自分の顔を使われたわいせつ画像や、言ってもいない発言をしている偽動画が、生成AIで作られてネット上に投稿される——。こうした「ディープフェイク」の被害は、芸能人だけでなく一般の方にも広がっています。「作り物だから法律では守られないのでは」と思われがちですが、そうではありません。現行法でも削除・加害者の特定・損害賠償は可能です。この記事では、大阪・難波の弁護士が、使える法律の正確な切り分けと具体的な進め方を解説します。
Q. AIで作られた偽物でも、削除や犯人の特定はできますか。
できる場合があります。画像・動画が「本物の撮影」でなくても、肖像権・名誉感情・私生活の平穏などの人格的利益や、名誉毀損・侮辱などを根拠に、削除請求や発信者情報の開示請求を検討できます。本人と分かる形で人格的な被害を与えているかが判断の中心です。
Q. 「盗撮や性的画像を罰する法律」で対応できますか。
撮影を前提とする法律(性的姿態撮影等処罰法など)が、AIで作った合成画像にそのまま及ぶかは慎重な検討を要し、一概には言えません。もっとも、肖像権や名誉感情・私生活の平穏の侵害、名誉毀損(刑法230条)・侮辱(231条)などを根拠に、削除・加害者の特定・損害賠償を検討できます。
Q. 急いだほうがよいですか。
はい。通信記録(アクセスログ)には法律上の一律の保存義務がなく、数か月で消える運用もあります。消えると加害者を特定できなくなるため、発見したらすぐ証拠を保全し、早期に動くことが重要です。
ディープフェイク対応をめぐる、いまの法制度
ディープフェイクそのものを正面から罰する専用の法律は、まだ整備の途上にあります。いまの到達点を押さえておくと、どの手段が現実的かが見えてきます。
| できごと | 時期 | 被害者にとっての意味 |
|---|---|---|
| 法務省の検討会が、生成AIによる肖像・声の無断利用の民事責任の考え方を整理(取りまとめ報告書) | 直近 | 生成AI画像でも、肖像権や名誉感情・私生活の平穏の侵害として、削除・損害賠償を検討できる方向が示された |
| 発信者情報開示命令の制度(情報流通プラットフォーム対処法。旧プロバイダ責任制限法) | 運用中 | 匿名の投稿者を特定するための非訟手続きが整備されている |
| AI新法(AI関連技術の研究開発・活用推進法)の全面施行 | 2025年5月成立・9月施行 | 理念法で罰則なし。ディープフェイクを直接取り締まる規定ではない |
| 生成AIで加工した青少年の性的画像を条例の規制対象に加える自治体の動き | 2025年〜 | 自治体レベルの規制は始まったが、全国一律の刑事規制は今後の課題 |
つまり「ディープフェイク罪」という専用の罪はまだありません。だからこそ、肖像権・名誉毀損などの既存の法律を正しく組み合わせて被害回復を図ることになります。
軸になる法的根拠と、撮影を前提とする法律の扱い
相談で多いのが「盗撮や性的画像を罰する新しい法律で何とかなるはず」という入口の誤解です。ここを正確に整理することが、遠回りを避ける第一歩になります。
撮影を前提とする法律は、適用に慎重な検討が必要
性的姿態撮影等処罰法や私事性的画像記録被害防止法(リベンジポルノ防止法)は、いずれも「実際の撮影」や「実際に撮影された性的な画像」を前提とする規定です。AIで合成した画像・動画にこれらがそのまま及ぶかは慎重な検討を要し、一概に対象になるとも対象外とも断定できません。ただし、ここで行き詰まる必要はありません。別の根拠で対応できます。
軸になるのは肖像権・人格的利益と名誉毀損
偽物であっても、本人と分かる形で性的な人格的利益(名誉感情・私生活の平穏)や社会的評価を傷つければ、肖像権侵害・名誉毀損・侮辱・著作権侵害などを根拠に、削除・特定・損害賠償を検討できます。法務省の検討会報告書も、他人の裸に本人の顔を合成し、本人が裸になっているように見える精巧な画像について、社会生活上の受忍限度を超えて名誉感情や私生活の平穏を害する場合は、肖像権侵害と評価される可能性が高いとしています。
現行法でディープフェイクに問える責任
刑事・民事の主な根拠を整理します。どれか一つではなく、事案に応じて複数を組み合わせます。
| 根拠 | 条文など | 主な内容 | 区分 |
|---|---|---|---|
| 肖像権・人格的利益の侵害(民事) | 民法709条・人格権 | 本人と分かる性的な合成画像が、受忍限度を超えて名誉感情・私生活の平穏を害する場合に侵害となり得る。損害賠償・削除請求が可能 | 民事 |
