Q. 患者や手術部位を取り違えられたら、損害賠償できますか?
取り違えは、本来あってはならない基本的なミスであり、過失や因果関係が比較的はっきりしやすい類型です。取り違えによって不要な手術や検査を受け、被害が生じたといえる場合には、損害賠償が認められます。
Q. 誰の責任になりますか?
取り違えを起こした担当者(執刀医・看護師など)の過失に加えて、確認の体制を欠いた病院の責任も問題になります。関わった複数の人がそれぞれ確認義務を負うため、過失が重なっていることも少なくありません。
Q. まず何をすべきですか?
カルテ・手術記録・同意書・確認表などを確保することが最優先です。取り違えは記録の食い違いから明らかになります。時効もあるため、早めに弁護士へご相談ください。
「別の患者の手術をされてしまった」「左右を間違えて手術された」――そんな取り違えの事故は、あってはならないことですが、実際に起きています。取り違えは、高度な医療判断の誤りではなく、確認さえしていれば防げた基本的なミスであるだけに、被害を受けた側の無念は大きいものです。この記事では、取り違え事故の種類、なぜ起きるのか、誰が責任を負うのか、そして立証のために何をすべきかを、患者側の立場から弁護士が解説します。
取り違え事故とは
取り違え事故は、大きく次の3つの類型に分けられます。
| 類型 | 内容の例 |
|---|---|
| 患者の取り違え | 手術・検査・投薬・輸血などの対象となる患者そのものを間違える。別の患者の手術をしてしまうなど。 |
| 手術部位の取り違え | 左右の間違い(左右の腎臓・肺・目など)や、上下・臓器の間違いなど、部位を取り違える。 |
| 検体の取り違え | 病理検査の組織、血液、輸血用の血液などを取り違える。誤った診断や、血液型の合わない輸血につながることもある。 |
なお、薬剤そのものの取り違え(別の薬を渡す・投与する)については、投薬・薬剤過誤の記事で解説しています。
取り違えによる被害は、本来必要のない手術や検査を受けること(不要な侵襲)だけではありません。検査結果や検体の取り違えによって、本来必要な治療が遅れてしまうことも、重大な被害になります。実際に、検査資料の取り違えでがんの発見が遅れて患者が亡くなった事案について、病院の過失を認め、早く治療を受けていれば得られたはずの利益(逸失利益)の賠償を認めた裁判例があります(仙台地方裁判所 平成18年1月26日判決)。
なぜ「基本的なミス」でも起きるのか
取り違えは、一人のうっかりミスというより、確認の仕組みが働かなかったことによって起こります。1999年には、ある大学病院で、心臓の手術を予定していた患者と肺の手術を予定していた患者を取り違え、互いに誤った手術をしてしまう事故が起きました。1人の看護師が2人の患者を同時に手術室へ運び、引き渡す際に取り違えたもので、執刀医・麻酔科医・看護師ら複数の担当者が業務上過失致傷に問われました。この事故は、日本で医療安全対策が本格的に進む大きなきっかけになりました。
この事件について最高裁は、患者の同一性を確認することは医療行為を正当化する大前提であり、医療関係者の初歩的・基本的な注意義務であるとしたうえで、各担当者は「ほかの誰かが確認しているはず」と考えて自分の確認を省くことは許されず、それぞれの職責・持ち場に応じて、重ねて患者の同一性を確認する義務を負うと判断しました(最高裁決定 平成19年3月26日)。確認は遅くとも麻酔をかける前に行うべきで、麻酔のあとでも疑いが生じたら、手術を止めて確認し直す義務があるとされています。
個人のミスであり、組織のミスでもある。取り違えは、直接の担当者の不注意であると同時に、「取り違えを起こさせない確認の仕組み」を用意していなかった病院側の問題でもあります。だからこそ、担当者個人だけでなく、病院の責任も問われます。
取り違えを防ぐための確認手順
取り違えを防ぐために、医療現場では次のような確認手順が標準的なものとされています。これらを行っていなかったこと、あるいは形だけで実質的に機能していなかったことが、過失や病院の責任を判断するうえでの手がかりになります。
- 患者確認:氏名や生年月日を患者自身に名乗ってもらい、リストバンドなどで二重に確認する。
- 手術部位のマーキング:患者が起きている間に、執刀する医師が手術する部位に印をつけ、消毒や覆布のあとでも見えるようにする。
- タイムアウト:皮膚を切開する直前に、執刀医・麻酔科医・看護師など全員がいったん手を止め、患者・手術部位・術式を声に出して最終確認する。
- WHO手術安全チェックリスト:世界保健機関(WHO)が定めた確認表で、麻酔導入前(サインイン)、切開前(タイムアウト)、退室前(サインアウト)の3段階で確認する。
こうした確認手順が守られていれば、多くの取り違えは防げます。逆に、これらを省略していた場合には、過失があったと評価されやすくなります。
誰が責任を負うのか
