コラム
公開日: 2026.10.09

示談後に追加請求できる?|やり直せる場合と後遺障害の留保

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回、15回、75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコム、ココナラ、弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

示談後の追加請求・やり直し できる場合と後遺障害の留保

交通事故の示談が終わったあとに、症状が悪化した、後遺障害が残った、あるいは金額に納得できなくなった——そんなとき、示談をやり直したり、追加で賠償を求めたりできるのでしょうか。

この記事では、示談成立後の追加請求ができる場合・できない場合を、大阪の被害者側の弁護士が整理します。

結論から

Q. 一度成立した示談は、やり直せますか。

原則として、やり直せません。示談は民法上の「和解」という契約で、示談書に清算条項(示談で決めた以外は請求しない旨の条項)があれば、残りの請求権は放棄したものとして扱われます。「やっぱり足りなかった」という理由だけでの追加請求は、原則として認められません。

Q. それでも追加請求できる場合はありますか。

あります。代表例が、示談の時点では予想できなかった後遺障害があとから出たケースです。最高裁も、全損害を把握しにくい状況で早く少額の示談をした場合、放棄したのは示談当時に予想していた損害に限られると判断しています(最判昭和43年3月15日)。このほか、錯誤・詐欺・強迫による取消しの余地もあります。

Q. いちばん確実な備えは何ですか。

示談する前に、後遺障害を「留保」しておくことです。示談書に「後遺障害が残ったときは別途協議する」という条項を入れておけば、あとから認定された後遺障害分を改めて請求できます。示談のタイミングと文言が、のちの追加請求の可否を大きく左右します。

原則:示談はやり直せない(和解契約と清算条項)

示談は、法律上は「和解」という契約です(民法695条)。おたがいが譲り合って争いをやめる約束で、いったん成立すると和解の確定効が生じ、原則として当事者双方がその内容に拘束されます(民法696条)。

多くの示談書には、末尾に清算条項が入っています。「本件に関し、本示談書に定めるほか、当事者間に何らの債権債務がないことを確認する」といった文言です。これがあると、示談の時点で既にあった損害だけでなくそのあとに生じた損害についても、示談額を上回る請求はしない趣旨と扱われます。「あとで考えたら金額が低かった」「もっと取れたはず」という理由では、原則として追加請求はできません。

もっとも、清算条項が具体的にどこまでの損害を清算したのかは、示談書の文言だけでなく、示談時の事情や当事者の合理的な意思も踏まえて判断されます(裁判例も同様の立場です)。だからこそ、次に説明する例外が問題になります。

だからこそ、示談書にサインする前が勝負です。金額の妥当性、過失割合、後遺障害の見込みを確かめないまま署名すると、あとからの修正はとても難しくなります。迷ったら、署名の前にご相談ください。

清算条項がない示談は、追加請求できる?

「清算条項がなければ自由に追加請求できる」とは限りません。清算条項がなくても、示談は和解契約として成立し(民法695条)、示談書全体の文言・合意の対象・当事者が争いをやめた範囲から、どこまでを解決したのかを解釈します。「その余の請求はしない」といった放棄の趣旨が読み取れれば、清算条項という名前の条項がなくても、その範囲の追加請求は制限されます。

逆に、清算条項があっても、当事者が対象外と考えていた請求権や、示談当時に予想できなかった後遺障害には、示談の効力が及ばないと判断される余地があります。条項の名前ではなく、示談書全体と合意の中身で決まるということです。

例外①:示談後に出た「予想できなかった後遺障害」

示談後の追加請求がもっとも認められやすいのが、示談の時点では予想できなかった後遺障害があとから現れたケースです。

最高裁は、全損害を正確に把握しにくい状況のもとで、早急に少額の賠償金で満足する旨の示談がされた場合について、被害者が放棄した損害賠償請求権は「示談当時に予想していた損害」についてのものに限られると判断しました(最判昭和43年3月15日)。この事案は、腕の複雑骨折について事故から10日以内・入院中に少額で示談したところ、その後に再手術を受け、関節の機能障害が残ったというものでした。示談のときに予想できなかった再手術や後遺障害についてまで放棄したと見るのは、当事者の合理的な意思に合わない、という考え方です。

