コラム
更新日: 2026.08.07

妊娠中だけど離婚したい!親権・養育費・お金の問題を弁護士が解説

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

離婚問題 妊娠中の離婚 子どもの問題

妊娠中は新しい家族を迎える幸せな時期であるはずですが、マタニティブルーやモラハラ、夫の不貞など様々な要因で、妊娠中であっても離婚を考えざるを得ないケースがあります。

妊娠中の離婚では、将来生まれてくる子どもの養育費・親権・戸籍の問題に加えて、財産分与・慰謝料・年金分割といった離婚条件も解決しなければならず、妊娠中の身には大きな負担になります。特に、「いつ離婚を成立させるか(出産前か出産後か)」によって、受け取れるお金や子どもの戸籍・親権の扱いが大きく変わる点に注意が必要です。

この記事では、妊娠中に離婚する場合の問題を時期別の早見表で整理しながら、2026年4月に施行された共同親権・財産分与のルール改正、児童手当・児童扶養手当の最新額まで含めて、弁護士が分かりやすく解説します。

【早見表】妊娠中に離婚したときの「お金」と「子ども」の問題

まず、妊娠中の離婚で問題になる項目と結論の全体像を確認してください。

項目結論・ポイント
妊娠中でも離婚できるかできる。妊娠を理由に離婚が制限されることはない
出産前の養育費原則請求できない(養育費は子の出生後に発生)。離婚成立前なら「婚姻費用」として生活費・検診費用等を請求可
子どもの戸籍離婚後300日以内の出生は原則「元夫の子」。母が再婚していれば再婚後の夫の子と推定(2024年改正)
親権離婚後に出産すれば原則母。2026年4月からは父母の協議で共同親権も選択可
財産分与の請求期限2026年4月1日以降の離婚は2年→5年に延長(それ以前の離婚は2年)
慰謝料妊娠中の離婚だけでは発生しない。不貞・DV等の不法行為があれば請求可
公的支援児童手当・児童扶養手当・出産育児一時金など(本記事末尾に最新額の一覧)

妊娠中でも離婚はできる

子どもを妊娠中だからといって、離婚は可能です。民法770条には離婚の要件として不貞行為や婚姻を継続しがたい重大な事由があることなどが挙げられており、妊娠を理由に離婚が制限されることはありません。妊娠中に離婚したいと思う主な理由には、次のようなものがあります。

  • マタニティブルー:ホルモンバランスの変化やつわり、親になる不安から精神的に不安定になるケース。ただし内面的な事情であり、これ自体を離婚原因として証明するのは困難です
  • 夫の不貞(不倫・浮気):妊娠中にスキンシップが減り、夫が不貞に及ぶケース。民法上の離婚原因であり慰謝料請求も可能です
  • DV:身体的暴力だけでなく経済的暴力も含まれ、離婚原因・慰謝料請求の対象になり得ます
  • モラハラ:暴言や無視などの精神的攻撃。改善されにくく離婚を決意するケースが増えています

【時期別】妊娠中・出産直後・育児期の経済リスクと対策

妊娠中の離婚は、「離婚を成立させるタイミング」によって使える制度が変わります。時期ごとの経済的リスクと対策を整理します。

時期主な経済的リスク使える制度・対策
妊娠中(離婚成立前)つわり等で就労困難。収入が不安定婚姻費用(妻の生活費+検診・出産準備費用)を請求できる
離婚成立直後〜出生前出産前は養育費を請求できない空白期間離婚成立前なら婚姻費用でカバー。出産費用の分担・出産育児一時金50万円
出産直後就労できず収入ゼロ。育児で身動きが取れない認知・嫡出があれば養育費開始。児童手当・児童扶養手当・社会保険料減免
育児期保育・教育費の負担。就労に制約児童扶養手当・自立支援訓練給付金・高等職業訓練促進給付金など
出産前に離婚を急がない

