医療事故・医療過誤のご相談で、もっとも多いご質問のひとつが「慰謝料の相場はいくらですか?」というものです。
結論から言うと、損害賠償の金額は「相場」というひとつの数字でパッと決まるものではなく、いくつかの損害項目を積み上げ、さらに医療事故ならではの事情を踏まえて算定します。この記事では、その仕組みと注意点を、できるだけやさしく整理します。
損害賠償の内訳
損害賠償は、大きく次の3つに分けられます。慰謝料は、そのうちの一部です。
① 積極損害(実際に支払ったお金)
- 追加でかかった治療費・入院費・手術費
- 通院の交通費、付添看護費、入院雑費
- 車いす・義肢・介護用ベッドなどの器具・装具の購入費
- 将来介護費(寝たきり・重い後遺障害が残った場合に、将来にわたって必要となる介護の費用)
- 自宅改造費(在宅介護のためのバリアフリー改修などの費用)
- (亡くなられた場合)葬儀関係の費用
とくに将来介護費・自宅改造費は、脳性麻痺や寝たきりなど重い後遺障害が残ったケースで、賠償額の大きな部分を占めることがあります。
② 消極損害(得られるはずだったお金)
- 休業損害:治療や療養で働けなかった期間の収入(給与所得者は事故前の収入、自営業者は前年の所得などをもとに計算します)
- 逸失利益:後遺症で働く力が落ちた分、または亡くなって将来得られなくなった収入
逸失利益については、残存する後遺障害の等級や患者の年収・年齢に応じて金額が算定されます。
③ 慰謝料(精神的な苦痛への賠償)
- 入通院慰謝料:入院・通院の期間や程度に応じて算定
- 後遺障害慰謝料:残った後遺症の重さ(等級)に応じて算定
- 死亡慰謝料:亡くなられた方とご遺族の精神的苦痛に対するもの
慰謝料の種類と計算方法
慰謝料は、保険会社の提示などで使われる低めの金額ではなく、本来は裁判で用いられる基準(弁護士基準)で考えるべきものです。種類ごとに、おおよその決まり方は次のとおりです。
入通院慰謝料(ケガをして治療した場合)
入院・通院にかかった期間と程度で決まります。裁判実務では、入院・通院の月数に応じた算定表(弁護士・裁判所が用いる『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』、通称「赤い本」の別表)にあてはめて計算します。一般に、入院・通院の期間が長いほど高くなり、同じ期間なら通院より入院のほうが高く算出されます。
おおまかなイメージとしては、次のような水準です(あくまで概算で、正確には月数ごとの算定表で計算します)。
| 入通院の状況 | 慰謝料の目安(概算) |
|---|---|
| 通院のみ・約3か月 | 約50万円 |
| 通院のみ・約6か月 | 約90万円 |
| 入院 約1か月+通院 約3か月 | 約130万円 |
| 入院 約3か月+通院 約3か月 | 約190万円 |
| 入院 約6か月+通院 約6か月 | 約240万円 |
上表は入通院慰謝料の金額感をつかむための大まかな目安です。実際の金額は、入院・通院の月数に応じた裁判実務の算定表をもとに計算され、ケガの程度などによっても変わります。
後遺障害慰謝料(後遺症が残った場合)
医療過誤によって後遺障害が残存する場合、その後遺障害の程度に応じた慰謝料を請求することができます。残った後遺症の重さを示す後遺障害等級(1級〜14級)に応じて、おおよその目安額が定まっています(裁判で用いられる弁護士基準)。
| 後遺障害等級 | 慰謝料の目安 |
|---|---|
| 1級 | 2,800万円 |
| 2級 | 2,370万円 |
| 3級 | 1,990万円 |
| 4級 | 1,670万円 |
| 5級 | 1,400万円 |
| 6級 | 1,180万円 |
| 7級 | 1,000万円 |
| 8級 | 830万円 |
| 9級 | 690万円 |
| 10級 | 550万円 |
| 11級 | 420万円 |
| 12級 | 290万円 |
| 13級 | 180万円 |
| 14級 | 110万円 |
なお、交通事故や労災と違い、医療事故では後遺障害の等級を認定してくれる公的な機関がありません。そのため、患者側で後遺障害の症状を整理し、何級に相当するかを主張・立証していく必要があります。
死亡慰謝料(亡くなられた場合)
亡くなられた方の家庭での立場を一つの目安に算定されます。ひとつの目安として、
- 一家の支柱(生計を主に支えていた方)… おおむね 2,800万円前後
- 配偶者・母親 … おおむね 2,500万円前後
- その他の方 … おおむね 2,000万〜2,500万円程度
加えて、配偶者・子・親など近しいご遺族には、遺族固有の慰謝料(近親者慰謝料)が認められます。
なお、後遺障害慰謝料と死亡慰謝料を同時に受け取ることは想定されていません。多くの場合、慰謝料は「入通院慰謝料+後遺障害慰謝料」または「入通院慰謝料+死亡慰謝料」の形になります。
いずれも「目安」であり、医療事故では、後で述べる増額・減額の事情によって金額が大きく動きます。「表のとおりに必ずもらえる」という性質のものではありません。
逸失利益の計算方法
逸失利益は、賠償額の中でも大きな割合を占めることが多い項目です。次の要素をかけ合わせて計算します。