つまり、示談書に「今後いっさい請求しない」と書いてあっても、示談当時に予想できなかった後遺障害は、その文言の対象外と解釈される余地があります。ポイントは次の2つです。

① 本当に「予想できなかった」といえるか…示談の時点で後遺障害が見込まれていたのに、あえて早期に示談したのであれば、「予想外」とはいいにくくなります。発症の時期と、事故との相当因果関係がカギです。
② 事故とのつながりを医学的に示せるか…あとから出た症状が事故によるものだと、診断書や画像などで裏づける必要があります。時間がたつほど立証は難しくなります。

「予想できたか」は、示談の時期や金額で結論が分かれます

同じ「後遺障害があとから分かった」という事情でも、示談の時点で治療がどの段階にあったか、後遺障害の可能性を認識できたか、示談金額がどの程度か、示談書がどの損害項目を対象にしていたかによって、結論は変わります。

たとえば、事故から約4か月後・まだ通院治療中で後遺障害が残るか不明な段階で、やや低額の清算をした事案では、傷害部分の損害は示談で清算された一方、予想し難かった後遺障害の逸失利益と後遺障害慰謝料には示談の効力が及ばないと判断されました(名古屋地判平成30年2月20日)。

早く・少額で示談した、というだけでは足りません。事故から1年以上たってから、既払分に加えて慰謝料などを受け取り、「全債権債務がない」と記した承諾書に署名した事案では、「全損害を把握しにくい状況での早急な少額示談」とは認められず、後遺障害の損害にも示談の効力が及ぶとされました(金沢地判令和元年6月13日)。予想できなかったといえるかは、個別の事情で慎重に判断されます。

例外②:錯誤・詐欺・強迫による取消し

示談も意思表示にもとづく契約ですから、次のような事情があれば、取消しを主張できる余地があります。ただし、いずれも認められるハードルは高いのが実情です。

主張できる場合 根拠 注意点
錯誤(重要な思い違い) 民法95条 示談は争いを終わらせる合意のため、予見しなかった事情も織り込んで合意したと扱われやすく、覆すのは容易でない
詐欺・強迫 民法96条 だまされた・おどされて示談したといえる具体的な事情と証拠が必要

実務では、錯誤で示談全体を覆すよりも、さきほどの最判のように示談の対象を解釈で限定して、予想外の後遺障害を「別の損害」として扱う方法のほうが多く用いられています。示談で争いの対象になっていた権利そのものについて後から事情が分かっても、和解の拘束力があるため、錯誤で示談全体を覆すのは困難です。一方で、示談の目的になっていなかった事項に重要な思い違いがあった場合は別で、後遺症に基づく逸失利益の請求権があると知っていれば示談しなかったとして後遺症部分の効力を否定した裁判例や、保険会社が後遺障害に対応してくれると誤信したことが示談の重要な要素だったとして示談の効力を否定した裁判例もあります(神戸地判平成18年6月30日、大阪地判平成18年2月17日)。

ただし、単に「あとで後悔した」「金額が期待より低かった」というだけでは、取消しは認められにくいのが実情です。取消しに頼るより、次に説明する「留保」で備えるほうが確実です。

いちばん確実な備え:示談書に「後遺障害の留保」を入れる

後遺障害が残るかどうかがはっきりしない段階で示談せざるを得ないときは、示談書に留保条項を入れておきます。典型的な文言は次のようなものです。

本示談成立後、本件事故と相当因果関係があり、かつ自賠責保険(共済)の等級認定を受けた後遺障害が生じたときは、その損害賠償請求権を留保し、別途協議する。

この一文があれば、示談で傷害分だけを先に解決しつつ、あとから等級が認定された後遺障害分については、改めて請求できる道を残せます。清算条項とセットで「ただし後遺障害は別途協議する」と但し書きを入れておくのが実務上の工夫です。たとえば、14級を前提に、それを超える後遺障害について請求を留保した示談のあと12級が認定された事案では、差額分の請求権は放棄されていないと判断されています(東京地判平成27年9月28日)。

