Q. 陣痛促進剤を使った出産で事故が起きました。損害賠償を請求できますか?
医学的な必要(適応)がないのに使った、用法・用量(開始量・増やし方・上限)を守らなかった、投与中に赤ちゃんの心拍の異常や子宮の収縮が強すぎる状態が出たのに減量・中止をせず続けた・増やした、分娩監視装置(CTG)による連続的な監視を怠ったといった注意義務違反があり、適切に対応していれば結果を避けられた(因果関係)といえる場合には、損害賠償が認められることがあります。
Q. どんな被害が問題になりますか?
子宮の収縮が強くなりすぎること(過強陣痛)から、子宮破裂・頸管裂傷・赤ちゃんの低酸素(胎児機能不全)・新生児仮死・脳性麻痺、お母さんの大量出血・母体死亡などが問題になります。
Q. まず何をすべきですか?
カルテ・分娩監視装置(CTG)の記録・投与の記録(投与量と増やした時刻)・看護/助産記録を早めに確保することが重要です。いつ・どれだけ投与し、心拍や子宮収縮の異常にどう対応したかが立証の鍵になります。早めに弁護士へご相談ください。
「陣痛促進剤を使ってから急にお産が進み、赤ちゃんの心拍が落ちた」「どんどん点滴を増やされ、子宮が破裂した」「出産後に大量出血が止まらなかった」――陣痛促進剤(子宮収縮薬)は、お産の現場で日常的に使われる薬です。適切に使えば安全で有効ですが、使う必要の判断・量の調節・使っている間の監視を誤ると、子宮の収縮が強くなりすぎて、赤ちゃんやお母さんに重い被害が生じることがあります。しかも、その使い方には添付文書やガイドラインで細かいルールが定められており、記録から検証しやすいという特徴があります。この記事では、陣痛促進剤の副作用と、使い方を誤った事故(医療過誤)でどのような場合に損害賠償が認められるのか、過失が問われる場面と立証のポイントを、患者・家族側の立場から弁護士が解説します。
陣痛促進剤(子宮収縮薬)とは
陣痛促進剤は、子宮を収縮させて陣痛を起こしたり強めたりする薬で、医学的には子宮収縮薬と呼ばれます。使う目的によって、陣痛がまだ来ていない段階で分娩を目的に子宮収縮を起こす「分娩誘発」(陣痛誘発剤)と、陣痛が弱くてお産が進まないとき(微弱陣痛)に陣痛を強める「分娩促進」(陣痛促進剤)に分けられます。使われる薬には、主にオキシトシン製剤(アトニンOなど)と、プロスタグランジン製剤(内服のPGE2錠、点滴のPGF2αなど)があります。
| 主な薬剤 | 使い方・特徴 |
|---|---|
| オキシトシン(点滴) | 最も多く使われる。点滴の速さで効き目を細かく調節できるが、効きやすさには個人差が大きく、少量でも強い収縮が起こることがある。輸液ポンプ(精密持続点滴装置)を使い、ごく少量から始めて、様子をみながら少しずつ増やす。 |
| プロスタグランジン(内服・点滴) | 内服のPGE2錠(1時間以上あけて1錠ずつ)や、点滴のPGF2αがある。内服の錠剤は点滴に比べて効き目を細かく調節しにくい。 |
| 共通する注意 | いずれも子宮を強く収縮させる作用があり、使う間は赤ちゃんの心拍と子宮の収縮を監視する必要がある。過強陣痛・前置胎盤・横位などでは使ってはいけない(禁忌)。オキシトシンとプロスタグランジンを同時に併用することも禁忌とされている。 |
分娩誘発・促進が検討されるのは、妊娠を続けるよりも分娩したほうがお母さんや赤ちゃんにとって安全な場合です。具体的には、微弱陣痛、前期破水、予定日の超過、妊娠高血圧症候群などがあげられます。つまり、陣痛促進剤は医学的な必要(適応)があって初めて使う薬であり、必要がないのに使うことは、それ自体が問題になりえます。
数字で見る現在地
陣痛促進剤は、特別な薬ではなく、日常的に使われています。日本産科婦人科学会の周産期統計(2020年)によると、妊娠22週以降に出産した約20万件のうち、分娩誘発・促進が行われたのは約6万件(30.1%)でした。つまり、お産のおよそ3件に1件で使われている計算です。
