交通事故のあと、首や腰の痛み・しびれが続いて病院でMRIを撮ったら「椎間板ヘルニアがある」と言われた――このような方から、「事故のせいなのに、保険会社から『もともとのヘルニアだ』と言われた」というご相談をよくいただきます。この記事では、交通事故とヘルニアの関係が争われるときの考え方、後遺障害の等級、賠償を減らされないために早い段階でしておきたいことを、大阪・なんばで交通事故の被害者側を扱う弁護士が整理します。
Q. 事故のあとにヘルニアと診断されました。事故のせいだと認められますか。
認められることがあります。ただ、椎間板ヘルニアは年齢とともに自然に起きることも多いため、相手の保険会社は「事故の前からあった」と主張しがちです。事故の態様、事故の前は症状がなかったこと、事故直後から症状が続いていること、画像や神経の検査の結果などを積み重ねて、事故との関係を示していくことになります。
Q. 後遺障害の等級は認められますか。
しびれや痛みが残った場合、12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)か14級9号(局部に神経症状を残すもの)が問題になります。12級は、画像や神経学的な検査で症状を医学的に証明できることが必要とされ、14級は、症状を医学的に説明・推定できれば足りるとされています。
Q. もともとヘルニアがあったら、賠償は減らされますか。
事故前からのヘルニアが「病気(疾患)」といえる程度で、それが症状を重くした場合は、賠償額が減らされることがあります(素因減額)。一方で、年齢相応の変化にとどまるものは病気とはいえないとして、減額を認めなかった裁判例もあります。保険会社の主張をそのまま受け入れる必要はありません。
交通事故で問題になるヘルニアとは
背骨の骨と骨の間には、クッションの役割をする「椎間板」があります。椎間板ヘルニアは、椎間板の中身が外に飛び出して、近くの神経を圧迫する状態をいいます。首(頸椎)で起きると首・肩・腕・手のしびれや痛み、腰(腰椎)で起きると腰・お尻・脚のしびれや痛みが出ることがあります。
交通事故の衝撃で椎間板が傷つき、ヘルニアになったり、もともと症状のなかったヘルニアが悪化したりすることがあります。一方で、椎間板は年齢とともに水分が減って傷みやすくなるため、事故とは関係なくヘルニアが見つかることも少なくありません。このため、交通事故の損害賠償では、そのヘルニアが①事故で新しくできたものか、②事故とは関係なく前からあったものか、③もともとあったヘルニアが事故をきっかけに症状を出したり悪化したりしたものか、がよく争われます。
むちうちとの違い:首の痛みは「むちうち(頸椎捻挫)」と診断されることも多く、その中で画像を撮ったらヘルニアが見つかった、という流れがよくあります。むちうちの後遺障害についてはむちうちの後遺障害|14級の認定と非該当時の異議申立で詳しく解説しています。
事故との関係(因果関係)はどう判断されるか
保険会社から「ヘルニアは年齢によるもので、事故とは関係ない」と言われた場合でも、それで結論が決まるわけではありません。事故との関係は、次のような事情を総合して判断されます。
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| 見られるポイント | 事故との関係を示しやすい事情 |
|---|---|
| 事故の態様 | 追突の衝撃が大きかった、車の損傷が大きい、体を強く打ったなど |
| 事故前の状態 | 事故の前は首や腰の症状がなく、通院歴もなかった |
| 症状が出た時期 | 事故の直後や数日のうちに症状が出て、その後も続いている |
| 画像の所見 | MRIでヘルニアが神経を圧迫している様子が確認でき、症状の出ている場所と合っている |
| 神経の検査 | 腱反射やしびれの範囲などの検査結果が、画像の所見と合っている |
| 治療の経過 | 途切れずに通院し、症状の経過が診療記録に残っている |
反対に、事故から時間がたってから初めて症状を訴えた、通院が途切れている、画像の所見と症状の場所が合わない、事故の前に撮ったMRIにすでに同じヘルニアが写っていた、医師が事故との関係は分からないとしている、といった事情があると、事故との関係が否定されやすくなります。特に、事故の後なるべく早く整形外科を受診し、症状をきちんと伝えておくことが大切です。
ヘルニアの後遺障害等級|12級と14級の違い