| 名誉毀損罪 | 刑法230条1項 | 公然と事実を摘示し名誉を毀損。3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。被害者が本人と特定できることが前提 | 親告罪 |
| 侮辱罪 | 刑法231条 | 事実の摘示がなくても公然と侮辱する場合。1年以下の拘禁刑・30万円以下の罰金・拘留・科料(令和4年改正) | 親告罪 |
| 著作権侵害 | 著作権法27条・112条・119条 | 既存作品に顔を合成した場合などの翻案権(27条)等の侵害。類似性・依拠性が判断要素。差止(112条)・損害賠償・刑事罰(119条) | 原則親告罪 |
| パブリシティ権の侵害(民事) | 民法709条 | 著名人の肖像の顧客吸引力を無断で利用した場合に問題となり得る | 民事 |
| わいせつ電磁的記録頒布等罪 | 刑法175条 | わいせつ性があり、公然陳列・頒布に当たる場合に問題となり得る | 非親告罪 |
| 児童ポルノ禁止法 | 7条各項 | 被写体が実在の18歳未満の場合に問題となり得る | 非親告罪 |
どの根拠で争えるかは、画像の内容や公開のされ方によって変わります。刑事の各罪(わいせつ物頒布など)が成立するかは事案により判断が分かれ得るため、まずは肖像権・名誉毀損などの民事の救済を軸に組み立てるのが現実的です。なお名誉毀損などは、被害者が本人と特定できること(本人と分かること)が前提になります。実際に、内閣官房の資料でも、女性芸能人の顔をアダルト動画に合成したディープフェイクについて、名誉毀損と著作権法違反の成立を認めた事例が紹介されています。
弁護士の視点:「本人と分かるか」が分かれ目
法務省の検討会報告書は、侵害の種類によって「本人と分かること」の意味が違うと整理しています。名誉やプライバシーの侵害として争うなら、画像を見た第三者が「本人だ」と同定できることが前提になります。一方、名誉感情や私生活の平穏の侵害としては、本人が「自分を対象にしている」と認識できれば足りるとされています。逆に、合成された顔が本人と似ておらず対象と言えない場合は、侵害が認められにくくなります。切り貼りか生成AIかという手法ではなく、「本人と分かるか」と「どのような人格的被害が生じたか」が判断の中心です。
削除までの手順
加害者が分からなくても、削除は先に進められます。拡散を止めることが最優先です。
証拠を保全する
削除されると証拠も消えます。URL・投稿日時・アカウント名・画面全体のスクリーンショットを残します。ページ全体を記録できるサービス(ウェブ魚拓等)も有効です。削除依頼より先に行ってください。
サイト・SNSへ削除を申し出る
各サービスの通報フォームや、送信防止措置の依頼で削除を求めます。この手続きは投稿者を特定していなくても行えます。運営会社が利用規約に基づいて削除に応じることもあります。
応じないときは削除の仮処分
任意の削除に応じない場合は、人格権(名誉権など)に基づき、裁判所に削除の仮処分を申し立てます。裁判所の決定が出れば、事業者は通常これに従います。弁護士が代理して進めるのが一般的です。
加害者(投稿者)を特定する手順
損害賠償などのためには、匿名の投稿者を特定する必要があります。これには情報流通プラットフォーム対処法の「発信者情報開示命令」を使います。開示が認められるには、権利侵害が明らかであることと、開示を受けるべき正当な理由があることが必要です(5条)。
令和3年の改正で、サイト運営者と接続プロバイダへの請求を一つの手続きで進められる非訟手続きが整いました。実務では次の3点をセットで申し立てます。
- 発信者情報開示命令(情プラ法8条)——投稿者の情報を開示させる本体の命令。開示を求める権利そのものは5条に定められています。
- 提供命令(15条)——サイト運営者に、投稿者が使った接続プロバイダ(携帯会社等)の名称を先に教えさせる命令。これで次の相手がすぐ分かります。
- 消去禁止命令(16条)——手続き中にログを消されないよう保全する命令。
流れとしては、まずサイト運営者へ開示命令と提供命令を申し立て、判明した接続プロバイダに対して改めて開示命令を申し立て、契約者の氏名・住所の開示を受けます。提供命令で接続先が判明した後は2か月以内に次の申立てをした旨を通知する必要があり(15条3項2号)、開示命令の結論に不服があれば告知から1か月以内に異議の訴え(14条1項)を起こします。
慰謝料・損害賠償について
