Q. 脊髄損傷は、後遺障害としてどのくらい評価されますか。
残った麻痺の範囲と程度に応じて、第1級から第12級までの後遺障害に認定されます。重いほど後遺障害慰謝料・逸失利益が高額になり、第1級・第2級では将来の介護費も請求できます。四肢麻痺や両下肢の麻痺が常に介護を要する状態であれば、最も重い第1級1号に該当します。
Q. 等級認定で大切なことは何ですか。
事故後できるだけ早くMRIなどの画像検査を受け、麻痺や筋力低下などの神経学的所見をカルテに残すことです。脊髄損傷は、画像所見と神経学的所見が整合してはじめて他覚的に証明されます。症状固定は、回復の見込みがなくなったと医学的に判断された時点で決まります。
Q. 保険会社の提示どおりに示談してよいですか。
慎重に検討してください。脊髄損傷のような重い後遺障害ほど、自賠責基準や任意保険基準と弁護士基準の差が大きくなります。将来介護費や逸失利益の見積もりは争いになりやすく、提示額が本来の水準に届いていないことがあります。示談の前に弁護士へご相談ください。
交通事故で脊髄を損傷すると、手足の麻痺や感覚障害など、重い後遺症が残ることがあります。脊髄損傷は後遺障害等級の対象であり、認定された等級によって、後遺障害慰謝料・逸失利益・将来介護費などの賠償額が大きく変わります。この記事では、脊髄損傷で認定されうる等級とその基準、請求できる損害、認定を受けるためのポイントを、大阪・なんばの被害者側の弁護士が整理します。
脊髄損傷とはどのような状態か
脊髄は、背骨(脊柱)の中を通る太い神経の束で、脳からの指令や身体からの情報を伝える中枢神経です。交通事故で脊柱に強い力が加わって脊髄が損傷すると、損傷した髄節より下の支配領域に、運動障害や感覚障害などの神経脱落症状が生じます。背骨そのものである「脊柱」と、その中を通る神経である「脊髄」は別のものです。
脊髄損傷では、手足の麻痺(運動障害)のほかに、感覚障害、自律神経障害、神経因性膀胱障害(排尿の障害)など、胸腹部の臓器にかかわる障害を伴うことがあります。後遺障害としての評価は、主に運動障害(麻痺)を中心に行われます。
脊髄損傷による麻痺は、範囲によって次のように分けられます。認定にあたっては、この麻痺の「範囲」と、後述する「程度」を組み合わせて判断されます。
| 麻痺の範囲 | 内容 |
|---|---|
| 四肢麻痺 | 両手足(上肢・下肢)に麻痺が及ぶもの |
| 対麻痺 | 両方の下肢(または両上肢)に麻痺が及ぶもの |
| 片麻痺 | 身体の片側の上肢・下肢に麻痺が及ぶもの |
| 単麻痺 | 片側の上肢または下肢の一肢だけに麻痺が及ぶもの |
また、脊髄が完全に離断して損傷部位より下の機能が完全に失われる「完全麻痺」と、一部の機能が残る「不全麻痺」があります。脊髄損傷では、受傷後しばらく回復の経過をみることがあり、回復の見込みがなくなったと医学的に判断された時点が症状固定となって、残った障害が後遺障害として評価されます。症状固定の時期は主治医の判断によるため、早すぎる打ち切りには注意が必要です。
損傷した場所(高位)と麻痺の範囲
どの範囲に麻痺が出るかは、脊髄の「どの高さ」が傷ついたか(損傷高位)でおおむね決まります。一般的な整理は次のとおりです。
| 損傷の高さ | 生じやすい麻痺 |
|---|---|
| 頸髄(首) | 両上肢・両下肢に及ぶ四肢麻痺 |
| 胸髄(背中) | 体幹と両下肢の対麻痺 |
| 腰髄(腰) | 両下肢の対麻痺 |
| 仙髄・尾髄(骨盤の高さ) | 下肢の麻痺は生じないとされる |
ただし、脊髄の断面すべてではなく半分や一部だけが損傷した場合は症状が異なるため、損傷の高さだけでなく、脊髄の横方向のどこまで傷ついたか(横断的な損傷範囲)の診断も重要になります。
脊髄損傷で認定されうる後遺障害等級
脊髄損傷による麻痺は、自賠責保険の後遺障害等級のうち「神経系統の機能又は精神の障害」として評価されます。等級の判断では、おもに次の要素が考慮されます。
- 損傷した部位の高さ(損傷高位)
- 脊髄の横断的な損傷の範囲
- 麻痺の範囲と程度
- 日常生活動作や労務(仕事)への影響
