コラム
更新日: 2026.09.20

常位胎盤早期剥離で損害賠償請求できる条件|弁護士が解説

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

医療過誤, できる条件を弁護士が解説, 常位胎盤早期剥離 で損害賠償請求
結論

Q. 常位胎盤早期剥離で、損害賠償を請求できますか?
早剥を疑うべき所見があったのに発見・診断が遅れた、緊急帝王切開などの対応が遅れた、大量出血やDICへの対応が不十分だったといった注意義務違反があり、適切に対応していれば結果を避けられた(因果関係)といえる場合には、損害賠償が認められることがあります。

Q. 赤ちゃんが亡くなった(死産)場合でも請求できますか?
できます。産科医療補償制度は「生存して重度の脳性麻痺が残った」場合の制度で、死産や新生児死亡は対象外です。そのため、亡くなったケースでは損害賠償が主な救済手段になります。

Q. まず何をすべきですか?
CTG(胎児心拍数モニタリング)やカルテ、検査データ、輸血の記録を証拠保全で確保することが最優先です。早剥は経過が速く、記録の確保が立証の鍵になります。早めに弁護士へご相談ください。

「急にお腹が痛くなって出血し、病院に行ったのに対応が遅れて、赤ちゃんを亡くしてしまった」「もっと早く帝王切開をしてくれていれば」――常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)は、胎盤が分娩の前に子宮の壁からはがれてしまう病気で、母体にも赤ちゃんにも命の危険が及ぶ、産科の緊急事態です。進行が速く、対応の遅れが結果を大きく左右するため、医療機関の対応が問われる場面が少なくありません。この記事では、常位胎盤早期剥離で、どのような場合に損害賠償が認められるのか、過失が問われる場面と立証のポイント、そして補償制度との関係を、患者・家族側の立場から弁護士が解説します。

常位胎盤早期剥離とは

常位胎盤早期剥離とは、正常な位置にある胎盤が、赤ちゃんが生まれる前に子宮の壁からはがれてしまう状態をいいます。胎盤は赤ちゃんに酸素と栄養を送る大切な器官で、これがはがれると赤ちゃんへの酸素の供給が絶たれ、母体には大量の出血が起こります。母児ともに短時間で危険な状態に至ることがある、産科の代表的な緊急疾患です。概要は次のとおりです。

項目内容
どのくらい起こるか単胎妊娠で1,000分娩あたり約6件、双胎妊娠では約12件と報告され、おおむね100〜200分娩に1例にあたります。赤ちゃんが亡くなるような重症例も一定の割合で含まれます。
主な症状性器出血、お腹の痛み・子宮の圧痛、頻回の子宮の張り(収縮)など。ただし、症状がはっきり出ないこともあります。
主なリスク要因早剥の既往、妊娠高血圧症候群・高血圧、子宮内感染(絨毛膜羊膜炎)、切迫早産、前期破水、腹部の外傷、喫煙、高齢出産など。ただし、はっきりしたリスク要因がなく突然発症する例も半数近くあり、発症の予測は難しいとされます。
母体への影響大量出血による出血性ショック、DIC(血が固まりにくくなる播種性血管内凝固)、子宮摘出に至ることや、母体死亡もありえます。
赤ちゃんへの影響低酸素による脳性麻痺、胎児死亡(死産)、新生児死亡。

なぜ一刻を争うのか

常位胎盤早期剥離が重大なのは、進行が非常に速いからです。胎盤のはがれが広がると、赤ちゃんは急速に酸素不足に陥り、母体では出血が止まらなくなってDICを合併することがあります。発症してから赤ちゃんを娩出させるまでの時間が、母児の予後を大きく左右します。だからこそ、早剥を疑う所見があれば、ためらわずに緊急帝王切開などの対応に移れたかが、後から厳しく検証されることになります。

実際、常位胎盤早期剥離では、周産期死亡率が全体の10倍以上に高まり、生まれた赤ちゃんの脳性麻痺の発症リスクも大きく上がると報告されています。しかも、赤ちゃんを救うための緊急の娩出(急速遂娩)と、母体の大量出血・DICに備えた高度な医療機関への搬送を、どのタイミングで選ぶかという難しい判断も同時に求められます。

早剥では、赤ちゃんの問題(低酸素・脳性麻痺・死産)だけでなく、お母さん自身の被害(大量出血、DIC、子宮摘出、母体死亡など)が問題になることもあります。母体側の対応の遅れや、輸血・ショックへの対応の不備が争点になる事案もあります。

