コラム
更新日: 2026.08.28

交通事故の相手が無保険|4つの請求先と回収の順番

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

交通事故, 使う順番で、手取りが変わります, 相手が無保険でも、 請求先は4つあります

事故のあと、相手から「保険に入っていない」と言われる。あるいは、待っていても相手方の保険会社から連絡が来ない。このとき多くの方が、もう泣き寝入りするしかないと考えます。

そうではありません。請求できる先は、ひとつではないからです。加害者本人のほかに、車の持ち主、その人の勤務先、国の制度、そしてご自身が契約している保険。順番に確認していけば、受け取れるものが残っていることのほうが多いのです。

この記事では、誰に、いくら、どういう順番で請求するのかを、条文と国の資料で確認しながら整理します。とくに請求する順番を間違えると受け取れる金額が減ってしまう場面があり、そこは意識して詳しく書きました。

結論

「相手が無保険」は、運転していた人を見ただけの結論です。賠償義務を負う人は他にもいることがあり、そちらに保険が付いていることがあります。

それでも保険が見つからないときは、①自賠責保険への被害者請求、②国の政府保障事業、③ご自身の人身傷害保険・無保険車傷害保険、④加害者本人への請求という4つの受け皿があります。

そして、この4つは使う順番で最終的な受取額が変わります。先に動く前に、一度確認してください。

目次
  1. 「相手が無保険」は、まだ結論ではありません
  2. 請求できる相手は、運転者だけとは限りません
  3. 相手の身元がわからないとき、車のナンバーから調べる
  4. 無保険には、3つの型があります
  5. 型1|自賠責がある場合は、仮渡金で先に受け取れます
  6. 型2|自賠責もないときの、政府保障事業
  7. 政府保障事業には、5つの落とし穴があります
  8. 人身傷害保険金等を請求する
  9. 人身傷害保険は、使う順番で結果が変わります
  10. 加害者本人から回収する|勤務先まで調べられます
  11. 給与を差し押さえられるのは、4分の1までです
  12. 車の修理代は、相殺で取り返せることがあります
  13. 時効は、請求先ごとに違います
  14. よくある質問

「相手が無保険」は、まだ結論ではありません

交通事故の保険は、二階建てになっています。一階が自賠責保険、二階が任意保険です。

自賠責保険はすべての自動車に加入が義務づけられていて、人身事故による損害を一定額まで補償します。任意保険はその上に乗る保険です。任意保険が支払うのは、損害賠償額のうち自賠責保険から支払われる額を超えた部分だけで、二階建ての構造になっています。

ですから「無保険」と言われたときは、どちらの階の話なのかをまず確かめる必要があります。一階だけ残っていることも、二階だけ残っていることもあるからです。

任意保険がない車は、珍しくありません

対人・対物の賠償責任保険と共済の加入率は、9割弱です。任意保険に入っていない車は、決して稀ではありません。

加入率が9割弱ということは、10台に1台以上は任意保険がない計算になります。ご自身の身に起きたことが特別に不運だったわけではありません。だからこそ、この場面のための手続がいくつも用意されています。

「連絡が来ない」=「無保険」とは限りません

相手方の保険会社から連絡がない理由は、無保険だけではありません。相手の車に任意保険が付いているのに一括対応がされない場合、次のような理由が考えられます。

考えられる理由 意味
被害者の過失が大きいと判断されている 実際にはこの理由がいちばん多いところです
加害車の運転者が被保険者ではない 契約者以外の人が運転していた場合など
運転者を限定する特約がある 年齢条件や家族限定にあてはまらなかった場合
免責事由がある 無免許、酒気帯びなど
モラルリスク事案の疑いを持たれている 事故の作為性を疑われている場合

このうち過失割合を理由に対応してもらえていないだけであれば、それは「無保険」ではありません。過失割合そのものを争えば、対応が変わることがあります。過失割合の決まり方は交通事故の過失割合は誰が決める?で詳しく説明しています。

一括対応を拒否されている場合、弁護士から求めることもできますが、応じてもらえないことのほうが多いのが実情です。ここは粘り強く事実関係を詰めていく場面です。相手方保険会社との交渉全般については交通事故の保険会社との交渉にまとめています。

請求できる相手は、運転者だけとは限りません

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

損害賠償義務を負うのが誰かを、まず確定させます。加害車の運転者は自賠法3条や民法709条で責任を負いますが、賠償義務者は他にもいることがあります。賠償義務を負う人を洗い出したうえで、それぞれについて自賠責保険と任意保険の被保険者にあたるかを確認していきます。

考え方

ハンドルを握っていた人に保険がないことと、賠償を受けられないことは、別のことです。その車を持っていた人、運転させていた人、雇っていた人に責任が及ぶことがあり、そちらに保険が付いていることがあります。

運行供用者|車を自分のために走らせていた人

自動車損害賠償保障法3条は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる」と定めています。この人を運行供用者といいます。

運行供用者は、運転していた人と同じとは限りません。車の所有者や、その車を業務に使わせていた会社が運行供用者になることがあります。誰が運行供用者かを見極めることが、この段階でいちばん重要です。

たとえば

従業員が会社の車で仕事中に事故を起こした場合、運行供用者責任を負うのは保有者である会社です。被害の回復だけを考えるなら、会社が任意保険に入っていれば、その従業員を被告にする必要はありません。

つまり、運転していた従業員に保険がなくても、会社に保険があれば足りるということです。相手が「仕事中だった」「会社の車だった」と話していたら、そこは必ず確認してください。

ほかにも責任を負う人がいます

賠償義務を負いうるのは、次の人たちです。

誰か どういう場合か
運行供用者
(自賠法3条)
車の所有者、使用者など、その車を自分のために走らせていた人
使用者
(民法715条)
従業員が仕事中に起こした事故。人身損害については、使用者が車両の所有者等であれば運行供用者責任を追及すれば足ります
監督義務者
(民法714条)
未成年者の親権者や、認知症高齢者のご家族など
ご自身が乗っていた車の運転者 同乗中の単独事故、相手車が無責の事故、双方に過失がある事故では、被害者が同乗していた車両の運転者が賠償義務を負うことがあります

最後の類型は見落とされがちです。ご家族や知人の車に乗せてもらっていて事故に遭った場合、相手の車が無保険でも、乗せてくれた側の車の保険が使えることがあります。気を遣って言い出しにくい場面ですが、その車の自賠責保険や任意保険は確認してください。

どの裁判所に訴えるかは、こちらが選べます

加害者が遠方に住んでいると、それだけで諦めてしまう方がいます。その必要はありません。

損害賠償請求事件の裁判管轄は、不法行為発生地、賠償義務者(加害者)の住所、義務履行地である被害者の住所です。この中から、被害者にとって最も都合のよい裁判所を選べます。実際には、被害者の住所地を選ぶことがほとんどです。

加害者が県外の人でも、ご自身のお住まいの地域の裁判所で訴えを起こせるということです。大阪にお住まいであれば、大阪の裁判所で進められます。

相手の身元がわからないとき、車のナンバーから調べる

相手方に保険会社が付いている通常の事故では、車検証の写しを保険会社から取り付けることができます。ところが相手が無保険だと、その保険会社がいません。

対人社から車検証の写しを取り付けられれば所有者や使用者を確認できますが、それができないときは登録事項等証明書を入手します(軽自動車と250cc超の二輪車の場合は検査記録事項等証明書)。

