コラム
公開日: 2026.08.17

交通事故の慰謝料計算|大阪基準(緑本)で自動計算し、赤い本との違いも解説

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

まず結論
大阪の事故の慰謝料は、どの基準で計算するのが正しいですか?
大阪地方裁判所の管轄で起きた事故は「緑本(大阪基準)」で計算します。全国で広く使われる「赤い本」は東京地裁の運用をまとめたもので、大阪の裁判実務では緑本の表が用いられるためです。この記事の計算機は、緑本・赤い本・自賠責の3つを同時に計算して比較します。
保険会社が提示してきた金額は、適正な額ですか?
ほとんどの場合、適正額より低いです。保険会社は自賠責基準か各社独自の任意保険基準で提示するのが通常で、裁判所が用いる緑本の基準は、被害者側が法的根拠をもって主張しない限り適用されません。まず下の計算機で差額を確認してください。
むちうちの場合、緑本と赤い本のどちらが有利ですか?
金額の表は赤い本のほうが高く、通院期間の数え方は緑本のほうが有利です。緑本はむちうちで他覚所見がないと表の額を3分の2にしますが、通院が長期かつ不規則な場合の頭打ちは実通院日数の3.5倍。赤い本は軽傷用の別表IIをそのまま使う代わりに、頭打ちが3倍です。どちらで主張すべきかは、通院の実態によって変わります。

交通事故の慰謝料は、どの基準で計算するかによって金額が2倍以上変わります。そして大阪府内の事故には、東京の「赤い本」ではなく大阪地裁の運用をまとめた「緑本」という別の表があります。

このページでは、緑本・赤い本・自賠責の3つの基準で慰謝料を同時に自動計算できるツールを用意しました。入院・通院の日数を入れるだけで、いま提示されている金額が適正かどうかを確認できます。

提示された金額が正しいか、5分で確認できます

大阪なんば・心斎橋の弁護士が、緑本の基準で見直します。相談は初回無料です。

交通事故の慰謝料を自動計算する(緑本・赤い本・自賠責を比較)

入院日数と通院期間を入力して「計算する」を押してください。大阪地裁基準(緑本)赤い本自賠責基準の3つを同時に計算します。後遺障害等級を選べば後遺障害慰謝料も合算します。

慰謝料 自動計算ツール(緑本/赤い本/自賠責の3基準比較)

※この計算はあくまで目安です。実際の金額は、傷病名・治療内容・過失割合・既往症・加害者の運転態様などによって増減します。正確な金額は弁護士にご確認ください。
※緑本は平成17年1月1日以降に発生した事故に適用される基準表を使用しています。
※自賠責基準の日額は、2020年4月1日以降に発生した事故は4,300円、それ以前の事故は4,200円です。この計算機は4,300円で算定しています。また自賠責の傷害部分には120万円(治療費等を含む)の上限があります。

計算式の中身を公開しています。
緑本(大阪基準)= 平成17年基準の「通常」または「重傷」の表。入院月数と通院月数が交わるセルの金額。むちうち等で他覚所見がない場合は通常表の3分の2。
赤い本= 別表I(通常)または別表II(むちうち等で他覚所見がない場合)。
自賠責基準= 1日4,300円 ×〔治療期間の日数〕と〔実治療日数×2〕の少ないほうの日数。
長期間かつ不規則の通院の場合の調整= 通院期間を、緑本は実通院日数×3.5赤い本は別表Iなら×3.5・別表IIなら×3で頭打ちにします。1か月に満たない端数は日割りで補間しています(1か月=30日換算)。
ギプス固定期間を「入院日数」に入れ忘れていませんか。
緑本には、入院待機中の期間やギプス固定中等による自宅安静期間は、入院期間とみることがあると明記されています。入院していなくても、骨折でギプスを巻いていた期間があれば、その日数を入院日数として計算できる可能性があります。自賠責診断書の「ギプス固定期間」欄に記載があるので確認してください。ここを見落とすと、慰謝料が数十万円単位で変わります。

交通事故の慰謝料は3種類ある

「慰謝料」とひとくちに言っても、交通事故では請求できるものが3つに分かれています。これらは重複して請求できます。後遺障害が残った方は、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の両方を受け取れます。