一方で、使い方の問題も指摘されています。産科医療補償制度の再発防止委員会が、重度の脳性麻痺が生じた事例のうち子宮収縮薬を使った150件を分析したところ、専門家による医学的評価で何らかの指摘があった事例が113件(75.3%)にのぼりました。指摘の内訳(重複あり)は次のとおりです。
| 指摘された内容 | 件数(割合) | 具体例 |
|---|---|---|
| 投与量・増やし方 | 57件(38.0%) | 開始の量が基準より多い、増やす間隔が短い、1回の増量が基準より多い。 |
| 心拍異常が出たときの使い方 | 52件(34.7%) | 赤ちゃんの心拍の記録が胎児機能不全を思わせる状態なのに、投与を続けた・増やした。 |
| 文書による説明・同意 | 47件(31.3%) | 文書を使った説明をせず、口頭だけで説明・同意を取った。 |
| 分娩監視装置の連続装着 | 26件(17.3%) | 投与中に分娩監視装置を連続して着けていなかった。 |
| 子宮の収縮が多すぎるときの使い方 | 22件(14.7%) | 子宮の収縮が10分間に6回以上あるのに、投与を続けた・増やした。 |
この集計は脳性麻痺が生じた事例についてのもので、使い方の問題が直ちに脳性麻痺の原因と証明されたという意味ではありません。もっとも、投与量・増やし方や、異常が出たときの対応、監視、説明・同意という、守るべきルールが守られていなかった事例が少なくないことを示しています。これらは、過失を検討するときの中心的な着眼点と重なります。
なぜ事故が起きるのか(過強陣痛・子宮の収縮が強すぎる状態)
陣痛促進剤の最大の危険は、子宮の収縮が強くなりすぎること(過強陣痛)です。子宮の収縮が10分間に6回を超える状態(子宮頻収縮)が続くと、収縮の合間に十分な酸素が赤ちゃんに届かなくなり、また子宮そのものに過大な負担がかかります。これが次のような被害につながります。
| 起こりうること | 内容 |
|---|---|
| 赤ちゃんの低酸素(胎児機能不全) | 強すぎる収縮で酸素が届かず、心拍が落ちる。長く続くと新生児仮死・低酸素性虚血性脳症・脳性麻痺につながることがある。 |
| 子宮破裂・頸管裂傷 | 強すぎる収縮や急すぎるお産で、子宮や子宮の出口(頸管)が裂ける。お母さんの大量出血・赤ちゃんの重い低酸素の原因になる。帝王切開の既往がある場合はとくに危険。 |
| お母さんの大量出血 | 急なお産や強い収縮のあと、子宮がうまく縮まらず出血が止まらなくなること(弛緩出血)があり、出血性ショック・母体死亡につながることがある。羊水塞栓などの重い合併症の報告もある。 |
オキシトシンの添付文書には、「過強陣痛や強直性子宮収縮により、胎児機能不全、子宮破裂、頸管裂傷、羊水塞栓等が起こり、母体あるいは児が重篤な転帰に至った症例が報告されている」と警告が記載されています。そして、効きやすさには個人差が大きく少量でも過強陣痛になることがあるため、ごく少量から始め、精密持続点滴装置(輸液ポンプ)を使って投与することが求められています。過強陣痛・切迫子宮破裂・重度の胎児機能不全などは「禁忌」(使ってはいけない)とされています。
「副作用」と「過失(医療ミス)」の切り分け
ここで大切なのは、「副作用」と「過失(医療ミス)」は別物だということです。陣痛促進剤には、適切に使っても一定の危険が伴います。適応があって、用法・用量を守り、きちんと監視をして、異常が出たら中止するなど適切に対応していたのに起きてしまった結果は、ただちに過失になるわけではありません。
過失が問題になるのは、守るべきルール(適応・用法用量・監視・中止・説明)が守られていなかった場合です。医薬品の添付文書に記載された使用上の注意に従わず、それによって事故が起きた場合には、特段の合理的な理由がない限り、医師の過失が推認されるというのが最高裁の考え方です(最高裁平成8年1月23日判決)。もっとも、この過失の推定は覆ることもあります。医師の側で、患者の病態や救命の必要性などから添付文書と異なる使い方が当時の医学的な水準に照らして合理的だったことを具体的に示せた場合(特段の合理的理由)には、過失が否定されることもあります。ただし、「ほかの医師も同じようにしていた」「経験上このやり方だった」というだけでは足りないとされています。陣痛促進剤は、添付文書やガイドラインに開始量・増やし方・上限・監視・中止の基準が具体的に定められているため、その基準を守っていたかどうかを記録から検証しやすいという特徴があります。