加害者を特定できれば、民法709条に基づいて慰謝料(精神的損害)のほか、特定にかかった弁護士費用や調査費用の一部も請求できる場合があります。性的なディープフェイクは精神的な被害が深刻になりやすい事案です。
もっとも、金額は画像・動画の内容、拡散の範囲、期間、本人が特定される程度などによって大きく幅があり、一律の相場で語れるものではありません。具体的な見通しは個別の事情を踏まえて検討します。誹謗中傷全般の慰謝料の考え方は、関連記事もあわせてご覧ください。
自分で進めるときに、つまずきやすい点
「撮影を前提とする法律が使えない」=「泣き寝入り」ではない
最大の誤解がこれです。撮影を前提とする一部の法律が使いにくくても、肖像権・名誉毀損・侮辱・人格権侵害という別のルートが残っています。入口の法律を一つ調べて「無理だ」と判断してしまうのが、もっとも惜しいつまずき方です。
削除を急ぐあまり証拠を残し忘れる
削除されると、加害者特定や損害賠償の証拠まで一緒に消えます。必ず証拠保全を先に。なお、削除や開示の請求がきっかけで再投稿・再拡散を招くこともあるため、事前に事実関係と証拠を慎重に確認してから動くことが大切です。
刑事と民事を混同する
刑事告訴は加害者の処罰を求める手続き、民事は削除や賠償を求める手続きで、別物です。両方を使うこともできます。なお名誉毀損罪や侮辱罪は親告罪で、告訴できる期間に定めがあります。刑事での対応を考えるなら、この点も含めて早めにご相談ください。
よくある質問
Q. 加害者が誰か分からなくても削除だけ先にできますか。
A. できます。削除(送信防止措置)は、サイト運営者やSNSへの申出・仮処分で、加害者の特定とは別に進められます。拡散を止めるため、削除を先行させるのが一般的です。
Q. 海外のサイトやSNSに投稿された場合も対応できますか。
A. 日本の裁判所に国際裁判管轄が認められれば、海外の事業者に対しても削除や開示を求められる場合があります。ただし管轄が認められるかは事業者の所在地などから個別に判断され、時間もかかるため、早めの着手が重要です。
Q. 自分の顔を使われた「アイコラ」も同じように扱えますか。
A. はい。手法が切り貼りか生成AIかにかかわらず、本人と分かる形で性的な画像に合成されていれば、名誉毀損・侮辱・わいせつ物頒布や人格権侵害として、削除・特定・賠償を検討できます。
Q. 偽物だと証明できれば、投稿者は罪に問われませんか。
A. いいえ。名誉毀損は内容の真偽ではなく、本人の社会的評価を下げたかどうかで判断されます。「偽物である」ことは責任を免れる理由にはなりません。
Q. 加害者に心当たりがあります。本当にその人か確認できますか。
A. 発信者情報開示命令で開示されるのは、通信回線の契約者情報です。心当たりの人物と一致するかの確認材料になりますが、契約者と実際の投稿者が必ず同一とは限らないため、特定後も慎重に検討します。
Q. 費用はどのくらいかかりますか。
A. 削除・開示・損害賠償のどこまで進めるかで異なります。当事務所は初回30分の相談が無料です。見通しと費用の目安をお示ししたうえで、方針をご相談いただけます。
Q. 会社や学校に広まってしまいました。拡散先にも対応できますか。
A. 二次的に拡散したアカウントやまとめサイトにも、個別に削除と特定を検討できます。拡散のたびに新たな権利侵害が生じているためです。拡散の記録も証拠として保全してください。
Q. どのタイミングで弁護士に相談すべきですか。
A. 発見した時点が最も望ましいです。証拠保全の方法や、削除と特定のどちらを優先するかの判断が、その後の結果を左右します。ログが消える前の早い段階でご相談ください。
ディープフェイク被害は、早さが結果を決めます
難波みなみ法律事務所は、ネット上の削除・発信者情報の開示請求・損害賠償に対応しています。「偽物だから無理」とあきらめる前に、まずご相談ください。元裁判官の弁護士が在籍し、見立てや立証の方針もお伝えできます。
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【監修】難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会/登録番号49544)。大阪市中央区西心斎橋2-4-2 難波日興ビル403。電話 06-6786-8103(受付9:00〜22:00)。本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案については弁護士にご相談ください。掲載法令・制度は2026年10月時点の情報です。






