Q. 薬の副作用が出たら、投薬ミスとして損害賠償を請求できますか?
副作用が出たこと自体が、ただちに過誤になるわけではありません。処方・調剤・投与のどこかに注意義務違反(過失)があり、それによって被害が生じたといえる場合に、損害賠償が認められます。
Q. 薬の取り違えや飲み合わせのミスは、誰の責任ですか?
場面によって責任を負う人が変わります。処方の誤りは医師、調剤の誤りは薬剤師・薬局、投与(与薬)の誤りは看護師・病院が問題になります。複数の当事者に請求できる場合があります。
Q. まず何をすべきですか?
処方箋・お薬手帳・薬の説明書・投与記録など、薬に関する記録を保管し、カルテを確保することが最優先です。時効もあるため、早めに弁護士へご相談ください。
処方された薬を飲んで体調が悪化した、点滴のあとに重い副作用が出た――そんなとき、「薬のミスではないか」「損害賠償を請求できるのか」と考えるのは自然なことです。もっとも、薬による悪い結果がすべて医療過誤になるわけではありません。この記事では、投薬・薬剤過誤がどのような場面で問題になるのか、誰が責任を負うのか、そして立証のために何が必要かを、患者側の立場から弁護士が解説します。
投薬・薬剤過誤とは
投薬・薬剤過誤とは、薬の処方から患者に投与されるまでの過程で、注意義務に違反したミスによって患者に被害が生じることをいいます。薬には本来的に副作用があり、体質によっては予測できない反応が起こることもあります。そのため、副作用や悪い結果が出たことだけで、当然に過誤になるわけではありません。損害賠償が認められるには、その過程のどこかに過失があり、それによって被害が生じたこと(因果関係)が必要です。
過誤が起こる4つの場面
薬が患者に届くまでには、いくつもの人の手が関わります。過誤は、大きく次の4つの場面に分けて考えると整理しやすくなります。
| 場面 | 担い手 | 問題になるミスの例 |
|---|---|---|
| 処方 | 医師 | 薬剤の選択の誤り、用量・用法の誤り、禁忌薬や飲み合わせ(相互作用)の見落とし、アレルギー歴の確認漏れ、腎機能などに応じた減量の失念 |
| 調剤 | 薬剤師・薬局 | 薬の取り違え、分量・規格の誤り、監査(ダブルチェック)の失敗、疑わしい処方をそのまま調剤 |
| 与薬(投与) | 看護師・病院 | 患者の取り違え、投与経路・投与速度の誤り、二重投与、点滴の管理ミス |
| 経過観察 | 医師・看護師 | 投与後の副作用の兆候の見落とし、中止・変更の判断の遅れ |
実際の事案では、これらが組み合わさっていることも少なくありません。どの場面のミスなのかを特定することが、責任を追及する相手を見極める出発点になります。
誰が責任を負うのか
投薬・薬剤過誤の特徴は、責任を負いうる人が複数いることです。とくに院外の薬局で薬を受け取った場合は、病院とは別に、薬局・薬剤師の責任が問題になることがあります。
医師(処方)の責任
薬剤の選択・用量・用法、禁忌や相互作用、患者のアレルギー歴や既往症の確認は、処方する医師の責任です。これらを怠って患者に被害が生じれば、過失が問題になります。勤務医のミスについては、雇用主である病院も使用者として責任を負います。
薬剤師(調剤)の責任 ―― 疑義照会の義務
薬剤師には、単に処方どおりに薬を用意する以上の役割があります。薬剤師法24条は、処方箋に疑わしい点があるときは、処方した医師に問い合わせて確かめた後でなければ調剤してはならないと定めています。これを「疑義照会」といいます。明らかな過量や、禁忌・危険な飲み合わせが処方箋にあるのに、そのまま調剤して被害が生じた場合には、薬剤師・薬局の過失が問題になります。また、薬剤師は、医師の同意を得ずに処方内容を変更して調剤することも原則としてできません(薬剤師法23条2項)。
看護師(与薬)・病院の責任
処方・調剤が正しくても、実際に投与する段階でのミス――患者の取り違え、点滴の速度や経路の誤り、二重投与など――があれば、投与を担当した看護師と病院の責任が問題になります。