登録事項等証明書とは

自動車の登録内容を証明する書類で、最寄りの運輸支局等で請求できます。国土交通省の案内によると、次の2種類があります。

種類 わかること 手数料
現在登録証明書 現在の登録事項等 400円
詳細登録証明書 現在の登録事項等に加えて、新規登録からの履歴 1,200円

詳細登録証明書は、過去の登録事項等の内容により、証明書1ページ追加ごとに400円が必要とされています。請求には申請書、手数料納付書、運転免許証などご本人を確認する書面が必要です。

ナンバーだけでは請求できません

ここに落とし穴があります。国土交通省は注意事項として、「ナンバープレートに表記されている文字・数字全てと車台番号下7桁の数字が必要です。一部分でも不明箇所がある場合には照会することができません」と明記しています。

事故の現場でナンバーを控えただけでは、足りないということです。車台番号は車検証を見なければわかりませんので、相手が見せてくれなければ手に入りません。

ただし、道はあります。国土交通省は続けて、「私有地に放置されている自動車に係る証明書の請求または裁判手続きに必要な証明書の請求であって、自動車登録番号と車台番号(下7桁)を記載できない場合は、別途書類が必要になりますので、運輸支局等にお問い合わせ下さい」としています。

弁護士会照会という方法があります

ナンバープレートの番号しかわからず車台番号が不明のときは、弁護士会照会を使います。

23条照会とは、弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会のことです。弁護士が所属する弁護士会を通じて、官公署や企業に必要な事項の報告を求める制度で、弁護士に依頼している場合にのみ使えます。

ナンバーしか控えられなかった場合でも、そこで終わりではありません。弁護士会照会で車台番号を確認し、登録事項等証明書で所有者にたどり着く、という順序で進めます。

難波みなみ法律事務所では、弁護士会照会を日常的に取り扱っています。相手の連絡先がわからない、名前しか聞いていない、という段階でもご相談ください。

現場でしておいていただきたいこと

事故のあとは動転していて当然ですが、可能であればナンバーだけでなく、車検証と運転免許証をスマートフォンで撮影させてもらってください。それだけで、あとの手続がまったく変わります。

また、けがをしているのに物件事故のままになっていると、実況見分調書が作成されず、事故状況を裏づける資料が乏しくなります。人身事故への切り替えは早いほうがよいです。手続は物損事故から人身事故への切り替えにまとめています。

無保険には、3つの型があります

どの受け皿を使えるかは、相手の車がどの階まで無保険なのかで決まります。まずご自身の事故がどれにあたるかを確認してください。

状態 使える受け皿
型1 自賠責はある/任意保険がない
いちばん多い型です
自賠責への被害者請求(仮渡金を含む)+加害者本人への請求+ご自身の保険
型2 自賠責もない
車検切れ、原付の自賠責切れ、ひき逃げ、盗難車など
政府保障事業+加害者本人への請求+ご自身の保険
型3 自賠責はないが任意保険はある
たまにあります
任意保険は超過部分のみ。1階部分の扱いに争いがあります

型3は、たまにあります。自賠責保険の契約が切れていたというケースは、当事務所でも何度か経験しています。この場合、自賠責保険が付いていれば支払われたはずの金額を超える部分についてのみ、任意対人賠償保険から支払われます。その結果、自賠責保険があれば支払われたはずの部分が、どこからも支払われないまま残ります。

この残った部分を政府保障事業に請求できるかは、はっきりしません。

条文の上では、自賠法72条1項2号が対象とするのは「責任保険の被保険者以外の者が損害賠償の責任を負う場合」であり、相手の車に任意保険が付いているかどうかは要件になっていません。

ところが国土交通省は、塡補の対象とならない場合の一つに「自動車保険・共済(任意保険・共済)から既に損害に対する支払いを受けている場合」を挙げています。任意保険から先に支払を受けてしまうと、この列挙にあたるとして断られる可能性があります。

型3にあたりそうな場合は、任意保険と示談する前にご相談ください。受け取る順番によって結論が変わりかねない類型です。

相手が自転車だった場合は、別の話になります

自動車損害賠償保障法2条1項は、この法律でいう「自動車」を、道路運送車両法上の自動車と原動機付自転車と定めています。自転車は、ここに含まれません。

つまり自転車が相手の事故では、自賠責保険も任意の対人賠償保険も使えません。したがって、後で述べる政府保障事業も使えません。

自転車事故では、加害者の自転車保険や個人賠償責任保険を確認することになります。これらはかなり普及しており、多くの自治体では加入が義務化されています。

また、個人賠償責任の特約は自動車保険のほか、傷害保険・火災保険、都道府県民共済、クレジットカードに付いていることもあります。加害者に「何か保険に入っていませんか」と聞くときは、自転車保険という名前だけで探さないでください。

自転車が相手の事故については車と自転車の接触事故で詳しく説明しています。

自転車事故では、自賠責保険による後遺障害の認定手続を使えません。ただし、加害者が個人賠償責任保険に加入していたり、被害者が人身傷害保険に加入している場合には、保険会社を通じて自賠責調査事務所による後遺障害認定のサービスを受けられることがあります。また、その事故が労災にあたるなら、労災保険の後遺障害認定を受けられます。

型1|自賠責がある場合は、仮渡金で先に受け取れます

相手に任意保険がないだけで自賠責保険は残っている、という型がいちばん多いものです。この場合、被害者は加害者の自賠責保険会社に直接請求できます。これを被害者請求といいます。

国土交通省は被害者請求について、「加害者側から賠償が受けられない場合、加害者が加入している損害保険会社(共済組合)に損害賠償額を直接請求することもできます」と案内しています。

限度額は決まっています

区分 限度額(被害者1人につき)
傷害による損害
治療費、看護料、通院交通費、文書料、休業損害、慰謝料
120万円
後遺障害による損害
逸失利益、慰謝料等
限度額 第14級 75万円
〜第1級 3,000万円
(常時介護を要する第1級は4,000万円、随時介護を要する第2級は3,000万円)
死亡による損害
葬儀費、逸失利益、慰謝料
3,000万円

この金額は、裁判で認められる金額とは別物です。自賠責は最低限の補償を確保するための制度なので、実際の損害がこれを超えることは珍しくありません。超えた部分は、加害者本人に請求していくことになります。慰謝料の相場そのものは交通事故の慰謝料計算で確認できます。

損害額が確定する前でも、定額を受け取れます

これが仮渡金です。自賠法17条1項に定めがあり、加害者に損害賠償責任があるかどうかにかかわらず、また損害賠償額が確定する前であっても、被害者は所定額を仮渡金として保険会社に請求できます。

金額は自賠法施行令5条で定額とされています。

金額 対象となる傷害
290万円 死亡した者
40万円 脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認められる症状を有するもの/上腕又は前腕の骨折で合併症を有するもの/大腿又は下腿の骨折/内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの/14日以上病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの
20万円 脊柱の骨折/上腕又は前腕の骨折/内臓の破裂/病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの/14日以上病院に入院することを要する傷害
5万円 11日以上医師の治療を要する傷害

ここが使えます

「11日以上医師の治療を要する傷害」であれば5万円です。むちうちで通院を続けている方も、多くはこれにあたります。

そして加害者に賠償責任があるかどうかが決まっていなくても、損害額が固まっていなくても、請求できます。相手が無保険で治療費を立て替えている状況では、最初に打てる手です。

治療費が確定する前でも、何度でも請求できます

国土交通省は、「総損害額の確定前であっても、被害者は医療機関へ治療費等を支払った都度、加害者は被害者へ賠償した都度、限度額の範囲内で何度でも損害保険会社(共済組合)に対して自賠責保険金(共済金)の請求をすることができます」としています。

