【この記事でわかること】
離婚公正証書とは、協議離婚の際に合意した養育費・財産分与・慰謝料などの離婚条件を、公証人が公文書として作成するものです。最大の強みは、相手が支払いを怠ったとき、裁判をせずにすぐ給与や預貯金を差し押さえられること。この記事では、書くべき11項目とそのまま使える条項文例、公証人手数料の早見表、作成の流れ、そして署名する前に必ず確認すべき注意点まで、実務経験に基づいて解説します。
協議離婚で取り決めた約束は、口約束や私製の合意書のままでは、破られたときに裁判からやり直すことになりかねません。一方で、公正証書は一度作成すると内容を覆すことが極めて難しい書面でもあります。「何を書くか」だけでなく「どんな内容なら署名してよいか」まで理解したうえで作成することが、離婚後のトラブルを防ぐ鍵になります。
離婚公正証書とは?離婚時に作成する公文書
公正証書とは、全国各地の公証役場に在籍する公証人が作成する公文書のことで、離婚合意のほか、遺言や売買契約、賃貸借契約など幅広い場面で用いられます。このうち、協議離婚の成立にあたって合意した離婚条件をまとめたものが「離婚公正証書」です。
協議離婚とは、夫婦が話し合いのうえ、双方の合意のもとで離婚届を提出して離婚を成立させる方法です(裁判所の調停手続で離婚する場合は調停離婚、訴訟手続を通じて離婚する場合は裁判離婚と呼ばれます)。日本では離婚全体のうち協議離婚がおよそ8割を占めており、大多数の夫婦は裁判所を介さずに離婚しています。だからこそ、取り決めを確実な形で残す手段として公正証書が重要な役割を果たします。


離婚公正証書を作成するメリット・デメリット
5つのメリット
- 離婚条件の誤認・水掛け論を防ぐ:親権、養育費の金額・終期、財産分与、年金分割、慰謝料など、離婚時に決めるべき条件は多岐にわたります。口約束だけでは後から「言った言わない」の争いになりがちですが、書面に具体的に残すことで認識のズレを防げます。
- 離婚条件の証拠となる:口頭の合意も法的には有効ですが、後日争いになったとき、合意内容を証明する手段がなければ、相手が認めない限り裁判所に認定してもらうことは困難です。公正証書なら、第三者である公証人が作成に関与しているため、私製の合意書よりも高い信用性が認められます。
- 裁判をせずに強制執行できる:本来、強制執行には調停や訴訟を経る必要がありますが、公正証書(強制執行認諾文言付き)があれば、約束が破られたときに速やかに差押えへ進めます。詳しくは後述します。
- 調停や裁判を回避できる:離婚調停や離婚訴訟には1年以上かかることも多く、弁護士費用もかさみます。公正証書は調停調書や判決書と同様の効力を持ちながら、それほどの時間や費用をかけずに作成できます。
- 原本が公証役場に保管される:公正証書の原本は、原則として作成年度の翌年から20年間、公証役場で保管されます。交付された謄本・正本を紛失しても、保管期間内であれば再発行を依頼できます。
デメリット:手数料と作成までの期間
合意書を公正証書にするには、公証役場に公証人手数料を支払う必要があります。金額は取り決めの内容(目的価額)によって変わり、総額としては5万円から10万円の範囲に収まることが多いでしょう。また、公証人のスケジュール次第では、作成まで数週間を要することもあります。
| 財産分与・養育費・慰謝料額の合計 | 公証人手数料 |
|---|---|
| 100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
| 500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
| 1,000万円を超え3,000万円以下 | 23,000円 |
| 3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
| 5,000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
参照:日本公証人連合会
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離婚公正証書に書くべき11項目【条項文例付き】
離婚公正証書は、夫婦間の争いを最終的に解決し、蒸し返しを防ぐために作るものです。抜け漏れがないよう、必要な事項を網羅的に盛り込みましょう。以下の文例はあくまで一例であり、個別の事案ごとに調整が必要ですのでご留意ください。
①表題
表題は「離婚公正証書」「合意書」「離婚合意書」などです。公正証書として作成する場合、表題は公証人が付けることが多いでしょう。
