コラム
公開日: 2026.10.03

臍帯脱出の分娩事故で損害賠償|弁護士が解説

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回、15回、75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコム、ココナラ、弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

医療過誤, できる条件を弁護士が解説, 臍帯脱出の分娩事故 で損害賠償請求
結論

Q. 臍帯脱出の分娩事故で、損害賠償を請求できますか?
児頭が高いのに人工的に破水させて臍帯脱出を招いた、破水後のCTG(胎児心拍数モニタリング)で突然の高度徐脈を見落とした、臍帯脱出が分かったのに緊急帝王切開への切り替え・児の娩出が遅れたといった注意義務違反があり、適切に対応していれば結果を避けられた(因果関係)といえる場合には、損害賠償が認められることがあります。

Q. どんな被害が問題になりますか?
臍帯が圧迫されて赤ちゃんへの酸素が途絶えることによる低酸素性の脳障害(脳性麻痺)や死亡です。臍帯脱出は一刻を争う産科の緊急事態です。

Q. まず何をすべきですか?
カルテ・分娩記録・CTG(胎児心拍数モニタリング)・緊急帝王切開の手術記録を早めに確保することが重要です。いつ破水し・いつ徐脈が出て・いつ娩出したか(診断から娩出までの時間)が立証の鍵になります。早めに弁護士へご相談ください。

「破水したあと急に赤ちゃんの心拍が下がり、緊急手術になった」「臍帯(へその緒)が先に出てしまい、対応が遅れて赤ちゃんに重い障害が残った」――臍帯脱出は、破水に伴ってへその緒が赤ちゃんより先に出てしまい、赤ちゃんの頭と産道の間でへその緒が圧迫されて酸素が届かなくなる、産科の緊急事態です。発見から赤ちゃんを娩出するまでの時間が結果を大きく左右します。この記事では、臍帯脱出の分娩事故でどのような場合に損害賠償が認められるのか、過失が問われる場面と立証のポイント、補償制度との関係を、患者・家族側の立場から弁護士が解説します。

臍帯脱出とは

臍帯脱出は、破水したときに臍帯(へその緒)が赤ちゃんの頭などの先進部よりも先に下がってしまい、子宮口から外へ出てしまう状態です。赤ちゃんの頭と骨盤の間でへその緒が挟まれて圧迫されると、赤ちゃんへの血液・酸素の流れが急に途絶え、短時間で状態が悪化します。発症したら一刻を争うため、早く気づいて赤ちゃんを娩出することが重要です。赤ちゃんの頭がまだ高い位置にあるときや、胎位の異常があるときに起こりやすいことが知られています。

主なリスク因子内容
胎位の異常赤ちゃんが横向き(横位)や逆子(骨盤位)の場合。先進部と骨盤の間にすき間ができやすく、臍帯脱出が起こりやすい。横位が最も多い。
児頭が高い段階での破水赤ちゃんの頭が骨盤にはまり込む前に破水した場合や、その段階での人工破膜(人工的に破水させる処置)。
羊水・臍帯の状態羊水過多、臍帯が長い(臍帯過長)。
その他多胎、早産・低出生体重児、多産、子宮頸管バルーン(メトロ)を用いた処置のあとなど。

臍帯脱出の頻度は、全分娩のおおむね0.1〜0.8%程度とされています。頻度自体は高くありませんが、起きると赤ちゃんの酸素が急激に不足するため、発見したらただちに赤ちゃんを娩出できる体制と、それまでの間に臍帯の圧迫を和らげる応急処置が重要になります。

どんな被害・兆候が生じるか

臍帯脱出は、へその緒の圧迫によって赤ちゃんに重い被害を生じさせることがあります。そして、早期に気づくための兆候があります。

区分内容
赤ちゃんの被害へその緒の圧迫で酸素が途絶えることによる低酸素性の脳障害(脳性麻痺)や死亡。圧迫の時間が長いほど危険が高まる。
主な兆候最も重要なのはCTG(胎児心拍数モニタリング)での突然の高度な徐脈(心拍の急低下)や変動一過性徐脈。内診で、脱出したへその緒を手で触れたり目で確認できることもある。
起こりやすい場面破水の直後。とくに胎位異常や児頭が高い段階での破水・人工破膜の後。

臍帯脱出では、破水の前後にCTG(胎児心拍数モニタリング)で突然あらわれる高度な徐脈が最も重要なサインです。胎位異常や児頭が高い段階での破水・人工破膜では臍帯脱出のリスクが高いため、連続的な分娩監視で徐脈を早くとらえ、臍帯脱出が分かればただちに緊急帝王切開などで赤ちゃんを娩出することが重要です。