治療を続けても痛みやしびれが残った場合(症状固定)、後遺障害の等級認定を申請できます。ヘルニアで問題になる等級は、主に次の2つです。
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| 等級 | 内容 | 認められるための目安 |
|---|---|---|
| 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 画像(MRIなど)でヘルニアによる脊髄や神経根の圧迫が確認でき、その場所と合う神経学的な検査の結果があり、事故の直後から症状が出ているなど、症状を医学的に「証明」できること |
| 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 証明まではできなくても、通院の頻度・期間や症状の一貫性などの治療経過から、症状を医学的に「説明」または「推定」でき、将来も回復が難しいと見込まれること(痛みを訴えるだけでは足りません) |
画像にヘルニアが写っているだけでは、12級には足りません。ヘルニアがあっても、それが年齢による変化と見られたり、画像と症状の場所が合わなかったりすると、12級ではなく14級にとどまったり、等級が認められなかったり(非該当)することがあります。後遺障害診断書には、画像の所見や神経学的な検査の結果を漏れなく書いてもらうことが重要です。書き方のポイントは交通事故の後遺障害診断書を、認定の流れは後遺障害認定とはをご覧ください。結果に納得できない場合は、後遺障害の異議申立てができます。
手術を勧められたとき:症状が重く、手術を受けることになった場合も、事故との関係が認められれば手術費や入院費は損害として請求できます。ただし、手術を受けた事案でも、事故との関係は認めたうえで、年齢による椎間板の変化も症状に関わっているとして賠償額を減らした裁判例があります。また、手術を受けたことだけで12級が認められるわけではなく、手術の必要性や時期も問われます。医師から手術を勧められた理由や、事故の前後での症状の違いを診療記録に残してもらうとよいでしょう。
もともとヘルニアがあった場合|素因減額
事故の前からヘルニアがあった場合、相手の保険会社から「もともとの持病が症状を重くしたのだから、賠償額を減らすべきだ」と主張されることがあります。これを「素因減額」といいます。最高裁判所は、被害者がもともと持っていた病気(疾患)が損害の発生や拡大に関わっている場合、公平の観点から、民法722条2項(過失相殺)の考え方を当てはめて賠償額を減らすことができるとしています(最判平成4年6月25日)。一方で、病気とはいえない身体的な特徴(平均的な体格から外れているなど)は、特別な事情がない限り減額の理由にならないとしています(最判平成8年10月29日)。
ヘルニアでは、事故前のヘルニアが「病気」といえる程度だったのか、それとも年齢相応の変化にとどまるのかが分かれ目になります。事故の前は症状がまったくなく通院もしていなかった、画像の変化が同年代の人と比べて特に進んでいるわけではない、といった事情があれば、減額を争う余地があります。実際に、年齢相応の変化は疾患に当たらないとして減額を認めなかった裁判例もあります。反対に、事故の少し前までヘルニアで通院していた場合などには、減額が認められやすくなります。減らされる割合は事案によって異なり、1割程度から5割程度まで幅があります。素因減額の考え方は交通事故の素因減額|既往症で減らされないための反論で詳しく解説しています。
賠償を減らされないために、早い段階でしておきたいこと
事故の後すぐに整形外科を受診する
痛みが軽くても、できるだけ早く整形外科を受診し、首や腰の痛み、しびれのある場所をできるだけ具体的に伝えてください。受診が遅れると、事故との関係を疑われやすくなります。
早めにMRIを撮ってもらう
しびれが続く場合は、医師に相談してMRIを撮ってもらいましょう。レントゲンでは椎間板の状態は分かりにくく、ヘルニアの有無や神経の圧迫を確かめるにはMRIが重要です。事故から近い時期の画像は、事故との関係を考えるうえで大切な資料になります。
途切れずに通院し、症状を毎回伝える
通院の間隔が空くと、症状が軽くなったと受け取られることがあります。医師の指示に沿って通院し、症状の変化を毎回伝えて、診療記録に残してもらいましょう。整骨院だけに通うのではなく、整形外科への通院も続けることが大切です。整骨院に通う場合は、医師に相談したうえで通い、施術証明書や明細書を保管しておきましょう。
