- ネット誹謗中傷の慰謝料はいくらですか?
- 個人が受けた名誉毀損では10万〜50万円が目安です。実際に裁判所が認めた金額は、ネット上の事案で中央値30万円・平均47万円、約半数が30万円未満というのが実情です(法務省・令和8年調査)。悪質で拡散が大きい事案では200万〜349万円が認められた例もあります。
- 何によって金額が決まりますか?
- 投稿の拡散度・悪質性・内容の虚偽性・被害の実害で決まります。不特定多数に広く拡散し、虚偽で悪質なほど高額になります。逆に、内容に具体性がなく謝罪があると減額されます。
- 慰謝料以外にも請求できますか?
- できます。慰謝料に加えて、弁護士費用(認容額の約1割)と、匿名投稿者を特定するための調査費用を加害者に請求できるのが原則です。法人では営業損害を加えられることもあります。
インターネット上の誹謗中傷で受けた精神的苦痛は、慰謝料(損害賠償)として金銭で請求できます。もっとも「いくら取れるのか」は、名誉毀損・侮辱・プライバシー侵害のどれにあたるか、どれだけ拡散し悪質だったかで大きく変わります。この記事では、相場の目安・実際に裁判所が認めた金額・実際の裁判例・増額の進め方までを、大阪の弁護士がデータと判例に基づいて解説します。
13つの類型と成立要件(何が誹謗中傷か)
ネット上の権利侵害は、大きく次の3つに分かれます。どれにあたるかで慰謝料の水準が変わるため、まず自分のケースがどれかを見極めることが出発点です。
① 名誉毀損(名誉権の侵害)
具体的な事実を示して、人の社会的評価を低下させる投稿です(最大判昭和61年6月11日・北方ジャーナル事件)。「Aは客の金を横領している」「B社は詐欺的な営業をしている」など。事実が真実でない限り、投稿者に責任が生じます。慰謝料の水準が最も高くなる類型です。
② 侮辱(名誉感情の侵害)
具体的事実は示さないが、社会通念上許される限度を超える侮辱行為です(最判平成22年4月13日)。「バカ」「頭がおかしい」といった抽象的な悪口が典型で、慰謝料は数万円〜10万円程度と低めです。
③ プライバシー侵害
公開されたくない私生活上の事実を暴露する投稿です。住所・病歴・家族関係・性的な事柄などが対象で、内容の秘匿性が高いほど高額になります。あわせて肖像権侵害や「なりすまし」による人格権侵害が認められることもあります。
2慰謝料の相場(被侵害利益別)
類型ごとの慰謝料の目安は次のとおりです。
| 類型 | 相場(目安) | ポイント |
|---|---|---|
| 名誉毀損(個人) | 10万〜50万円 | 具体的事実で社会的評価を下げるもの |
| 名誉毀損(法人) | 50万〜100万円 | 信用毀損・営業損害を伴うことがある |
| 侮辱(名誉感情) | 1万〜数十万円 | 事実の摘示を伴わない抽象的な悪口。多くは10万円前後 |
| プライバシー侵害 | 10万〜50万円 | 私生活・個人情報の暴露。性的内容は100万円超も |
| 重大・悪質な事案 | 200万〜349万円 | 社会的地位の高い人物への執拗・広範な攻撃など |
上記は請求時の目安です。実際の認容額は個別事情で変動します(次項参照)。
3実際に裁判所が認めた金額(データ)
法務省が令和8年に公表した調査(インターネット上の名誉権侵害等の損害賠償額に関する調査報告書。裁判例203件を分析)によると、ネット上の名誉毀損で実際に認容された慰謝料は中央値30万円・平均47万円で、約半数(46.6%)が30万円未満でした。もっとも、公表裁判例を分析した文献では名誉毀損の中央値を50万円前後とするものもあり、調査の対象や年代によって30万〜50万円の幅があります。相場の「上限」ではなく「中央値」を基準に、控えめに見通しを立てることが大切です。
| 区分 | 中央値 | 平均値 | 最高額 |
|---|---|---|---|
| ネット上の名誉毀損 全体 | 30万円 | 47万円 | 349万円 |
| SNS(X/Twitter等) | 約32万円 | 約54万円 | 250万円 |
| 電子掲示板(2ch/5ch等) | 約22万円 | 約27万円 | 100万円 |
| 侮辱(名誉感情のみ) | 約15万円 | 約23万円 | 70万円 |
※ ネット上の慰謝料は、新聞・雑誌などマスメディア(平均約161万円)と比べて概ね3分の1程度の水準にとどまる傾向があります。これは、匿名・不特定多数の投稿は信用性が低いと受け止められやすいことなどが理由とされています。
4実際の裁判例(高額・低額)
金額のイメージを掴むため、実際の裁判例を紹介します(いずれも公表裁判例)。
高額が認められた例
心理援助職の被害者に対し、著作権侵害・つきまとい・精神障害などの投稿を、ブログ・Twitter等で合計千数百回にわたり継続。被害者が資格を失う結果に至った点が重視された。
大学教授に対し、研究データを捏造・改ざんした、業績を詐称したなどの事実を、自身のホームページに繰り返し掲載した事案。
