コラム
更新日: 2026.08.22

交通事故の高次脳機能障害|等級認定と将来介護費

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

交通事故で頭を打ったあと、体は治ったのに、以前とは何かが違う。そう感じているご家族は少なくありません。

怒りっぽくなった。同じことを何度も聞く。約束を忘れる。仕事の段取りが立たなくなった。それは性格の問題ではなく、高次脳機能障害かもしれません。

この障害は、賠償額が非常に大きくなりうる後遺障害である一方、周囲にも本人にも気づかれにくい後遺障害でもあります。この記事では、自賠責保険がどのように等級を決めているのか、等級の分かれ目はどこにあるのか、そして重度の事案でどのような損害が認められるのかを、公的資料に基づいて説明します。

結論から

Q. 高次脳機能障害の等級は、何で決まるのですか?

4つの能力がどれだけ失われたかで決まります。意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、社会行動能力の4つです。基準に添えられた整理表では、この失われ方が「どこまで自分でできるか」という6段階に置き換えられており、その段階が等級に対応しています。

Q. 画像に何も写っていなければ、認定されないのですか?

意識障害があったかどうかで大きく変わります。画像所見がなく意識障害もない場合は、因果関係が否定されることが多くなります。一方、中等度以上の意識障害があった場合は、画像所見がなくても認定されることがあります。

Q. 示談の前に、何に気をつければよいですか?

急がないことです。脳挫傷のあとに遅れて外傷性てんかんが出ることがあり、早すぎる症状固定と示談は避けるべきです。等級が確定するまで示談しないという判断も必要になります。

目次
  1. 高次脳機能障害とは、脳が傷ついたことで起きる障害です
  2. まず問われるのは「脳が傷ついたこと」です
  3. 自賠責は、専門部会で審査しています
  4. 等級を決めているのは、4つの能力です
  5. 基準は、6段階で書き分けています
  6. 等級ごとの基準と、分かれ目
  7. 画像に何も写っていないとき、どうなるか
  8. 提出する書類と、検査
  9. 症状固定を、いつにするか
  10. 重い等級では、将来の介護費が損害の中心になります
  11. そのほかの損害と、公的な支援
  12. 示談の前に、必ず確認してください
  13. よくある質問

高次脳機能障害とは、脳が傷ついたことで起きる障害です

交通事故で頭に強い衝撃を受け、脳そのものが傷ついたときに残る障害です。急性期にもっとも重く、そこから少しずつ和らぎながら、慢性期まで続いていくという経過をたどります。

現れ方は人によってさまざまですが、実務上は3つの方向に整理して考えます。

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3つの方向ご家族が気づく変化
覚える・考える力
認知障害
新しいことが覚えられない。同じことを何度も聞く。すぐ気が散る。段取りを組んで最後までやり切ることができない
ふるまい
行動障害
その場に合わない言動をする。2つのことを同時にできない。職場のルールが守れない。話が回りくどく、結局何が言いたいのか伝わらない。危ないことを危ないと察知できない
人柄
人格変化
事故の前にはなかった変化。自分から動かなくなった一方で、抑えがきかなくなった。やる気が出ない。突然キレる。自分のことしか考えなくなった

自賠責保険の損害調査を行う損害保険料率算出機構が公表している資料の内容を、当事務所で整理したものです。

これらは、どれかひとつだけが出るというものではありません。いくつかが重なって現れることが多く、その結果として、ご家族は「別人になってしまった」という受け止め方をすることもあります。
立ち上がりや歩き方がふらつく場合は、とくに注意してください。脳全体が広く傷つくタイプの損傷では、ふらつきや手足の麻痺を伴うことが多く、身体の症状のほうが先に目につくためです。歩行が不安定なら、認知面も確かめる必要があります。

なぜ、見落とされるのか

この障害が見落とされる理由は、はっきりと整理されています。

  1. 急性期に、診療医が気づかない。骨折や内臓損傷など命に関わる合併外傷の治療が優先され、認知面の変化まで手が回りません。
  2. 家族が「いずれ回復する」と考える。命が助かって意識が戻ったのだから、他の症状もそのうち戻るはずだと受け止めてしまいます。
  3. 本人が症状を否定する。自己洞察力そのものが低下しているため、本人には「困っていない」と見えているのです。
3つ目が、この障害のもっとも厄介なところです。ご本人に「何か困っていることはありませんか」と尋ねても、「特にない」という答えが返ってきます。後遺障害診断書の自覚症状欄が空欄に近くなるのは、このためです。
変化に気づけるのは、事故の前を知っている家族と職場です。

まず問われるのは「脳が傷ついたこと」です

ここは、誤解されていることが多い点です。

症状の重さをいくら丁寧に伝えても、それだけでは等級に届きにくいのが実情です。順番があるからです。

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順番問われること使う資料
入口そもそも、事故で脳が傷ついたのか頭部の画像(CT・MRI)
頭部外傷後の意識障害についての所見
中身その結果、どれだけできなくなったのか神経系統の障害に関する医学的意見
日常生活状況報告
この2つは、足し合わせて総合判断されるわけではありません。等級認定の基準は、高次脳機能障害を脳の器質的病変に基づくものと位置づけ、CT等によってその存在が認められることが必要としています。入口をどう通るかが先に来るという構造です。
症状の訴えや検査の異常だけで入口を通ることは、原則として想定されていません。
ただし、例外がないわけではありません。国が高次脳機能障害の支援のために定めた診断基準は、検査所見で脳の器質的病変の存在を明らかにできない症例についても、慎重な評価により高次脳機能障害と診断されることがあり得るとしています。同じ基準には、MRIで異常が認められなくても高次脳機能障害を呈することがあるという注記も置かれています。
賠償の場面でも、画像に写っていなくても、事故直後に中等度以上の意識障害があった場合には認められる余地があります。この点は後ろで詳しく扱います。