整理すると。「病院を訴えれば足りる」とは限りません。院外処方であれば薬局が、複数の医療機関にかかっていれば飲み合わせを見落とした側が、それぞれ責任を負うことがあります。どの場面のミスかを見極めて、請求する相手を組み立てます。
添付文書に従わなかったときの「過失の推定」
薬には、製薬会社が作成する「添付文書(能書)」があり、使用上の注意・禁忌・用量・投与後の観察方法などが記載されています。この添付文書は、投薬・薬剤過誤を判断するうえで非常に重要な意味を持ちます。
最高裁は、医師が医薬品を使用するにあたって添付文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことについて特段の合理的理由がない限り、医師の過失が推定されると判断しました(最高裁判決 平成8年1月23日。腰椎麻酔薬の注意事項に反して血圧測定の間隔をあけ、幼児に重い後遺症が残った事案)。「推定される」ため、患者側が一から過失を立証しなくても、添付文書に反した事実を示せば、病院側が合理的な理由を説明できない限り、過失が認められやすくなります。
誤解に注意。これは「添付文書に反したら必ず負ける」という意味ではありません。あくまで過失が推定される(合理的な理由があれば覆り得る)というものです。反対に、添付文書に形式的に従っていれば当然に免責される、というものでもありません。個々の事案では、当時の医療水準に照らした検討が必要です。
投薬・薬剤過誤を立証するには
投薬・薬剤過誤でも、過失と因果関係を患者側が立証する必要があります。まずは、薬に関する記録を確保することがすべての出発点です。
お薬手帳、薬の説明書、処方箋の控え、領収書などは、患者側の手元にある重要な証拠です。捨てずに保管してください。これだけでも、いつ・どの薬が・どれだけ処方されたかがわかります。
病院のカルテや処方箋、薬局の調剤録・薬剤服用歴(薬歴)、看護記録の投与実施記録などを入手します。改変のおそれがあるときは証拠保全を検討します。手順は証拠収集・カルテ開示の記事で解説しています。
使われた薬の添付文書を取り寄せ、用量・禁忌・観察方法などに反していないかを確認します。過失と因果関係の立証には、同じ分野の協力医の意見も重要になります。過失・因果関係の立証の考え方は手術ミスの記事もあわせてご覧ください。
投薬過誤は、お薬手帳や説明書といった患者側の記録が、そのまま強い証拠になる分野です。「体調が悪くなっただけ」と思わずに、まずは薬に関する紙をすべて残しておいてください。当事務所には元裁判官の弁護士が在籍し、記録から過失をどう組み立てるかの見立てもお伝えできます。
病院・薬局側の反論と、その限界
投薬・薬剤過誤を争うと、病院・薬局側から次のような反論が出ることがあります。ただし、これらには限界があります。
| 相手方の反論 | 反論の限界・検討すべき点 |
|---|---|
| 「予測できない特異体質だった」 | 本当に予測不可能だったかは、アレルギー歴や既往症の確認、添付文書の禁忌の記載に照らして検証すべきです。確認を怠っていれば、過失は別に問題になります。 |
| 「副作用は一定の確率で起こるもの」 | 副作用が起こりうること自体は事実でも、その発生を防ぐ注意義務や、発生後に速やかに対応する注意義務を怠っていれば、過失は別に問題になります。 |
| 「患者が指示どおり服用しなかった」 | 服薬指導や説明が十分だったかが問われます。説明不足があれば、患者側の落ち度として一方的に片付けることはできません。 |
これらの反論に「そういうものか」と引き下がると、本来認められるべき賠償が得られないことになりかねません。反論の当否は、記録と添付文書、医学的根拠に基づいて検討します。請求できる損害や慰謝料の考え方は、医療事故の慰謝料相場の記事をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
薬の副作用が出たら、投薬ミスとして損害賠償できますか?