種類いつ発生するか金額を決めるもの
入通院慰謝料
(傷害慰謝料)
ケガの治療のために入院・通院したとき。事故日から症状固定日までが対象入院期間と通院期間(実通院日数ではなく期間
後遺障害慰謝料治療を続けても症状が残り、後遺障害等級が認定されたとき後遺障害等級(第1級〜第14級)
死亡慰謝料被害者が亡くなったとき。遺族が相続して請求する亡くなった方の家庭内での立場
間違えやすいポイント:入通院慰謝料は「通院した回数」では決まりません。
緑本でも赤い本でも、入通院慰謝料の基礎になるのは初診日から最終通院日までの期間です。「10回通ったからいくら」という計算にはなりません。ただし通院が長期かつ不規則な場合には、期間ではなく実通院日数を基準に調整されます。

同じケガでも、基準で金額はこれだけ変わります

むちうちで3か月(90日)通院し、実際に通院したのが30日だったケースを、3つの基準で比べます。

基準入通院慰謝料算定の内訳
自賠責基準25万8,000円4,300円 × 60日(実治療30日×2 と 治療期間90日 の少ないほう)
任意保険基準非公表各社の内部基準。かつての業界共通基準は保険自由化で廃止され、現在は各社が個別に設定
緑本(大阪基準)48万円通常表の72万円 × 2/3(他覚所見なし)
赤い本53万円別表II(軽傷用)の3か月の金額

自賠責の25万8,000円と比べると、弁護士基準は約2倍です。この差額は、被害者側が法的根拠をもって主張しない限り、自動的には支払われません。

大阪の事故は「緑本」で計算する|赤い本との違い

大阪の交通事故案件でいう「大阪基準」とは、緑本に載っている弁護士基準(裁判所基準)のことです。独立した第4の基準があるわけではありません。

緑本(大阪基準)赤い本
もとにした実務大阪地方裁判所の裁判例・運用東京地方裁判所の裁判例・運用
入通院慰謝料の表「通常」と「重傷」の2種類「別表I」と「別表II」の2種類
むちうちの扱い通常の表の金額を3分の2程度に減額軽傷用の別表IIをそのまま使う
長期間かつ不規則の通院の場合一律で実通院日数の3.5倍
(むちうちでも3.5倍、ただし、3分の2に減額される余地はあります。)
別表Iは3.5倍程度
別表II(むちうち等)は3倍程度
重い傷害の増額「重傷」用の別表に切り替える部位・程度により別表Iの金額を20〜30%程度増額

実際に金額を並べると、有利・不利が入れ替わります

骨折など(緑本=通常表/赤い本=別表I)

入通院期間緑本(大阪基準)赤い本 別表Iどちらが高いか
入院1か月のみ53万円53万円同額
入院2か月のみ101万円101万円同額
通院5か月108万円105万円緑本が3万円高い
通院6か月120万円116万円緑本が4万円高い
通院7か月128万円124万円緑本が4万円高い
入院1か月+通院6か月153万円149万円緑本が4万円高い

むちうち・他覚所見なし(緑本=通常表の3分の2/赤い本=別表II)

入通院期間緑本(大阪基準)赤い本 別表IIどちらが高いか
通院3か月48万円(72×2/3)53万円赤い本が5万円高い
通院5か月72万円(108×2/3)79万円赤い本が7万円高い
通院6か月80万円(120×2/3)89万円赤い本が9万円高い
通院7か月85万円(128×2/3)97万円赤い本が12万円高い
この2枚の表が意味すること。骨折などの傷病では緑本がわずかに高く、むちうちで他覚所見がない場合は赤い本のほうが5万〜12万円ほど高くなります。さらに後遺障害慰謝料では、第2級〜第7級は緑本が高く、第9級〜第12級は赤い本が高くなります。「大阪だから緑本」と機械的に決めるのではなく、傷病名・等級・通院の実態を見てどちらで主張するかを選ぶことが、そのまま増額につながります。

大阪地裁の管轄になるのはどんな事故か

訴訟をどこの裁判所に起こすかは、原則として被告(加害者)の住所地または不法行為地(事故が起きた場所)で決まります(民事訴訟法4条・5条9号)。したがって、大阪府内で起きた事故、または加害者が大阪府内に住んでいる事故は大阪地裁が管轄になり、緑本の基準が使われる可能性が高くなります。