過失が問われる主な場面
陣痛促進剤の事案で医療機関の過失が問われるのは、大きく次の場面です。
| 場面 | 内容の例 |
|---|---|
| ① 適応がないのに使用 | 医学的に陣痛を誘発・促進すべき必要(適応)がないのに使った。安静にして自然な陣痛を待つべき状況だった。 |
| ② 用法・用量違反 | 開始の量が基準より多い、増やす間隔が短い、1回の増量が多い、上限を超えた。内服の錠剤を定められた量を超えて(一度に複数錠など)使った。 |
| ③ 精密持続点滴装置を使わない | 点滴の速さを細かく調節できる輸液ポンプを使わず、量の管理が不正確だった。 |
| ④ 分娩監視装置の連続監視を怠る | 投与中に分娩監視装置(CTG)を連続して着けず、赤ちゃんの心拍や子宮収縮を十分に監視しなかった。 |
| ⑤ 異常が出たのに中止・減量しない | 子宮の収縮が強すぎる・多すぎる、赤ちゃんの心拍に異常が出たのに、投与を中止・減量せず、続けた・増やした。 |
| ⑥ 急変時の対応の遅れ | 胎児機能不全や子宮破裂が疑われたのに、急速遂娩(緊急帝王切開など)や止血・輸血・搬送が遅れた。 |
| ⑦ 説明・同意の不足 | 陣痛促進剤を使う必要性と危険性を十分に説明せず、文書による同意を得ないまま使った。 |
どこまでの対応が求められるかは、診療当時の医療水準に照らして判断されます(最高裁平成7年6月9日判決)。とくにオキシトシンの点滴では、「5単位を溶解液500mLに薄め、1時間あたり6〜12mLから始め、30分以上あけて6〜12mLずつ増やし、上限は1時間あたり120mL」といった具体的な基準がガイドラインに示されています。投与中に子宮の収縮が多すぎる状態(10分間に6回超)や赤ちゃんの心拍の異常が出た場合には、いったん半分以下に減らすか中止を検討するとされています。これらの基準に沿っていたかが、過失を検討する出発点になります。
投与中の赤ちゃんの心拍の監視そのものが争点になる場合は分娩監視義務違反・CTG見落としの記事、強すぎる収縮の結果として子宮が裂けた場合は子宮破裂の記事もあわせてご覧ください。陣痛促進剤の事案では、これらの過失が重なって問題になることが多くあります。
過失が争われた裁判例
陣痛促進剤の使い方をめぐっては、医療機関の責任を認めた裁判例が複数あります。
| 裁判例 | 認められた過失の例 |
|---|---|
| 広島地裁 平成2年3月27日判決 | 陣痛を誘発する必要がなかったのに、内服の陣痛誘発剤を通常の2倍(一度に2錠)投与し、過強陣痛・急なお産から頸管などの裂傷と弛緩出血を起こし、さらに輸血の量も不足して、お母さんが出血で亡くなった事案。「錠剤は点滴に比べて効き目を調節しにくいので、用法・用量を忠実に守るべきである」として、医師の不法行為責任を認めた。 |
| 広島地裁 平成8年3月28日判決 | 分娩誘発剤(オキシトシン)を投与したあとに子宮破裂が起きた事案。医学的な適応がないのに分娩誘発剤を使った過失と、投与開始時に分娩監視装置を着けず医師が自ら観察もしないまま看護師の報告だけで増量した監視義務違反を認めた。 |
| 高松高裁 平成8年3月28日判決 | 陣痛促進剤の投与中、赤ちゃんの心拍に遅発一過性徐脈(子宮収縮に遅れて心拍が下がる、低酸素を疑う所見)がくり返し出ていたのに、投与を中止・減量しなかった点に注意義務違反を認めた。 |
| 福岡地裁 平成11年7月29日判決 | 分娩誘発でオキシトシンの点滴の速さを途中で加速して過量になった事案。投与速度を調節すべき注意義務に違反した過失を認めた。 |
