コラム
公開日: 2026.10.28

捨て垢(捨てアカウント)の投稿者は特定できる?匿名でも身元を追う方法を弁護士が解説

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回、15回、75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコム、ココナラ、弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

誹謗中傷, 匿名でも開示請求で特定, 捨て垢でも 投稿者を特定
まず結論
匿名の「捨て垢」でも、投稿者を特定できますか?
一定の要件を満たせば、特定できる可能性は十分にあります。匿名の使い捨てアカウントでも、サービス事業者が投稿時やログイン時の通信記録などを保有していれば、発信者情報開示請求・開示命令によって投稿者(またはその特定に資する人物)の情報が開示され得るためです。ただし、捨て垢であることだけで必ず特定できるわけではなく、通信記録が必ず残っているともいえません。
何があれば特定の手がかりになりますか?
IPアドレスや登録情報です。法令上の発信者情報には、氏名・住所・電話番号・メールアドレス・IPアドレス(ポート番号・通信日時を含む)のほか、ログイン時などの「特定発信者情報」も含まれます。これらを事業者が保有していれば、開示請求の対象になり得ます。
特定したいとき、何に気をつければよいですか?
とにかく早く、証拠を保存して動くことです。経由プロバイダのアクセスログは一般に3か月程度(3〜6か月程度)と短く、消去されると保有要件を満たさず特定できなくなる可能性があります。投稿を見つけたら、URL・スクリーンショット・投稿日時・アカウント情報を速やかに保存してください。

X(旧Twitter)やInstagram、匿名掲示板などで、本名や身元を隠した「捨て垢(捨てアカウント)」から誹謗中傷を受けると、「どうせ匿名だから相手は分からない」とあきらめてしまう方が少なくありません。しかし、捨て垢であっても、一定の要件を満たせば投稿者(またはその特定に資する人物)を特定できる可能性があります。本記事では、捨て垢の投稿者を特定できる法的な仕組みと要件、ログイン時情報をめぐる裁判例、手続きの流れ、特定しやすいケース・難しいケースまでを、大阪・難波の弁護士が解説します。

1捨て垢でも「特定の対象」になり得る

結論として、アカウント名や表示名が匿名であっても、投稿者の特定の対象にはなり得ます。特定の手がかりとなるのは、アカウントの表示名そのものではなく、投稿やログインに伴って残る通信記録や登録情報だからです。

根拠となるのが、情報流通プラットフォーム対処法(旧・プロバイダ責任制限法)に基づく発信者情報開示の制度です。もっとも、「捨て垢だから必ず特定できる」わけでも、「捨て垢なら必ず通信記録が残っている」わけでもありません。事業者が対象となる情報を保有していること、権利侵害が明らかであることなど、法律上の要件を満たす必要があります。

ポイント:匿名かどうかよりも、「事業者が手がかりとなる情報を保有しているか」「ログが消える前に動けるか」が特定の成否を分けます。まずは投稿のURL・スクリーンショット・投稿日時・アカウント情報を保存してください。

2捨て垢でも開示の対象になり得る情報

法令上、開示の対象となる「発信者情報」は幅広く定められています。アカウントが匿名でも、次のような情報を事業者が保有していれば、開示請求の対象になり得ます。

① 登録情報(電話番号・メールアドレス)

多くのSNSは、アカウント作成時にSMS認証(電話番号)やメールアドレスを求めます。発信者情報には電話番号・電子メールアドレスも含まれるため、これらが開示されれば、電話番号から携帯電話会社への照会などを通じて契約者にたどり着ける可能性があります。裁判例でも、SMSに用いる電話番号が施行規則上の「電子メールアドレス」に該当するとして、開示を認めたものがあります(東京地判令和2年6月26日)。

② IPアドレス・ポート番号・通信日時

投稿に使われたIPアドレス・ポート番号と、それに対応するタイムスタンプ(通信日時)は、最も基本的な手がかりです。これらから、通信を媒介した経由プロバイダ(回線事業者)を特定していきます。

③ ログイン時などの「特定発信者情報」

投稿時のIPアドレスを保存しないサービスでも、ログイン時などの通信に係る情報(特定発信者情報)が対象となる場合があります。発信者情報には、侵害関連通信のIPアドレスのほか、識別符号・SIM識別番号・SMS用の電話番号・通信日時、さらに事業者間で利用者や回線を識別するための符号なども含まれます。

根拠:情報流通プラットフォーム対処法 第5条(発信者情報の開示請求)、同法施行規則 第2条(発信者情報)・第3条(特定発信者情報)。開示されるのは、法令・施行規則が定める発信者情報に限られます。

3投稿時IPがないサービスと「ログイン時情報」(裁判例)