示談交渉の段階でも、どちらの基準で交渉するかは重要です。
保険会社は「裁判になったらいくらになるか」を見て和解額を判断します。緑本と赤い本で金額が変わる論点では、依頼者に有利なほうを根拠づけて主張することが増額につながります。

むちうちで慰謝料が下がる2つのルール

むちうちの方が知らないと損をする調整ルールが2つあります。保険会社はこの2つを最大限に使って提示額を下げてきます。

ルール1:他覚所見がない軽度の神経症状は3分の2

緑本には、軽度の神経症状(むち打ち症で他覚所見のない場合、軽度の打撲・挫創の場合等)の入通院慰謝料は、通常の慰謝料の3分の2程度とすると定められています。レントゲンやMRIで異常が確認できないむちうち(頸椎捻挫・外傷性頸部症候群)が典型です。

【例】通院3か月・入院なし・他覚所見なし
緑本の通常表の額 72万円 × 2/3 = 約48万円
(赤い本なら別表IIの53万円
「他覚所見がない=必ず3分の2」ではありません。
神経学的検査(スパーリングテスト、ジャクソンテスト、腱反射など)で異常が確認されている場合や、症状の推移が一貫している場合には、減額せずに主張できる余地があります。診断書とカルテの記載が勝負を分けます。

ルール2:通院が長期かつ不規則なら実通院日数をもとに頭打ち

受傷や治療の内容・程度等に照らして通院が長期にわたり、かつ不規則な場合は、実際の通院期間と、実通院日数を一定倍した日数とを比較し、少ないほうを基礎として通院期間を計算します。この倍率が、緑本と赤い本で違います。

基準むちうち等それ以外の傷害備考
緑本(大阪基準)3.5倍3.5倍傷病による区別なし
赤い本3倍3.5倍別表IIを使う場合は3倍
【例】むちうちで通院期間6か月(180日)/実通院日数24日
緑本:24日 × 3.5 = 84日(約2.8か月)→ 通常表 約67万円 × 2/3 = 約45万円
赤い本:24日 × 3 = 72日(約2.4か月)→ 別表II 約43万円
この調整は「長期にわたり、かつ不規則な場合」に限られます。症状と治療内容に照らして必要かつ相当な治療期間であれば、期間どおりの慰謝料を請求すべきです。通院頻度が落ちた理由(仕事の都合、医師の指示による経過観察など)を説明できるかどうかが分かれ目になります。

通院のときにやってはいけないこと

  • 痛みがあるのに通院を空ける。通院の間隔が空くと「もう治っている」と判断され、治療費を打ち切られる原因になります。上記の頭打ちで慰謝料も下がります。
  • 整骨院・接骨院だけに通う。医師の診断と指示がないと、施術費が損害として認められないことがあります。整形外科と併行してください。
  • 症状を医師に伝えない。カルテに記載がない症状は、後遺障害の申請で存在しなかったものとして扱われます。
  • 保険会社に言われるまま症状固定にする。症状固定の時期を決めるのは主治医であって、保険会社ではありません。
  • 物損事故のまま放置する。警察が作る実況見分調書は、物件事故扱いのままでは原則として作成されません。過失割合を争うときの最も有力な証拠を失うことになります。

「3分の2」と言われて納得できていない方へ

診断書とカルテの記載しだいで、減額せずに主張できる場合があります。まずはご相談ください。

通院した期間がそのまま認められるとは限らない

算定表は、その治療期間に必要性と相当性があることを前提にしています。頸椎捻挫で15か月通院したからといって、表の15か月に相当する慰謝料が当然に認められるわけではありません。ここは、多くの計算ツールが説明していない落とし穴です。