ただし、留保・別途協議の条項は、その条項が定める「発動要件」を満たさないと機能しません。対象となる後遺障害や、必要な等級認定、請求できる損害の範囲があいまいだと、あとで要件を満たすかどうかが争われ、留保が働かずに請求権が消滅したと判断されることもあります(福岡地小倉支判令和元年12月18日など)。条項を入れるときは、対象・認定要件・請求範囲を具体的に書くことが大切です。迷ったら、後遺障害の見込みがはっきりするまで示談を急がない、あるいは清算条項を設けずに示談するという選択も検討してください。

追加請求にも「時効」がある

示談後に後遺障害分を請求する場合でも、時効に注意が必要です。ここで押さえておきたいのは、どこに請求するかで時効のルールが違うという点です。

自賠責保険への被害者請求は、損害および保有者を知った時から3年で時効消滅します(自賠法16条1項・19条)。後遺障害分については、実務上、症状固定の時を起算点として扱われることが多いとされています。

一方、加害者本人や任意保険会社への損害賠償請求の時効は、これとは別のルール(民法)によります。人の生命・身体を害する不法行為については、現在の民法で消滅時効が長期化されています。起算点や具体的な期間は事案によって変わり得るため、一律には決められません。いずれにしても、示談後に症状が出たときは放置せず、早めにどの請求先に、いつまでに請求できるのかを確認してください。

示談書にサインする前の確認も、示談後に残った後遺障害の追加請求も、大阪市・なんば・心斎橋の難波みなみ法律事務所でご相談を承ります。初回相談は30分無料、LINE・Zoom相談や土日祝・夜間にも対応しています。

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よくある質問

一度示談したら、もう追加請求はできませんか。

原則としてできません。示談は和解契約で、清算条項があれば残りの請求権は放棄したものとして扱われます。ただし、示談当時に予想できなかった後遺障害があとから出た場合などは、例外的に追加請求が認められる余地があります。

示談書に「今後いっさい請求しない」と書いてあっても追加請求できますか。

できる場合があります。最高裁は、示談で放棄したといえるのは示談当時に予想していた損害に限られると判断しています(最判昭和43年3月15日)。示談時に予想できなかった後遺障害は、その文言の対象外と解釈される余地があります。

金額が安すぎたという理由でやり直せますか。

原則としてやり直せません。「あとで考えたら低かった」という理由だけでは追加請求は認められにくいのが実情です。だからこそ、示談書に署名する前に金額の妥当性を確認することが大切です。

示談の前に後遺障害が心配です。どうすればよいですか。

示談書に留保条項(後遺障害が残ったときは別途協議する旨)を入れておくか、後遺障害の見込みがはっきりするまで示談を急がないことです。留保しておけば、あとから等級認定を受けた後遺障害分を改めて請求できます。

だまされて示談してしまいました。取り消せますか。

詐欺や強迫による示談は取消しを主張できる余地があります(民法96条)。錯誤による取消し(民法95条)も考えられますが、示談は争いを終わらせる合意のため覆すハードルは高く、具体的な事情と証拠が必要です。弁護士にご相談ください。

示談後に後遺障害の請求をする場合、期限はありますか。

あります。ただし請求先でルールが違います。自賠責保険への被害者請求は、損害と加害者を知った時から3年です(自賠法16条1項・19条。後遺障害分は実務上、症状固定を起算点とすることが多いとされています)。加害者本人や任意保険会社への損害賠償請求は、これとは別の民法の時効により、起算点や期間は事案によって異なります。示談後に症状が出たときは放置せず、早めに確認してください。

本記事は一般的な解説です。示談のやり直しや追加請求の可否は、示談書の文言・事故の経過・後遺障害の内容によって異なります。具体的な事案は弁護士にご相談ください。

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