XをはじめとするSNSには、投稿時のIPアドレスを保存せず、ログイン時のIPアドレスしか残らないものがあります。この場合でも、ログイン時の情報が特定の手がかりになることがあります。

裁判例では、侵害情報の送信後にログインするため割り当てられたIPアドレスから把握される情報であっても、それが侵害情報の発信者のものと認められる場合には、発信者情報に当たり得るとされています(東京高判平成30年6月13日、東京地判令和2年12月9日など)。

さらに最高裁判所令和6年12月23日判決は、個々のログイン通信について、少なくとも侵害情報の送信と最も時間的に近接するログイン通信は、開示の対象となる「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たるとしました。一方、それ以外のログイン通信は、あえて開示を求める必要性を基礎付ける事情がある場合に当たり得るにとどまるとしています。

一方で、ログイン時情報であれば常に開示されるわけではありません。同一のアカウントを別人や別の端末からも利用できる仕組み等を理由に、対象IPアドレスからアクセスした者の情報は侵害情報の発信者情報とはいえないとして、開示を否定した裁判例(東京高判平成29年2月8日など)もあります。また、ログインの約14分後の投稿について、ログイン時IPの契約者が発信者本人とは断定できないものの、本人・家族・同居人等である可能性があるとして、特定に資する情報として契約者の氏名・住所は開示対象となり得る一方、電子メールアドレスは対象とならないとした裁判例(東京地判令和3年1月15日)もあります。

つまり、ログイン時情報は「投稿との関連性」が認められるかどうかが重要です。投稿に時間的に近接したログイン通信ほど、手がかりとして評価されやすい傾向があります。なお、開示されるのは契約者の情報であり、それが投稿した本人と常に一致するとは限りません(本人のほか家族・同居人等の可能性もあります)。

4開示が認められるための主な要件

捨て垢であること自体は、要件を満たすことの妨げにはなりません。もっとも、匿名というだけで権利侵害が明らかになるわけではなく、投稿内容や投稿の経緯などを踏まえた判断が必要です。

一般の発信者情報(法5条)

一般の発信者情報の開示には、少なくとも次の点が必要とされています。

  • 特定電気通信による情報の流通であること
  • その流通によって、請求者の権利が侵害されたことが明らかであること(権利侵害の明白性)
  • 発信者情報の開示を受ける正当な理由があること(例:損害賠償請求権の行使に必要)
  • 相手方が開示関係役務提供者であること
  • 求める情報が発信者情報に該当し、相手方がそれを保有していること

ログイン時情報(特定発信者情報)の追加要件

ログイン時IPアドレス等の特定発信者情報の開示を求める場合は、法5条1項3号の補充的な要件が必要です。具体的には、事業者が特定発信者情報以外の発信者情報を保有していない場合や、保有する情報だけでは発信者を特定できない場合などのいずれかに該当する必要があります。

また、開示請求を受けたプロバイダは、発信者と連絡できないなどの特別の事情がない限り、開示に応じるかどうかについて発信者本人の意見を聴かなければなりません(法6条。いわゆる意見照会)。そのため、投稿者側に意見照会書が届くことがあります。

注意:投稿の文言だけでは権利侵害の明白性を判断できず、スレッドの他の書き込みや投稿の経緯まで考慮して判断すべき場合があります。見極めには専門的な検討が必要です。

5特定の手続きの流れ

従来型:2段階の開示

サイト・SNSの運営者(コンテンツプロバイダ)への請求投稿時またはログイン時のIPアドレス・タイムスタンプ等の開示を求め、そこから経由プロバイダ等を特定します。
経由プロバイダ(アクセスプロバイダ)への請求判明したIPアドレスを管理する回線事業者へ、契約者の氏名・住所等の開示を求めます。

発信者情報開示命令(令和3年改正)

令和3年の法改正により、裁判所の決定で開示を命じる「発信者情報開示命令」(法8条)を中心とした非訟手続が設けられました。あわせて、発信者を特定できなくなることを防ぐための「提供命令」(法15条)と「消去禁止命令」(法16条)も用いられます。

提供命令を使うと、コンテンツプロバイダに対する開示命令の判断を待たずに、保有するIPアドレス等から判明した経由プロバイダへ、開示命令や消去禁止命令の申立てを先行して進められます。後続の事件は先行事件と併合され、一体的に審理されることがあります。