傷病ごとに、想定される通院期間の目安があります

傷病想定される通院期間備考
頸椎捻挫・腰椎捻挫などの捻挫系
(画像で異常が確認できない傷病)
6か月程度これを超えると、必要性・相当性を保険会社から争われやすい
骨折・靭帯損傷など
(画像で異常が確認できる傷病)
12か月程度症状と治療内容によってはさらに長期も認められる
これは「6か月で打ち切るべき」という意味ではありません。
必要な治療は続けるべきです。ただし目安を超えて通院する場合、なぜその期間の治療が必要だったのかを診断書とカルテで説明できる状態にしておく必要があります。漫然と通うのではなく、症状の推移と治療内容を医師に記録してもらうことが重要です。

「症状固定」がいつかで、慰謝料の対象期間が決まります

賠償の場面での症状固定とは、治療の方法がなく、治療を続けても効果が上がらなくなった時点をいいます。入通院慰謝料の対象は事故日から症状固定日までなので、症状固定の時期がそのまま金額に直結します。

注意したいのは、医師の「もう少し続けましょう」がそのまま賠償上の治療期間になるとは限らないことです。半年を過ぎたあたりから症状が横ばいで、治療の効果が感じられなくなっている場合、医師が「1年は続けたほうがよい」と言っていても、賠償上はその効果がなくなった時点を症状固定とされ、それ以降の慰謝料が認められないおそれがあります。この時期の判断は、後遺障害の申請時期とも絡むため、早めに弁護士にご相談ください。

慰謝料が表より増える場合・減る場合

算定表の金額は出発点であって、上限ではありません。緑本にも赤い本にも、金額を増減させる事情が明記されています。

増額が考慮される事情

  • 加害者に飲酒運転・無免許運転・著しい速度違反・殊更な信号無視・ひき逃げがある場合
  • 生死が危ぶまれる状態が続いた、麻酔なしでの手術など極度の苦痛を被った、手術を繰り返した場合(入通院期間の長短にかかわらず別途増額を考慮)
  • 仕事や家庭の都合等で、本来より入院期間が短くなった場合
  • 被扶養者が多数の場合(死亡・後遺障害の慰謝料)
  • 損害額の算定が不可能または困難な損害の発生が認められる場合
  • 重傷に至らない程度の傷害でも、傷害の部位・程度によっては通常基準額を増額することがある(赤い本では別表Iの金額を20〜30%程度増額)

減額が考慮される事情

  • 入院の必要性に乏しいのに、本人の希望によって入院していた場合
  • 相続人が被害者と疎遠であった場合(死亡慰謝料)
「重傷」に当たるかどうかで、緑本では使う表そのものが変わります。緑本のいう重傷とは、重度の意識障害が相当期間継続した場合、骨折または臓器損傷の程度が重大であるか多発した場合など、社会通念上、負傷の程度が著しい場合をいいます。通常表と重傷表では金額が2割から2割5分ほど違うため、傷病の評価は示談交渉の重要な争点になります。

後遺障害慰謝料の等級別早見表(緑本と赤い本の比較)

後遺障害慰謝料は、認定された等級だけで金額が決まります。治療が終わっても症状が残った場合、自賠責保険に後遺障害等級の認定を申請し、認定された等級に応じて請求します。

等級緑本(大阪基準)赤い本差額自賠責基準
第1級2,800万円2,800万円±01,150万円
第2級2,400万円2,370万円+30万円998万円
第3級2,000万円1,990万円+10万円861万円
第4級1,700万円1,670万円+30万円737万円
第5級1,440万円1,400万円+40万円618万円
第6級1,220万円1,180万円+40万円512万円
第7級1,030万円1,000万円+30万円419万円
第8級830万円830万円±0331万円
第9級670万円690万円−20万円249万円
第10級530万円550万円−20万円190万円
第11級400万円420万円−20万円136万円
第12級280万円290万円−10万円94万円
第13級180万円180万円±057万円
第14級110万円110万円±032万円

※自賠責基準の欄は別表第二(介護を要しない場合)の金額です。常に介護を要する第1級は1,650万円、随時介護を要する第2級は1,203万円(別表第一)となります。

この表が示していること。第2級〜第7級は緑本のほうが高く、第9級〜第12級は赤い本のほうが高くなっています。むちうちで最も多い第14級は緑本・赤い本とも110万円で差がありませんが、自賠責基準の32万円とは78万円の差があります。等級認定を受けたうえで弁護士基準で請求できるかどうかが、金額を大きく左右します。