相手に任意保険がないと、治療費を病院に直接払ってくれる一括対応がありません。窓口でいったん自己負担することになりますが、払った都度、自賠責に請求していけるということです。

治療費は健康保険を使ってください

一括対応がされていないときは、労災事故でなければ健康保険などの公的医療保険を使うことを考えます。とくに被害者の過失が大きい事案では、労災保険や健康保険を使う利点が大きくなります。

交通事故でも健康保険は使えます。窓口負担が3割になるので、立て替える金額そのものが大きく下がります。

健康保険を使うときは、第三者行為による傷病届の提出が必要です。保険者が加害者に求償するための手続で、交通事故の治療に健康保険等を使う場合には提出が求められます。

なお、健康保険や労災保険を使うと自賠責様式の診断書を作成してくれない病院があります。後遺障害の申請に支障が出ますので、切り替える前に必ず確認してください。詳しくは交通事故の診断書は3種類にまとめています。

仕事中や通勤中の事故であれば労災保険が使えます。交通事故で労災は使わない方がいい?もあわせてご覧ください。

型2|自賠責もないときの、政府保障事業

車検が切れていた、原付の自賠責が切れていた、ひき逃げされた、盗難車だった。こうした場合には、そもそも請求できる自賠責保険がありません。

このために国が用意しているのが政府保障事業です。国土交通省は、「そうした無保険車による事故、ひき逃げ事故の被害者に対しては、政府保障事業によって、国が自賠責保険・共済と同等の損害を塡補する救済が行われています」と説明しています。

自賠責保険は責任保険とはいえ、交通事故の被害者を救うための保険という色彩が濃いものです。その自賠責保険さえ使えない事故が現にあります。政府保障事業は、そうした場合に、民間の保険ではなく政府が公営事業として被害者を救済する仕組みです。

2つの類型があります

類型 条文 あてはまる場面
加害車両の保有者が明らかでない 自賠法72条1項1号 ひき逃げ、当て逃げ
無保険車 自賠法72条1項2号 自賠責保険が付いていない車。付保されているが盗難車で保有者が運行供用者責任を負わない場合もこれにあたります

盗難車が加害車両である場合も、この制度の対象です。盗難車を運転した人自身は運行供用者責任を負いますが、資力がないことが多く、しかも自賠責保険も使えないため、被害者の保護に穴が空きます。まさにその穴を埋めるための制度です。

受け取れる金額は、自賠責と同じです

自賠法施行令20条により、限度額は被害者1人につき自賠責保険と同額です。

つまり傷害は120万円、後遺障害は75万円から4,000万円、死亡は3,000万円が上限です。

なお、この填補の基準は、自賠責の支払基準と同じく、裁判所を拘束するものではないと解されています。政府保障事業から受け取れる額が、そのまま裁判で認められる損害額になるわけではありません。

請求先は、最寄りの損害保険会社です

国の制度ですが、窓口は民間です。国土交通省は「請求は、損害保険会社(共済組合)の全国各支店等の窓口で受付します」とし、受付・支払・調査の業務は損害保険会社に委託されており、調査業務はさらに損害保険料率算出機構に再委託されていて、国が審査・決定するとしています。

保険代理店では受け付けていません。国土交通省は「保険代理店では受付しておりませんので、直接、損害保険会社(共済組合)の窓口へ請求して下さい」と明記しています。

また、加害者の側からは請求できません。国土交通省も、自賠責保険との相違点の第一に「請求できるのは被害者のみです。加害者から請求できません」を挙げています。

使われている件数は、驚くほど少ないのです

国土交通省が公表している取扱件数と支払実績です。

年度 区分 受付件数 支払件数 支払保障金額
令和4年度 ひき逃げ 252 206 1億1,600万円
無保険 123 69 1億8,200万円
合計 375 275 2億9,900万円
令和5年度 ひき逃げ 244 235 1億2,600万円
無保険 122 98 3億5,600万円
合計 366 333 4億8,200万円
令和6年度 ひき逃げ 246 233 1億1,900万円
無保険 134 108 2億8,000万円
合計 380 341 3億9,900万円

国土交通省は、死亡事故や後遺障害の有無等により各年度の支払額は変動すること、受付年度の翌年度に支払う事案があるため受付件数と支払件数は一致しないことを注記しています。

読み取れること

無保険事故で政府保障事業から支払われたのは、令和6年度で108件です。全国の1年分の数字です。

任意保険の加入率が9割弱であることを考えれば、無保険車による人身事故はこの何十倍も起きているはずです。制度はあるのに、ほとんど使われていない。知られていないからだと考えるほかありません。

この制度の原資は、自賠責保険・共済の加入者が納めている賦課金です。国土交通省によると、令和7年度予算では国の賦課金収入は4億円で、自家用乗用車1台あたり年間4円とされています。

ご自身が車をお持ちなら、毎年この4円を払っています。使わないままにしておく理由はありません。

政府保障事業には、5つの落とし穴があります

使える制度ですが、自賠責保険とは違う点がいくつもあります。知らずに動くと受け取れなくなるものが含まれています。

落とし穴1|先に示談すると、受け取れなくなります

自賠法73条2項は、被害者が賠償責任者から損害の賠償を受けたときは、政府はその金額の限度において損害の塡補をしないと定めています。

ここは、順番を誤ると取り返しがつかない部分です。

請求の順番に注意してください

自賠責無保険車の事故で加害者が判明している場合、被害者が先に加害者と示談して賠償額の全額を受け取り、その余の損害賠償請求権を放棄してしまうと、保障事業の填補金は受けられません。見舞金など名目を問わず、賠償額の一部を受け取った場合も、その額は填補額から控除されます。請求の順番には、十分に注意が必要です。

国土交通省も、塡補の対象とならない場合の筆頭に「被害者と加害者の間で人身事故に関する示談が成立し、当該示談の条項どおりにその内容が履行され、損害賠償金が被害者に支払われている場合」を挙げています。

加害者が「これで示談にしてほしい」と現金を差し出してきても、その場で受け取らないでください。名目が見舞金であっても控除されます。金額が損害に見合っているかを確認し、政府保障事業との関係を整理してから決めるべき場面です。

落とし穴2|健康保険や労災の給付は差し引かれます

自賠法73条1項は、被害者が健康保険法、労働者災害補償保険法その他政令で定める法令に基づいて塡補に相当する給付を受けるべき場合には、政府はその給付に相当する金額の限度において塡補をしないと定めています。

政令で定める法令には、国民健康保険法、国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法、高齢者の医療の確保に関する法律、介護保険法、船員保険法などが挙げられています。

国土交通省は、政府保障事業を「最終的な救済措置」と位置づけています。ほかの制度で埋まらなかった部分を国が埋める、という順序です。

ただし、健康保険を使わないほうが得になるわけではありません。控除されるのは政府保障事業からの塡補額であって、加害者本人への損害賠償請求とは別の話です。治療費の立替えを減らすためにも、健康保険は使ってください。

なお、年金による給付の場合は、将来の分まで控除されます(最高裁判所平成21年12月17日判決)。

落とし穴3|親族間の事故では、原則として支払われません

親族間の事故では、原則として支払われません。政府が支払った限度で加害者へ求償が行われるためです。

自賠法76条1項は、政府が塡補をしたときは、その支払金額の限度において被害者が損害賠償の責任を有する者に対して有する権利を取得すると定めています。国が加害者に取り立てに行く仕組みなので、加害者がご家族だと、結局同じ家計から回収されることになるためです。