②離婚の合意と離婚届の提出
合意後に離婚届を提出することを確認します。公正証書を作成しても、それだけで離婚が成立するわけではない点に注意が必要です。実務では、どちらが離婚届を提出するかまで明記しておくのが確実です。婚姻時の氏を変更した側が届出をするケースが多く、提出期限(「◯年◯月◯日までに」)を定める書き方もあります。
夫〇〇(以下『甲』という。)と妻〇〇(以下『乙』という。)は、合意の上、協議離婚をし、乙がその届出を速やかに行う。
③親権
夫婦に未成年の子がいる場合、親権者を誰にするかを必ず決めなければ離婚できません(民法819条1項)。子どもの特定のため、氏名とあわせて生年月日も記載します。
甲乙間の子の長女○○(生年月日:〇〇年〇月〇日生、以下「丙」という)の親権者を乙と定め、乙において子を養育監護する。
※事情により、親権者と実際に子を監護する監護権者を父母で分ける合意をして公正証書にする例もありますが、分属は子の福祉の観点から慎重な判断を要します。検討する場合は弁護士にご相談ください。
④養育費
親権者とならない親は、親権者となる親に対して養育費を支払う義務を負います。金額は夫と妻の収入に応じて決まり、標準的なケースであれば裁判所が公開する養育費算定表で算出できます。月額・支払日・終期(20歳、22歳など)・振込先を具体的に定めましょう。進学や病気など臨時の費用負担についても触れておくと、後の争いを減らせます。
甲は乙に対して、丙が20歳に達する日の属する月まで、令和○年○月○日から、毎月月末までに、養育費として月○○円を、乙指定の銀行口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。
関連記事|養育費は公正証書にして不払いを防ごう!養育費の基本と公正証書のメリットを解説
⑤財産分与
離婚時に財産分与をする場合には、その内容と支払方法を定めます。住宅ローン付きの自宅に、ローンを負わない側や子どもが住み続ける場合には、①居住期間、②家賃支払いの有無、③ローンの債務引き受け、④所有権移転の条件などを具体的に決めておきましょう。
甲は乙に対し、財産分与として、令和〇年○月○日までに金○○○円を乙指定の銀行口座に送金して支払う。振込手数料は甲の負担とする。
1.甲は、離婚に伴う財産分与として、本件自宅不動産の所有権を譲渡する。
2.甲は、本件自宅不動産にかかる住宅ローン債務を完済したときに、本件不動産について、前記財産分与を原因とする所有権移転登記手続をする。登記手続に関する費用は、乙の負担とする。
関連記事|財産分与の対象にならないものとは?/財産分与の時効は2年?財産分与の期限と請求の流れを弁護士が解説/債務超過している場合の預金の財産分与は?
⑥慰謝料
不貞行為(不倫・浮気)やDVが原因で離婚する場合、離婚慰謝料あるいは解決金の支払いを合意することがあります。一括払いが難しく分割払いとする場合には、回数に加えて、支払いを怠った場合の処理(期限の利益喪失条項・遅延損害金)まで明記しておくのが実務の定石です。
甲は乙に対し、慰謝料として、令和〇年○月○日までに金○○○円を乙指定の銀行口座に送金して支払う。振込手数料は甲の負担とする。
1 乙は甲に対し、本件解決金として金〇〇万円の支払義務があることを認める。
2 乙は、甲に対し、前項の金員を下記のとおり分割して甲の指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。
記 令和〇年〇月から令和〇年〇月まで毎月末日まで 〇万円
3 乙は、前項の金員の支払を怠りその金額が〇万円に達した場合、当然に期限の利益を喪失し、乙は甲に対して、前項の金額から既払額を控除した金員及びこれに期限の利益喪失の日の翌日から完済に至るまで年〇%の割合による遅延損害金を付して直ちに支払う。
関連記事|不貞行為とは何か?どこからが不貞行為かを弁護士が解説します/モラハラで慰謝料を請求できるのか?モラハラの意味や慰謝料の条件/DVの慰謝料請求の相場は?DVの慰謝料請求について弁護士が解説
⑦年金分割
年金分割とは、婚姻期間中の厚生年金や共済年金の納付記録を離婚時に分割する制度です。按分割合について合意できている場合は、その内容を公正証書に盛り込んでおきましょう。公正証書(または公証人の認証がある合意書)があれば、夫婦揃って年金事務所に出向く手間が省けます。
甲(第1号改定者。基礎年金番号〇〇〇〇)と乙(第2号改定者。昭和〇〇年〇月〇日生。基礎年金番号〇〇〇〇)は,本日,厚生労働大臣(又は日本年金機構理事長)に対し,対象期間の標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合を0.5とする旨合意した。