厚生労働省の高次脳機能障害支援モデル事業で作成された診断基準および同ガイドラインによります。

それでも、優先順位ははっきりしています。まず入口の資料をそろえること。次に中身を厚くすること。
自賠責保険が求めているのは1枚の画像ではなく、事故発生の直後から症状固定までの画像検査資料です。時間の経過を追える一式とお考えください。

自賠責は、専門部会で審査しています

脳外傷による高次脳機能障害が残った事案は「特定事案」と位置づけられ、専門医などで構成される自賠責保険(共済)審査会 高次脳機能障害専門部会が審査します。通常の後遺障害とは別のルートです。

診断名が書かれていれば、全件が審査対象になります

後遺障害診断書に高次脳機能障害を示唆する症状の残存が記載されている場合(高次脳機能障害、脳の器質的損傷、MTBI、軽度外傷性脳損傷などの診断名がある場合)は、全件について調査が行われ、審査会で審査されます。

診断名がなくても、拾い上げる仕組みがあります

診断書に何も書かれていない場合でも、自賠責保険は見落としを防ぐための網をかけています。次のような事情があれば、あらためて本人やご家族に症状の有無を確認したうえで、調査に進みます。

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着目される事情中身
傷病名で拾う頭部外傷で受診しており、その後の診断書に脳挫傷、びまん性軸索損傷、軽度外傷性脳損傷といった脳の傷を示す傷病名が並んでいる場合
症状で拾う頭部外傷で受診しており、その後の診断書に物忘れ、判断力の低下、注意力の低下、意欲の低下、怒りっぽさといった記載がある場合。ふらつく歩き方や手足のつっぱりを伴う麻痺など、脳の損傷に伴いやすい神経症状がある場合も同じ
画像で拾う最初に受診したときの頭部の画像に、頭蓋内の異常が指摘されている場合
意識障害の記録で拾う頭部外傷で受診し、最初にかかった病院の診断書から次のいずれかが読み取れる場合
呼びかけても目を開けず応答しない状態(JCSで2桁から3桁、GCSで12点以下)が6時間以上続いた
もうろうとした状態や記憶が飛んでいる状態(JCSで1桁、GCSで13〜14点)が1週間以上続いた
その他上記に当てはまらなくても、脳の損傷による高次脳機能障害が疑われる場合

自賠責保険で調査の対象を選び出す際の着眼点を、当事務所で整理したものです。

ここは誤解されやすいところです。これらは網を広くかけて見落としを防ぐための入口であって、当てはまれば認定されるという基準ではありません。当てはまっても認定されないことは普通にあります。
逆に言えば、事故直後の意識障害がどの程度で、どれくらい続いたのかが記録に残っているかどうかは、入口を通れるかどうかを左右します。
記録は、診断書だけではありません。自賠責が調査対象を選ぶときに見るのは初診病院の経過診断書ですが、意識障害の実際の様子は、ほかの記録に残っていることがあります。
救急搬送されたときの記録。入院中の看護記録。転院するときに次の病院へ渡される診療情報提供書。退院時にまとめられる退院時要約診断書に何も書かれていなくても、これらのどこかに残っていることは珍しくありません。
頭部の画像も同じです。脳が傷ついたことを示す資料として、診断書とは別に、時期の異なるCT・MRIそのものを取り寄せる必要があります。
いずれも、後遺障害診断書を書いてもらう段階になってから探すと間に合わないことがあります。画像が乏しい事案では、自賠責保険の側から搬送時の記録や転院時の書面の提出を求めてくることもあります。早い段階で、まとめて確保してください。

等級を決めているのは、4つの能力です

高次脳機能障害の等級は、次の4つの能力がどれだけ失われたかで判断されます。

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4つの能力問われているのは、要するに見られる中身
意思疎通能力職場で人と話が通じるか覚える力、状況をつかむ力、言葉を使う力。この3つのどこに引っかかっているかで判断する
問題解決能力言われた仕事を、言われたとおりにこなせるか指示や求められている水準を正しく受け取れるか。適切に判断できるか。理解力、判断力、注意を向けるべきところに向ける力
持続力・持久力普通の勤務時間、もつのか意欲や気分が続くか、注意を保ち続けられるか。やる気が出ないことによる疲れやすさ・だるさも、ここに含めて評価する
社会行動能力周りと一緒に働けるか協調して作業ができるか。大した理由もないのに突然怒り出すような、場違いなふるまいがどれくらいの頻度で出るか
4つを足し算するのではありません。複数に障害があるときは、いちばん重いものに合わせて等級を決めるのが原則です。
認定基準は、この点を例を挙げて説明しています。意思疎通能力について5級相当、問題解決能力について7級相当、社会行動能力について9級相当の障害が認められる場合は、もっとも重い意思疎通能力の障害に着目して5級として認定する、という例です。3つあるから重くなる、という計算はしません。
ただし3級以上になると、話が変わります。ここから先は、4つの能力に加えて介護が必要かどうか、どの程度必要かが判断に加わります。

労働基準局長通達「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(平成15年8月8日基発第0808002号)によります。自賠責保険もこの基準に準拠して等級を認定しています。

基準は、6段階で書き分けています

4つの能力の「失われ方」は、基準に添えられた整理表でA〜Fの6段階に分けられています。この6段階が、そのまま等級に対応しています。並べてみると、軸はどこまで自分でできるかです。自力でできる段階から、援助があればできる段階を経て、できない段階まで、順に並んでいます。

自力でできる できない A 14級 わずかに B 12級 多少 C 9級 相当程度 D 7級 半分程度 E 5級 大部分 F 3級 全部 能力が失われている程度(A〜F)と、対応する後遺障害等級

高次脳機能障害整理表の「喪失の程度」と認定基準の対応関係を、当事務所で図にしたものです。

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段階整理表の記載失われた程度等級
A多少の困難はあるが、概ね自力でできるわずかに喪失14級
B困難はあるが、概ね自力でできる多少喪失12級
C困難はあるが、多少の援助があればできる相当程度喪失9級
D困難はあるが、かなりの援助があればできる半分程度喪失7級
E困難が著しく大きい大部分喪失5級
Fできない全部喪失3級