落とし穴4|無保険車が複数関与しても、1台分だけです

複数の加害車が関与する事故(共同不法行為)で、そのいずれもが自賠責無保険車であっても、填補金が支払われるのは1台分だけです(最高裁判所昭和54年12月4日判決)。なお、1台でも自賠責保険が使える場合は支払われません。

落とし穴5|支払まで、時間がかかります

自賠責への被害者請求と違って、請求から支払まで半年から1年程度かかります。

これには理由があります。自賠法73条の2第1項は、政府は、塡補の請求があった後、事故及び塡補すべき損害の金額の確認をするために必要な期間が経過するまでは、遅滞の責任を負わないと定めているからです。

目の前の治療費や生活費を、この制度で賄うことはできません。そこは健康保険や労災保険、ご自身の人身傷害保険で先に手当てし、政府保障事業は最後の精算として位置づけることになります。

逆に、有利な点もあります

項目 内容
過失相殺されません かつては通常の過失相殺が行われていましたが、平成19年4月1日以降の事故については、自賠責と同じく重過失減額が行われるにとどまります
差し押さえられません 自賠法74条は「第72条第1項第1号又は第2号の規定による請求権は、差し押さえることができない」と定めています
弁護士に委任できます 国土交通省は「損害の塡補請求は、第三者に委任することができます」としています

過失相殺されない点は大きいです。通常の損害賠償では、こちらに3割の過失があれば3割減らされます。政府保障事業では、7割以上といった重大な過失がある場合の減額にとどまります。

対象にならない場合も、確認しておいてください

国土交通省が列挙しているもののうち、間違えやすいものを挙げます。

対象外 補足
物の損害(車両の損害等) 車の修理代は対象外です。後で述べる相殺の方法を検討します
加害車両が軽車両(自転車等)の場合 農耕作業用小型特殊自動車も対象外です
自損事故で自身が受傷した場合 他車の存在や因果関係が認められない場合
被害者の一方的な過失による事故 被害者の100%過失による事故
任意保険から既に支払を受けている場合
等級に達しない後遺障害 施行令別表の等級に該当しない場合

人身事故として届け出ていないと、請求できません

政府保障事業の必要書類には、人身事故扱いの交通事故証明書が必須書類として挙げられています。

物件事故のままだと、この書類が取れません。けがをしているのに物件事故のままになっている方は、先に切替えの手続をしてください。物損事故から人身事故への切り替えで手順を説明しています。

ほかにも、損害の塡補請求書、事故発生状況報告書、同意書、診断書、診療報酬明細書、通院交通費明細書、人身傷害補償保険へのご請求に関する確認書などが必要とされています。書類は原則として原本の提出が求められます。

人身傷害保険金等を請求する

ここまでは相手方と国の制度でした。もうひとつ、忘れられがちな受け皿があります。ご自身が契約している保険です。

被害者側についても、任意保険が付いているかを確認します。複数の自動車保険が使えることもあるので、ご本人だけでなく、親族や同乗していた車の所有者等の保険証券まで確認してください。

ご自身の証券だけでなく、同居のご家族の証券も見てください。被保険者の範囲に「記名被保険者の配偶者」「同居の親族」が含まれていることが多いためです。

人身傷害保険と無保険車傷害保険は、別のものです

名前が似ているため混同されがちですが、使える場面がまったく違います。

項目 人身傷害保険 無保険車傷害保険
使える損害 傷害だけでも使える 死亡または後遺障害を負ったことを要する
過失相殺 加害者の賠償責任の有無にかかわらず支払われる 過失相殺の適用がある
算定基準 約款所定の基準 被保険者が加害者に請求しうる損害賠償額
普及 自家用普通自動車の8割強に付保 令和3年の改定により特約に移されている

無保険車傷害保険は、通院しただけでは使えません

ここは、はっきり書いておきます。

押さえておくこと

死亡または後遺障害を負ったことが必要です。傷害だけの場合には使えず、自賠責調査事務所で後遺障害非該当とされた場合も支払われません。

損害額は、被保険者が加害者に請求しうる損害賠償額です。したがって人身傷害保険と違って過失相殺の適用があり、被保険者に100%の過失があって損害賠償請求権が発生しない場合は支払われません。

「無保険」という名前から、相手が無保険ならこれで補償されると思われがちですが、そうではありません。むちうちで通院しているだけの段階では出ません。後遺障害が認定されて、はじめて対象になります。

後遺障害の認定手続については後遺障害認定とはをご覧ください。

なお、無保険車傷害保険の被保険者には、その車に乗っていた人のほか、記名被保険者とその配偶者・同居の親族等が含まれ、これらの人は歩行中であっても対象になります。歩いていてはねられた場合も対象になりうるということです。

この保険が備えるのは、加害車に任意の対人賠償保険が付いていない場合のほか、付いていても保険金額が足りない場合、運転者年齢条件などの免責で機能しない場合、当て逃げで加害車が不明の場合です。

人身傷害保険は、傷害だけでも使えます

人身傷害保険は、加害者に賠償責任があるかどうかにかかわらず、ご自身が契約した保険にもとづいて、約款所定の基準で算定された損害額相当の保険金を受け取れる保険です。補償の範囲が広く、無保険事故や自損事故によるけがもカバーします。現在は、自家用普通自動車の8割強に付いています。

利点は2つあります。被害者の過失部分も補償されるので、事故の状況に関係なく、ご自身のけがの損害額の全額を保険金額の限度で受け取れること。そして示談交渉に煩わされることなく、ご自身が契約した保険会社から直接、迅速に支払を受けられることです。

保険料は上がりません

ここが、いちばん誤解されている点かもしれません。

ここは誤解されがちです

人身傷害保険、無保険車傷害特約、搭乗者傷害保険、個人賠償責任特約、弁護士費用特約は、利用してもいわゆるノーカウント事故とされます。次回の更新時に等級は下がらず、保険料も上がりません。

相手が無保険だったせいで自分の等級が下がる、ということはありません。弁護士費用特約についても同じです。詳しくは弁護士費用特約とはで説明しています。

思わぬ特約が付いていることがあります

自動車保険の特約は極めて多様で、契約者ご自身が意識していないものもあります。たとえば人身傷害諸費用補償特約により、ホームヘルパー、介護ヘルパー、ベビーシッター、ペットシッターの派遣費用等が支払われることがあります。

また弁護士費用特約は、自動車保険だけでなく、傷害保険や火災保険に付いていることもあります。

ただし、任意保険があっても、その事案で使えるとは限りません。保険証券等で、保険事故にあたるか、被保険者の範囲に入るか、免責事由がないかを確認します。人身傷害保険に入っているのに使えなかった、ということが現に起こります。

人身傷害保険の免責事由としては、被保険者の故意または重大な過失、無免許運転、酒気帯び運転のほか、労災事故(通勤中を含む)には支払わない約款もあります。証券だけでなく、約款の確認が必要な場面があります。

人身傷害保険は、使う順番で結果が変わります

ここが、この記事でもっとも重要な部分です。

相手が無保険だと聞くと、「では自分の人身傷害保険を使おう」と考えるのが自然です。実際それが正解になる場面も多いのですが、順番と出口によって、最終的に手元に残る金額が変わります。

保険金はあなたの過失部分から充てられます(差額説)

まず、有利に働く仕組みから説明します。

こちらにも過失がある事故では、加害者に請求できるのは損害額のうち相手の過失分だけです。自分の過失分は、本来なら誰からも回収できません。

ところが人身傷害保険を先に使うと、その保険金はまず自分の過失部分に充てられるという考え方があります。訴訟基準差額説と呼ばれ、最高裁判所平成24年2月20日判決がこの考え方を採っています。設例で見ます。