14級に届かなくても、慰謝料が認められることがあります

緑本にも赤い本にも、14級に至らない後遺症があった場合には、それに応じた後遺症慰謝料が認められることがあると明記されています。たとえば歯科補綴が3歯以上なら14級ですが、2歯の場合は14級に至りません。「非該当だから何ももらえない」と諦める前に、一度ご相談ください。

重度の後遺障害では、ご家族に別途慰謝料が認められることがあります

後遺障害慰謝料は、原則として介護に当たる近親者の慰謝料を含むものとして扱われます。ただし重度の後遺障害については、近親者に別途慰謝料を認めることがあります。その額は、近親者と被害者の関係、今後の介護状況、被害者本人に認められた慰謝料額などを考慮して決まります。

法的な根拠としては、被害者が亡くなった場合の近親者固有の慰謝料は民法711条に定めがあります。同条は「他人の生命を侵害した」場合の規定ですが、判例は、近親者が「生命を侵害された場合に匹敵するほどの精神的苦痛」を受けたときは、民法709条・710条にもとづいて近親者固有の慰謝料請求を認めています。

後遺障害慰謝料より、逸失利益のほうが大きくなることがあります。
逸失利益=基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間のライプニッツ係数、で計算します。第14級なら喪失率5%、第12級なら14%が目安です。慰謝料だけを見て示談すると、逸失利益をまるごと取り逃すことになります。

死亡慰謝料の相場

死亡慰謝料は、亡くなった方の家庭内での立場によって金額の目安が決まります。下記の金額は、被害者本人の分と近親者固有の分を合わせたものです。

亡くなった方の立場緑本(大阪基準)赤い本
一家の支柱2,800万円2,800万円
母親・配偶者2,000万円〜2,500万円
(区分を分けず「その他」でまとめる)
2,500万円
その他(独身者・子ども・高齢者など)2,000万円〜2,500万円
緑本は「一家の支柱」と「その他」の2区分しか置いていません。赤い本のように「母親・配偶者」という中間の区分がないため、大阪では、母親や配偶者が亡くなったケースで2,500万円を主張するには、幅の中の上限であることを個別の事情から根拠づける必要があります。ここは基準書の違いが実際の金額に直結する場面です。

これに対し自賠責基準では、本人分400万円に遺族の人数に応じた金額(1人550万円/2人650万円/3人以上750万円)を加え、被扶養者がいれば200万円を加算します。一家の支柱で妻子2人のケースでも1,350万円にとどまり、弁護士基準の2,800万円とは倍以上の差があります。

保険会社の提示額が低い3つの理由

提示額が低いのは、担当者が不誠実だからではなく、使っている基準が違うからです。理由を分けて理解しておくと、どこを争えばよいかが見えます。

理由1:緑本ではなく、自賠責基準か任意保険基準で計算している

保険会社が最初に提示する金額は、自賠責基準か各社独自の任意保険基準で算定されています。かつては業界共通の支払基準がありましたが保険自由化により廃止され、現在は各社が個別に設定しています。緑本は「裁判になった場合の基準」であり、被害者側が主張しなければ適用されません。

理由2:3分の2ルールと、長期間かつ不規則の通院の場合の調整を最大限に適用している

むちうちで他覚所見がないと判断し、かつ通院が不規則だとして、両方の減額を重ねて計算していることがあります。いずれも当然に適用されるものではなく、争える余地があります。また任意保険では、治療期間が長期化すると賠償額を段階的に下げる運用をしている会社が少なくありません。

理由3:休業損害や逸失利益が抜けている・低く計算されている

休業損害は、算定方法が職業によってまったく違います。会社員は源泉徴収票と休業損害証明書、自営業者は確定申告書、専業主婦(家事従事者)は賃金センサスを使うため、必要な立証資料も変わります。専業主婦の休業損害がそもそも計上されていないケースは珍しくありません。

ただし、休業の必要性の判断は思っているより厳しいものです。
「痛いから休んだ」だけでは足りず、症状と業務内容に照らして休業が必要だったといえるかを問われます。支払われると信じて当てにしていた休業損害が認められず、生活が立ち行かなくなる事態は避けなければなりません。就労への復帰可能性や、当面の生活資金の確保も含めて早い段階で相談してください。
なお通勤中・就労中の事故であれば、労災保険の給付を受けられる可能性があります。詳しくは労災の慰謝料の相場と請求方法をご覧ください。