過失が問われる主な場面

臍帯脱出で医療機関の過失が問われるのは、大きく次の場面です。

場面内容の例
① リスク評価・人工破膜の適否胎位異常や児頭が高いなど臍帯脱出のリスクがあるのに、評価せずに人工破膜を行い臍帯脱出を招いた。
② 分娩監視破水後の連続的な監視を怠った、CTGに表れた突然の高度徐脈を見落とした、内診で臍帯の確認をしなかった。
③ 緊急帝王切開への移行の遅れ臍帯脱出やその兆候があるのに、緊急帝王切開への切り替え・児の娩出が遅れた(診断から娩出までの時間が長すぎた)。
④ 応急処置・搬送の遅れ娩出までの間に臍帯の圧迫を和らげる処置(児先進部の挙上・母体の体位変換・酸素投与)を怠った、緊急帝王切開ができない施設で搬送が遅れた。
⑤ 説明義務の不足胎位異常など臍帯脱出のリスクや、帝王切開という選択肢について、十分な説明がなかった。

どこまでの対応が求められるかは、診療当時の医療水準に照らして判断されます(最高裁平成7年6月9日判決)。臍帯脱出やその兆候があったのに、緊急帝王切開への移行が遅れた点に過失を認めた裁判例があります。自院で緊急帝王切開に対応できない場合などに、速やかに対応できる医療機関へ転送すべき義務が問題になることもあります(最高裁平成15年11月11日判決)。

もっとも、臍帯脱出は突然起こることも多く、臍帯脱出が起きたこと自体で過失になるわけではありません。リスクに応じた監視をしていたか、兆候を早くとらえられたか、発見後に迅速に娩出できたか(診断から娩出までの時間)、娩出までの応急処置が適切だったかを、記録に基づいて検討することが重要です。とくに帝王切開を希望していたのに経腟分娩を勧めた場合などは、説明義務(最高裁平成17年9月8日判決)も問題になります。

因果関係・補償制度と損害

過失が疑われる場合でも、因果関係(適切に対応していれば結果を避けられたか)が争点になります。適切な医療で結果を避けられたことが高い確からしさ(高度の蓋然性)で認められれば、発生した損害の賠償が認められます。仮に、それが認められなかったとしても、適切な医療で救えた「相当程度の可能性」があったといえるときには、その限度で損害賠償が認められることがあります(最高裁平成12年9月22日判決)。臍帯脱出では、へその緒が圧迫されていた時間と赤ちゃんの低酸素の程度が、因果関係を判断するうえで重要になります。

結果によって、使える救済の道が異なります。低酸素などで赤ちゃんに重度の脳性麻痺(身体障害者手帳1・2級相当)が残った場合は産科医療補償制度の対象になりうる一方、赤ちゃんが亡くなった場合・生後6か月未満で亡くなった場合は同制度の対象外で、損害賠償が主な救済手段になります。なお、補償を受けても損害賠償を請求できなくなるわけではありませんが、分娩機関が賠償責任を負う場合は補償金が損害賠償金に充当され、両方を重複して受け取ることはできません。補償金と損害賠償の関係は脳性麻痺と産科医療補償制度の記事、亡くなった場合の損害は医療事故で死亡したときの記事もあわせてご覧ください。

立証と、まずすべきこと

臍帯脱出の事案では、どんなリスクがあり、いつ破水し、いつ徐脈が出て、いつ娩出したかを、記録に基づいて時系列で検討することが出発点です。

1. カルテ・分娩記録・CTG・手術記録を早期に確保する

カルテ、分娩経過の記録、CTG(胎児心拍数モニタリング)、看護・助産記録、破水や人工破膜の記録、緊急帝王切開の手術記録は、リスク評価・監視・対応を検証する中心的な資料です。産科は記録の内容で結論が左右されます。記録の改ざん・隠匿のおそれなど、後で証拠として使うことが困難になる事情がある場合には、裁判所を通じて記録を保全する「証拠保全」(民事訴訟法234条)を検討します。手順は証拠収集・カルテ開示の記事にまとめています。

2. リスクと時系列を組み立てる

胎位(横位・骨盤位など)、児頭の高さ、破水・人工破膜の状況、CTGに現れた徐脈の時刻、臍帯脱出を確認した時刻、緊急帝王切開で娩出した時刻(診断から娩出までの時間)、娩出までの応急処置を、記録から突き合わせます。

3. 協力医とともに過失と因果を検討する

確保した記録を、産科・小児科にくわしい協力医とともに精査し、リスク評価・監視・緊急帝王切開への移行・応急処置が適切だったか、適切に対応していれば結果を避けられたか(因果関係)を検討します。あるべき対応は、当時のガイドラインや標準的な医学文献で示し、協力医の意見とあわせて具体的に立証していきます。