設例 裁判基準の損害額1億円、被害者の過失4割、人身傷害保険の基準による損害額7,000万円、人身傷害保険金額5,000万円

損害の内訳加害者に請求できる 6,000万円過失相殺 4,000万円① 人身傷害保険が先保険金→訴訟賠償金 5,000万円人身傷害 5,000万円1億円② 判決・裁判上の和解そのあとに保険金賠償金 6,000万円人身傷害 4,000万円1億円③ 訴外の示談人傷社が差額説に応じない場合賠償金 1,000万円人身傷害 5,000万円受け取れない 4,000万円6,000万円加害者からの賠償金人身傷害保険金受け取れない部分

①②は約款の読み替え規定が働く場合、③は働かない場合です。

読み替え規定によって、人身傷害保険を先に受け取っても、判決や裁判上の和解のあとに受け取っても、受け取れる総額は同じになります。読み替え規定とは、人身傷害保険の基準による損害額を訴訟基準の損害額と読み替えるもので、設例では7,000万円を1億円と読み替えます。

ただし訴外の示談で終わらせる場合は、人身傷害保険の保険会社が訴訟基準差額説での処理に応じないことがあります。人傷社が支払った保険金の全額について代位を主張すると、加害者側から受け取れる額がその分減ります。③のように、総回収額は6,000万円にとどまります。

また、加害者側から先に賠償金を受け取ってから人身傷害保険に請求する場合は、読み替え規定が働かないため、人身傷害保険の基準による7,000万円が天井になります。賠償金6,000万円に人身傷害保険金1,000万円を足した7,000万円にとどまる、ということです。

ただし、それは裁判をした場合の話です

ここが落とし穴です

読み替え規定が適用されるのは「判決または裁判上の和解」の場合に限られており、裁判外の示談には適用されないと解されています。

ただし、約款によって書きぶりが違います。共済の約款には、より広く「判決、裁判上の和解、調停または書面による合意」を対象としているものがあり、この場合は裁判外の示談でも読み替えの対象になります。

ご自身が加入している保険・共済の人身傷害条項を確認してください。ここが違うだけで、示談で終わらせてよいかどうかの結論が変わります。

そして、その先にもう一段あります。

押さえておくこと

過失があるなら人身傷害保険金を先に請求すべきだ、と言われることがあります。ただし、訴訟を選ばず示談交渉で解決する場合は注意が必要です。

実際の交渉では、人身傷害保険の保険会社が「訴訟基準差額説はあくまで訴訟をした場合の話だ」として、これを認めない傾向があります。代位できる額が小さくなるためです。「人身傷害保険を先に使えば損害の全額を回収できる」というのは、訴訟提起を前提とした話だとご理解ください。

人身傷害保険があり過失相殺もある事案で裁判外の示談をすると、提訴すれば受けられたはずの過失部分の支払を受けられなくなりかねません(京都地方裁判所平成25年6月13日判決)。紛争処理センターで解決した場合も同じです。

「人身傷害保険を先に使えば全額回収できる」という説明は、裁判を前提にしています。保険金を受け取ったあと、相手方保険会社と示談で終わらせてしまうと、その前提が崩れます。

裁判を前提にすれば、順番は問いません

過失相殺がある事案で、まず訴訟を提起し、判決や和解を得たあとに人身傷害保険金を請求する場合は、読み替え規定によって、保険金を先に受け取ってから提訴した場合とトータルの回収額は基本的に同じになります。ただし弁護士費用や遅延損害金には差が出ます。

そのうえで、訴訟を避けるのであれば、人身傷害保険が使える事案で訴訟をしないことのデメリットを踏まえておく必要があります。交渉段階の相手方保険会社の対応のほうが被害者に有利なこともあるため、どちらを選ぶかは事案ごとの判断になります。

相手に自賠責もないときは、逆になります

ここまでは、相手に任意保険がある事故を前提にした話でした。政府保障事業しか受け皿がない事故では、結論が変わります。

ここが落とし穴です

人身傷害保険は、加害者が無保険の場合にこそ意味が大きいはずです。ところが人身傷害保険金を先に受け取ってしまうと、その限度で保障事業からの填補は行われません。結果として、最終的な受取額が少なくなる恐れがあります。

政府保障事業は最終的な救済措置なので、ほかから受け取ったものは差し引かれます。人身傷害保険を先に使うと、その分だけ国から受け取れる額が減るということです。

整理すると、こうなります。

相手に任意保険がある事故で、こちらにも過失がある——人身傷害保険を先に使うことが有利になりえます。ただし裁判を前提とした話です。

相手に自賠責もなく、政府保障事業しか受け皿がない——人身傷害保険を先に使うと、国から受け取れる額が減る恐れがあります。

どちらにあたるかで動き方が変わりますので、人身傷害保険に請求する前に一度ご相談ください。受け取ってしまってからでは、戻せません。

加害者本人から回収する|勤務先まで調べられます

自賠責や政府保障事業の限度額を超える部分は、加害者本人に請求するほかありません。傷害の限度額は120万円ですから、通院が長引けばすぐに超えます。

「相手にお金がなさそうだから」と諦める方が多い場面ですが、交通事故の被害者には、他の債権者にはない強い手段が用意されています。

まず、判決などの債務名義を取ります

強制執行をするには、債務名義が必要です。判決、裁判上の和解調書、民事調停調書、公正証書などがこれにあたります。

先に述べたとおり、訴えを起こす裁判所はご自身の住所地を選べます。相手が遠方でも、通える裁判所で進められます。

財産開示手続|相手を裁判所に呼び出せます

裁判所の案内によると、財産開示手続は「債務者の財産がどこにあるかわからない場合等に、債務者の財産に関する情報を得るため、債務者(開示義務者)に裁判所に出頭してもらい、財産の状況について陳述してもらう手続」です。

項目 内容
申立先 債務者の住所地を管轄する地方裁判所
手数料 1個の申立てにつき2,000円+郵便料
流れ 実施決定 → 債務者に送達 → 送達から1週間経過で確定 → 財産開示期日と財産目録の提出期限を指定
期日でできること 申立人と代理人弁護士は期日に出頭し、執行裁判所の許可を得て、開示義務者に対し質問することができます(民事執行法199条4項)

ただし裁判所は、「探索的な質問や債務者を困惑させる質問は許可されません」としています。また「開示義務者が財産開示期日に出頭しなかった場合、原則として、財産開示手続は終了します」とされています。

出頭しない、嘘をつくと、刑事罰があります

民事執行法213条1項は、次の者を六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処すると定めています。

対象
5号 執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓を拒んだ開示義務者
6号 宣誓した開示義務者であって、正当な理由なく陳述をせず、又は虚偽の陳述をしたもの

呼び出しを無視すれば刑事罰の対象になります。相手にとって、これは無視しにくい手続です。

第三者からの情報取得手続|4種類の情報が取れます

相手に聞くのではなく、市町村や銀行から直接教えてもらう手続です。裁判所の案内によると、取得できる情報は次の4つです。

種類 わかること 情報の提供元
㋐不動産に関する情報 債務者名義の土地・建物の所在地や家屋番号 登記所
㋑給与(勤務先)に関する情報 債務者に対する給与の支払者、つまり勤務先の名称や住所 市町村、日本年金機構等
㋒預貯金に関する情報 支店名、口座番号、額 銀行等
㋓株式、社債、国債等に関する情報 銘柄及び額又は数 証券会社等

勤務先を調べられるのは、限られた債権者だけです

ここが、この記事でお伝えしたい2つ目の重要な点です。

民事執行法206条1項は、勤務先情報の取得を申し立てられる債権者を、「第151条の2第1項各号に掲げる義務に係る請求権又は人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者」に限定しています。