認定基準に添付された高次脳機能障害整理表の記載と、認定基準本文の対応関係によります。

注目していただきたいのは、CとDです。ここだけ「援助があればできる」という書き方になっています。少しの援助で足りるのか(9級)、かなりの援助が要るのか(7級)。その差で等級がひとつ動きます。
そしてAとBは「自力でできる」、EとFは「著しく困難」「できない」です。つまりこの6段階は、自力でできるところから、援助が要るところを経て、できないところまでを順に並べたものだということになります。ご家族が書類に記入するときは、この並びのどこに当たるのかを意識してください。

等級ごとの基準と、分かれ目

認定基準を等級順に並べると、次のようになります。

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等級働けるか・介護が要るか4つの能力の失われ方
1級1号
要介護の別表
身のまわりのことに、常に介護が必要
食事・入浴・トイレ・着替えに常時つきそいが要る状態。または、認知面や感情面の荒廃が著しく常に見ていなければならない状態
2級1号
要介護の別表
身のまわりのことに、その都度の介護が必要
食事・入浴・トイレ・着替えにときどき手を貸す必要がある状態。幻覚・妄想・たびたび起きる意識の途切れなどのため随時見ておく必要がある状態。または家の中のことは一応できるが、ひとりで外出できず、出かけるには付き添いが要る状態
3級3号身のまわりのことはできる。ただし、働くことができない4つのうち1つ以上が完全に失われている2つ以上が大部分失われている
5級2号ごく簡単な仕事しかできない4つのうち1つ以上が大部分失われている2つ以上が半分程度失われている
7級4号軽い仕事しかできない4つのうち1つ以上が半分程度失われている2つ以上が相当程度失われている
9級10号通常の仕事はできる。ただし、就ける職種の幅がかなり狭まっている4つのうち1つ以上が相当程度失われている
12級13号通常の仕事はできる。多少の障害が残っている4つのうち1つ以上が多少失われている

労働基準局長通達に基づく認定基準によります。労働能力喪失率は、国土交通省が公表している労働能力喪失率表により、別表第一の第1級・第2級および別表第二の第1級から第3級が100%、第5級79%、第7級56%、第9級35%、第12級14%です。

自賠責保険では、高次脳機能障害で14級9号が認定されることはありません。脳挫傷痕・脳内出血痕がある12級以上に限られます。

1級・2級の分かれ目は、介護が「常時」か「随時」か

2級には、見落とされやすい入り方があります。それが、家の中のことは一応こなせているのに、ひとりで外に出られないという状態です。買い物にも通院にも家族が付いていかなければならない。この場合、外出のたびに介護が必要という評価になり、2級に届きうるのです。
「食事も着替えも自分でできているのだから、介護は必要ないでしょう」という説明を受けたら、そこを疑ってください。家の中でできることと、外に出られることは別の話です。

3級と5級の分かれ目は、「働けないのか、働ける仕事が限られるのか」

基準の文言そのものは、次のように分かれているだけです。

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等級基準の文言
3級3号高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの
5級2号高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
「まったく働けない」のか、「ごく簡単な仕事ならできる」のか。境目はこの一点です。
実務書では、この当てはめについて、注意機能の低下などが残っていても、決まった手順の単純作業ができるのであれば、3級ではなく直近下位の5級にとどまりうると説明されています。逆に3級が認められた事例では、周囲の変化に対応できず、ひとりで外出できないために勤務先へ出勤すること自体が困難だったという事情が、就労不能の評価につながったと解説されています。
そうであれば、書き方も見えてきます。日常生活状況報告に、いつもと違うことが起きたときにどうなるかを具体的に書いてください。いつもどおりの一日なら何とかなっている、という記載だけでは、この違いは伝わりません。

5級・7級・9級の分かれ目は、「助言がどれくらい要るか」

この3つは、等級の定義だけを読んでも境界が引きにくいところです。きわめて軽易な労務のほか服することができない(5級)/軽易な労務にしか服することができない(7級)/就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限される(9級)と並んでいるだけだからです。

そこで手がかりになるのが、認定基準が挙げている例示です。問題解決能力を例にとると、次のように書き分けられています。

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等級認定基準の例示
9級1人で手順どおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまには助言を必要とする
7級1人で手順どおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、時々助言を必要とする
5級1人で手順どおりに作業を行うことは著しく困難であり、ひんぱんな指示がなければ対処できない
分かれ目は「たまに」「時々」「ひんぱんに」という頻度の言葉です。言い回しは似ていますが、実務ではこの差が2等級分ひらきます。
医師に書いてもらう医学的意見にも、ご家族が書く日常生活状況報告にも、どの頻度が実態に合うのかを意識して記載してください。
実際の認定では、書類の表現が決め手になることがあります。実務書は、5級が認定された事例と7級が認定された事例を比べて、次のように解説しています。
5級の事例では、計画性を欠くために広く「促しを要する」状態にあった。これに対し7級の事例では、できない業務が特定されておらず「何らかの配慮を要する」とされていたにとどまる。この違いが等級を分けたと考えられる、という説明です。
「促し」「配慮」といった言葉が、そのまま等級の評価に結びついていることがうかがえます。
検査の点数がよくても、諦めないでください。注意力や記憶力の検査値が基準の範囲内であっても、遂行機能の低下や易疲労性のために日常生活に支障が出ているのであれば、それは認定の対象です。
この点は、認定基準自身がはっきり断っています。検査の結果だけで決めてはならないこと。知能指数が高くても、高次脳機能障害のせいで生活がうまく回らない人がいること。この2つが、基準の注意書きとして書き込まれているのです。数字ではなく、4つの能力がどれだけ削られたかで見る——この建前は、被害者側にとって使える武器になります。

