コラム
更新日: 2026.08.31

名誉毀損罪・侮辱罪で刑事告訴するには|成立要件と流れを弁護士が解説

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

名誉毀損と書かれたメモとペン|名誉毀損・侮辱罪の刑事告訴を大阪の弁護士が解説
まず結論
名誉毀損や侮辱で刑事告訴はできますか?
できます。公然と具体的な事実を示して社会的評価を下げれば名誉毀損罪(刑法230条)、事実を示さなくても公然と侮辱すれば侮辱罪(刑法231条)が成立し、告訴できます。ただし両罪とも親告罪で、被害者本人の告訴が処罰の条件です。
刑事告訴すれば、相手は必ず処罰されますか?
いいえ。名誉毀損の起訴率は約28%で、検察に送られても約7割は不起訴になります(検察統計)。刑事告訴は「処罰」を求める手続きで、慰謝料などのお金を得る手続きではありません。金銭の回収は民事の損害賠償請求で別に行います。
匿名の相手でも告訴できますか?
投稿者が匿名のままでは捜査は進みにくく、まず発信者情報開示で相手を特定するのが実務です。いずれにせよ出発点は証拠の保全(投稿のスクリーンショット・URL・日時の確保)です。

ネット上の誹謗中傷を「警察に動いてもらいたい」「相手に前科をつけたい」と考えたとき、使う手続きが刑事告訴です。もっとも、刑事告訴は民事の慰謝料請求とは目的も進み方もまったく違い、「告訴すれば必ず処罰される」わけでもありません。この記事では、名誉毀損罪・侮辱罪の成立要件、刑事告訴の流れ、被害届との違い、6か月の告訴期間、不起訴になりやすい実務までを、大阪の弁護士が条文・判例・公的統計に基づいて解説します。

1数字で見る現在地(告訴=必ず処罰ではない)

まず現実を押さえましょう。名誉毀損で刑事告訴・立件されても、実際に起訴されて刑事罰に至るのは一部です。検察統計(令和6年)によると、名誉毀損罪で検察が処理した事件のうち起訴されたのは約28%で、残りの約7割は不起訴でした。警察の統計でも、名誉毀損で検挙された人のうち逮捕されたのは約1割で、多くは在宅のまま捜査が進みます。

27.8%名誉毀損の起訴率(R6検察統計)
約7割送致後に不起訴となる割合
約9.9%検挙のうち逮捕された割合(2024)

この数字が意味するのは、「刑事告訴は相手に賠償させる手段ではない」ということです。刑事は国が加害者を処罰するための手続きで、被害者にお金が入るわけではありません。金銭を回収したいなら、刑事告訴と並行して、または刑事とは別に、民事の慰謝料(損害賠償)請求を行う必要があります。刑事告訴の狙いは、処罰による抑止・再発防止、そして捜査を通じた事実解明にあります。

2名誉毀損罪と侮辱罪の成立要件

ネットの書き込みで問題になるのは、主に名誉毀損罪(刑法230条)と侮辱罪(刑法231条)です。両者を分けるのは「具体的な事実を示したかどうか」です。

名誉毀損罪(刑法230条)

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処せられます。ポイントは3つです。①公然性(不特定または多数の人が認識し得る状態)、②事実の摘示(社会的評価を下げるおそれのある具体的な事実を示すこと)、③それによって人の社会的評価が低下すること。「その事実の有無にかかわらず」とあるため、書いた内容が真実であっても、原則として構成要件には該当します(真実の場合の例外は次章)。

「公然」は伝播可能性で判断される直接の相手が少人数でも、そこから不特定多数へ広まる可能性(伝播可能性)があれば「公然」と認められることがあります。最高裁は、不定多数の人の視聴に達し得る状態で事実を示せば公然性を満たすと判断しました(最判昭和34年5月7日)。ネットの掲示板・SNSへの書き込みは、基本的にこの公然性を満たします。

侮辱罪(刑法231条)

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処せられます。「バカ」「気持ち悪い」といった、具体的な事実を伴わない抽象的な悪口が典型です。侮辱罪も、保護しているのは名誉毀損罪と同じく人の社会的な評価だと解されています。

侮辱罪は2022年に厳罰化された侮辱罪はかつて「拘留又は科料」しかありませんでしたが、ネット上の誹謗中傷が社会問題化したことを受け、2022年7月7日から法定刑が引き上げられ、「1年以下の拘禁刑(改正前は懲役・禁錮)若しくは30万円以下の罰金」が加わりました。これに伴い、公訴時効も1年から3年に延長されています。
比較項目名誉毀損罪(刑法230条)侮辱罪(刑法231条)
事実の摘示必要(具体的事実を示す)不要(抽象的な悪口でも可)
公然性必要必要
法定刑3年以下の拘禁刑/50万円以下の罰金1年以下の拘禁刑/30万円以下の罰金/拘留・科料
公訴時効3年3年(2022年改正後)
親告罪か親告罪(告訴が必要)親告罪(告訴が必要)
典型例「Aは会社の金を横領している」「Aはバカ・変質者だ」