取り違え事故では、取り違えを起こした担当者(執刀医・看護師・検査担当者など)の過失が問われるとともに、その担当者を雇用する病院が使用者として責任を負います。加えて、取り違えを防ぐための確認体制が整っていたかどうかも、病院の責任を考えるうえで問われます。先ほどの最高裁の考え方のとおり、取り違えは搬送・受け渡し・確認・執刀といった複数の場面が関わり、それぞれの担当者が重ねて確認する義務を負うため、複数の人の過失が重なっていることも多く、責任の所在を記録から丁寧に整理していくことになります。手技そのものの過誤については手術ミスの記事もあわせてご覧ください。
立証と、まずすべきこと
取り違えは、記録の食い違いから明らかになります。まずは記録を確保することが出発点です。
診療録・手術記録・麻酔記録・看護記録・同意書、そしてチェックリストや患者確認の記録を、カルテ開示を請求して入手します。改変のおそれがあるときは証拠保全を検討します。手順は証拠収集・カルテ開示の記事にまとめています。
同意書に書かれた患者・部位と、実際に行われた手術の記録との食い違い、タイムアウトや患者確認が行われた形跡があるかを確認します。どの段階で確認が抜けたのかを特定することが、過失と病院の責任の立証につながります。
取り違えは、過失そのものは比較的明白なことが多い一方で、病院側が「軽微な影響にとどまった」として賠償を小さく見せようとすることがあります。実際にどのような被害が生じたのか、事故後の対応は誠実だったのかまで含めて、記録に基づいて丁寧に主張することが大切です。当事務所には元裁判官の弁護士が在籍し、証拠から被害と責任をどう組み立てるかの見立てもお伝えできます。
よくある質問(FAQ)
患者や手術部位を取り違えられたら、損害賠償できますか?
取り違えは本来あってはならない基本的なミスで、過失や因果関係が比較的はっきりしやすい類型です。取り違えによって不要な手術や検査を受け、被害が生じたといえる場合には、損害賠償が認められます。もっとも、被害の程度や内容は事案によって異なるため、記録に基づいて具体的に検討します。
取り違え事故には、どんな種類がありますか?
大きく、患者そのものの取り違え(別の患者に手術・検査・輸血をする)、手術部位の取り違え(左右・上下・臓器の間違い)、検体の取り違え(病理組織・血液・輸血用血液の取り違え)の3つに分けられます。薬剤そのものの取り違えは、投薬・薬剤過誤の問題として扱われます。
取り違えの責任は、誰が負いますか?
取り違えを起こした担当者(執刀医・看護師・検査担当者など)の過失が問われるとともに、雇用する病院が使用者として責任を負います。さらに、取り違えを防ぐ確認体制を整えていなかった点について、病院自身の組織的な責任も問題になります。複数の人の過失が重なっていることも多くあります。
なぜ、確認すれば防げるはずの取り違えが起きるのですか?
取り違えは、一人の不注意だけでなく、確認の仕組みが働かなかったことで起こります。医療現場では、患者確認、手術部位のマーキング、全員で手を止めて確認するタイムアウト、WHOの手術安全チェックリストなどが標準とされていますが、これらが省略されたり形だけになっていたりすると、取り違えにつながります。
「大きな影響はなかった」と病院に言われました。あきらめるしかないですか?
あきらめる必要はありません。取り違えによって、不要な侵襲を受けたこと自体が損害になり得ますし、その後の経過や必要になった追加の治療も含めて被害を検討します。「軽微だった」という説明をうのみにせず、記録に基づいて実際の被害を具体的に主張する価値があります。
取り違えを証明するには、何が必要ですか?
カルテ・手術記録・麻酔記録・看護記録・同意書、そしてチェックリストや患者確認の記録が重要です。同意書に書かれた患者・部位と、実際に行われた手術の記録との食い違いや、確認手順が行われた形跡があるかを照らし合わせて、どの段階で確認が抜けたのかを特定します。
取り違えは慰謝料が高くなりますか?
取り違えのような基本的なミスや、事故後の不誠実な対応は、慰謝料が増える事情として考慮されることがあります。もっとも、金額は被害の内容によって決まりますので、慰謝料の相場については医療事故の慰謝料相場の記事をご覧ください。
取り違え事故を疑ったら、まず何をすべきですか?
カルテ・手術記録・同意書・確認表などが失われたり書き換えられたりしないうちに、カルテ開示や証拠保全を検討して確保することが最優先です。時効もあるため、早めに弁護士へご相談ください。
取り違え事故に遭われた方へ
取り違えは、記録の食い違いから事実が明らかになります。まずは記録を確保することが第一歩です。初回無料で、責任の所在と見通しをお伝えします。大阪・なんばの弁護士が、お電話・メール・LINEで承ります。
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監修:難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号 49544/中小企業診断士)。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。初回相談30分無料。本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。