9級と12級の分かれ目は、「高次脳機能障害と呼べるか」

高次脳機能障害として認定される、いちばん軽い等級が9級10号です。そこに届かないものが12級13号として扱われます。
つまりこの2つの境目は、程度の大小というより、そもそも高次脳機能障害と呼べる症状が残っているかどうかという質の問題になります。
そして12級13号は、思っているより広く認定されています。事故で脳内出血などが生じ、その痕(脳挫傷痕)が画像に残っている場合には、比較的認められやすい傾向があります。
高次脳機能障害とまでは言えないが認知面の変化が残っている場合、頭痛や違和感が続いている場合、さらには自覚症状がはっきりしない場合にも、認定された例があります。
症状固定の時点で訴えが乏しくても、申請してみる価値はあります。
ただし、脳萎縮が写っている場合は事情が変わります。脳萎縮が残っているケースでは症状も重いことが多く、12級にとどまる場面はむしろ限られるとされています。画像に脳萎縮の指摘があるのに12級を提示されているようなら、その理由を確認してください。
労災では、同じ結論になりません。労災保険では脳挫傷痕・脳内出血痕のみで12級を認定する運用がされていないとされています。同じ被害でも、通勤災害として労災に後遺障害を申請していれば等級が認定されない可能性があるということです。自賠責と労災のどちらで先に手続きするかは、結論を左右します。

労災との使い分けはこちらで詳しく説明しています

画像に何も写っていないとき、どうなるか

もっとも相談が多いのがこの点です。結論からいえば、意識障害があったかどうかで結論が大きく変わります。

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画像意識障害実務ではどう扱われるか
写っていないなかった高次脳機能障害らしい症状があり、神経心理学的検査に異常が出ていても、それが事故によるものだとは認めがたい、という結論になりがちです。この場合は、症状がいつ現れたのか、その後どう推移したのかを丁寧に押さえるしかありません
写っていない軽かったMTBI・軽度外傷性脳損傷と診断される事案の多くがここに入ります。2018年の検討でも従来の取扱いを改める理由は見いだされなかったとされ、厳しい扱いのまま据え置かれています
写っていない中等度以上あった急性期にCTやMRIが撮られていなかった、というケースがこれに当たります。事故のあとに症状が出て、多少よくなりながらも残っており、検査にも異常が出ているのであれば、高次脳機能障害と判断される余地があります
MTBIを理由に認定を得るのは、現状ではかなり難しいのが実情です。可能性が語られているのは、記憶が飛んでいる状態や軽い意識障害が1週間以上続いたといった、限られた場面にとどまります。それ以外で、画像に何も写っていない脳の障害が後遺障害として認められることは、まずありません。
それでも、診断名を書いてもらう意味はあります。軽度外傷性脳損傷という傷病名が診断書にあれば、少なくとも審査の対象には乗るからです。入口に立てなければ、議論すら始まりません。

画像は、時期と撮り方で結論が変わります

脳全体が傷つくタイプの損傷(びまん性軸索損傷)では、事故直後のCTでは一見すると異常が見当たらないことがあります。それでも、次の点を押さえておくと、あとから所見を拾える可能性があります。

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ポイント内容
まずCT、ただし限界がある運び込まれた直後は意識がなく、体内に金属があるかどうかも分かりません。だからMRIではなくCTから入ります。撮影が早く、頭蓋内の大きな異常をつかめるからです。ただし、細かな脳の傷はCTでは捉えきれません
早いうちのMRIが効くCTで何も出ないのに頭蓋内の異常が疑われるなら、受傷から間を置かずにMRIを撮っておきたいところです(T2強調、T2*、DWI、FLAIRといった撮り方があります)。早ければ写ったはずの脳挫傷が、時間が経つと消えてしまうことがあるからです
時間が経ってからでも、拾える撮り方がある脳の細かな出血が起きると、その跡に鉄分が沈着して残ります。T2*という撮り方は、時間が経ってからでもこの沈着を映し出すことがあり、診断の手がかりになります。SWIならさらに細かい出血の跡まで拾えます。「今からでは遅い」と諦める前に、撮り方を確認してください
脳が縮んだこと自体が、証拠になる受傷から3〜4週間以上たつと、重い事案では脳の萎縮がはっきりしてきます。脳そのものの傷が写っていなくても、萎縮していれば、それが高次脳機能障害を裏づける所見になります
変化は3か月で止まる受傷から数日で髄液がたまりはじめ、続いて脳室や脳の溝が広がっていきます。この変化はおおむね3か月ほどで落ち着き、その後はあまり動きません。比べるなら、この期間内の画像です
だからこそ「1枚」ではなく「経過」なのです。事故直後・数週間後・数か月後と時期の異なる画像を並べてはじめて、脳室拡大や脳萎縮が進んだことが見えてきます。局在性の損傷(脳挫傷や血腫)が目立つ事案でも、脳萎縮の有無と程度を経時的に確認することが重要とされています。
新しい検査に、過度な期待はしないでください。DTI、fMRI、MRスペクトロスコピー、SPECT、PETといった検査は、まだ研究が進んでいる途中です。これらの結果だけで、脳が傷ついていること、それが事故によること、障害がどの程度かを決めることはできません。
ただし、脇役としてなら使えます。たとえば、最初のCT・MRIでは脳の傷がはっきり写っていたのに時間とともに所見が消えてしまった、といった場面です。他の資料と食い違わず一貫した所見が出ているなら、補強材料として意味を持つことがあります。
ひとつ、覚えておいていただきたいことがあります。
画像に写った異常の大きさと、実際の症状の重さは、比例しません。画像が軽そうに見えるから症状も軽いはずだ、という理屈は成り立たないのです。
逆もまた然りです。頭蓋内に出血があり意識障害もあったからといって、必ず高次脳機能障害が残るわけではありません。画像だけでも、症状だけでも決まらない——ここが、この障害を難しくしています。

