夫が亡くなったとき、妻は悲しみの中で、相続・住まい・お金・年金の手続きを短い期限の中で進めなければなりません。この記事では、妻の相続分、自宅に住み続ける方法、相続税の軽減、夫に借金があったときの対応、手続きの期限を、条文に沿って順に解説します。妻が亡くなったときの夫の相続は妻の遺産相続(夫の相続手続き)で解説しています。
- Q. 夫が亡くなったら、妻はどれだけ相続できますか?
- 妻は常に相続人で、相続分は一緒に相続する人によって決まります。子がいれば2分の1、子がおらず夫の親がいれば3分の2、子も親もおらず夫の兄弟姉妹がいれば4分の3、誰もいなければ全部です(民法890条・900条)。
- Q. 夫名義の家に住み続けられますか?
- 住み続けられます。夫の家に無償で住んでいた妻は、遺産分割で家の取得者が決まるまで、少なくとも夫の死亡から6か月間は無償で住めます(配偶者短期居住権)。その後も、遺産分割や遺言で「配偶者居住権」を取得すれば、原則として亡くなるまで住み続けられます。
- Q. 最初に何をすればよいですか?
- 借金がないかを早めに確認してください。借金が多い場合の相続放棄は、夫の死亡を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。
妻の相続分(早見表)
| 一緒に相続する人 | 妻の相続分 | ほかの相続人の相続分 |
|---|---|---|
| 子(亡くなった子の子=孫を含む) | 2分の1 | 子全員で2分の1 |
| 子がいない場合:夫の父母 | 3分の2 | 父母全員で3分の1 |
| 子も父母もいない場合:夫の兄弟姉妹 | 4分の3 | 兄弟姉妹全員で4分の1 |
| 誰もいない | 全部 | ― |
(民法890条・900条1号〜3号。子・父母・兄弟姉妹が複数いれば、その人たちの分を原則として均等に分けます。父母の一方だけが同じ兄弟姉妹は、両方が同じ兄弟姉妹の2分の1です)
- 前妻との子も夫の子として相続人になります。前妻本人は相続人ではありません。→前妻の子供に相続させたくないときの注意点
- 子がいない夫婦では、夫の親や兄弟姉妹との遺産分割が必要になり、もめやすくなります。→子なし夫婦の相続/相続人が配偶者のみになるケース
- 法定相続分は目安です。遺言があれば遺言が優先し、相続人全員が合意すれば別の分け方もできます。
夫名義の自宅に住み続けるには
配偶者短期居住権(何もしなくても認められる)
夫の家に無償で住んでいた妻は、引き続き無償で住めます(民法1037条)。いつまで住めるかは場合によって違います。
| 場合 | 住める期間 |
|---|---|
| 家が遺産分割の対象になる場合 | 遺産分割で家の取得者が決まった日と、夫の死亡から6か月を経過する日の、いずれか遅い日まで |
| 遺言で家が他の人に渡るなど、遺産分割の対象にならない場合 | 家を取得した人から明渡しの申入れを受けた日から6か月を経過する日まで |
- この権利は「住み続けるため」のもので、他人に貸したり譲ったりはできません(民法1038条・1041条)。
- 遺産分割では財産的価値がないものとして扱われ、妻の取り分から差し引かれることはありません。
配偶者居住権(遺産分割や遺言で取得する)
家の所有権は子などが相続し、妻は「住む権利」だけを取得する方法です(民法1028条)。
- 要件:夫の死亡時に、夫の家に住んでいたこと。そのうえで、遺産分割(協議・調停・審判)で取得するか、遺言で配偶者居住権を遺贈されることが必要です。ただし、夫が家を妻以外の人と共有していた場合は成立しません。
- 期間:原則として妻が亡くなるまでです。遺産分割や遺言で期間を決めることもできます(民法1030条)。
- 取り分との関係:配偶者居住権にも財産的価値があり、妻の取り分の中から取得することになります。ただ、所有権そのものより評価額が低いため、自宅に住みながら預貯金などほかの遺産も受け取りやすくなります。評価方法には、鑑定のほか、国税庁の示す計算方法などがあります。
- 話し合いがまとまらない場合:家庭裁判所の審判で配偶者居住権を取得できるのは、相続人全員が合意しているときか、家の所有者の不利益を考えてもなお、妻の生活を守るために特に必要と認められるときに限られます。
- 注意点:配偶者居住権は譲渡できず、家を他人に貸すには所有者の承諾が必要です(民法1032条)。第三者に権利を主張するには登記が必要で、所有者には登記に協力する義務があります(民法1031条)。