裁判所の案内も、この点を明確に書いています。

裁判所の案内

㋑勤務先情報は、民事執行法151条の2第1項各号に掲げる義務(養育費や婚姻費用など)に係る請求権又は人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権の執行力のある債務名義を有する債権者…に限り、申し立てることができます。貸金等の債務名義や上記以外の一般の先取特権を有する債権者は、㋑勤務先情報の申立てをすることはできません。

交通事故によるけがの損害賠償請求権は、「人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権」にあたります。

つまり、貸金業者にはできないことが、交通事故の被害者にはできるということです。相手が働いている限り、勤務先を裁判所経由で突き止め、給与を差し押さえる道が残されています。

情報の出どころは、民事執行法206条1項各号により、市町村(市町村民税に係る事務に関して知り得た給与の情報)と、日本年金機構、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合、日本私立学校振興・共済事業団など(厚生年金保険の報酬・賞与に係る情報)とされています。

費用と、先にやっておくこと

項目 内容
手数料 1個の申立てにつき1,000円+民事執行予納金+郵便料
予納金 ㋒預貯金情報、㋓振替社債等情報は、第三者1名ごとに2,000円
前提条件 ㋐不動産情報、㋑勤務先情報の申立ては、債務者に対し3年以内に財産開示期日が実施されたことが要件です
回答までの目安 裁判所は「提出期限の定めはありませんが、基本的には、2週間程度が一つの目安となります」としています

勤務先と不動産の情報を取るには、先に財産開示手続を経ておく必要があります。順序としては、判決 → 財産開示 → 情報取得 → 差押え、と進みます。

なお裁判所は、「情報取得手続は、債務者の財産を調査するのみの手続です。債権を回収するためには、債権差押えなどの強制執行や担保権実行を別途行う必要があります」としています。

給与を差し押さえられるのは、4分の1までです

勤務先がわかっても、給与の全額を差し押さえられるわけではありません。

民事執行法152条1項2号は、給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権について、支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分は差し押さえてはならないと定めています。その額が政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分が差押禁止となります。

養育費などとは扱いが違います。民事執行法152条3項は、4分の3を2分の1に読み替える特則を設けていますが、その対象は151条の2第1項各号に掲げる義務に係る金銭債権、つまり扶養義務等に限られています。

交通事故の損害賠償請求権は、この特則の対象ではありません。勤務先情報は取れるのに、差押えの範囲は原則どおりということです。

それでも、給与差押えは毎月続きます。一度差押えが効けば、退職するまで毎月4分の1が入ってきます。一括では払えない相手からでも、時間をかけて回収できるということです。

車の修理代は、相殺で取り返せることがあります

物損は政府保障事業の対象外です。相手が無保険で無資力なら、修理代は諦めるしかない——そう思われがちですが、こちらにも過失がある事故では、別の道があります。

民法改正で、物損については相殺ができるようになりました

改正前の民法509条は、不法行為による損害賠償請求権を受働債権とする相殺を一律に禁止していました。双方に過失がある事故でも相殺は許されないとされていました(最高裁判所昭和54年9月7日判決)。

現在の民法509条は、相殺が禁止される債務を「一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」「二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」の2つに限定しています。

これによって、物損については、悪意によらない不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とする相殺ができるようになりました。

設例で見ると、はっきりします

設例で見ます。

設例 A車とB車が衝突し各車両が損傷した。過失割合は50対50。A車の損害は40万円(対物保険あり、車両保険なし)。B車の損害は60万円(無保険でBは無資力)。AはBから損害賠償請求権額20万円を回収できるか。

計算 Aの結果
改正前 A→Bの20万円とB→Aの30万円は相殺できない。BはAの対物社から30万円の支払を受けられる AはBから回収できず、20万円は支払われない
改正後 Aは相殺を行うことができる。相殺によってBのAに対する10万円の債権が残り、BはこれをAの対物社に請求する Aは自己の負担でB→Aの損害賠償請求権を消滅させたことになるため、Aの対物社から20万円の支払を受けられる

相手が一円も払えなくても、相殺という形で実質的に回収できる場面があるということです。ご自身に対物保険が付いていることが前提になりますので、証券を確認してください。

物損で請求できる費目については物損事故の慰謝料にまとめています。

時効は、請求先ごとに違います

最後に、いちばん見落とされやすい点です。

「交通事故の時効は5年」と覚えている方が多いのですが、それは加害者本人に対する請求の話です。保険や国の制度に対する請求は、それより短いのです。

保険法95条と自賠法19条は、民法改正にともなって改正されておらず、消滅時効期間にも変更がありません。そのため人身損害については、損害賠償請求権の時効期間と、保険金・自賠責の損害賠償額の請求権の時効期間が食い違います。

請求先 期間 根拠
加害者本人(人身損害) 5年 民法724条の2。不法行為の時から20年でも消滅します
加害者本人(物損) 3年 民法724条1号
自賠責への被害者請求 3年 自賠法19条
人身傷害保険・無保険車傷害保険 3年 保険法95条1項
政府保障事業 3年
更新できません
自賠法75条

政府保障事業は、時効を延ばせません

ここは、はっきり書いておきます。自賠責保険に対する請求と異なり、時効の更新はできません。填補額の支払額を超える部分について、債務承認による時効の中断があったとは解されないとした裁判例もあります。

自賠責保険には時効更新の手続がありますが、政府保障事業にはありません。3年で確実に切れます。

起算点は、傷害による損害については事故日、後遺障害による損害については症状固定日、死亡による損害については死亡日の、それぞれ翌日とする扱いです。国土交通省の案内でも、傷害は「治療を終えた日」から起算し「事故発生日から3年以内」、後遺障害は「症状固定日から3年以内」、死亡は「死亡日から3年以内」とされています。

3年を過ぎても、まだ道が残っていることがあります

自賠責への被害者請求の3年が過ぎてしまった場合でも、加害者本人への5年が残っていれば、次の方法があります。

まだ道があります

自賠責への被害者請求(16条請求)が時効で消滅していても、加害者に対する損害賠償請求権が残っていれば、被害者が加害者から賠償金を受け取り、加害者が15条請求をすることで自賠責保険金が支払われます。

加害者が被害者に支払い、そのあとで加害者が自賠責に請求する、という順序です。加害者の協力が要りますが、加害者自身の負担は最終的に自賠責から戻ってくるので、応じてもらえることがあります。

なお、任意社による一括対応がされている場合は、その解除から時効期間が進行する扱いです。打ち切りの通告を受けた日が起算点になります。交通事故の症状固定はいつ?もあわせてご覧ください。

物損と人身は、別々に進みます

生命身体の侵害にかかる損害賠償請求権と、財産権の侵害にかかるそれとは、別個の請求権を構成します。複数の財産権が侵害されたときは財産権ごとに別個の請求権になると解されているので、時効や示談の効果に注意が必要です。

人身の5年がまだ残っていても、物損の3年は先に切れます。車の修理代だけ請求できなくなる、ということが起こります。

相手が無保険の事故で、いちばん危ないこと

相手方に保険会社が付いている事故では、担当者が動いてくれるので、放っておいても手続は進みます。相手が無保険だと、誰も動きません。

治療に専念しているうちに時間が経ち、気づいたときには保険側の3年が切れている。これが、この類型でいちばん多い失敗です。

相手が無保険だとわかった時点で、期限を数え始めてください。

相手が無保険だとわかった時点で、ご相談ください

この記事で見てきたとおり、無保険の事故では請求先を探すところから始まり、使う順番によって最終的な受取額が変わり、そのうえ期限が請求先ごとに違います。

とくに人身傷害保険を先に使うか、政府保障事業を先にするか、加害者と示談するかは、受け取ってしまってからでは戻せません。動く前の一度のご相談で、結果が変わる類型です。