意識障害は、一次性か二次性かで意味が違います

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種類特徴
ぶつかった瞬間から
脳全体が広く傷ついたとき
衝撃を受けたその時から意識がない、というパターンです。この状態がおよそ6時間を超えて続いた場合、高次脳機能障害が消えずに残ることが多いとされています
あとから深まる
血腫や脳のむくみが広がったとき
最初は受け答えができていたのに、血のかたまりや脳のむくみが広がって途中から意識が落ちていくパターンです。この場合は、頭の傷以外の原因——血圧や呼吸の低下、酸素不足、ショック、薬やお酒の影響など——との切り分けも必要になります
「6時間」という数字を、ひとり歩きさせないでください。ぼんやりしている程度の意識障害が6時間続いたからといって、高次脳機能障害が残ると決まるわけではありません。自賠責の実務が念頭に置いているのは、呼びかけても目を開けず、応答も返ってこない、深く沈んだ状態です。どの程度の意識障害だったのかを、記録で確かめてください。

症状の経過でも、因果関係は判断されます

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症状の出方どう判断されるか
事故を境に症状が出て、少しずつ和らぎながらも残った。脳が傷ついたことを示す所見もある事故とのつながりが認められます。これが典型的な経過です
頭は打ったが脳が傷つくほどではなく、いったん普通の生活に戻った。数か月以上たってから症状が出はじめ、しだいに悪くなっている事故によるものとは考えにくいと判断されます。画像に慢性硬膜下血腫や脳室拡大といった変化も見当たらなければ、なおさらです。この場合は、脳の傷によらない精神的な不調である可能性も出てきます
方向が逆であることに注目してください。脳の傷による障害はだんだん軽くなっていくのが通常で、あとから悪化していくのは別の原因を疑わせます。
だからこそ、事故直後の検査結果だけで後遺障害を判定してはいけません。時期を変えて検査を重ね、どこまで戻ったのかを確かめる必要があります。「事故のあとはこんなにひどかった」ではなく、「症状固定の時点でここまで残っている」を示すことが求められます。

提出する書類と、検査

自賠責に出す資料

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資料作成者
保険金(共済金)・損害賠償額・仮渡金支払請求書請求者本人
交通事故証明書(人身事故)自動車安全運転センター
事故発生状況報告書請求者本人
診断書(事故発生から治療終了まで)診察した医師
後遺障害診断書(症状固定後)診察した医師
頭部の画像検査資料(CT・MRIなど)治療を受けた医療機関
診療報酬明細書治療を受けた医療機関
通院交通費明細書請求者本人
請求者の印鑑証明書印鑑登録をした市区町村

これに加えて、高次脳機能障害の事案では専用の書式が使われます。

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専用書式作成者役割
頭部外傷後の意識障害についての所見医師①事故が原因であることを示す(意識障害の有無・程度・持続時間)
神経系統の障害に関する医学的意見医師②症状の程度を示す(4能力の障害の程度)
日常生活状況報告家族・介護者②症状の程度を示す(生活の中で実際に何が起きているか)
2018年7月から、新しい調査様式が使われています。意識障害の有無やその程度(持続時間を含む)、症状の経過、認知機能について、より詳細に把握する方向で様式が改められました。古い書式を前提にした情報には注意してください。
日常生活状況報告は、ご家族が書く書類です。ここに何を書くかで、等級は動きます。
記載は、大きく2つの方向に効いてきます。食事や着替えなど身のまわりの動作は「介護が要るかどうか」に、物忘れや感情の起伏、ふるまいの変化は「働けるかどうか」に結びつきます。どちらを書いているのかを意識してください。
そして、「できる」「できない」の二択で書かないでください。ひとりでできるのか。声をかければできるのか。そばに誰かがいないとできないのか。この差が、そのままA〜Fの段階になります。二択で書いてしまうと、その差が消えます。

神経心理学的検査

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区分検査内容
知能(簡易)HDS-R
改訂長谷川式簡易知能評価スケール
数分から10分程度。見当識・記憶・計算・語想起。30点満点、20点以下が認知症疑い
知能(簡易)MMSE
ミニメンタルステート検査
世界でもっとも広く用いられる。30点満点、23点以下が認知症疑い
知能(本格)WAIS
ウェクスラー成人知能検査
成人用の本格的な全般性脳機能検査。言語性IQと動作性IQから総合IQを算出。100点を中心に15点が標準偏差。検査に2時間近くを要する
記憶WMS-R
ウェクスラー記憶検査
国際的にもっともよく使用される総合的な記憶検査。100点を中心に15点が標準偏差
記憶三宅式記名検査/RBMT聴覚性言語の記憶検査/日常記憶の障害を検出する検査
注意CAT
標準注意検査法
PASATなど。注意の持続と分配を評価する
遂行機能BADS/WCST行動を計画・立案・実行する力を評価する。鍵探し検査などが含まれる
言語SLTA/WAB失語症検査失語の有無と程度
人格ロールシャッハテスト/TAT人格特性の評価
検査には、測れるものと測れないものがあります。覚える力や考える力は数字にできます。段取りを組む力も、一応は測る方法があります。ところが、感情の面だけは、数字にする手立てがありません。
「怒りっぽくなった」「気持ちを抑えられなくなった」——これらは、どの検査を受けても点数になりません。だからこそ、日常生活状況報告とご家族の陳述書で、いつ・どんな場面で・どうだったかを具体的に残しておく必要があります。数字にならない部分は、言葉で埋めるしかありません。