過失割合も、提示された数字が正しいとは限りません

過失割合は、事故態様を実務上の類型にあてはめて基本の割合を決め、個別事情で修正します。裁判所も保険会社も同じ類型集を出発点にしているため、まず自分の事故がどの類型にあたるのかを確認することが第一歩です。停車中の追突事故を除けば、過失割合は争いになることが多い部分です。

争うときに最も有力な証拠になるのが、警察が作成する実況見分調書です。これは物件事故(物損)扱いのままでは原則として作成されません。追突以外の事故で物損扱いになっている場合は、人身事故への切替えを検討してください。

弁護士費用特約があれば、自己負担はほぼありません

ご自身やご家族が加入している自動車保険・火災保険に弁護士費用特約が付いていれば、多くの場合上限300万円まで弁護士費用が保険でまかなわれます。この特約を使っても、保険の等級は下がりません。ご自身の保険証券を確認してみてください。

弁護士が入ると金額が変わるのは、交渉力ではなく「訴訟という選択肢」が現実になるからです。
保険会社は、裁判になれば裁判所が緑本の基準で認定する可能性が高いこと、さらに遅延損害金や弁護士費用の一部まで負担するリスクがあることを知っています。そのリスクとコストを天秤にかけた結果、示談段階で弁護士基準に近い金額での和解に応じる、という判断になります。

難波みなみ法律事務所の解決事例

解決事例1

股関節を骨折し、可動域制限が残ったケース|提示額50万円が400万円に

ご相談者70代・会社役員
傷病股関節骨折(可動域制限が残存)
保険会社の提示額50万円
解決額400万円
期間受任から約10か月

この事案で何が起きていたか

骨折した部分の骨自体はくっついていた(骨癒合していた)ため、後遺障害の申請をしないまま示談してしまう寸前でした。しかし股関節には可動域の制限が残っており、これは後遺障害として評価されるべきものです。弁護士が介入して適切に後遺障害の等級認定を受けたことで、後遺障害慰謝料と逸失利益を含めた賠償を受け取ることができました。

「骨がくっついたから終わり」ではありません。
骨折の事案では、骨癒合が確認されると治療終了とされ、そのまま示談の話に進みがちです。しかし関節の動く範囲が事故前より狭くなっていれば、それ自体が後遺障害の対象になります。可動域制限は、健側(ケガをしていない側)と患側を比べて何度動くかを測定して評価するため、症状固定の前に、医師に可動域を正確に測定・記載してもらう必要があります。ここを逃すと、後から立証することは困難です。
痛みや動かしにくさが残っているのに後遺障害の話が出てこない場合は、示談書にサインする前にご相談ください。
解決事例2

むちうち(頸椎捻挫)で後遺障害14級9号が認定されたケース|解決額300万円

ご相談者40代・会社員
傷病・等級頸椎捻挫/後遺障害14級9号
解決額300万円
期間事故直後にご相談・受任、解決まで約1年

明確な他覚所見がないのに、なぜ認定されたのか

画像上、はっきりした他覚所見はありませんでした。それでも14級9号が認定されたのは、次の3つが揃っていたからです。

  • 事故の規模が比較的大きく、受傷の程度を裏づける事故態様だったこと
  • 診察のたびに、自覚症状と、生活・仕事のうえでどう困っているかを具体的に医師へ説明していたこと
  • 相当数の通院実績(100回以上)があったこと
通院は、回数を稼ぐことではなく、記録を残すことです。
むちうちで後遺障害の認定を争うとき、審査の対象になるのは診療録(カルテ)と診断書に何が書かれているかです。「首が痛い」としか伝えていなければ、そう記録されて終わります。いつ・どんな場面で・どう困っているのかを具体的に伝え、それを記録に残してもらうことが、闇雲に通院を重ねるより効きます。
この事案では事故直後にご相談をいただけたため、通院の初期段階から症状の伝え方を含めてご案内できました。後遺障害の認定は、症状固定を迎えてから対策できることが限られます。できるだけ早い段階でご相談ください。
解決事例3