| 大分地裁 平成9年2月24日判決 | オキシトシンの投与中に子宮破裂が起きた事案。薬の効果がないと分かった時点で投与を中止し、または帝王切開に切り替えていれば赤ちゃんを救えたとして、医療機関の責任を認めた(結果回避可能性)。 |
| 名古屋地裁 平成26年9月5日判決 | 陣痛促進剤の投与などの判断を誤った結果、赤ちゃんに重い障害が残ったとして、医療機関に高額の損害賠償を命じた。分娩監視装置の記録から、出生の前に赤ちゃんが機能不全に陥っていたと判断された(詳細はCTGの記事)。 |
これらの裁判例に共通するのは、「使う必要があったか(適応)」「量と増やし方は適切だったか」「きちんと監視し、異常が出たら中止・対応したか」が問われている点です。逆にいえば、これらを記録から検証することが、責任を明らかにする出発点になります。なお、分娩に立ち会う助産師についても、赤ちゃんの心拍の異常を認めたときは医師に報告し、陣痛促進剤の中止や減量を求めるべき注意義務があるとして、責任が問題になった裁判例があります(助産師の義務については保健師助産師看護師法38条。臨時応急の手当は除く)。
因果関係・補償制度と損害
過失が疑われる場合でも、因果関係(適切に対応していれば結果を避けられたか)が争点になります。適切な医療で結果を避けられたことが高い確からしさ(高度の蓋然性)で認められれば、発生した損害の賠償が認められます。仮にそこまで認められなくても、適切な医療で救えた「相当程度の可能性」があったといえるときには、その限度で損害賠償が認められることがあります(最高裁平成12年9月22日判決)。陣痛促進剤の事案では、いつ投与を減らす・やめるべきだったか、その時点で中止や急速遂娩をしていれば結果を避けられたか、が因果関係を判断するうえで重要になります。なお、陣痛促進剤を使ったあとに重い結果が生じても、投与と結果との因果関係が当然に認められるわけではなく、因果関係や監視義務違反が否定されて過失が認められなかった裁判例もあります。だからこそ、異常所見が出た時期・投与を中止すべき時点・その時点での対応を、記録に基づいて具体的に検討することが重要です。
因果関係は、次のような点を記録から積み上げて判断されます。①経過の整合――陣痛促進剤の投与→子宮の収縮が強すぎる状態→赤ちゃんの心拍の悪化(低酸素)→脳障害という流れが、分娩監視装置(CTG)の記録・投与記録・出生時や出生後の状態と、時間的にも医学的にも矛盾なくつながること。②不手際の存在――投与量・増やし方や、監視・中止の対応に誤りがあったこと。③他の原因の除外――脳障害が、先天的な病気や羊水塞栓など別の原因によるものではないこと。これらを診療記録と協力医の意見(必要に応じて鑑定)で示します。あわせて、適切に対応していれば結果を避けられた(結果回避可能性)といえるか――たとえば、速やかに投与を中止し帝王切開などで早く赤ちゃんを出していれば重い仮死を避けられた高度の蓋然性があったか――も検討されます。
被害が赤ちゃんの重度の脳性麻痺(身体障害者手帳1・2級相当)であれば、産科医療補償制度の対象になりうるほか、過失があれば損害賠償も請求できます。ただし、分娩機関が賠償責任を負う場合は補償金が損害賠償金に充当され、両方を重複して受け取ることはできません。一方、お母さんの大量出血・子宮摘出・死亡は補償制度の対象外のため、損害賠償が主な救済手段になります。赤ちゃんが亡くなった場合の損害は医療事故で死亡したときの記事もあわせてご覧ください。
立証と、まずすべきこと
陣痛促進剤の事案では、いつ・どれだけ投与し、赤ちゃんの心拍や子宮の収縮がどう変化し、それにどう対応したかを、記録に基づいて時系列で突き合わせることが出発点です。