治療費の打ち切りを言われても、すぐに通院をやめない
保険会社が治療費の支払いを打ち切っても、それで症状固定(治療を続けてもよくならない状態)が決まるわけではありません。症状固定の時期は、まず医師と相談して見きわめます(ただし、裁判では医師の判断より早い時期に症状固定とされることもあり、その後の治療費は自己負担になる可能性があります)。症状が続いているなら、医師と相談のうえで健康保険に切り替えて通院を続ける方法があります。健康保険を使うときは、加入先に「第三者行為による傷病届」を出す必要があります。あとで相手方に請求するため、領収書や診療明細書は保管しておきましょう。詳しくは交通事故で治療費を打ち切られたらをご覧ください。
交通事故とヘルニアで弁護士に相談した方がよいケース
- 保険会社から「ヘルニアは事故前からのもの」「年齢によるもの」と言われた
- 後遺障害が非該当、または14級にとどまり、12級を目指したい
- 素因減額を理由に、賠償額を大きく減らした提示を受けた
- 手術を勧められていて、費用や今後の補償が心配
- 治療費の打ち切りを言われたが、まだ痛みやしびれが続いている
ご相談の際は、事故前後のMRIなどの画像、診断書・後遺障害診断書、保険会社からの通知や後遺障害の認定結果、示談の提示書、治療費などの領収書をお持ちいただくと、見通しをお伝えしやすくなります。
ご自分や家族の自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、弁護士費用は保険でまかなえることが多いです。使えるかどうかは契約によるので、保険会社に確認してください。特約の詳しい使い方は弁護士費用特約とはで解説しています。
よくある質問
Q. 交通事故の前からヘルニアがあったかどうかは、どうやって分かりますか。
事故の前に撮った画像や通院の記録があれば、それと比べて判断されます。記録がない場合は、事故直後のMRIの所見や、事故の前は症状がなかったことなどから判断されます。事故から近い時期の画像が大切な資料になります。
Q. ヘルニアは年齢のせいだと言われました。賠償は受けられませんか。
受けられないとは限りません。年齢とともに椎間板が傷むのは自然なことで、年齢相応の変化があるだけで事故との関係が否定されるわけではありません。事故の態様、事故前に症状がなかったこと、事故直後から症状が続いていることなどを示して争うことができます。
Q. ヘルニアで認められる後遺障害の等級は何級ですか。
主に12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)と14級9号(局部に神経症状を残すもの)です。12級は画像や神経学的な検査で症状を医学的に証明できること、14級は症状を医学的に説明・推定できることが必要とされています。
Q. もともとヘルニアがあった場合、賠償額は減らされますか。
事故前のヘルニアが病気といえる程度で、症状を重くした場合は、素因減額により賠償額が減らされることがあります。一方、年齢相応の変化にとどまるものは病気とはいえないとして、減額を認めなかった裁判例もあります。
Q. MRIは撮った方がよいですか。
しびれや痛みが続く場合は、医師に相談して撮ってもらうことをおすすめします。レントゲンでは椎間板の状態は分かりにくく、ヘルニアや神経の圧迫を確かめるにはMRIが重要です。事故から近い時期の画像は、事故との関係を考えるうえで大切な資料になります。
Q. ヘルニアの手術費用は請求できますか。
事故との関係が認められれば、手術費や入院費も損害として請求できます。ただし、年齢による変化も症状に関わっているとして、素因減額が問題になることがあります。医師から手術を勧められた理由を診療記録に残してもらうとよいでしょう。
交通事故とヘルニアでお困りの方へ
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監修:難波みなみ法律事務所/代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号49544)。大阪市中央区西心斎橋2-4-2 難波日興ビル403。初回相談30分無料(電話 06-6786-8103/受付9:00〜22:00)。