後遺障害が残った場合
後遺障害が残った場合の逸失利益は以下の計算式で算出されます。
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応する係数(ライプニッツ係数)
- 基礎収入:給与所得者は事故前の年収、専業主婦(主夫)は統計上の平均賃金、学生や子どもは将来働くと見込まれる平均賃金などを用います。
- 労働能力喪失率:後遺障害の等級ごとに定められた割合です。
- 労働能力喪失期間:原則として67歳まで働けることを前提に計算します。高齢の方の場合は、平均余命の2分の1を用いることがあります。
- ライプニッツ係数:将来の収入を今まとめて受け取ることで生じる利息分を差し引く(中間利息控除)ための係数です。
亡くなられた場合
医療過誤により死亡した場合には、以下の計算式で計算します。
基礎収入 × (1 − 生活費控除率)× 就労可能年数に対応する係数
死亡の場合は、ご本人の生活費がかからなくなる分(生活費控除率)を差し引きます。
なお、逸失利益は会社員だけでなく、主婦(主夫)や子どもにも認められます。一方、完全に引退して収入のない方には、原則として(年金部分を除き)逸失利益は生じません。
もともと後遺症が見込まれていた場合(差額説)
もともと一定の後遺症が残ることが見込まれていたケースでは、「適切な治療を受けられていれば残ったであろう状態」と「実際に残った状態」との差をとって計算する、という考え方がとられることがあります。
因果関係を立証しきれないときの慰謝料
医療事故では、「適切な医療がされていれば、本当にこの結果を避けられたのか」の立証、つまり、因果関係の証明が難しいケースは多くあります。
ただ、因果関係を十分に立証できないときでも、まったくのゼロにはならず、慰謝料を中心とした賠償が認められることがあります。「因果関係の立証が難しそうだから無理」とあきらめる前に、こうした構成で賠償を求められないかを検討する価値があります。
「相当程度の可能性」の侵害
適切な医療を受けていれば、なお生存・回復できた「相当程度の可能性」があったといえる場合に、その侵害に対する慰謝料が認められます。金額は数百万円規模が多く、事案により1,000万円前後まで及ぶこともあります。
期待権の侵害(治療機会の喪失)
適切な医療を受けられる期待が侵害されたとして賠償が認められる場合ですが、医療行為が著しく不適切といえる事案などに限られ、金額も比較的低くとどまる傾向です。
説明義務違反(自己決定権の侵害)
医学的な水準は満たしていても、リスクや選択肢の説明が不十分で、患者さんが「自分で選ぶ機会」を奪われた場合です。慰謝料はおおむね100万〜300万円程度の例が多い一方、事案によってはより高額になることもあります。
金額が増減することがある事情
金額が減ることがある事情
医療事故では、交通事故などと違い、もともと患者さんに病気があって治療を受けていたという前提があります。そのため、もともとの病気(既往症)の影響が結果の発生に寄与しているといえる場合、その寄与の度合いに応じて賠償額が減額されることがあります。
一方で、「高齢である」「余命が短い」というだけを理由に、命そのものの価値を低く見て死亡慰謝料を減らすべきではない、という考え方も示されています。減額が当然というわけではなく、事案ごとに丁寧な検討が必要です。
金額が増えることがある事情
逆に、次のような事情があると、賠償額が増える方向に働くことがあります。
基本的なミスや、悪質・不誠実な対応があった場合
患者さんは医師を信頼して自らの身体や生命を委ねています。その信頼を医師側の安易なミスにより裏切られたといえる事案では、交通事故の慰謝料より高くなるべきだと考えられており、実際に高額の慰謝料が認められた例もあります。
カルテの改ざんや証明妨害があった場合
診療記録を意図的に書き換えたり、事実の解明を妨げたりする行為は、それ自体が別個の問題として、追加の慰謝料で評価されることがあります。
ご自身のケースの見込みを知るには
ここまで見てきたとおり、医療事故の賠償額は、後遺症の重さ・収入・ご家庭の状況に加えて、因果関係の立証の難しさ、既往症の影響、対応の悪質性といった医療事故特有の事情まで踏まえて、はじめて見えてきます。インターネットの「相場」だけで判断するのは危険です。
難波みなみ法律事務所(大阪・心斎橋)では、医療過誤の損害賠償について、見通しの整理からお手伝いしています。
- 初回相談は無料。今の状況から、考えられる損害の項目と見通しを一緒に整理します
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「自分の場合はどうなるのか」を知りたい段階で構いません。まずはお気軽にお問い合わせください。
※ 本記事は医療事故の損害賠償に関する一般的な説明であり、個別の事案の結論や金額をお約束するものではありません。記載した目安は裁判で参考にされる考え方をもとにした概算で、実際の金額は事案によって大きく異なります。具体的なご相談は弁護士までお寄せください。なお、医療事故はおつらいご経験を伴うことが少なくありません。心身のご負担が大きいときは、無理をなさらず、信頼できる方や専門家にも頼ってください。