難波みなみ法律事務所では、交通事故のご相談を承っています。相手の連絡先がわからない、名前しか聞いていないという段階でも構いません。弁護士費用特約が使えれば、ご自身の負担なくご依頼いただける場合があります。特約を使っても等級は下がりません。

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よくある質問

Q. 相手が無保険でした。もう泣き寝入りするしかないのでしょうか。

A. そうとは限りません。請求できる先は、加害者本人のほかに、自賠責保険への被害者請求、国の政府保障事業、ご自身が契約している人身傷害保険や無保険車傷害保険があります。また、賠償義務を負う人は運転者だけとは限らず、車の所有者や勤務先が責任を負うことがあり、そちらに保険が付いていることもあります。まず、どこまで無保険なのかを確認してください。

Q. 運転していた人に保険がなければ、それで終わりですか。

A. 終わりではありません。賠償義務を負う人は、加害車の運転者のほかにもいることがあります。自賠法3条の運行供用者、民法715条の使用者、民法714条の監督義務者が問題になります。とくに従業員が会社の車で仕事中に起こした事故では、運行供用者責任を負うのは保有者である使用者ですから、会社に任意保険があれば足りることになります。相手が仕事中だった、会社の車だったという場合は必ず確認してください。

Q. ナンバーしか控えていません。相手を特定できますか。

A. 方法があります。自動車の登録内容は運輸支局等で登録事項等証明書を請求すれば確認できますが、国土交通省は、ナンバープレートに表記されている文字・数字全てと車台番号下7桁の数字が必要で、一部分でも不明箇所がある場合には照会することができないとしています。車台番号がわからない場合は、弁護士会照会を使います。弁護士に依頼している場合に使える制度ですので、ナンバーしかわからない段階でご相談ください。

Q. 政府保障事業とは何ですか。

A. 自動車損害賠償保障法に基づき、ひき逃げ事故や無保険車による事故の被害者に対して、国が自賠責保険と同等の損害を塡補する制度です。国土交通省は、健康保険や労災保険等の他の社会保険の給付や本来の損害賠償責任者の支払によっても、なお被害者に損害が残る場合の最終的な救済措置と位置づけています。請求は損害保険会社の窓口で受け付けており、保険代理店では受け付けていません。

Q. 政府保障事業では、いくら受け取れますか。

A. 限度額は自賠責保険と同額です。傷害による損害は120万円、後遺障害による損害は障害の程度に応じて75万円から4,000万円、死亡による損害は3,000万円が上限です。これを超える部分は、加害者本人に請求していくことになります。なお、政府保障事業の填補基準は、裁判所を拘束するものではないと解されています。

Q. 政府保障事業は、どのくらい使われていますか。

A. 国土交通省の公表によると、令和6年度の受付件数は合計380件、支払件数は341件、支払保障金額は3億9,900万円です。このうち無保険を理由とするものは受付134件、支払108件、2億8,000万円でした。全国の1年分の数字です。任意保険の加入率が9割弱であることを考えると、制度があるのに使われていないと言わざるを得ません。

Q. 加害者から示談金を渡されました。受け取ってよいですか。

A. その場で受け取る前に確認してください。自賠法73条2項により、賠償責任者から損害の賠償を受けたときは、政府はその金額の限度において塡補をしません。先に加害者と示談して賠償額の全額を受け取り、その余の損害賠償請求権を放棄してしまうと、保障事業の填補金は受けられません。見舞金など名目を問わず、賠償額の一部を受け取った場合も、その額は填補額から控除されます。請求の順番には十分ご注意ください。

Q. 政府保障事業は、いつ支払われますか。

A. 時間がかかります。自賠責への被害者請求と異なり、請求から支払まで半年から1年程度かかります。自賠法73条の2第1項が、政府は事故及び塡補すべき損害の金額の確認をするために必要な期間が経過するまでは遅滞の責任を負わないと定めているためです。目の前の治療費や生活費は、健康保険や労災保険、ご自身の人身傷害保険で先に手当てすることになります。

Q. こちらにも過失があります。政府保障事業は減額されますか。

A. 通常の過失相殺はされません。かつては通常の過失相殺が行われていましたが、平成19年4月1日以降の事故については、自賠責と同じく重過失減額が行われるにとどまります。7割以上といった重大な過失がある場合の減額にとどまるということです。通常の損害賠償より有利な扱いです。

Q. 相手が自転車でも、政府保障事業を使えますか。

A. 使えません。自賠法2条1項は、この法律でいう自動車を道路運送車両法上の自動車と原動機付自転車と定めており、自転車は含まれません。国土交通省も、加害車両が農耕作業用小型特殊自動車や軽車両である場合は塡補の対象にならないとしています。自転車事故では、加害者の自転車保険や個人賠償責任保険を確認することになります。個人賠償責任の特約は、自動車保険のほか傷害保険・火災保険、都道府県民共済、クレジットカードに付いていることがあります。

Q. 車の修理代は、政府保障事業から出ますか。

A. 出ません。国土交通省は、物の損害(車両の損害等)の場合は塡補の対象にならないとしています。ただし、双方に過失がある事故では、現在の民法509条により物損についての相殺が可能になっています。相手が無保険で無資力でも、相殺によってご自身の対物保険から支払を受けられる場合があります。ご自身に対物保険が付いているかを確認してください。

Q. 相手が無保険でも、自賠責はあるようです。何から始めますか。

A. 仮渡金の請求を検討してください。自賠法17条1項に基づき、加害者の賠償責任の有無にかかわらず、また損害賠償額が確定する前に、所定額を先に受け取れます。自賠法施行令5条により、死亡は290万円、11日以上医師の治療を要する傷害は5万円、14日以上の入院を要する傷害などは20万円、大腿又は下腿の骨折などは40万円と定額で定められています。あわせて、治療費は健康保険に切り替えて立替額を抑えてください。

Q. 治療費を立て替えています。損害額が固まるまで待たなければいけませんか。

A. 待つ必要はありません。国土交通省は、総損害額の確定前であっても、被害者は医療機関へ治療費等を支払った都度、限度額の範囲内で何度でも自賠責保険金の請求をすることができるとしています。相手に任意保険がないと治療費を病院に直接支払ってくれる一括対応がありませんので、この都度請求を使うことになります。

Q. 無保険車傷害保険に入っています。これで補償されますか。

A. けがの内容によります。無保険車傷害保険は、死亡または後遺障害を負ったことを要します。傷害のみの場合は使えず、自賠責調査事務所で後遺障害非該当とされた場合も支払われません。名前から誤解されやすいのですが、通院しているだけの段階では出ません。また人身傷害保険と異なり過失相殺の適用があり、被保険者に100%の過失があって損害賠償請求権が発生しない場合は支払われないとされています。

Q. 人身傷害保険と無保険車傷害保険は、何が違いますか。

A. 使える場面が違います。人身傷害保険は、加害者の賠償責任の有無にかかわらず、自ら契約した保険契約にもとづいて所定の基準で算定された損害額相当の保険金を受け取れる保険で、傷害だけでも使え、被害者の過失部分も補償されます。現在は自家用普通自動車の8割強に付いています。無保険車傷害保険は死亡または後遺障害の場合に限られ、過失相殺の適用があります。