※ 2025年6月1日の改正刑法施行により、旧「懲役・禁錮」は「拘禁刑」に一本化されています。

3書いた内容が真実なら罰されない?(刑法230条の2)

名誉毀損罪には重要な例外があります。刑法230条の2は、次の3つの要件をすべて満たす場合には罰しないと定めています。

要件内容
① 事実の公共性摘示した事実が公共の利害に関する事実であること
② 目的の公益性その目的が専ら公益を図ることにあったこと
③ 真実性の証明摘示した事実が真実であると証明されたこと

この3つが揃えば、内容が真実であることの証明によって処罰を免れます。なお、公務員や公選による公務員の候補者に関する事実については、真実性の証明があれば足りるとされています(同条3項)。つまり、政治家の政治活動や公務員の職務に関する批判は、真実であれば名誉毀損に問われにくいということです。

個人への私的な中傷は例外にあたりにくい逆に言えば、一般の個人に対する私生活の暴露や、公益と無関係な誹謗中傷は、たとえ「本当のことだ」と主張しても、①公共性・②公益目的を欠くため、230条の2の例外にはあたりにくいのが実情です。「真実だから問題ない」という思い込みは危険です。

4刑事告訴の流れ

刑事告訴は、次のステップで進みます。匿名投稿の場合は、途中に発信者の特定手続きが入ります。

STEP1 証拠の保全
投稿のスクリーンショット(アカウント名・日時・URLが写るように)、魚拓を確保。削除される前が勝負。ここが崩れると立件は難しい。
STEP2 発信者の特定(匿名の場合)
相手が匿名なら、発信者情報開示で投稿者を特定する。特定できないと捜査・告訴が進みにくい。アクセスログの保存期間(概ね3か月〜半年)に注意。
STEP3 告訴状の作成・提出
告訴は口頭でも可能だが、通常は告訴状を作成して警察・検察に提出する。犯罪事実・処罰を求める意思・証拠を整理して示す。
STEP4 受理・捜査
告訴が受理されると、警察が捜査を開始する。事実の軽重や証拠の有無により、受理まで時間を要することがある。
STEP5 検察への送致
捜査の結果、事件が検察官に送致される。検察官が取調べなどを行い、起訴・不起訴を判断する。
STEP6 起訴・不起訴の決定
起訴されれば刑事裁判へ。不起訴(起訴猶予・嫌疑不十分など)で終わることも多い。示談が成立していると不起訴になりやすい。

匿名投稿では、まず相手を特定できなければ捜査は動きにくいのが現実です。特定手続きの詳細は発信者情報開示請求の記事で解説しています。

5告訴と被害届はどう違うか

「被害届は出したのに動いてくれない」という相談は少なくありません。告訴と被害届は、法的な意味が違います。

項目告訴被害届
意味犯人の処罰を求める意思表示被害に遭った事実の申告
処罰意思明確に求める必ずしも求めない
捜査への効果親告罪では起訴の前提になる捜査の端緒にとどまる
取下げ告訴の取消しができる取下げの制度になじまない

名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪です(刑法232条)。親告罪は、被害者などの告訴がなければ検察官が起訴できません。そのため、これらの罪で相手を起訴に持ち込むには、被害届ではなく告訴が必要になります。被害届だけでは、処罰を求める意思が明確でないと受け止められ、捜査が進みにくいことがあります。

66か月の告訴期間と公訴時効

親告罪には、見落とすと取り返しがつかない期間制限があります。

告訴期間は「犯人を知った日から6か月」親告罪の告訴は、犯人を知った日から6か月を過ぎるとできなくなります(刑事訴訟法235条1項)。ネットの誹謗中傷では、発信者情報開示で投稿者が判明した時点から6か月と考えられます。特定に時間をかけているうちに期間が過ぎないよう、逆算した進行管理が欠かせません。

あわせて、犯罪そのものの公訴時効にも注意が必要です。名誉毀損罪・侮辱罪はいずれも公訴時効が3年です(侮辱罪は2022年の厳罰化で1年から3年に延びました)。告訴期間(6か月)と公訴時効(3年)は別の制度で、どちらか一方でも過ぎると刑事責任を問えなくなります。

