事故に遭った車をきちんと修理したのに、「事故歴がつくと下取り価格が下がる」——この値下がり分を、加害者側に評価損(格落ち損)として請求できる場合があります。ただし、いつでも認められるわけではありません。
この記事では、評価損がどんなときに認められ、いくら請求できるのかを、裁判例の傾向をもとに、大阪の被害者側の弁護士が整理します。
結論から
Q. 評価損(格落ち損)とは何ですか。
十分に修理をしても、修理後の車の価値が事故前を下回ることによる損害です。修理で直しきれない不具合が残る「技術上の評価損」と、不具合は残らなくても事故歴・修理歴がついたことで中古車市場の価格が下がる「取引上の評価損」があります。
Q. どんな車でも認められますか。
いいえ。初度登録からの期間が短く、走行距離が少ない車や、骨格部分まで損傷した車、高級車・人気車ほど認められやすい傾向です。年式が古く走行距離が多い車や、損傷が軽微な車は、認められにくくなります。
Q. いくらくらい認められますか。
実務では修理費の1〜3割程度を一つの目安に、車種・年式・損傷の程度などから個別に算定する裁判例が多く見られます。金額は事案によって大きく変わります。
評価損(格落ち損)とは
評価損(格落ち損)とは、損傷した車に十分な修理をした場合でも、修理後の車両価格が事故前の価格を下回ることをいいます。リーディングケースとされる東京地判昭和61年4月25日は、その原因として次の点を挙げています。
すなわち、①修理技術上の限界から性能・外観が事故前より低下すること、②事故の衝撃で車体・部品に負担がかかり、修理後しばらくは問題がなくても経年的に不具合が出やすくなること、③修理後も隠れた損傷が残っているのではないかという懸念、④「事故車は縁起が悪い」として嫌われる傾向——こうした事情から、中古車市場で事故に遭っていない車より価格が下がる、というものです。
評価損は、物の損害の賠償を補う性質のもので、慰謝料に近い役割を果たしているとも説明されます。だからこそ、修理をすれば当然に認められるものではなく、個別の事情を総合して判断される点に注意が必要です。
技術上の評価損と取引上の評価損
評価損は、大きく2つに分けて考えられています。
| 種類 | 内容 | 認められやすさ |
|---|---|---|
| 技術上の 評価損 |
修理をしても完全には直らず、機能や外観に欠陥が残っている場合の価値低下 | 欠陥が残る以上、価値は下がっていると考えられ、認められやすい |
| 取引上の 評価損 |
修理で欠陥は残らなくても、事故歴・修理歴がついたことで中古車市場の価格が下がる場合 | 車種・年式・損傷部位などの事情を総合して判断される |
取引上の評価損については、「修理で直った以上は客観的な価値は下がっていない」「売却して初めて現実の損になる」として否定する考え方もあります。しかし裁判例には、車を売らずに使い続けていても評価損は現実に発生するとしたもの(神戸地判平成2年1月26日)や、修理後に外観・機能上の不都合が残らなくても事故歴による取引価格の下落を認めたもの(大阪地判平成26年8月26日)があります。
評価損が認められやすいケース・認められにくいケース
評価損が認められるかどうかは、単一の基準で機械的に決まるのではなく、次のような事情を総合して判断されます。
| 考慮される事情 | 認められやすい方向 |
|---|---|
| 初度登録 からの期間 |
新しいほど有利(新車に近いほど下落幅が大きい) |
| 走行距離 | 少ないほど有利 |
| 車種 | 高級外車・国産の人気車種は有利 |
| 損傷の部位 | 車体の骨格部分(中古車で「修復歴」の表示対象になる部分)や、走行・安全性能に関わる部分に及ぶと有利 |
| 修理の内容 | 修理によっても直しきれない欠陥が残る場合は有利 |
年式・走行距離については、裁判例の傾向として、外国車・国産の人気車種はおおむね初度登録から5年・走行6万km、国産車は3年・走行4万kmを超えると認められにくい、という目安が示されています。ただしこれはあくまで傾向であり、個別の事情次第です。
実際の裁判例でも結論は分かれています。たとえば、骨格部分(リヤフロア)の修理を含む登録3年ほどの人気スポーツ車について評価損を認めたもの(神戸地判平成26年12月19日)や、骨格部位に影響が及び走行・安全性能に関わるとして認めたもの(大阪地判令和元年7月19日)がある一方、登録から1年以上たった小型国産車で評価損の発生を認めるに足りないとして否定したもの(名古屋地判平成9年5月14日)、登録3か月でも修理後に特段の不具合がないとして否定したもの(大阪地判平成6年8月24日)、新しい高級外車であっても損傷が部品交換で完全に直せるとして否定したもの(東京地判平成15年8月28日)もあります。
評価損はいくら認められる? 算定方法と相場
評価損の算定には、主に次の3つの方法が考えられています。
修理費を基準とする場合の割合は固定されておらず、裁判例ではおおむね修理費の1割から3割程度の範囲で認められています。損傷が重く修理費が高額になった場合ほど、割合も高くなる傾向があり、2〜3割程度とする裁判例が多く見られます。高級車や外国車では、3割から4割程度まで認められた例もあります。
| 裁判例 | 車・事情 | 認められた評価損 |
|---|---|---|
| 大阪地判 平成26年8月26日 |
登録2年ほどの高級外車、事故歴による取引価格下落 | 修理費の2割 |
| 神戸地判 平成26年12月19日 |
登録3年ほどの人気スポーツ車、骨格部分の修理を含む | 修理費の約2割 |
| 明石簡判 平成26年9月25日 |
年式・走行距離・損傷と修理の内容を考慮 | 修理費の約1割 |
| 仙台地判 令和元年11月26日 |