出産前に離婚を急ぐと、養育費を請求できない「空白期間」が生じ得ます。離婚成立前であれば婚姻費用として生活費を確保できるため、離婚を成立させる時期は経済面も踏まえて慎重に判断すべきです。

妊娠中の離婚と「お金」の問題

出産前は養育費を請求できない|婚姻費用との違い

妊娠中の離婚で最も誤解が多いのが、養育費と婚姻費用の違いです。養育費を請求する権利は、子どもの出生によって発生します。そのため、胎児の間(出産前)は、原則として養育費を請求できません。一方で、離婚が成立するまでの間(婚姻中)であれば、収入の少ない配偶者は「婚姻費用」として生活費を請求でき、妻の生活費のほか検診費用や出産準備費用も含まれ得ます。

婚姻費用養育費
請求できる時期婚姻中(別居中・離婚成立前)子の出生後
対象妻の生活費+出産関連費用等子の養育費用
妊娠中の離婚での注意離婚成立前なら請求できる出産前は原則請求できない

つまり、出産前に離婚を成立させてしまうと、婚姻費用も養育費も受け取れない空白が生じ得ます。経済的な備えがないうちに離婚を急がないことが大切です。

養育費の決め方と金額

出産後、子どもが元夫の子(嫡出子)である場合や、元夫が認知した場合には、元夫に養育費を支払う義務が生じます。金額は、支払う側(父)と請求する側(母)の収入をもとに、裁判所の「養育費算定表」を目安に計算されます。母親が出産直後で収入ゼロの場合はその前提で算定されます。養育費は口約束だと途中で支払われなくなるおそれがあるため、取り決めは公正証書に残しておくことをおすすめします。元夫が支払いを拒む場合は、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てることもできます。

養育費の相場・算定表による計算方法の詳細はこちらのコラムをご覧ください。

出産費用は請求できるのか

出産費用については、公的扶助として出産育児一時金が支給されます。令和5年4月から、支給額は42万円から50万円に引き上げられました。婚姻費用には出産費用も含まれると解されており、夫は、実際に要した出産費用から出産育児一時金を控除した残額を婚姻費用として負担する義務を負うと考えられています(横浜家庭裁判所平成24年5月28日決定も同旨)。

財産分与|2026年4月から請求期限が「5年」に延長

財産分与とは、婚姻期間中に夫婦で共同して築いた財産を、貢献度に応じて分ける仕組みです。対象は、同居を開始した時期から別居した時までに築いた財産で、婚姻前からの財産や相続財産は対象外(特有財産)です。

財産分与の請求期限が2年→5年に(2026年4月1日〜)

従来は「離婚した日の翌日から2年以内」でしたが、2024年(令和6年)の民法改正により、2026年(令和8年)4月1日以降に離婚する場合は、請求できる期間が離婚から2年→5年に延長されました。(※2026年4月1日より前に離婚した場合は、従来どおり2年です。)

財産分与の請求方法や必要書類の詳細はこちらのコラムもあわせてご覧ください。

なお、専業主婦として育児や家事に専念してきた妻が離婚で生活基盤を失うことに配慮し、生活を支援するために支払われる扶養的財産分与が認められることもあります。

慰謝料

妊娠中に離婚するというだけでは、それ自体を理由として慰謝料は発生しません。慰謝料は、婚姻関係を破綻させる重大な不法行為(不貞行為・暴力・生活費を渡さない経済的DV等)があった場合に請求できます。妊娠中に夫の不貞行為で離婚し中絶を余儀なくされたケースなどでは、慰謝料が相場より高くなることもあります。

年金分割(請求期限が2年→5年に延長)

婚姻期間中に夫が会社員・公務員だった場合、妻は厚生年金部分の分割を請求できます(共働きでも可)。按分割合はほとんどの事案で5:5となります。

年金分割の請求期限も2年→5年に(2026年4月1日〜)