発信者情報開示命令の申立ては書面で行う必要があり、相手方の数と同数の写しの添付が求められます。手続きは専門性が高く、個人での対応は現実的に困難です。

6特定しやすいケース・難しいケース

状況特定のしやすさ理由
自宅の回線やスマホの回線から投稿しやすい契約者と投稿者が一致しやすく、IPから回線契約者をたどれる
電話番号・メールで登録した捨て垢しやすい登録情報が開示の手がかりになる
投稿に近接したログイン通信が残っているしやすい投稿との関連性が認められ、ログイン時情報が手がかりになりやすい
早い段階で証拠保全・手続きに着手しやすいログが消える前に保全・開示を進められる
公衆Wi-Fi・フリーWi-Fiから投稿難しい不特定多数が使う回線で、契約者を一人に絞りにくい
VPN・Torなどで通信を隠している難しい本来のIPアドレスが分からなくなる
プリペイドSIM・他人名義の端末難しい契約者=投稿者とは限らない
時間が経ちログが消えた/投稿が削除された難しい事業者が対象情報を保有せず、保有要件を満たさない

「難しい」に当てはまる場合でも、複数の手がかりを組み合わせれば特定できることもあります。可能性の見極めは、投稿内容と状況をうかがったうえで判断します。

7期間・費用の目安と、特定後にできること

  • 証拠の確保(即日〜数日):投稿のURL・スクリーンショット・投稿日時・アカウント情報を保存します。
  • 運営者への開示(約1〜2か月):IPアドレス等の開示を求めます。
  • 経由プロバイダへの開示(約3〜6か月):契約者の氏名・住所を特定します。
  • 特定完了:全体でおおむね半年前後が目安です(事案により前後します)。

当事務所の発信者情報開示の弁護士費用は、着手金のみの定額(成功報酬はいただきません)です。特定できた後は、損害賠償(慰謝料)の請求(民法709条・710条)、投稿の削除、刑事告訴(名誉毀損罪=刑法230条、侮辱罪=刑法231条。※当事務所は民事を取り扱います)などに進めます。特定にかかった弁護士費用の一部を相手に請求できる場合もあります。

8最大のリスクは「待つこと」

通信ログは数か月で消えます。経由プロバイダのアクセスログの保存期間は、一般に3か月程度(3〜6か月程度)と短いとされています。本案訴訟の判決を待つ間に記録が消去され、特定できなくなるおそれがあるため、実務ではログ保存の仮処分や消去禁止命令で記録を確保します。捨て垢による被害を見つけたら、できるだけ早く(目安として1〜2か月以内に)証拠を保存し、手続きを検討することが重要です。

捨て垢の投稿者特定は、時間との勝負です

大阪・難波の難波みなみ法律事務所では、捨て垢を含むネット誹謗中傷の投稿者特定・削除・損害賠償をサポートします。まずはお気軽にご相談ください。

9よくあるご質問

捨て垢なら、必ず投稿者を特定できますか?
必ず特定できるわけではありません。捨て垢であることだけで特定できるとはいえず、事業者が通信記録等を保有していること、権利侵害が明らかであること、ログイン時情報を求める場合は追加要件を満たすことなどが必要です。可否は投稿内容と状況によって変わります。
投稿がすぐ消されそうですが、消されたら特定できませんか?
削除されると特定は難しくなります。削除により通信記録もたどれなくなることがあるためです。削除される前にURL・スクリーンショット・投稿日時・アカウント情報を保存し、早めに手続きへ着手することが重要です。
投稿時のIPを保存しないSNS(Xなど)でも特定できますか?
ログイン時の情報で特定できる場合があります。裁判例では、侵害投稿に関連するログイン時IPアドレスから把握される情報が発信者情報に当たり得るとされています。ただし、投稿と無関係なログイン情報は対象にならないことがあり、投稿との関連性が重要です。
電話番号もメールも登録していないアカウントは特定できませんか?
登録情報がなくても、特定できる可能性はあります。投稿時やログイン時のIPアドレスが残っていれば、それをたどって回線契約者を特定できるためです。どの情報が残っているかはサービスごとに異なります。
相手がVPNを使っていたら、もう無理ですか?
難しくなりますが、必ずしも不可能ではありません。別の手がかり(登録情報・他の投稿・他のログイン通信)から追える場合もあります。あきらめる前に、まず状況を確認することをおすすめします。
特定には必ず裁判が必要ですか?
必ずしも必要ではありません。相手方が任意の開示に応じる場合は裁判外で特定できることもあります。応じない場合は、発信者情報開示命令(提供命令・消去禁止命令を含む)などの裁判手続で進めます。
費用はどのくらいかかりますか?
当事務所の発信者情報開示は、着手金のみの定額で、成功報酬はいただきません。まず任意(訴訟外)の開示から始める方法と、裁判手続による方法があります。具体的な金額は無料相談でご説明します。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案への法的判断を示すものではありません。特定の可否・費用・見込みは事案により異なります。当事務所は民事(開示・削除・損害賠償)を取り扱い、刑事事件は取り扱っておりません。掲載内容は2026年時点の法令・裁判例に基づきます。具体的な対応は難波みなみ法律事務所(代表弁護士 南宜孝/大阪弁護士会)までご相談ください。

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