過失が問われる主な場面

常位胎盤早期剥離をめぐって医療機関の過失が問われるのは、大きく次の場面です。

場面内容の例
① 早期発見・診断の遅れ出血・腹痛・子宮の張り、CTGの異常などから早剥を疑い、超音波検査や採血で確認して診断すべきだったのに、経過観察にとどめて診断・対応が遅れた。たとえば、電話で「軽い張りと少量の出血」を訴えた妊婦に、受診させずに「しばらく様子を見て」と伝えるだけの対応は、早剥の見逃しにつながりかねません。
② 緊急帝王切開・急速遂娩の遅れ早剥が疑われ、胎児の状態が悪化しているのに、緊急帝王切開などで赤ちゃんを娩出させる決断・実施が遅れた。
③ 出血・DICへの対応の不備大量出血やDICが疑われるのに、輸血用血液を適切な時期に確保する、必要な血液検査・輸血・全身管理・ショックへの対応をとる、といったことが遅れた・不十分だった。
④ 転送(高次搬送)の遅れ自院では緊急手術や輸血、母体・新生児の管理が難しいのに、より高度な医療機関へ移す判断が遅れた。

どこまでの対応が求められるかは、診療当時の医療水準に照らして判断されます。医療水準は全国一律ではなく、その医療機関の性格や地域の医療環境などの事情を踏まえて判断されるとされています(最高裁平成7年6月9日判決)。もっとも、自院で十分な対応ができないときは、より高度な医療機関へ移す転送義務を負うと考えられており、設備や人員が乏しいことだけを理由に責任を免れられるわけではありません。早剥の確定診断がついていなくても、重大で緊急性のある病気の可能性を認識できる場合には、適切な医療機関へ速やかに転送すべき義務があるとされています(最高裁平成15年11月11日判決)。転送は、ただ患者を移すだけでは足りず、受入先を確保し、安全に搬送して必要な診療情報を伝えることまで求められます。

一方で、早剥は診断が難しい面があります。症状がはっきり出ないことや、ごく短時間で急激に進行することもあり、「その時点では早剥を疑う所見がなかった」「早く動いても結果は避けられなかった」と、医療機関側から反論されることが少なくありません。実際、発症して間もない時期は、超音波検査でも胎盤のはがれ(胎盤後血腫)が胎盤と見分けにくく、早期の診断感度は高くないとされています。逆にいえば、超音波で早剥がはっきり写らなくても、出血・腹痛やCTGの異常など早剥を疑うべき所見があれば、確定診断を待たずに対応すべきだと考えられています。だからこそ、記録に基づいて、いつ・どの所見が出ていて、何ができたはずかを丁寧に検討することが重要になります。

「診断できたか」と因果関係

早剥の事案では、過失(診断や対応の遅れ)が疑われる場合でも、因果関係が大きな争点になります。つまり、「もっと早く診断して対応していれば、赤ちゃんや母体を救えたといえるか」です。早剥は進行が速いため、「適切に対応していても間に合わなかったのではないか」という反論がなされやすいのが特徴です。

この点、適切な医療が行われていれば救えたことが高い確からしさ(高度の蓋然性)で認められれば、損害の全部について賠償が認められます。それが完全には証明しきれない場合でも、適切な医療で救えた「相当程度の可能性」があったといえるときには、その限度で損害賠償が認められることがあります(最高裁平成12年9月22日判決)。因果関係の考え方は、産科医療過誤の総論分娩監視義務違反・CTGの見落としの記事でもくわしく解説しています。

補償制度と損害賠償の関係

産科の重い障害には、産科医療補償制度という無過失補償の仕組みがあります。もっとも、この制度は「生存して重度の脳性麻痺(身体障害者手帳1級・2級相当)が残った」場合が対象です。早剥で問題になりやすい死産や新生児死亡は、脳性麻痺の診断がつかないため、補償制度の対象になりません。整理すると次のとおりです。

結果産科医療補償制度損害賠償(過失がある場合)
重度の脳性麻痺が残った要件を満たせば補償の対象請求できる(すでに受けた補償金は損害賠償に充当・控除される)
死産・新生児死亡対象外請求できる(賠償が主な救済手段になる)
母体の被害(DIC・子宮摘出・死亡など)対象外請求できる

つまり、赤ちゃんが亡くなった場合や、お母さん自身に重い被害が生じた場合には、補償制度は使えず、損害賠償が救済の中心になります。補償金と損害賠償の関係は脳性麻痺と産科医療補償制度の記事で、賠償で請求できる損害の項目は医療事故で死亡したときの記事もあわせてご覧ください。