症状固定を、いつにするか

脳挫傷を負った方には、時間が経ってから発作が出てくることがあります。外傷性てんかんです。だからこそ、早々に症状固定として示談してしまうのは危険です。示談のあとに発作が始まっても、後の祭りになりかねません。
ちなみに発作が1か月に2回以上あるようなケースでは、重い高次脳機能障害を伴っているのが通常とされ、3級以上の基準で等級を判断することになっています。発作の頻度は、必ず記録に残してください。
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年齢考え方
10代未満理想を言えば脳が完成する18歳ころまで経過観察したいところ。実際には長くても3年、最大5年程度で症状固定として申請することになる
10代・20代症状固定後の学業や就労を通じたリハビリによって、脳機能が徐々に回復していくことが珍しくない
75歳以上事故による脳損傷をきっかけに各種機能低下や認知症が進行し、要介護度が上がっていくことが少なくない。どこまでが事故によるものかという因果関係の問題が生じる
お子さんの場合は、審査を受ける時期そのものが判断事項になります。成長・発達に伴う環境の変化(入園、就学など)によって社会的適応障害が後から判明することがあるためです。
社会的適応障害の判断が可能となる時期まで審査を行わないという考え方と、いったん審査を受けて、成長・発達によって判明した段階で再審査請求を行うという考え方があります。

他の後遺障害も、あわせて確認してください

脳の損傷と一緒に生じやすい後遺障害があります。耳鳴り、目まい、複視、顔面神経麻痺、外貌醜状、歯牙障害などです。耳鳴りや目まいは内耳損傷の可能性があり、耳鼻科での検査が必要になります。
とくに見落とされやすいのが、味覚障害と嗅覚障害です。高次脳機能障害に併発することが多いうえ、本人に病識がないことが多く、ご家族が「味つけが濃くなった」と気づいて、事故から数か月経ってから発覚することがあります。精密検査は脳の炎症が落ち着いてからになるとしても、早い段階で診療録に訴えを残しておいてください。

重い等級では、将来の介護費が損害の中心になります

1級・2級の事案では、慰謝料よりも、逸失利益よりも、将来の介護費が最大の費目になることがあります。若い方が介護を要する状態になれば、そこから先の数十年分がのしかかるからです。金額が大きいぶん、加害者側もここを最も強く争ってきます。

近親者が介護する場合

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介護の要否実務の目安(1日あたり)
ずっと手が離せない場合8,000円程度
場面ごとに手を貸す場合
入浴、食事、着替え、排泄、外出など、一部の場面で介助が要る状態
何をどこまで介助しているかに応じて、相応の額
この障害ならではの、加算要素があります。それは「危ないことをしてしまうおそれがあるかどうか」です。
ただ見ているだけの見守りと、いつ何をするか分からない人から目を離せない状態とでは、介護する側の負担がまるで違います。そこで、危険な行動に出る可能性がどういう内容で、どの程度あるのかを見て、個別に判断されます。
火をつけたまま忘れる。外に出て帰ってこられなくなる。突然怒り出す。こうした「片時も目を離せない」事情は、必ず書き出してください。介護費の評価に直結します。

職業付添人に切り替える時期

介護する側にも、寿命があります。被害者が若い事案では、介護に当たるご家族が働ける年齢(67歳)までは家族介護の水準で、それ以降はプロに頼む前提の水準で計算するのが一般的な扱いです。
両親がいつまでも介護できるわけではない——この当たり前のことが、きちんと算定に織り込まれているのです。提示された示談案が、家族介護の日額のまま生涯分を計算していないか、必ず確認してください。そこだけで金額は大きく変わります。

1級で常時介護を要する事案について、職業付添人の介護費を認めた裁判例には次のようなものがあります。

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裁判例認められた介護費
東京地裁 平成22年9月6日日額2万5,000円(24時間体制での看視を要することを考慮)
東京地裁 平成22年10月27日配偶者が67歳まで日額1万6,000円、その後は日額2万円
名古屋地裁 平成24年3月16日当初は家族介護と職業付添人を合わせて日額2万5,000円、その後は職業付添人のみ日額3万円
大阪地裁 平成26年12月8日母が67歳まで日額8,000円、それ以降は職業付添人 日額2万円
大阪地裁 平成28年8月29日職業付添人と親族を合わせて日額1万8,000円
神戸地裁 平成29年3月30日母が67歳まで日額1万3,000円、その後は職業付添人 日額2万3,000円
松山地裁 平成29年3月30日日額1万円+介護に伴う将来雑費 日額1,500円
大阪地裁 令和2年3月31日職業付添人 月額48万円、父母合計 日額5,000円
大阪地裁 令和4年7月26日母が67歳まで日額6,000円、その後は職業付添人 日額1万5,000円
金額には幅がありますが、傾向は読み取れます。近年の1級の事案では、日額1万5,000円から2万円あたりに落ち着くことが多くなっています。
2万円を超えた事案もあります。ただしそれは、24時間ずっと見ていなければならないとされた事案や、数時間おきに体の向きを変える必要があり、付添人が複数必要とされた事案です。負担の重さを具体的に示せた事案が、上に振れています。

いつまで認められるのか

昔は10年程度で区切る判決もありましたが、いまは平均余命まで認めるのが主流です。
重い後遺障害が残った方は一般に余命が短いといわれます。しかし「この被害者の余命は平均より短い」と言い切れるだけの証拠を加害者側が出してこない限り、平均余命まで介護費を認めるのが通常の扱いです。意識が戻らない状態が続いている事案でも、平均余命まで生きる前提で計算する判決が多数を占めています。
「どうせ長くは生きられないのだから」という理屈で期間を短く提示されたら、その根拠を出してもらってください。

平均余命は、厚生労働省が毎年公表する簡易生命表を用いる裁判例が多くなっています。令和7年簡易生命表による平均寿命は、男81.35年、女87.33年です。

車椅子や介護用ベッドの買い替えも損害です

車椅子、義足、介護用ベッド。こうした道具の代金も損害です。症状に見合う範囲で認められますし、数年ごとに買い替えが必要なものは、これから先の分もまとめて請求できます。ただし将来分は、先に受け取るぶんの利息を差し引いて現在の金額に直します。
公的サービスを受けていても、そのぶん差し引かれるとは限りません。障害者総合支援法によるサービスは、損害の穴埋めを目的とした給付ではなく、支給した側が加害者に請求できる仕組みもありません。したがって差し引かれないと考えられます。介護保険についても、これから先どれだけ給付されるかは分からないとして、将来分の控除を認めない判決が多いのが現状です。

