は同意すれば和解、不同意なら従わずに手続を終えて裁判に進めます。被害者に一方的に有利な仕組みです。
Q. 治療中でも申し込めますか。
申し込めません。紛センの利用は、原則として治療が終了してからです。後遺障害がある場合は、自賠責保険での等級認定(異議申立てを含む)が完了してからの申込みになります。
Q. 後遺障害の等級を紛センで争えますか。
争えません。紛センは、自賠責の等級認定が終わったあとの賠償額の紛争を扱う場です。等級そのものを争う異議申立てや、その準備は対象外なので、等級で争うなら弁護士と進める必要があります。
Q. 相手が任意保険に入っていなくても使えますか。
原則として使えません。紛センの審査は、相手方の任意保険が協定保険会社等で、被害者に直接請求権が認められる事案を対象としています。相手が任意保険未加入・保険会社不明・協定外の場合は対応できません。無保険事故は弁護士に相談してください。
Q. 紛センを使えば、弁護士は必要ありませんか。
ケースによります。治療・等級認定が済み、争点が金額中心なら紛センのあっ旋が有効です。一方、後遺障害の等級で争う・過失割合や因果関係が激しく争われる・相手が無保険といった場合は弁護士が必要です。等級や過失は弁護士、金額の詰めは紛セン、という併用もできます。
紛センで足りるのか、弁護士に頼むべきなのか。大阪の被害者側の弁護士が、あなたの事故に即してお答えします。相談は無料です。
監修:難波みなみ法律事務所(大阪弁護士会所属)。本記事は交通事故紛争処理センターの公表情報にもとづく一般的な説明であり、個別事案の結論を保証するものではありません。具体的な対応は弁護士にご相談ください。