夫の預金をすぐに引き出したいとき
夫の死亡を銀行が知ると口座は凍結されますが、遺産分割の前でも、各相続人は一定額まで単独で払戻しを受けられます(民法909条の2)。上限は「死亡時の預金額×3分の1×その相続人の法定相続分」で、1つの金融機関につき150万円までです(平成30年法務省令第29号)。葬儀費用や当面の生活費に使えます。払戻しを受けた額は、遺産分割で妻が先に受け取った分として扱われます。
相続税:妻には大きな軽減がある
妻が実際に取得した遺産のうち、1億6,000万円と妻の法定相続分相当額のどちらか多い金額までは、妻に相続税はかかりません(配偶者の税額軽減、相続税法19条の2)。
- 軽減を受けるには、税額が0円になる場合でも相続税の申告が必要です。申告・納付の期限は、死亡を知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条1項。期限が土日祝日なら翌日)。
- 遺産分割がまとまらなくても期限は延びません。いったん法定相続分どおりに取得したものとして申告・納付し、分割が決まった後に修正申告や更正の請求で精算します。
- 未分割のままでは、その時点で配偶者の税額軽減を受けられません。「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておけば、3年以内に分割したときに軽減を受けられます。
- 妻が多く相続しすぎると、妻が亡くなったとき(二次相続)に子の相続税が重くなることがあります。分け方は、二次相続まで税理士と一緒に試算して決めるのが安全です。
遺族年金・未支給年金・生命保険
- 遺族年金は相続財産ではなく、法律で受給者と定められた遺族固有の権利です。遺産分割の対象にならず、特別受益として持ち戻す必要もありません(大阪家裁昭和59年4月11日審判)。
- 遺族厚生年金:夫が厚生年金に加入していた会社員・公務員などで、保険料の納付要件などを満たし、妻が夫に生計を維持されていた場合に受け取れます(厚生年金保険法58条・59条)。金額は原則として夫の厚生年金(報酬比例部分)の4分の3です。
- 遺族基礎年金:18歳到達年度末までの子(障害がある子は20歳未満)がいる妻などが対象です。子のいない妻は受け取れません。
- 請求の時効:年金を受ける権利と、毎回の支払分それぞれに5年の時効があります(国民年金法102条1項・厚生年金保険法92条1項)。5年を過ぎると一切請求できなくなるわけではありませんが、請求が遅れると過去の分の一部を受け取れなくなることがあるので、早めに年金事務所へ請求してください。
- 未支給年金(夫が受け取る前に亡くなった年金)は、生計を同じくしていた遺族が自分の名前で請求できます(国民年金法19条・厚生年金保険法37条)。時効は5年です。→相続放棄しても未支給年金は受け取れる?
- 死亡一時金(夫が国民年金の第1号被保険者として保険料を一定期間納めていた場合など)は、時効が2年と短いので注意してください。
- 生命保険金は、受取人が妻に指定されていれば相続財産ではなく妻固有の財産です。相続放棄をしても受け取れ、受け取ったことで相続を認めた(単純承認)ことにもなりません。→相続放棄後に生命保険金をもらえるのか
夫に借金があったら:相続放棄と限定承認
- 期限:夫の死亡を知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ相続放棄(または限定承認)を申し立てます(民法915条)。財産の調査が間に合わないときは、期限内に家庭裁判所へ申し立てれば期間を延ばしてもらえます。
- 限定承認:相続した財産の範囲内でだけ借金を返す方法です。借金を超えて負担せずに済みますが、相続人全員がそろって申し立てる必要があります。
- 受け取れるもの:妻が相続放棄をしても、遺族年金・未支給年金・受取人指定のある生命保険金は受け取れます。
- 親族への影響:妻と子が全員放棄すると、夫の親、さらに兄弟姉妹へと相続人が移ります。親族に借金の話が回るため、事前に知らせておくのが安全です。
手続きと期限の一覧
| 期限 | 手続き |
|---|---|
| 7日以内 | 死亡届の提出(死亡の事実を知った日から。国外での死亡は3か月以内。戸籍法86条) |