そのほかの損害と、公的な支援

近親者固有の慰謝料

苦しんでいるのは、ご本人だけではありません。重い後遺障害の事案では、ご家族自身の慰謝料が、被害者本人の慰謝料とは別に認められることがあります。
実務では、1級から3級までの重い等級であれば認められることが多く、それより軽い等級では否定されることが多いという傾向があります。働く力がほぼ失われ、家族の生活そのものが変わり、介護の負担がのしかかる——そうした事情が、家族自身の損害として評価されるからです。これから何十年も介護を担うことになる、という将来の負担が考慮されているとお考えください。

逸失利益

1級から3級は、働く力を100%失ったものとして計算します。症状固定の時から67歳までを対象に、事故前の収入に喪失率と係数を掛けます。お子さんの場合は、働き始める18歳から67歳までの期間に対応する係数を使います。
その後に別の病気などで亡くなられたとしても、計算し直しにはなりません。働く力を失ったという損害は、事故が起きたその時点で、すでに一定の中身をもって発生していると考えられているからです。あとから起きた事情で、その中身が変わることはない、という整理です。

将来の介護費と逸失利益は、定期金でも請求できます

最高裁 令和2年7月9日判決

この判決の被害者は、事故当時4歳のお子さんで、高次脳機能障害のために働く力を完全に失ったという方でした。定期金賠償という論点を最高裁が正面から認めた事案は、まさに高次脳機能障害の事案だったということです。

最高裁は、後遺障害による逸失利益について、賠償制度の目的と理念に照らして相当といえる場合には、定期金による賠償を認めてよいと判断しました。

その理由として挙げられたのが、失われた利益が現実になっていくその都度、対応する額を支払うほうが本来の姿に近い場合があること、そして後になって障害の程度や賃金の水準が大きく動き、想定した損害額と現実とがかけ離れてしまったときに、民事訴訟法117条によって確定した判決の内容を見直せることです。長い将来を一度に見積もる難しさを、制度で受け止めようという考え方です。

もうひとつ重要なのが終期の判断です。働けたはずの年齢に達する前に被害者が亡くなったとしても、特別の事情がない限り、その死亡の時点で定期金を打ち切る必要はないとされました。

そして、この仕組みがいちばん向いているのは、じつは介護費のほうです。介護がどれだけ必要かは、判決が確定したあとでも変わっていきます。だからこそ、今の状態に見合った月額(または年額)を定期的に支払わせておき、事情が変わったらどちらの側からでも見直しを求められるようにしておく意味があります。
変わることが最初から見込まれている費目なのですから、定期金にする必要性は、逸失利益よりもむしろ高いといえます。

NASVAの支援も確認してください

賠償とは別に、公的な支援制度があります。独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)は、遷延性意識障害者の療護施設の設置・運営、重度の後遺障害を負われた方への介護料の支給、交通遺児等への無利子の生活資金の貸付を行っています。相談は無料です。

示談の前に、必ず確認してください

自賠責の認定は、裁判でも重い意味を持ちます

自賠責で等級が付けば、それだけで一応の立証ができたものとして扱われます。特段の反論や新しい立証がなければ、裁判所も自賠責と同じ結論を採ることが多いのが実際です。示談交渉も、この認定を土台にして進みます。
裏を返せば、認定より重い等級を主張するなら、その根拠をこちらで積み上げなければなりません。しかしそこを尽くせば、自賠責とは違う判断を裁判所から引き出すことは十分に可能です。自賠責の結論が最終決定ではありません。

時効に気をつけてください

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請求の種類起算点と期間
被害者請求後遺障害の症状が固定した日の翌日から3年(自賠法19条)
加害者請求加害者が損害賠償金を支払った翌日から3年(保険法95条)

事故日が2010年3月31日以前の場合は2年です。なお、近親者固有の慰謝料請求権は不法行為に基づくものですので、消滅時効は3年です。

この障害では、時効が絵空事ではありません。ご本人にはそもそも自覚がなく、ご家族も最初のうちは変化に気づかない。そういうことが実際に起きるからです。ようやくおかしいと気づいたときには、症状固定から何年も経っていた——そんな相談は珍しくありません。思い当たることがあれば、早めに動いてください。

示談書に入れておきたい条項があります

自賠責の調査を担う損害保険料率算出機構も、被害者に向けて注意を促しています。示談書を作るときには、あとから症状が重くなった場合や、示談のあとで上の等級が認められた場合に、あらためて請求できるという趣旨の条項を入れておくことが大切だ、という趣旨です。
高次脳機能障害は、時間が経ってから障害の広がりが見えてくることがある。だからこそ、扉を閉めきらないようにしておく。そういう発想です。

損害保険料率算出機構が公表しているリーフレットの指摘によります。

弁護士から

もっとも、加害者側がこのような内容の示談書を受け入れない場合も少なくありません。保険会社としては、支払って終わりにしたいからです。

条項が入らないとき、当事務所では次の2つで対応しています。

ひとつは、症状が固まるまで待つことです。脳挫傷のあとに遅れて外傷性てんかんが出ることがあり、早すぎる症状固定と示談は避けるべきだからです。

もうひとつは、等級が確定するまで示談しないことです。納得できない等級のまま示談してしまえば、あとから覆すのは容易ではありません。先に異議申立てなどで等級を固めてから、示談交渉に入ります。

いったん示談してしまうと、扉は閉まります。賠償請求権を手放した以上、加害者にも自賠責にも、原則としてもう請求できません。
とくにお子さんの事案では、慎重になってください。入園や就学といった節目を迎えて初めて、集団の中でうまくやれないことが見えてくる場合があります。いつ示談するかという判断そのものが、結果を左右します。