登録4か月ほどのタクシー、骨格部分に損傷 | 修理費の1割 |
金額の目安を知りたいときは、まず正確な修理費と車両の時価を把握することが出発点になります。損傷が骨格部分に及んでいるか(=中古車の「修復歴」に当たるか)が、結論を左右する重要なポイントです。
日本自動車査定協会の「事故減価額証明書」はどこまで有効か
評価損を請求するときには、一般財団法人日本自動車査定協会が発行する「事故減価額証明書」がよく提出されます。これは車種・損傷部位・修理費などをもとに減価額を査定した資料で、評価損を判断する手がかりの一つになります。
ただし注意したいのは、査定書の金額がそのまま評価損として認められるとは限らないという点です。裁判例には、査定書の算定方法や根拠が不明確であるとして、査定額どおりには採用せず、修理費を基準に評価損を認定したもの(大阪地判平成26年8月26日、東京地判平成10年10月14日)や、査定が修理完了時点のものでないことから証拠価値が低いとしたもの(神戸地判平成12年1月27日)があります。一方で、査定額を評価損として認めた例(大阪地判平成12年9月6日)もあります。
請求の前に押さえておきたい注意点
誰が請求できるか(所有権留保・ローン中の車)
評価損は車の交換価値の下落なので、原則として車の所有者に生じる損害とされています。そのため、ローンや残価設定で購入し、支払いが終わるまで所有権が信販会社などに留保されている車では、使用者(実際に乗っている人)が評価損を請求できないと判断された裁判例があります(東京地判平成12年8月23日、東京地判平成15年3月12日など)。だれが請求するかは、車検証の名義を確認して整理しておく必要があります。
リース車でも考え方は同じです。評価損の請求権は原則としてリース会社(所有者)に帰属し、使用者は原則として請求できないとされています。リース満了時に負担しうる査定額の差額についても、まだ現実には発生していないとして使用者の損害を認めなかった裁判例(横浜地判平成30年8月10日)があります。
過失割合があるとき
評価損も事故による損害の一つなので、被害者側にも過失がある事故では、民法722条2項により過失相殺の対象になります。過失割合については、交通事故の過失割合もあわせてご確認ください。
営業用の車は認められにくい
営業用の車は長く使い続けるのが通常で、自家用車のような買替え(下取り)を予定していないことが多いため、保険会社は評価損を認めない傾向にあります。もっとも、認められるかどうかを分けるのは「営業用かどうか」ではありません。新車に近いこと、骨格など重要な部分に損傷が及んでいること、事故による価値の下落を具体的に示せること——これらがそろえば、営業車でも認められます。実際、骨格部分に損傷が及んだ新しいタクシー(仙台地判令和元年11月26日)や、重要部分への損傷が疑われる登録間もない商用車(東京簡判平成20年12月15日)について、評価損を認めた裁判例があります。
「きちんと直したのに下取りが下がる」——その評価損(格落ち損)が請求できるか、いくらが見込めるかを、大阪市・なんば・心斎橋の難波みなみ法律事務所が被害者側の立場で検討します。初回相談は30分無料、LINE・Zoom相談や土日祝・夜間にも対応しています。
よくある質問
評価損(格落ち損)とは何ですか。
十分に修理をしても、修理後の車の価値が事故前を下回ることによる損害です。修理で直しきれない不具合が残る技術上の評価損と、不具合は残らなくても事故歴・修理歴がついたことで中古車市場の価格が下がる取引上の評価損があります。
修理が終わっていても評価損は請求できますか。
できる場合があります。評価損はもともと、十分な修理をしたことを前提に、それでも残る価値の下落を問題にするものです。修理後に欠陥が残るときだけでなく、事故歴による中古車価格の下落も、車種・年式・損傷部位などを総合して認められることがあります。
どんな車だと評価損が認められやすいですか。
初度登録からの期間が短く走行距離が少ない車、車体の骨格部分まで損傷した車、高級車や人気車種ほど認められやすい傾向があります。傾向としては、外国車・国産人気車は登録5年・走行6万km、国産車は3年・走行4万kmを超えると認められにくいとされています。
評価損はいくらくらい認められますか。
裁判例では、おおむね修理費の1割から3割程度の範囲で認められることが多く、損傷が重く修理費が高額なほど割合も高くなる傾向です。ただし金額は車種・年式・損傷の程度などで大きく変わるため、一律の相場があるわけではありません。
日本自動車査定協会の「事故減価額証明書」があれば、その金額が認められますか。
そのまま認められるとは限りません。査定書は有力な資料ですが、裁判例には、算定の根拠が不明確だとして査定額どおりには採用せず、修理費を基準に評価損を認定したものがあります。修理明細や損傷の写真など、複数の資料をそろえて主張することが大切です。
ローンで買った車でも評価損を請求できますか。
評価損は車の所有者に生じる損害とされています。ローンや残価設定で所有権が信販会社などに留保されている場合、使用者が評価損を請求できないと判断された裁判例があります。だれが請求するかは、車検証の名義を確認して整理する必要があります。
営業用の車でも評価損は認められますか。
営業車は買替えを予定していないことが多く、保険会社は評価損を認めない傾向にあります。もっとも、骨格部分に損傷が及んだタクシーについて評価損を認めた裁判例もあり、事情によっては認められる余地があります。
本記事は一般的な解説です。評価損が認められるかどうか、認められる金額は、車種・年式・走行距離・損傷の程度・修理の内容などによって異なります。具体的な事案は弁護士にご相談ください。