カルテ、分娩監視装置(CTG)の記録、陣痛促進剤の投与記録(薬剤名・投与量・増やした時刻)、指示の記録、看護・助産記録、入院経過、手術・麻酔・輸血の記録は、投与と監視・対応を検証する中心的な資料です。産科は記録の内容で結論が左右されます。記録の改ざん・隠匿のおそれなど、後で証拠として使うことが困難になる事情がある場合には、裁判所を通じて記録を保全する「証拠保全」(民事訴訟法234条)を検討します。手順は証拠収集・カルテ開示の記事にまとめています。
陣痛促進剤を使う必要(適応)があったか、開始量・増やす間隔・1回の増量・上限が基準に沿っていたか、輸液ポンプを使っていたか、分娩監視装置を連続して着けていたか、子宮の収縮が強すぎる・多すぎる状態や心拍の異常が出た時刻はいつか、その時点で減量・中止や急速遂娩をしたかを、CTGの記録と投与記録から突き合わせます。
確保した記録を、産科にくわしい協力医とともに精査し、適応・用法用量・監視・中止・対応が適切だったか、適切に対応していれば結果を避けられたか(因果関係)を検討します。あるべき対応は、添付文書や当時のガイドライン、標準的な医学文献で示し、協力医の意見とあわせて具体的に立証していきます。
陣痛促進剤の事案は「薬は適切に使った」「体質で効きすぎた」と説明されがちです。しかし、この薬は開始量・増やし方・上限・監視・中止の基準が添付文書やガイドラインに具体的に定められているという特徴があり、分娩監視装置(CTG)の記録と投与記録を時刻で突き合わせると、基準どおりに使われていたか、子宮の収縮が強すぎる・多すぎる状態や心拍の異常が出た時点で減量・中止がされていたかが、客観的に見えてくることがあります。添付文書の注意に従わずに事故が起きた場合には、特段の理由がない限り医師の過失が推認されるという最高裁の考え方(最高裁平成8年1月23日判決)もあり、記録がそろえば立証の見通しを立てやすい類型です。産科は記録の内容で結論が大きく変わるため、必要な事情があるときは証拠保全(民事訴訟法234条)も含めて記録の確保を検討します。当事務所には元裁判官の弁護士が在籍し、看護を学んだ協力弁護士とも連携して、記録から過失と因果をどう組み立てるかの見立てをお伝えできます。
よくある質問(FAQ)
陣痛促進剤を使った出産で事故が起きました。損害賠償を請求できますか?
陣痛促進剤を使う必要(適応)、量と増やし方、投与中の監視、異常が出たときの中止・対応、説明・同意などに注意義務違反があり、適切に対応していれば結果を避けられたといえる場合には、損害賠償が認められることがあります。結果が起きたこと自体ではなく、守るべきルールが守られていたか、因果関係があるかが検討されます。
陣痛促進剤(子宮収縮薬)とは何ですか。どんなときに使いますか?
子宮を収縮させて陣痛を起こしたり強めたりする薬です。陣痛がまだ来ていない段階で分娩のために使う「分娩誘発」と、陣痛が弱くてお産が進まないときに使う「分娩促進」があります。妊娠を続けるより分娩したほうが安全な場合(微弱陣痛、前期破水、予定日の超過、妊娠高血圧症候群など)に、医学的な必要があって使う薬です。お産のおよそ3件に1件で使われています。
「副作用」と「医療ミス(過失)」はどう違うのですか?
陣痛促進剤には、適切に使っても一定の危険が伴います。適応があり、用法・用量を守り、きちんと監視し、異常が出たら中止するなど適切に対応していたのに起きた結果は、ただちに過失になるわけではありません。過失が問題になるのは、使う必要の判断・量・監視・中止・説明といった守るべきルールが守られていなかった場合です。
用法・用量を守らない投与は過失になりますか?
問題になります。陣痛促進剤は、開始の量・増やす間隔・1回の増量・上限が添付文書やガイドラインに具体的に定められています。医薬品の添付文書に記載された使用上の注意に従わず、それによって事故が起きた場合には、特段の合理的な理由がない限り医師の過失が推認される、というのが最高裁の考え方です(最高裁平成8年1月23日判決)。開始量が多い、増やす間隔が短い、上限を超えた、内服の錠剤を定められた量を超えて使った、といった点は検証の対象になります。
過強陣痛・子宮の収縮が強すぎるとどうなりますか?