加害者側から生活状況の調査を受けることがあります

裁判になると、加害者側が被害者の生活ぶりを調べてくることがあります。その結果は、そのまま判断材料になります。実際、自賠責では「働けない」として3級と認定されていた方が、調べてみると就労していた——そういう場面もあると指摘されています。
だからこそ、実態と違うことは書かないでください。それが結局、いちばん強い立証になります。できていることは、できていると書く。そのうえで、それが「どんな条件のもとで成り立っているのか」を丁寧に添える。周囲がどれだけ支えているかを書き込めば、できている事実は不利になりません。

頭を打った事故のあと、ご家族が「以前と違う」と感じているなら

難波みなみ法律事務所では、交通事故の被害者側のご相談を初回30分無料でお受けしています。高次脳機能障害は、資料をそろえる順番と時期で結論が変わります。救急搬送時の記録、時期の異なる頭部の画像、日常生活状況報告——どれも、あとから取り直すことが難しいものばかりです。症状固定を迎える前に、一度ご相談ください。弁護士費用特約をお使いいただけます。

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よくある質問

Q. 高次脳機能障害とは、どのような障害ですか?

事故で脳そのものが傷ついたことによって残る障害です。急性期にもっとも強く出て、少しずつ和らぎながら慢性期まで続いていきます。現れ方は、覚える・考える力の低下、ふるまいの変化、人柄の変化という3つの方向に整理できます。新しいことが覚えられない、気が散りやすい、段取りを立てて実行できない、2つのことを同時にできない、感情を抑えられない、突然怒る、やる気が出ない——こうした変化として表れます。

Q. 等級は何で決まりますか?

意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力、社会行動能力という4つの能力が、どれだけ失われたかで決まります。複数の能力に障害がある場合は、原則としてもっとも重い能力の障害に着目して等級を決めます。3級以上に該当する場合は、これに加えて介護の要否と程度が判断されます。

Q. 9級と12級は、何が違うのですか?

分水嶺は「高次脳機能障害と呼べる症状が残存しているか否か」です。高次脳機能障害はもっとも軽い症状で9級10号が認定されることとされており、これに達しない症状は12級13号として扱われます。

Q. 自覚症状がなくても、後遺障害が認定されることはありますか?

あります。12級13号は、事故により脳内出血等が発生した後、その痕跡が残っている場合に比較的広く認定される傾向にあります。高次脳機能障害とは呼べないまでも認知障害等が残っている場合や、頭痛・違和感が残っている場合、さらには自覚症状がない場合にも認定例があります。症状固定時の自覚症状が乏しくても、申請を検討する余地があります。

Q. 高次脳機能障害で14級は認定されますか?

自賠責保険では認定されません。脳挫傷痕・脳内出血痕がある12級以上に限られます。

Q. CTやMRIに異常が写っていない場合はどうなりますか?

意識障害があったかどうかで結論が変わります。画像所見が明らかでなく意識障害も認められない場合は、事故と因果関係を有さないと判断されることが多くなります。一方、中等度以上の意識障害が認められる場合には、頭部外傷後に症状が発現して残存し、神経心理学的検査等に異常所見が認められれば、高次脳機能障害と判断されることがあります。

Q. MTBI(軽度外傷性脳損傷)でも認定されますか?

きわめて限られた場合に限られます。報告書で挙げられているのは、健忘あるいは軽度の意識障害が少なくとも1週間続く場合などです。それ以外では、画像所見のない脳の障害が後遺障害として認められることは現在のところ非常に難しいのが実情です。ただし、軽度外傷性脳損傷の診断が診断書に記載されていれば、高次脳機能障害の審査対象にはなります。

Q. 検査の点数がよければ、高次脳機能障害ではないのですか?

そうとは限りません。認定基準にも「神経心理学的な各種テストの結果のみをもって判断しない」「知能指数が高いにもかかわらず高次脳機能障害のために生活困難度が高い例がある」と明記されています。実際、注意・記憶の検査値が低下していなかった事例で5級が認定されています。

Q. 日常生活状況報告には、何を書けばよいですか?

「できる/できない」ではなく、「どういう条件なら、どこまでできるのか」を書いてください。ひとりでできるのか、声をかければできるのか、そばについていないとできないのか。この差がそのまま等級の段階に対応します。事故の前と後で何がどう変わったかを、具体的な場面で書くことが大切です。

Q. 将来の介護費は、いつまで認められますか?

現在は平均余命までの介護費を認めるのが多数の裁判例です。重度後遺障害者は一般に余命が短いとされますが、平均余命より短いと認定するに足りる証拠が提出されない限り、平均余命までの介護費を認めるのが通常です。遷延性意識障害についても同様です。

Q. 家族が介護していても、介護費は認められますか?

認められます。近親者介護の場合、常時介護を要するときは1日あたり8,000円程度が実務上の目安です。被害者が若い場合は、介護に当たる近親者の就労可能期間である67歳までは近親者介護の水準で、その後は職業付添人の水準で算定するのが一般的です。

Q. 症状固定を急いだほうがよいですか?

急がないでください。脳挫傷を負った方には遅れて外傷性てんかんを生じることがあり、早期の症状固定と示談は望ましくありません。10代未満のお子さんは、理想を言えば脳が完成する18歳ころまで経過観察したいところですが、実際には長くても3年、最大5年程度で症状固定として申請することになります。

Q. 示談したあとに症状が悪化したら、追加請求できますか?

原則としてできません。そのため、障害が悪化した場合や上位の等級が認定された場合に再度請求できる趣旨の条項を示談書に入れることが重要とされています。もっとも、加害者側がこうした条項を受け入れないことも少なくありません。その場合は、症状が固まるまで待つ、等級が確定するまで示談しない、という対応をとることになります。

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この記事は、難波みなみ法律事務所の弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号49544)が執筆しました。記載内容は、自動車損害賠償保障法および同法施行令、労働基準局長通達に基づく後遺障害等級認定基準、損害保険料率算出機構の公表資料、厚生労働省の公表統計、公表裁判例によります。個別の事案の見通しは事情により異なりますので、詳細はご相談ください。

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