専業主婦の休業損害が認定されたケース|提示額20万円が80万円に

ご相談者30代・専業主婦
傷病・等級頸椎捻挫/後遺障害は非該当
保険会社の提示額20万円
解決額80万円
期間約3か月

提示書に「休業損害」の欄がなかった

保険会社の提示内容は、自賠責基準の通院慰謝料だけでした。専業主婦の休業損害は、はじめから計上されていなかったのです。後遺障害も非該当だったため、このまま示談していれば20万円で終わっていました。主婦の休業損害を具体的に主張したことで、4倍の解決額になっています。

収入がないから休業損害はもらえない、というのは誤解です。
配偶者や子などの家族のために家事をしている方は「家事従事者」として扱われ、実際の収入がなくても休業損害が認められます。金額は賃金センサスの平均賃金を基礎に算定するのが実務の扱いです。パートで働きながら家事もしている方(兼業主婦)も対象で、実収入と平均賃金の高いほうを基礎にします。
保険会社の提示書に「休業損害」の項目が見当たらない場合は、必ず確認してください。慰謝料の金額だけを見ていると、この抜けには気づけません。
後遺障害が非該当でも、諦めるのは早すぎます。
この事案は後遺障害が非該当でしたが、それでも提示額の4倍で解決しています。賠償額は後遺障害だけで決まるわけではありません。入通院慰謝料をどの基準で計算するか、休業損害が漏れていないか、通院期間が正しく評価されているか。争点は複数あります。

※掲載している解決事例は、いずれも実際に当事務所が取り扱った事案です。ご依頼者が特定されないよう、内容の一部を調整しています。賠償額は事故の態様・傷病の内容・過失割合などの個別事情によって大きく異なるため、同様の結果を保証するものではありません。

当事務所の実務から:緑本の重傷表は、通常表のおおむね1.2〜1.25倍です。
重度の骨折や臓器損傷、高度の意識障害が相当期間続いたケースには、通常表ではなく重傷表が使われます。両方の表を同一条件で突き合わせると、通院6か月で120万円→150万円、通院10か月で152万円→190万円、通院10か月+入院1か月で182万円→228万円と、通院を伴うケースではおおむね1.25倍。入院のみのケースはやや低く1.20倍程度です。「通常」か「重傷」かの振り分けだけで金額が2割から2割5分変わるため、傷病の評価は交渉の要になります。

当事務所には、交通事故のほか離婚・相続・不動産・労働・債務整理などを含め、年間500件を超えるご相談が寄せられています。交通事故については、示談交渉の段階からのご依頼はもちろん、事故直後の「これからどうすればよいか」というご相談も多くお受けしています。上の3つの事例は、いずれも早い段階でご相談いただけたことが結果につながったものです。

交通事故の慰謝料に関するよくある質問

交通事故の慰謝料は1日あたりいくらですか?

自賠責基準では1日4,300円です。2020年3月31日以前に起きた事故は4,200円になります。対象になる日数は、治療期間の日数と実治療日数を2倍した日数の、少ないほうです。緑本(大阪基準)は日額ではなく入通院の期間で表から決まるため、1日あたりに換算すると通院1か月の場合で約9,000円になります。日額で比べると自賠責の2倍以上です。

むちうちで3か月通院した場合、示談金はいくらくらいになりますか?

他覚所見がない場合、慰謝料は緑本で48万円、赤い本で53万円です。緑本は通常表の72万円に3分の2を適用した金額、赤い本は別表IIの金額です。示談金の総額はこれに治療費・通院交通費・休業損害が加わり、過失割合があればその分が減額されます。10対0の事故で休業損害がなければ、慰謝料がほぼそのまま示談金の中心になります。

緑本と赤い本は、どちらで請求すればよいですか?

傷病と通院の実態によって有利なほうが入れ替わるため、一律には決まりません。骨折など画像で異常が確認できる傷病では緑本がわずかに高く、むちうちで他覚所見がない場合は赤い本の別表IIのほうが5万〜12万円ほど高くなります。一方、通院が不規則だった場合の頭打ちは、緑本が3.5倍、赤い本の別表IIが3倍なので、この点では緑本が有利です。後遺障害慰謝料では第2級〜第7級は緑本、第9級〜第12級は赤い本が高くなります。

通院15回だと慰謝料はいくらですか?