- 胸腹部の臓器や脊柱などに生じた合併障害
自動車損害賠償保障法施行令の別表に基づき、脊髄損傷で認定されうるのは次の7つの等級です。第1級1号と第2級1号は、介護を要する重い後遺障害を定めた「別表第1」に位置づけられます。
| 等級 | 区分 | 認定基準(施行令別表の定め) |
|---|---|---|
| 第1級1号 | 別表第1(常時介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
| 第2級1号 | 別表第1(随時介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
| 第3級3号 | 別表第2 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
| 第5級2号 | 別表第2 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 第7級4号 | 別表第2 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 第9級10号 | 別表第2 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
| 第12級13号 | 別表第2 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
麻痺の「程度」の判断基準
どの等級に当たるかは、麻痺の範囲に加え、麻痺の「程度」で決まります。厚生労働省が示す運動障害の程度の基準では、次のように整理されています。
| 程度 | 内容の目安 |
|---|---|
| 高度 | 手足の運動性・支持性がほとんど失われ、歩行・立位や物を持ち上げて移動させるといった基本動作ができないもの |
| 中等度 | 運動性・支持性が相当程度失われ、基本動作にかなりの制限があるもの(杖や硬性装具なしには歩行や階段の昇降が困難など) |
| 軽度 | 運動性・支持性が多少失われ、基本動作を行う際の巧緻性や速度が相当程度損なわれているもの |
労災・自賠責に準じた認定では、脊髄症状について、生命維持に必要な身のまわりの処理に常に介護を要するものを第1級1号、同じ動作に随時介護を要するものを第2級1号、身のまわりの処理はできるが脊髄症状のため労務に服せないものを第3級3号、極めて軽易な労務以外に服せないものを第5級2号、軽易な労務以外に服せないものを第7級4号、通常の労務は可能だが就労できる職種の範囲が相当程度制限されるものを第9級10号、脊髄症状のため多少の障害を残すものを第12級13号、とする整理が示されています。
麻痺の範囲と程度を組み合わせた目安としては、たとえば、高度の四肢麻痺・高度の対麻痺や常に介護を要する中等度の四肢麻痺は第1級1号、中等度の四肢麻痺などは第2級1号、軽度の四肢麻痺や中等度の対麻痺は第3級3号、軽度の対麻痺などは第5級2号、一下肢の軽度の単麻痺は第9級10号、麻痺は明らかでないが脊髄症状が医学的に証明されるものは第12級13号、といった形で、範囲・程度に介護の要否や労務への影響を加えて判断されます。
脊髄損傷で請求できる後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、認定された等級が重いほど高くなります。金額の基準には、自賠責保険の支払基準と、裁判で用いられる弁護士基準(裁判基準)があり、一般に弁護士基準のほうが高くなります。
自賠責保険の後遺障害に対する慰謝料は、等級ごとに定められています。介護を要する後遺障害(別表第1)では、第1級1号が1650万円、第2級1号が1203万円を基本とし、被扶養者がいる場合は加算されます。別表第2では、第3級3号が861万円、第12級13号が94万円などとされています。
なお、介護を要する後遺障害について、国土交通省の資料では、常時介護の第1級の支払限度額を4000万円、随時介護の第2級の支払限度額を3000万円としています。これは自賠責保険が支払う上限額であり、後遺障害慰謝料そのものの金額ではありません(逸失利益や将来介護費なども含めた上限です)。