関連記事|熟年離婚をした場合の年金分割の基礎知識
⑧面会交流
離れて暮らす親と子どもの面会交流について、回数、日にち、場所、方法、宿泊の有無などの基本的な枠組みを定めておきます。細かく決めすぎると運用が硬直化するため、「月1回程度とし、具体的な日時・方法は都度協議する」といった柔軟な定め方も実務ではよく使われます。
⑨住所や勤務先の変更と通知義務
相手の住所や勤務先が変わった場合、情報提供を受けられなければこれらを把握できません。特に勤務先の情報は、給与差押えをする際に必要になります。弁護士を通じた住民票の職務上請求などで収集することも可能ですが、時間と費用がかかるため、変更があれば遅滞なく連絡する旨の条項を設けておきましょう。
甲及び乙は、住所、居所及び勤務先が変更になった場合は、遅滞なく他方の当事者に通知しなければならない。
⑩清算条項
合意書で定めた約束以外に、お互い名目のいかんを問わず金銭請求をしないことを確認する条項です。これを設けることで、合意後に「実はこんな請求もあるので支払え」という蒸し返しを防げます。
甲及び乙は、本合意書に定めるもののほか、何らの債権債務関係の存しないことを相互に確認し、名目の如何を問わず相互に金銭その他の請求をしないことを約する。
⑪強制執行認諾文言
公正証書の最大のメリットである、強制執行を認める文言です。この条項があることで、相手が不払いに陥っても、訴訟手続をすることなく差押手続を行うことができます。なお、公正証書による強制執行の対象は、お金の支払いを求める金銭債権に限られ、不動産の明渡しなどは対象外です。
甲は、本合意書において定めた金銭債務の履行をしないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。
離婚公正証書に書けないこと
公正証書は公文書である以上、盛り込む内容には制約があります。法律上無効である内容や公序良俗に反する内容は記載できません。たとえば次のような事項です。
- 養育費の支払いを拒否する取り決め
- 面会交流を一切拒否する・親権者変更を禁止する取り決め
- 利息制限法を超える金利の記載
- 慰謝料や財産分与の支払いを不相当に長期間の分割とすること

離婚公正証書ができるまでの流れ【5ステップ】
ステップ1:離婚協議を行う
まずは夫婦間で離婚条件を含めた協議をします。公証役場は、あくまで夫婦間で合意した条件を公正証書の形にする場所であり、公証人が夫婦の間に入って条件を調整してくれるわけではありません。協議しておくべき主な項目は次のとおりです。
- 子どもの親権や養育費:親権者(監護者)、養育費の月額・終期、進学や疾病時の諸費用の負担
- 財産分与:金額や支払時期、自宅不動産の権利関係や離婚後の居住関係(住宅ローン)、年金分割
- 慰謝料関係:金額、支払方法(一括か分割か)、支払時期、不払い時の処理方法
- 面会交流:回数、日にち、場所、方法、宿泊の有無
- 婚姻費用:離婚前に別居している場合、別居から離婚までの生活費の清算
ステップ2:原案の作成
条件がまとまったら、公正証書のもとになる合意書の原案を作ります。夫婦の一方が叩き台を作成し、もう一方が確認して調整していくのが一般的です。調整の往復を減らすため、文案作成を弁護士に依頼したり、公証人に概要を伝えて文案化してもらう方法もあります。
ステップ3:公正証書作成の予約
作成を申し込む公証役場を決め、電話やメールで作成日を予約します。申込者だけでなく、相手方またはその代理人の予定も調整する必要がある点に注意しましょう。
ステップ4:必要書類の準備と提出
離婚公正証書の場合、戸籍謄本の提出が必要です。本人確認のために印鑑登録証明書と実印も用意します。作成日の1週間程度前までに、文案とあわせてこれらをファックスやメールなどで公証役場に提出します。弁護士に依頼する場合は、文案を添付した委任状も必要です。
ステップ5:作成日当日
予約した時間に公証役場へ出向き、実印・印鑑証明・運転免許証などを持参します。公証人による内容確認と読み上げが終わると、夫婦双方が署名捺印し、作成費用を支払って完了です。費用をどちらが負担するか(折半するか)は事前に決めておきましょう。なお、公正証書を作成しても離婚届の提出は別途必要です。
公正証書があれば裁判をせずに強制執行できる
本来は判決や調停調書(債務名義)が必要