Q. 自分の保険を使うと、等級が下がって保険料が上がりますか。

A. 上がりません。人身傷害保険、無保険車傷害特約、搭乗者傷害保険、個人賠責特約、弁護士費用特約等は、利用してもいわゆるノーカウント事故とされ、次回の保険契約更新時の等級に影響せず、保険料も上がりません。相手が無保険だったせいでご自身の等級が下がるということはありません。

Q. 人身傷害保険は、先に使ったほうがよいのですか。

A. 事案によります。こちらにも過失がある事故では、人身傷害保険金がまず自分の過失部分に充てられるという考え方があり、先に使うことが有利になりえます。ただし読み替え規定が適用されるのは判決または裁判上の和解の場合であり、裁判外の示談には適用されないと解されています。示談で終わらせるとその扱いは受けられません。また相手に自賠責もなく政府保障事業しか受け皿がない場合は、人身傷害保険金を先に受け取るとその限度で保障事業からの塡補が行われず、最終的な獲得額が少なくなる恐れがあるとされています。請求する前にご相談ください。

Q. 加害者にお金がなさそうです。訴えても無駄ではないですか。

A. 諦めるのは早いです。判決などの債務名義を取れば、財産開示手続で相手を裁判所に呼び出せます。呼出しを受けた財産開示期日に正当な理由なく出頭せず、又は宣誓を拒んだ場合や、虚偽の陳述をした場合は、民事執行法213条1項により六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処せられます。そのうえで第三者からの情報取得手続により、勤務先、預貯金、不動産、株式等の情報を取得できます。

Q. 相手の勤務先を調べることはできますか。

A. できます。民事執行法206条1項は、勤務先情報の取得を申し立てられる債権者を、扶養義務等に係る請求権又は人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権の債務名義を有する債権者に限定しています。交通事故によるけがの損害賠償請求権はこれにあたります。裁判所も、貸金等の債務名義では勤務先情報の申立てをすることはできないと明記しています。情報は市町村の市町村民税に係る事務や、日本年金機構等の厚生年金保険に係る事務から取得されます。なお、この申立てには債務者に対し3年以内に財産開示期日が実施されたことが要件となります。

Q. 給与は全額差し押さえられますか。

A. できません。民事執行法152条1項2号により、給料等については支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分は差し押さえてはならないとされています。差し押さえられるのは原則として4分の1です。養育費等については4分の3を2分の1に読み替える特則がありますが、その対象は扶養義務等に係る金銭債権に限られており、交通事故の損害賠償請求権は含まれません。ただし差押えは毎月続きますので、一括では払えない相手からでも時間をかけて回収できます。

Q. 加害者が遠方に住んでいます。裁判は現地まで行くのですか。

A. その必要はありません。損害賠償請求事件の裁判管轄は、不法行為発生地、賠償義務者の住所、義務履行地である被害者の住所です。この中から被害者にとって最も都合のよい裁判所を選べますので、実際には被害者の住所地を選ぶことがほとんどです。大阪にお住まいであれば、大阪の裁判所で進められます。

Q. 相手が盗難車を運転していました。この場合も政府保障事業を使えますか。

A. 対象になりえます。自賠法72条1項2号は、責任保険の被保険者以外の者が3条責任を負う場合を政府保障事業の対象としています。自賠責保険が付いていない場合のほか、自賠責は付いているが盗難車で保有者が運行供用者責任を負わない場合もこれにあたります。盗難車を運転した人自身は運行供用者責任を負いますが、資力がないことが多く自賠責保険も使えないため、被害者の保護に穴が空きます。まさにその穴を埋める制度です。

Q. 加害者は他人の車を借りて運転していました。保険はありませんか。

A. 加害者自身の自動車保険を確認してください。加害車が任意無保険の場合は、運転者に他車運転危険補償特約の適用がないかを確認します。この特約は、被保険自動車以外の自動車を運転中に起こした事故の補償を、自車に付けている自動車保険の契約内容で行うもので、対人賠償に自動セットされていることが多いとされています。ただし要件が厳しく、真に臨時に借りている場合に限って適用され、長期間借りていると支払われず、車種も自家用8車種に限定されているとされています。

Q. 家族の車に乗せてもらっていて事故に遭いました。相手が無保険です。

A. 乗せてくれた側の車の保険を確認してください。同乗中の単独事故、相手車が無責の事故、双方に過失がある事故では、被害者が同乗していた車両の運転者が賠償義務を負うことがあります。気を遣って言い出しにくい場面ですが、その車の自賠責保険や任意保険が使えることがあります。ご本人だけでなく、親族や同乗車両の所有者等の保険証券まで確認してください。

Q. 交通事故の時効は5年ではないのですか。

A. 5年なのは加害者本人に対する人身損害の請求です。民法724条の2により、人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から5年で時効消滅します。これに対し、自賠責への被害者請求は自賠法19条により3年、人身傷害保険や無保険車傷害保険の保険金請求権は保険法95条1項により3年、政府保障事業は自賠法75条により3年です。物損の請求は民法724条1号により3年です。相手が無保険の事故では保険側が命綱になりますので、短いほうの3年に注意してください。

Q. 政府保障事業の時効は、延ばせますか。

A. 延ばせません。自賠責保険に対する請求と異なり、時効の更新はできません。填補額の支払額を超える部分について、債務承認による時効の中断があったとは解されないとした裁判例もあります。自賠責保険には時効更新の手続がありますが、政府保障事業にはありません。3年で確実に切れますので、早めに動いてください。

Q. 自賠責への請求が3年を過ぎてしまいました。もう無理でしょうか。

A. 加害者本人への請求権が残っていれば、方法があります。16条請求権が時効消滅しても、加害者に対する損害賠償請求権が時効消滅していなければ、被害者が加害者から賠償金を受け取り、加害者が15条請求をすることで自賠責保険金が支払われます。加害者がいったん支払い、そのあとで加害者自身が自賠責に請求する順序です。加害者の負担は最終的に自賠責から戻りますので、応じてもらえることがあります。

Q. 相手が任意保険に入っているのに、保険会社から連絡がありません。

A. 無保険とは限りません。加害車に任意保険が付いているのに一括対応がされない場合、被害者の過失が大きいと判断されていることがいちばん多いところです。ほかに、加害車の運転者が被保険者か、運転者を限定する特約はないか、免責事由はないか、モラルリスク事案の疑いを持たれていないかも問題になります。過失割合を理由に対応されていないだけであれば、そこを争うことで対応が変わることがあります。

Q. 加害者がわざとぶつけてきました。自賠責は使えますか。

A. 被害者請求はできます。自賠責保険の免責は悪意免責等に限られており、その悪意免責の場合でも被害者請求は可能です。任意保険の免責事由はより広いため、個別の適用に注意が必要です。故意による事故が疑われる場面は事実関係の整理が難しいので、早い段階でご相談ください。

Q. 弁護士に頼むと、費用のほうが高くつきませんか。

A. 弁護士費用特約が使えるかをまず確認してください。弁護士費用特約は、自動車保険だけでなく傷害保険や火災保険等に付いていることもあります。またこの特約を使ってもノーカウント事故とされ、等級に影響せず保険料も上がりません。特約がない場合の費用倒れの分岐点については交通事故の弁護士費用はいくら?で説明しています。

この記事は、自動車損害賠償保障法、同法施行令、民法、民事執行法の各条文、国土交通省および裁判所の公表資料、ならびに交通事故の実務に関する文献をもとに、難波みなみ法律事務所の弁護士が作成しました。個別の事案については、具体的な事情によって結論が変わることがあります。

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