年金分割の請求期限は従来「離婚の翌日から2年以内」でしたが、財産分与の5年への延長にあわせ、令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)により、2026年(令和8年)4月1日以降に離婚した場合は2年→5年に延長されました。(※2026年4月1日より前に離婚した場合は、従来どおり2年以内の請求が必要です。)財産分与・年金分割ともに期限は5年と揃いました。

年金分割の按分割合や手続きの詳細はこちらのコラムで解説しています。

妊娠中に離婚した子どもの「戸籍」と「親権」

妊娠中に離婚するケースでは、子どもの戸籍と親権の扱いが複雑になります。ここは2024年・2026年の法改正で変わった点があります。

離婚後300日以内に生まれた子は原則「元夫の子」

離婚届を出してから300日以内に子が生まれた場合は、原則として元夫を父とする嫡出推定が働き、元夫を父として出生届を出すことになります(婚姻中の懐胎や、婚姻の成立から200日後の出生も同様です)。ただし、医師の作成した「懐胎時期に関する証明書」から、推定される最も早い懐胎日が離婚後であることが分かる場合には、元夫を父としない出生届を提出できます。

300日を過ぎて出産した場合は、戸籍の父の欄は空白になります。この場合、父から養育費を受け取るには父に「認知届」を出してもらう必要があり、任意の認知に応じない場合は家庭裁判所に認知を求める調停・審判を申し立てます。

【2024年改正】母が再婚していれば「再婚後の夫の子」と推定

離婚後300日問題への対応(改正後民法772条)

従来は、離婚後300日以内に生まれた子は一律に元夫の子と推定されていました。しかし、2024年(令和6年)4月1日施行の改正民法により、離婚後300日以内に生まれた子でも、母が再婚していれば「再婚後の夫の子」と推定されるようになりました。これにより、いわゆる「離婚後300日問題」による無戸籍の問題の解消が図られています(母が再婚していない場合は、従来どおり元夫の子と推定されます)。

あわせて、嫡出推定を否定する嫡出否認についても、従来は元夫のみが子の出生を知って1年以内に申し立てる必要がありましたが、改正により嫡出否認権が母や子にも認められ、否認できる期間も原則3年に延長されました。生物学的な父子関係がないのに元夫の子と記載されてしまう場合の是正がしやすくなっています。

子の氏(名字)を母の戸籍に移すには

離婚後300日以内に生まれた子は父(元夫)の氏を称し、元夫の戸籍に入籍します。子の親権者が母であっても、そのままでは母と子の名字が異なってしまいます。子を母の戸籍に入れるには、家庭裁判所に「子の氏の変更許可」を申し立てる必要があります。

子どもの親権|2026年4月からは共同親権も選択可

妊娠中に離婚し、離婚後に出産した場合、子どもの親権者は原則として母になります。他方で、離婚手続きに時間を要し離婚前に出産した場合は、婚姻中の子として父母の共同親権となり、離婚の際に親権者を定めることになります。

離婚後の親権を選べる(改正後民法819条・2026年4月〜)

2026年(令和8年)4月1日施行の改正民法により、離婚後の親権は父母の協議によって「共同親権」か「単独親権」かを選べるようになりました。協議が調わない場合や裁判離婚の場合は、家庭裁判所が子の利益の観点から判断します。妊娠中の離婚では、出産のタイミングと親権の決め方が絡むため、離婚前に方針を整理しておくことが重要です。

親権の考え方や共同親権制度の詳細はこちらのコラムで解説しています。

【2026年最新】ひとり親が受けられる公的支援

母子家庭の平均年収は一般の子育て家庭より低いのが実態です。受けられる公的支援は可能な限り活用しましょう。主な支援と最新額は以下のとおりです。

児童手当(2024年10月から拡充)

児童手当は、2024年10月から所得制限が撤廃され、対象が高校生年代(18歳到達後最初の3月31日)までに拡大されました。支給額(児童1人あたり月額)は次のとおりです。

児童の年齢第1子・第2子第3子以降
3歳未満15,000円30,000円
3歳〜高校生年代10,000円30,000円

※支給は年6回(偶数月)に、それぞれ前月分までがまとめて支払われます。

児童扶養手当(令和8年度=2026年4月〜の金額)