子宮の収縮が強くなりすぎたり多くなりすぎたりすると(過強陣痛・子宮頻収縮)、収縮の合間に赤ちゃんへ十分な酸素が届かなくなり、心拍が落ちて胎児機能不全・新生児仮死・脳性麻痺につながることがあります。また、子宮破裂や頸管裂傷、お母さんの大量出血(弛緩出血)の原因にもなります。そのため、収縮が多すぎる状態(10分間に6回超)や心拍の異常が出たら、投与を半分以下に減らすか中止を検討することが求められます。
投与中に赤ちゃんの心拍に異常が出たのに続けられました。問題になりますか?
問題になります。ガイドラインでは、投与中に子宮の収縮が多すぎる状態や赤ちゃんの心拍の異常が出た場合には、陣痛促進剤をいったん半分以下に減らすか中止を検討するとされています。異常が出ているのに投与を続けた・増やしたという経過は、分娩監視装置(CTG)の記録と投与記録を突き合わせることで検証できます。実際に、こうした対応の誤りについて医療機関の責任を認めた裁判例があります。
陣痛促進剤の説明・同意がありませんでした。問題になりますか?
ガイドラインでは、陣痛促進剤を使う前に、その必要性と危険性を十分に説明し、文書による同意を得てから使うことが求められています。説明が口頭だけだった、危険性の説明がなかった、同意を得ないまま使われた、という場合には、説明・同意に関する問題として検討の対象になります。裁判例には、医学的な必要が乏しく患者の強い希望もないのに副作用の危険を説明しなかった点に説明義務違反を認めたものがある一方、あらゆる副作用を常に説明する義務まではないとして説明義務違反を否定したものもあり、説明すべき範囲は患者の状態や緊急性などに応じて個別に判断されます。
母体が大量出血で亡くなりました。賠償を請求できますか?
陣痛促進剤を使う必要がなかった、量が多すぎた、といった過失から過強陣痛・急なお産が起き、頸管などの裂傷や弛緩出血で大量出血に至ったといえる場合や、大量出血が起きてからの止血・輸血・搬送が遅れた場合には、損害賠償が認められることがあります。お母さんの被害は産科医療補償制度の対象外のため、損害賠償が主な救済手段になります。実際に、不要な陣痛促進剤の過剰投与でお母さんが亡くなった事案で、医師の責任を認めた裁判例があります。
赤ちゃんに脳性麻痺が残りました。補償制度と賠償はどうなりますか?
赤ちゃんに重度の脳性麻痺(身体障害者手帳1・2級相当)が残った場合は、産科医療補償制度の対象になりうるほか、過失があれば損害賠償も請求できます。ただし、分娩機関が賠償責任を負う場合は補償金が損害賠償金に充当され、両方を重複して受け取ることはできません。詳しくは脳性麻痺と産科医療補償制度の記事をご覧ください。
まず何をすればよいですか?
カルテ・分娩監視装置(CTG)の記録・陣痛促進剤の投与記録(投与量と増やした時刻)・看護/助産記録・手術や輸血の記録が失われたり書き換えられたりしないうちに、早期に確保することが重要です。記録の改ざん・隠匿のおそれなど、後で証拠として使うことが困難になる事情があれば、証拠保全(民事訴訟法234条)も検討します。時効もあるため、早めに弁護士へご相談ください。
陣痛促進剤の分娩事故でお悩みの方へ
「薬は適切に使った」と言われても、分娩監視装置(CTG)の記録や投与記録は客観的な証拠として検証できます。陣痛促進剤は開始量・増やし方・上限・監視・中止の基準が定められており、記録をたどれば問題点が見えてくることがあります。初回無料で、過失の可能性と見通しをお伝えします。大阪・なんばの弁護士が、お電話・メール・LINEで承ります。
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監修:難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号 49544/中小企業診断士)。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。初回相談30分無料。本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。陣痛促進剤の適応・用法用量・監視・中止・対応の適否や医療水準の評価、因果関係の判断は、個別の事情により異なります。