弁護士基準(裁判基準)による具体的な金額は、脊髄損傷の内容や等級、個別の事情によって異なります。また、後述のとおり、裁判所は自賠責の等級認定に拘束されるわけではなく、事案に応じて慰謝料額を判断します。弁護士基準を含む慰謝料の考え方は交通事故の慰謝料計算、増額の考え方は交通事故の慰謝料を増額する方法で解説しています。
この後遺障害慰謝料は、入院・通院に対する入通院慰謝料や、次に述べる逸失利益・将来介護費とは別に請求できます。
逸失利益(将来得られたはずの収入)
逸失利益は、後遺障害で労働能力が失われたことによる将来の減収です。基礎収入に労働能力喪失率を乗じ、就労可能な期間に対応するライプニッツ係数で中間利息を差し引いて計算します。労働能力喪失率は等級に応じた目安がありますが、等級だけで機械的に決まるものではなく、職業・年齢・性別・後遺症の部位と程度・事故後の稼働状況などを総合して判断されます。
脊髄損傷の重い麻痺については、たとえば両下肢の完全麻痺で回復の見込みがないケースなど、労働能力を全部(100%)失ったものと認めた裁判例もあります。就労可能な期間や基礎収入は、被害者の年齢や収入の立証状況によって変わります。ライプニッツ係数を使った計算の詳細は交通事故の逸失利益をご覧ください。
将来介護費とその他の損害
将来介護費は、介護の必要性と、将来にわたって費用を支出する蓋然性が認められる場合に、被害者本人の損害として認められます。常に介護を要する第1級1号や随時介護を要する第2級1号で認められることが多いものですが、裁判実務では、これら以外の等級でも、後遺障害の内容・程度から具体的な介護の必要性(見守りや声かけ、訪問看護などを含みます)が認められれば、将来の付添費が認められることがあります。
介護を職業付添人に依頼する場合はその実費、ご家族(近親者)が介護する場合も相応の金額が、原則として被害者の平均余命までの期間について認められます。一時金でまとめて受け取る場合は、民法417条の2により中間利息が差し引かれます。重度の後遺障害者について平均余命より短い介護期間とするには、それを基礎づける証拠が必要とされ、実務では平均余命まで認める裁判例が多数です。
このほか、重度の脊髄損傷では次のような損害も問題になります。
| 損害項目 | 内容 |
|---|---|
| 入院雑費・付添費 | 入院中の日用品費や、入通院に付き添った家族の費用 |
| 自宅・車の改造費 | 車いす生活に対応するための手すり・段差解消・浴室改造、福祉車両への改造など |
| 装具・器具費 | 車いす、電動ベッド、吸引器などの購入・買替費用 |
| 将来の治療費 | 褥瘡(床ずれ)や尿路感染の予防・治療など、症状固定後も必要となる医療費 |
これらの損害は項目が多く、将来にわたって必要な費用を漏れなく積み上げる必要があります。保険会社の提示では、将来介護費の日額や期間、改造費の範囲が低く見積もられていることが少なくありません。重度の脊髄損傷では、損害の総額が大きいだけに、見積もりの差がそのまま賠償額の差になります。
後遺障害等級の認定を受けるためのポイント
脊髄損傷は、MRIなどの画像で損傷部位が確認でき、神経学的所見と一致してはじめて他覚的に証明されます。適正な等級認定を受けるためのポイントは次のとおりです。
- 事故後できるだけ早くMRI・CTなどの画像検査を受ける。時間が経ってからの検査では、事故との因果関係を否定されやすくなります。
- 徒手筋力テスト・深部腱反射・病的反射・筋萎縮検査などの神経学的検査を受け、麻痺の範囲と程度を記録に残す。
- 画像所見と神経学的所見が整合しているかを確認する。両者が食い違うと、認定を受けにくくなります。
- 脊髄損傷の診療に慣れた医療機関・専門医の診断を受ける。
逆に、次のようなケースでは認定が難しくなります。MRIの精度が低く損傷部位が画像に写らない、搬送時に麻痺の神経学的所見が記録されていない、脊髄軟化症や脊髄空洞症などの既往がある、といった場合です。認定結果に納得できないときは、後遺障害の異議申立てで見直しを求めることができます。手続の全体像は後遺障害等級認定の進め方をご覧ください。