| 速やかに | 遺言書の有無の確認(自筆証書遺言は家庭裁判所の検認。法務局保管なら検認不要) |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認(民法915条) |
| 4か月以内 | 夫の所得税の準確定申告(必要な場合。相続の開始を知った日の翌日から。所得税法125条) |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納付(遺産分割が未了でも延びない。配偶者の税額軽減を使う場合も申告が必要。相続税法27条) |
| 1年以内 | 遺留分侵害額請求(相続の開始と侵害を知った時から。知らなくても相続開始から10年。民法1048条) |
| 2年以内 | 死亡一時金の請求(該当する場合) |
| 3年以内 | 相続登記(相続の開始と不動産の取得を知った日から。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料。不動産登記法76条の2・164条) |
| 5年 | 遺族年金・未支給年金の時効(請求が遅れると過去の分の一部を受け取れなくなる。国民年金法102条・厚生年金保険法92条) |
相続登記の補足
- 遺産分割がまとまらないときは、法務局に「自分が相続人である」と申し出る相続人申告登記をすれば、3年以内の義務を果たしたことになります。
- いったん法定相続分で登記した後に遺産分割で多く取得した場合は、遺産分割の日から3年以内に、その内容の登記も必要です。
- 2024年4月1日より前に夫が亡くなっていた場合も対象で、原則として2027年3月31日までに登記が必要です。
夫の親族との関係を終わらせたいとき
- 姻族関係終了届:市区町村に提出すると、夫の親族との姻族関係を終わらせられます(民法728条2項)。いつでも提出でき、夫の親族の同意も不要です。すでに得た相続分や遺族年金には影響しません。
- 復氏届:旧姓に戻る届出です(民法751条1項)。姻族関係終了届とは別の手続きです。
夫が亡くなったときの相続でよくある質問
Q. 夫の親(義父母)と遺産を分けることになりました。どう進めればよいですか?
相続人全員で遺産分割協議をします。直接話しにくい場合は郵送でも協議できますし、弁護士が代理人として交渉することもできます。まとまらなければ家庭裁判所の遺産分割調停で解決します。
Q. 夫が「全財産を兄に」という遺言を残していました。妻は何も受け取れませんか?
受け取れます。妻には遺留分があり、遺言によっても奪えません(民法1042条)。例えば相続人が妻と夫の兄弟だけなら妻の遺留分は遺産の2分の1、妻と子2人なら妻の遺留分は4分の1です。侵害された分は、遺言で財産を受け取った人にお金で請求できます(民法1046条)。期限は、相続の開始と遺留分の侵害を知った時から1年(知らなくても相続開始から10年)です(民法1048条)。家庭裁判所に調停を申し立てただけでは請求したことにならないため、まず内容証明郵便などで相手に請求の意思を伝えます。金額がまだ計算できていなくても、請求の意思だけ先に伝えることができます。
Q. 内縁の妻でも相続できますか?
できません。相続人になるのは法律上の配偶者だけです。ただし、遺言による遺贈や生命保険の受取人指定で財産を残すことはできます。
Q. 夫の死亡後、すぐに離婚届のような手続きは必要ですか?
必要ありません。死亡で婚姻は終了します。夫の親族との関係を終わらせたい場合だけ、姻族関係終了届を出します。
Q. 相続税がかかるかどうかの目安は?
遺産総額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除以下なら、相続税はかかりません(相続税法15条)。例えば相続人が妻と子2人なら4,800万円です。
内縁の妻への財産の残し方は内縁の妻に相続権はあるのかで詳しく解説しています。
夫の相続を弁護士に相談する(難波・心斎橋)
- 遺産分割の協議・調停を弁護士に依頼する(夫の親や兄弟姉妹との話し合いを代理)
- 相続放棄の手続きを弁護士に依頼する(期限は相続の開始を知ってから3か月)
- 遺留分侵害額請求を弁護士に依頼する(遺言で取り分が少ないとき)
- 大阪・難波の遺産相続の相談窓口(初回相談30分無料)
- 相続事件の弁護士費用(着手金・報酬の目安)
当事務所には元裁判官の弁護士が在籍しており、遺産分割調停・審判で裁判所がどこを重視するかを踏まえて方針をお伝えします。