立証と、まずすべきこと

早剥の事案では、いつ・どの所見が出ていて、医療者がどう対応したかを、記録に基づいて時系列で検討することが出発点です。

1. CTG・カルテ・検査データを証拠保全で確保する

CTG(胎児心拍数モニタリング)、カルテ、看護・助産記録、血液検査や輸血の記録は、早剥の発症・進行と対応を検証する中心的な資料です。産科は小規模な医院も多く、記録の内容で結論が左右されるため、実務では、カルテ開示を待つよりも、裁判所を通じてその場で記録を保全する「証拠保全」(民事訴訟法234条)を第一に検討します。手順は証拠収集・カルテ開示の記事にまとめています。

2. 発症からの時系列を組み立てる

いつ出血・腹痛・子宮収縮が現れ、CTGにどのような異常が出て、いつ超音波・採血・帝王切開・輸血・転送が行われたかを、記録から分単位で突き合わせます。

3. 協力医とともに過失と因果を検討する

確保した記録を、産科にくわしい協力医とともに精査し、早剥を疑い診断・対応すべき時点はいつだったか、適切に対応していれば結果を避けられたか(因果関係)を検討します。

弁護士の視点

早剥は「防ぎようがなかった」と説明されがちですが、CTGや検査記録を丁寧にたどると、実際には早剥を疑う所見が出ていて対応が遅れていた、という経過が見えてくることがあります。赤ちゃんを亡くされた場合は補償制度が使えず、損害賠償だけが向き合える手段になることも少なくありません。産科では記録の内容で結論が大きく変わるため、私たちは証拠保全を第一の選択肢として考えます。当事務所には元裁判官の弁護士が在籍し、看護を学んだ協力弁護士とも連携して、記録から過失と因果をどう組み立てるかの見立てをお伝えできます。

よくある質問(FAQ)

早剥は防げない病気だと言われました。それでも賠償を請求できますか?

早剥そのものを完全に予防することは難しいとされますが、問題になるのは発症後の対応です。早剥を疑うべき所見があったのに発見・診断や緊急帝王切開が遅れた、出血やDICへの対応が不十分だった、といった注意義務違反があり、適切に対応していれば結果を避けられたといえる場合には、損害賠償が認められることがあります。

赤ちゃんが亡くなった場合、産科医療補償制度は使えますか?

使えません。産科医療補償制度は、生存して重度の脳性麻痺が残った場合を対象とする制度で、死産や新生児死亡は対象外です。そのため、赤ちゃんを亡くされたケースでは、過失があれば損害賠償が主な救済手段になります。

どんな場合に医療機関の過失が問われますか?

主に、①出血・腹痛・CTG異常などから早剥を疑い診断すべきだったのに遅れた場合、②緊急帝王切開などの決断・実施が遅れた場合、③大量出血やDICへの検査・輸血・全身管理が不十分だった場合、④自院で対応が難しいのに高次医療機関への搬送が遅れた場合です。

母体(お母さん)に後遺症が残った、または亡くなった場合はどうですか?

母体の被害も損害賠償の対象になります。大量出血やDICへの対応の遅れで、子宮摘出や重い後遺症、母体死亡に至った場合には、その対応に過失があり、適切に対応していれば結果を避けられたといえるかが問題になります。

「早く対応しても間に合わなかった」と言われています。あきらめるべきですか?

あきらめる必要はありません。早剥は進行が速いため因果関係が争点になりますが、CTGや検査記録を協力医とともに精査すると、対応できた時点や、適切な対応で結果を避けられた可能性が見えてくることがあります。まずは記録を確保して検討することが大切です。

因果関係が完全に証明できないと、何も認められないのですか?

そうとは限りません。適切な医療で救えた「相当程度の可能性」があったといえるときには、その限度で損害賠償が認められることがあります。完全な証明ができない場合でも、検討する意味があります。

まず何をすればよいですか?

CTG・カルテ・検査データ・輸血記録などが失われたり書き換えられたりしないうちに確保することが最優先です。産科では、カルテ開示より先に証拠保全を第一に検討します。時効もあるため、早めに弁護士へご相談ください。

相談のとき、何を準備すればよいですか?

お手元にある母子健康手帳、診療明細、退院時の説明書面、ご記憶にある経過のメモなどがあると役立ちます。記録がそろっていなくても、まずはご相談ください。必要な記録の確保からお手伝いします。

常位胎盤早期剥離の被害でお悩みの方へ

「防ぎようがなかった」と言われても、CTGや検査記録は客観的な証拠として検証できます。赤ちゃんを亡くされた場合は補償制度が使えず、損害賠償だけが向き合える手段になることもあります。初回無料で、過失の可能性と見通しをお伝えします。大阪・なんばの弁護士が、お電話・メール・LINEで承ります。

監修:難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号 49544/中小企業診断士)。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。初回相談30分無料。本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。診断の可否や医療水準の評価、因果関係の判断は、個別の事情により異なります。

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