80万人超のフォロワーを持つ著名な医師が、芸術監督を務める被害者について社会的評価を下げる投稿を複数回。発信者の社会的影響力と拡散力が考慮された。
低額にとどまった例
勤務先の女性に対し、電子掲示板に「知恵遅れ」「頭おかしい」などと投稿した名誉感情侵害の事案。表現は悪質だが具体的事実の摘示はないと評価された。
フォロワーの多いアカウントによる投稿だが、内容が短文で、被害者の人格的評価を具体的に低下させるものではないとされた事案。
5慰謝料以外に請求できるもの(損害賠償の内訳)
加害者に請求できるのは慰謝料だけではありません。実際の裁判でも、慰謝料に次の費目を上乗せして認容されています。
| 費目 | 目安 | 内容 |
|---|---|---|
| 慰謝料 | 相場の項目参照 | 精神的苦痛に対する賠償 |
| 弁護士費用 | 認容慰謝料の約1割 | 不法行為と相当因果関係のある範囲で加害者に請求可 |
| 調査費用(特定費用) | 実費相当 | 発信者情報開示など、投稿者の特定に要した費用 |
| 営業損害・逸失利益 | 事案による | 主に法人。売上減少などを立証できた場合 |
たとえば裁判例では、慰謝料180万円+弁護士費用20万円を認めたもの、なりすまし投稿で慰謝料に発信者情報の取得費用を加えて認めたものなどがあります。「慰謝料が低くても、特定にかけた費用を回収できる」という視点が重要です。
6慰謝料が増える要因・減る要因
裁判所は、これらの事情を総合して金額を決めます。法務省調査でも、増額方向で最も多く挙げられたのは「不特定多数が認識した(拡散)」と「表現が強度・悪質」でした。
7慰謝料を増やすための具体的な進め方
相場は目安にすぎず、準備次第で認められる金額は変わります。増額のためにやるべきことは次のとおりです。
1. 証拠を早期に保全する
投稿のURL・スクリーンショット(日時・アカウント名が写るように)・魚拓を、削除される前に確保します。証拠がなければ拡散の程度も悪質性も立証できません。
2. 拡散・被害の実害を記録する
リツイート数・閲覧数・まとめサイトへの転載、取引の打切り・退職・体調不良(診断書)など、社会的評価の低下と実害を示す資料を集めます。これらが増額要因の立証材料になります。
3. 複数投稿・複数媒体をまとめて主張する
投稿が多数・複数媒体にわたるほど慰謝料は上がります。一つひとつの投稿を漏れなく特定し、回数と範囲を主張します。
8慰謝料請求までの流れ
投稿のURL・スクリーンショット・投稿日時を確保。削除される前が重要。
匿名投稿は、発信者情報開示請求でSNS事業者・プロバイダから投稿者を特定(4〜6か月が目安)。
特定した相手に、慰謝料+弁護士費用+調査費用を請求。示談で解決することも多い。
任意の支払いに応じない場合は損害賠償請求訴訟へ。判決で金額が確定する。
匿名投稿では、まず「特定」ができなければ慰謝料を請求できません。特定に必要なアクセスログが消える前に動くことが最優先です。
9時効とタイムリミット
慰謝料(損害賠償)請求権には時効があります。加害者と損害を知った時から3年、投稿の時から20年で時効消滅します(民法724条)。匿名投稿では、まず発信者を特定しなければ加害者が分からないため、特定手続に必要なアクセスログ(多くのプロバイダで概ね3か月〜半年で消去)が消える前に動くことが重要です。
| 期限 | 内容 |
|---|---|
| 3か月〜半年 | アクセスログの保存期間の目安(特定のタイムリミット) |
| 3年 | 慰謝料請求権の消滅時効(加害者・損害を知った時から) |
| 20年 | 投稿時からの期間制限 |
10よくあるご質問
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11あわせて確認したい
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▶ 発信者情報開示請求とは?投稿者を特定する手続き(慰謝料請求の前提となる、匿名投稿者の特定手続の流れ・費用・期間)
▶ 名誉毀損・侮辱の刑事告訴(成立要件と流れ)(刑事責任を問う手続き。告訴の流れ・被害届との違い・不起訴になるケース)
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※本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。掲載した裁判例は公表裁判例に基づきますが、事案の詳細や上級審での変更の有無は個別にご確認ください。具体的な見通しは弁護士にご相談ください。監修:難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南宜孝(大阪弁護士会)。
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