通院回数だけでは決まりません。入通院慰謝料の基礎になるのは初診日から最終通院日までの期間だからです。ただし通院が長期かつ不規則な場合は頭打ちがあり、15回なら、緑本では52.5日(約1.75か月)、赤い本の別表IIでは45日(1.5か月)が上限の目安になります。

入院していませんが、骨折でギプスを巻いていた期間があります。通院の慰謝料しか請求できませんか?

入院慰謝料として請求できる場合があります。緑本には、入院待機中の期間やギプス固定中等による自宅安静期間は入院期間とみることがある、と明記されているためです。自賠責診断書には「ギプス固定期間」の欄があり、ここに記載があれば主張の根拠になります。見落とされやすい項目なので、診断書を必ず確認してください。

専業主婦ですが、収入がなくても休業損害はもらえますか?

もらえます。配偶者や子などの家族のために家事をしている方は「家事従事者」として扱われ、実際の収入がなくても休業損害が認められるためです。金額は賃金センサスの平均賃金を基礎に算定します。パートをしながら家事もしている兼業主婦の方も対象で、実収入と平均賃金の高いほうが基礎になります。保険会社の提示書に休業損害の項目がないケースは珍しくないため、必ず確認してください。

他覚所見がなくても、むちうちで後遺障害14級は認定されますか?

認定されることがあります。14級9号は「局部に神経症状を残すもの」であり、画像上の他覚所見が必須とはされていないためです。判断材料になるのは、事故の規模が受傷の程度と整合しているか、症状が事故直後から一貫して訴えられているか、通院実績が症状の重さと見合っているかといった点です。当事務所では、明確な他覚所見がない頸椎捻挫で、事故態様・診療録の記載・100回を超える通院実績から14級9号の認定を受けた事案があります。診療録に何が書かれているかが結論を分けます。

骨折しましたが骨はくっついたと言われました。後遺障害は関係ありませんか?

骨癒合していても、関節の可動域に制限が残っていれば後遺障害の対象になります。骨がついたことと、事故前と同じように動かせることは別だからです。可動域制限は、健側と患側の角度を比較して評価されるため、症状固定の前に医師へ可動域を正確に測定・記載してもらう必要があります。当事務所では、骨癒合を理由に後遺障害の申請をせず示談する寸前だった股関節骨折の事案で、適切な等級認定を受けて提示額50万円が400万円になったケースがあります。

後遺障害が非該当でした。もう慰謝料はもらえませんか?

14級に至らない後遺症でも、それに応じた慰謝料が認められることがあります。緑本にも赤い本にも、その旨が明記されています。たとえば歯科補綴は3歯以上で14級ですが、2歯の場合は14級に至りません。また、認定された等級より上の等級には至らないものの症状が重いケースでは、認定等級の慰謝料に相当額を加算することがあります。

保険会社から治療費を打ち切ると言われました。通院をやめるべきですか?

すぐにやめる必要はありません。症状固定の時期を判断するのは主治医であり、保険会社ではないからです。打ち切り後も健康保険を使って通院を続け、後から必要な治療であったと主張して治療費を請求する方法があります。ただし賠償上の症状固定は「治療の効果が上がらなくなった時点」とされるため、症状が横ばいのまま漫然と通院を続けると、その期間の慰謝料が認められないおそれがあります。打ち切りを告げられた時点でご相談ください。

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難波みなみ法律事務所(大阪市中央区西心斎橋)|弁護士費用特約が使えるかどうかも、その場で確認します。

本記事は、緑本(大阪地裁における交通損害賠償の算定基準)、赤い本(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)および自賠責保険の支払基準にもとづき、記事作成時点の運用をまとめたものです。緑本の入通院慰謝料表は、平成17年1月1日以降に発生した事故に適用される基準によります。実際の賠償額は、傷病名・治療経過・過失割合・既往症・加害者の運転態様などの個別事情によって増減します。掲載している金額は目安であり、結果を保証するものではありません。
監修:弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会 登録番号49544)/難波みなみ法律事務所

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