副作用が出たこと自体では足りません。処方・調剤・投与のどこかに注意義務違反(過失)があり、それによって被害が生じたこと(因果関係)を立証できて、はじめて損害賠償が認められます。薬には本来的に副作用があり、悪い結果が出たことだけでは過誤とはいえないためです。
投薬・薬剤過誤には、どんな種類がありますか?
大きく4つの場面に分かれます。医師による処方のミス(薬剤選択・用量・禁忌や飲み合わせの見落とし)、薬剤師による調剤のミス(取り違え・分量の誤り)、看護師による与薬のミス(患者取り違え・投与経路や速度の誤り)、そして投与後の経過観察のミス(副作用の見落とし・中止の遅れ)です。
薬の取り違えや飲み合わせのミスは、誰の責任になりますか?
場面によって異なります。処方の誤りは医師(と勤務先の病院)、調剤の誤りは薬剤師・薬局、投与の誤りは看護師・病院が責任を負います。院外の薬局で薬を受け取った場合は、病院とは別に薬局の責任が問題になることがあり、複数の当事者に請求できる場合があります。
薬剤師にも責任を問えますか?
問える場合があります。薬剤師法24条は、処方箋に疑わしい点があるときは処方医に問い合わせて確かめた後でなければ調剤してはならない(疑義照会義務)と定めています。明らかな過量や危険な飲み合わせを見逃してそのまま調剤し、被害が生じた場合には、薬剤師・薬局の過失が問題になります。
「添付文書に反した使い方ではない」と言われました。関係ありますか?
大いに関係します。最高裁は、医師が添付文書の使用上の注意に従わず事故が発生した場合、特段の合理的理由がない限り医師の過失が推定されると判断しています(最高裁判決 平成8年1月23日)。使われた薬の添付文書を取り寄せ、用量・禁忌・観察方法に反していないかを確認することが重要です。
投薬ミスを証明するには、何が必要ですか?
お薬手帳・薬の説明書・処方箋の控えなど、手元の記録がまず重要です。加えて、カルテ・処方箋・薬局の薬歴・看護記録の投与記録を入手し、使われた薬の添付文書と照らして検討します。改変のおそれがあるときは証拠保全を検討し、過失と因果関係の立証には協力医の意見も重要になります。
「体質が特殊だった」と病院に言われました。あきらめるしかないですか?
あきらめる必要はありません。本当に予測できなかったかは、アレルギー歴や既往症の確認、添付文書の禁忌の記載に照らして検証すべきです。確認を怠っていれば過失は別に問題になります。記録と添付文書に基づいて検討する価値があります。
投薬・薬剤過誤を疑ったら、まず何をすべきですか?
お薬手帳・薬の説明書・処方箋の控え・領収書など、薬に関する記録をすべて保管してください。そのうえで、カルテや薬歴が失われたり書き換えられたりしないうちに、カルテ開示や証拠保全を検討します。時効もあるため、早めに弁護士へご相談ください。
複数の病院や薬局にかかっていて、飲み合わせで被害が出ました。どこに請求しますか?
飲み合わせ(相互作用)を確認・回避すべき立場にありながらこれを怠った医療機関・薬局が責任を負います。お薬手帳などから、どの薬を誰が把握できたかを整理して、責任の所在を検討します。複数の当事者が責任を負う場合もあります。
薬のミスが疑われる方へ
お薬手帳や説明書は、そのまま強い証拠になります。まずは記録を残し、早めにご相談ください。初回無料で、過誤の可能性と見通しをお伝えします。大阪・なんばの弁護士が、お電話・メール・LINEで承ります。
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監修:難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号 49544/中小企業診断士)。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。初回相談30分無料。本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。