弁護士からひとこと
脊髄損傷は、後遺障害の中でも賠償額が特に大きくなる類型です。それだけに、将来介護費の日額と期間、逸失利益の喪失率、自宅改造費の範囲といった一つひとつの争点で、保険会社との隔たりが数百万円から数千万円単位になることもあります。画像と神経学的所見をそろえて等級を固め、将来の費用を漏れなく積み上げることが、適正な賠償につながります。重い後遺症が残った事案ほど、早い段階で弁護士に相談する意味があります。
脊髄損傷に伴う合併障害の評価
脊髄損傷では、麻痺のほかに、広い範囲の感覚障害、神経因性膀胱などの胸腹部臓器の障害、脊柱の変形や運動障害などを伴うことがあります。脊髄の障害の認定基準は、通常伴うこうした障害も含めて等級を格付けする構造になっているため、麻痺によって判断される脊髄障害の等級とこれらの障害とは、原則として別々に等級を付けて繰り上げる(併合する)ことはしません。
ただし、脊髄損傷に伴う胸腹部臓器の障害や脊柱の障害による等級が、麻痺によって判断される等級より重い場合には、その重い障害も含めて総合的に評価して等級を認定します。中枢神経の障害と末梢神経の障害が複数残る場合も、全体を総合して等級が判断されます。
自賠責の等級認定と裁判(民事)の関係
自賠責保険の後遺障害等級の認定は、保険金を支払うための基準として行われるものであり、民事の損害賠償請求訴訟で裁判所を拘束するものではありません。そのため、裁判所は、自賠責で認められた後遺障害を否定することも、自賠責で認められなかった後遺障害を認定することもできます。慰謝料や逸失利益の金額も、自賠責の支払額と同じになるとは限らず、裁判所が事案に応じて判断します。
もっとも実務では、後遺障害の有無や程度について自賠責の認定と認定基準が重要な資料として尊重されており、自賠責の等級認定が立証されれば、特段の事情がない限り、その等級に見合った労働能力喪失率や慰謝料額について一応の立証ができるものとして扱われています。なお、訴訟のために必ず事前に自賠責の等級認定を受けていなければならないわけではありませんが、被害者請求や事前認定によって等級認定を受けておくことが考えられます。
高次脳機能障害との違い
脊髄損傷は、脊髄(背骨の中の神経)の損傷による手足の麻痺や感覚障害です。これに対し、交通事故で頭部を強く打ったことによる脳の損傷で、記憶力・判断力・感情のコントロールなどに障害が残るものは「高次脳機能障害」として、別の基準で評価されます。両方が生じることもあり、その場合は併せて等級が検討されます。高次脳機能障害については交通事故の高次脳機能障害で解説しています。
よくある質問
脊髄損傷の後遺障害慰謝料はいくらですか。
脊髄損傷で将来介護費は請求できますか。
症状固定はいつになりますか。
MRIに写らないと脊髄損傷は認められませんか。
脊髄損傷の逸失利益はどのくらいになりますか。
保険会社の提示額で示談してよいですか。
脊髄損傷の事故を弁護士に頼むメリットはありますか。
ご家族が脊髄損傷を負われた方へ
脊髄損傷は、等級認定・将来介護費・逸失利益など、保険会社と争いになりやすく、賠償額も大きくなる類型です。難波みなみ法律事務所は大阪・なんばの事務所で、交通事故の被害者側を数多く扱ってきました。元裁判官の弁護士が在籍し、損害算定や立証の見立てもお伝えできます。初回相談30分無料、着手金無料で対応します。弁護士費用特約があれば、費用は保険でまかなえることが多いです。
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監修:難波みなみ法律事務所/代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号49544)。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。初回相談30分無料(電話 06-6786-8103/受付9:00〜22:00)。