児童扶養手当は、ひとり親家庭の子ども(0歳〜18歳到達後最初の3月31日まで)に支給される手当です。所得により「全部支給」「一部支給」「不支給」に分かれます。

区分全部支給(月額)一部支給(月額)
第1子(本体)48,050円48,040円〜11,340円
第2子の加算11,350円11,340円〜5,680円
第3子以降の加算(1人につき)11,350円11,340円〜5,680円

※令和6年11月分から、第3子以降の加算額が第2子と同額に引き上げられました。金額は物価スライドで毎年度改定されるため、最新額は自治体窓口でご確認ください。

その他の公的支援

  • 生活保護:養育費・児童手当・児童扶養手当等でも最低生活費に不足する場合に利用を検討
  • 社会保険料の減免:前年所得が少ない場合、国民年金・国民健康保険料が免除・減額。出産予定日の前月から4か月間は国民年金保険料が免除
  • 自立支援教育訓練給付金:対象教育訓練を修了した場合に経費の60%を支給
  • 高等職業訓練促進給付金:看護師・保育士・介護福祉士などの資格取得時に学費・生活費の負担を軽減

妊娠中に離婚するデメリットと後悔しないために

  • 経済的な負担:離婚により夫は妻の生活費(婚姻費用)の負担義務から解放されます。就労が難しく、ひとり親世帯として就職活動に制約が生じることも
  • 精神的な負担:離婚条件で対立すると調停・裁判で長期化することも。出産直後からひとりで育児をする負担も大きくなりがちです
  • 出産後に後悔するリスク:妊娠中はホルモンバランスの乱れで一時的に離婚を決意してしまうことも。出産後に心身が安定してから後悔しないよう、親族や女性相談センター、カウンセラーに相談し、ご自身の心境と向き合うことも大切です

妊娠中に離婚するための手続き

夫婦が離婚する手続きには、①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚の3種類があります。まずは話し合い(協議離婚)を試み、まとまらなければ家庭裁判所に離婚調停を申し立て、それでも解決しなければ離婚訴訟へと進みます。妊娠中は体調の負担も大きいため、早い段階で弁護士に相談し、見通しを立てて計画的に進めることが重要です。

よくある質問(FAQ)

妊娠中でも離婚できますか?
できます。妊娠を理由に離婚が制限されることはありません。ただし相手が離婚に応じない場合は、不貞・DV等の離婚原因や別居等が必要になります。
出産前に養育費を請求できますか?
原則できません。養育費を請求する権利は子の出生により発生します。ただし離婚成立前であれば、婚姻費用として生活費(検診・出産準備費用を含む)を請求できます。
離婚後に生まれた子は誰の戸籍に入りますか?
離婚後300日以内に生まれた子は原則「元夫の子」として元夫の戸籍に入ります。母が再婚していれば再婚後の夫の子と推定されます(2024年改正)。母の戸籍に移すには子の氏の変更許可が必要です。
財産分与はいつまでに請求すればよいですか?
2026年4月1日以降に離婚する場合は、離婚から5年以内に延長されました(それ以前の離婚は2年)。年金分割の請求期限も同様に、2026年4月1日以降の離婚は2年→5年に延長されています。
ひとり親になると、いくら手当をもらえますか?
児童手当(3歳未満は月15,000円、第3子以降は月30,000円など)に加え、児童扶養手当(全部支給で月48,050円=令和8年度)などが受けられます。所得により金額は変わります。

妊娠中の離婚問題はご相談ください

妊娠中の離婚には、そもそも離婚できるのかという問題だけでなく、離婚後の養育費・戸籍・親権・財産分与・公的支援など様々な問題が待ち受けています。幼い子どもの養育監護に追われ、これらを放置すると得られるはずの経済的利益を失うおそれがあります。一人で抱え込まず、大変な時期だからこそ、まずは弁護士にご相談ください。

初回相談30分無料

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