弁護士の視点

臍帯脱出は「突然の不可抗力だった」と説明されがちです。しかし、記録をたどると、胎位異常や児頭が高い段階での人工破膜というリスクがあったか、破水後のCTGで徐脈を早くとらえられていたか、臍帯脱出を確認してから赤ちゃんを娩出するまでの時間が長すぎなかったか、その間に圧迫を和らげる処置がとられていたか、といった点が見えてくることがあります。臍帯脱出は分単位で結果が変わる緊急事態で、診断から娩出までの時間が大きな争点になります。産科は記録の内容で結論が大きく変わるため、必要な事情があるときは証拠保全(民事訴訟法234条)も含めて記録の確保を検討します。当事務所には元裁判官の弁護士が在籍し、看護を学んだ協力弁護士とも連携して、記録から過失と因果をどう組み立てるかの見立てをお伝えできます。

よくある質問(FAQ)

臍帯脱出で赤ちゃんに障害が残りました。賠償を請求できますか?

リスク評価や人工破膜の判断、破水後の分娩監視、臍帯脱出発見後の緊急帝王切開への移行などに注意義務違反があり、適切に対応していれば結果を避けられたといえる場合には、損害賠償が認められることがあります。臍帯脱出が起きたこと自体ではなく、具体的な対応の適否と因果関係が検討されます。

臍帯脱出の兆候にはどんなものがありますか?

最も重要なのはCTG(胎児心拍数モニタリング)での突然の高度な徐脈(心拍の急な低下)や変動一過性徐脈です。内診で、脱出したへその緒を手で触れたり目で確認できることもあります。とくに破水の直後や、胎位異常・児頭が高い段階での破水のあとは注意が必要です。

「診断から娩出までの時間」がなぜ重要なのですか?

臍帯脱出では、へその緒が圧迫されて赤ちゃんへの酸素が途絶えるため、圧迫の時間が長いほど低酸素による障害の危険が高まります。そのため、臍帯脱出を確認してからどれだけ早く赤ちゃんを娩出できたか(診断から娩出までの時間)や、その間に圧迫を和らげる処置がとられたかが、過失と因果関係を検討するうえで重要になります。

人工的に破水させた後に臍帯脱出が起きました。問題はありますか?

問題になることがあります。赤ちゃんの頭がまだ高い位置にあるときや胎位異常があるときの人工破膜は、臍帯脱出を招くことがあります。そのため、人工破膜の適応(本当に必要だったか・タイミングが適切だったか)や、その後の監視・対応が適切だったかが、過失を検討するうえで重要になります。

「避けられない事故だった」と言われています。あきらめるべきですか?

あきらめる必要はありません。記録から、リスク評価、人工破膜の判断、CTGの徐脈、臍帯脱出発見から娩出までの時間、応急処置などを協力医とともに精査すると、問題点が見えてくることがあります。まずは記録を確保して検討することが大切です。

赤ちゃんが亡くなった場合、産科医療補償制度は使えますか?

産科医療補償制度は、重度の脳性麻痺(身体障害者手帳1・2級相当)が残った赤ちゃんを対象とする制度です。生後6か月未満で亡くなった場合は補償の対象外とされています。そのため、亡くなったケースでは損害賠償が主な救済手段になります。低酸素で重度の脳性麻痺が残った場合は、補償制度の対象になりうるほか、過失があれば損害賠償も請求できます。

母体(お母さん)に被害が出た場合、補償制度は使えますか?

産科医療補償制度は赤ちゃんの重度の脳性麻痺を対象とする制度で、お母さんの被害は対象外です。母体の後遺症や被害については、過失と因果関係が認められれば、損害賠償が主な救済手段になります。

まず何をすればよいですか?

カルテ・分娩記録・CTG・破水や人工破膜の記録・緊急帝王切開の手術記録が失われたり書き換えられたりしないうちに早期に確保することが重要です。記録の改ざん・隠匿のおそれなど、後で証拠として使うことが困難になる事情があれば、証拠保全(民事訴訟法234条)も検討します。時効もあるため、早めに弁護士へご相談ください。

臍帯脱出の分娩事故でお悩みの方へ

「突然の不可抗力だった」と言われても、分娩記録やCTGは客観的な証拠として検証できます。とくに臍帯脱出は、診断から娩出までの時間や応急処置の適否が結果を左右します。初回無料で、過失の可能性と見通しをお伝えします。大阪・なんばの弁護士が、お電話・メール・LINEで承ります。

監修:難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号 49544/中小企業診断士)。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。初回相談30分無料。本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。リスク評価・分娩監視・緊急対応の適否や医療水準の評価、因果関係の判断は、個別の事情により異なります。

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