相手が合意内容を履行しない場合、差押えなどの強制執行により、相手の意向に関係なく財産から未払金を回収できます。ただし、強制執行には「債務名義」という書類が必要です。債務名義とは、確定判決、和解調書、調停調書、審判といった裁判所が作成した文書のこと。裁判手続を経ずに作った単なる合意書は債務名義にならず、それに基づいて強制執行することはできません。合意書しかない場合、履行を求める訴訟や調停を経て判決や和解を得る必要があり、1年前後の時間を要することもあります。
公正証書は判決に代替する
強制執行認諾文言付きの公正証書にしておけば、訴訟手続を経ることなく、相手の預貯金や給与を差し押さえることができ、大幅な時間と労力の節約になります。対象は金銭債権に限られますが、養育費や財産分与、慰謝料の支払確保という目的には十分に強力な手段です。
【署名する前に】弁護士が伝えたい3つの注意点
公正証書は「作れば安心」というだけの書面ではありません。支払う側にとっても受け取る側にとっても、署名後に後悔しないための確認が欠かせません。
①金額が適正か、署名前に必ず検証する
相手のペースで手続きが進み、内容を十分に検討しないまま公証役場で署名を求められる──実務ではそんな相談が少なくありません。特に、自分に離婚原因があって交渉上の立場が弱いと感じている場合、早く離婚したいあまり、調停や訴訟になった場合よりも相当高額な養育費や慰謝料で合意してしまうケースがあります。合意する前に、裁判になった場合の相場と比較検討することが重要です。
②一度合意した内容を覆すのは極めて難しい
「知らなかった」「高すぎた」という理由で、成立した合意が無効とされることはほとんど期待できません。算定表の水準を大きく超える養育費に合意した場合でも、それだけを理由に減額が認められるかは不透明で、減額するには改めて調停を申し立てる負担が生じます。だからこそ、署名前の検討がすべてです。
③支払う側は「1回の遅れ」のリスクを理解しておく
強制執行認諾文言付き公正証書で養育費を取り決めた場合、支払いが遅れると給与差押えを受ける可能性があります。養育費のような定期的な支払債務では、将来分についてまで差押えが及ぶ場合もあり、勤務先に差押えの事実を知られることにもなります。支払う側は、無理なく継続できる金額で合意することが、結果的に子どものためにもなります。受け取る側にとっては、これこそが公正証書を作成する意義となります。
よくある質問(FAQ)
Q. 離婚公正証書は離婚後でも作れますか?
A. 作成できます。ただし、離婚成立後は相手の協力を得にくくなるのが実情です。年金分割(離婚後2年以内)や財産分与(同じく2年以内)には期限もあるため、できる限り離婚前に作成しておくことをおすすめします。
Q. 相手が公正証書の作成に応じてくれません。
A. 公正証書の作成には双方の関与が必要なため、強制はできません。相手が応じない場合は、離婚調停を申し立てて調停調書を得る方法があります。調停調書も公正証書と同様に強制執行が可能な債務名義となります。
Q. 公正証書の作成費用は誰が負担しますか?
A. 法律上の決まりはなく、当事者の合意次第です。折半とする例が多いですが、一方が負担する取り決めも可能です。トラブル防止のため、負担割合を合意内容に含めておくと安心です。
Q. 弁護士に頼まず自分たちだけで作成できますか?
A. 可能です。ただし公証人は中立の立場であり、あなたにとって有利・不利のアドバイスまではしてくれません。金額の妥当性や抜け漏れの確認は自己責任になるため、少なくとも署名前に文案を弁護士にチェックしてもらうことをおすすめします。
Q. 公正証書を作れば離婚は成立しますか?
A. いいえ。公正証書は離婚条件の合意を公文書にするものであり、離婚自体は市区町村役場への離婚届の提出によって成立します。届出をどちらが行うかも公正証書に明記しておきましょう。
離婚公正証書の作成は弁護士に相談を

離婚公正証書は、離婚後のトラブルを防ぎ、約束の履行を担保する強力な手段です。しかし、早期解決を急ぐあまり養育費や慰謝料を相場よりかなり高額な水準で合意してしまうと、一度した合意を覆すのは非常に困難です。
公正証書を作成する際には、署名の前に弁護士へ相談することをおすすめします。当事務所では、文案の作成・チェックに加えて、公証役場の予約から作成日までのサポート全般をお手伝いしています。初回相談30分は無料で、面談方法はご来所・zoom等・お電話からお選びいただけます。
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※本記事は『離婚協議書・婚姻契約条項例集』(日本加除出版)『男性のための離婚の法律相談』(学陽書房)等を参考に、独自に構成・執筆したものです。文例は一例であり、個別の事案への適合性は弁護士にご確認ください。