期間制限内容
告訴期間 6か月犯人を知った日から。過ぎると告訴できない(親告罪)
公訴時効 3年名誉毀損罪・侮辱罪とも。過ぎると起訴できない
アクセスログ 3か月〜半年特定に必要なログの保存期間の目安。匿名の場合のタイムリミット

7刑事と民事はどう違うか(処罰か、賠償か)

刑事告訴を検討する方の多くが、実は「お金を取り戻したい」「投稿を消したい」という目的も持っています。しかし刑事手続きでは、賠償金の支払いも投稿の削除も直接は実現しません。目的に応じて手段を選ぶ必要があります。

目的使う手続き得られる結果
相手を処罰したい刑事告訴捜査・起訴されれば刑事罰(前科)
慰謝料を回収したい民事(損害賠償請求)金銭賠償(慰謝料
投稿を消したい削除請求(仮処分など)投稿の削除
投稿者を特定したい発信者情報開示投稿者の氏名・住所

実務では、これらを組み合わせて進めます。たとえば、まず発信者情報開示で相手を特定し、慰謝料を民事で請求しつつ、悪質性が高ければ刑事告訴も併用する、という進め方です。刑事告訴の圧力が、民事の示談を有利に進める材料になることもあります。

8不起訴・「受理されにくい」実務と対処

刑事告訴の難しさは、そもそも受理・立件のハードルが高いことにあります。軽微・単発の書き込みでは、警察が捜査に消極的なことが少なくありません。悪質性・継続性・拡散の大きさが客観的な証拠で示せる事案でないと、スムーズには進みにくいのが実情です。

弁護士の視点受理されやすくするには、①犯罪の成立(公然性・事実の摘示・社会的評価の低下)を証拠でひととおり説明できる状態にし、②投稿を時系列で整理し、③匿名なら先に発信者を特定しておくことが有効です。告訴状で「どの投稿が、どの構成要件に、どう当てはまるか」を法的に組み立てて示せると、警察の受理判断は大きく変わります。証拠と法律構成を整えたうえで臨むことが、遠回りに見えて最短です。

また、親告罪では示談が成立して告訴が取り消されると、不起訴になるのが通常です。加害者側もこれを目指して示談を申し入れてきます。被害者としては、刑事処罰を求めるのか、示談金(実質的な賠償)を受け取って解決するのかを、方針として決めておくことが大切です。刑事と民事のどちらを軸にするかで、集めるべき証拠も交渉の進め方も変わります。

9よくあるご質問

Q. 名誉毀損で刑事告訴すれば、相手に前科はつきますか?
起訴されて有罪が確定すれば前科がつきます。ただし名誉毀損の起訴率は約28%で、送致されても約7割は不起訴です。告訴=必ず処罰ではなく、証拠と悪質性によって結論は大きく変わります。
Q. 書き込みが真実なら名誉毀損にはならないのですか?
必ずしもそうではありません。名誉毀損罪は「事実の有無にかかわらず」成立します。真実であることを理由に罰を免れるには、①公共の利害に関する事実、②専ら公益を図る目的、③真実性の証明の3要件が必要です(刑法230条の2)。個人への私的な中傷はこの例外にあたりにくいです。
Q. 「バカ」「気持ち悪い」だけでも罪になりますか?
具体的な事実を伴わない抽象的な悪口は、侮辱罪(刑法231条)にあたり得ます。2022年の厳罰化で法定刑が引き上げられ、1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金なども科され得ます。ただし公然性(不特定多数が認識し得る状態)が必要です。
Q. 匿名の相手を刑事告訴できますか?
相手が匿名のままでは捜査が進みにくいため、実務ではまず発信者情報開示で投稿者を特定します。特定できれば、その相手を対象に告訴できます。まずは投稿の証拠を保全してください。
Q. 告訴に期限はありますか?
あります。名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪で、犯人を知った日から6か月を過ぎると告訴できません(刑事訴訟法235条)。加えて公訴時効が3年あり、どちらか一方でも過ぎると刑事責任を問えません。早めの対応が必要です。
Q. 被害届と告訴はどちらを出すべきですか?
起訴による処罰を求めるなら告訴です。名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪で、告訴がなければ起訴できません。被害届は被害の申告にとどまり、処罰意思が明確でないと捜査が進みにくいことがあります。
Q. 刑事告訴すれば慰謝料はもらえますか?
刑事告訴だけでは慰謝料は得られません。刑事は処罰を求める手続きで、金銭の回収は民事の損害賠償請求で別に行います。刑事と民事を併用し、示談で実質的な賠償を受けることもあります。
Q. 弁護士に依頼するとどんな効果がありますか?
証拠の保全、発信者の特定、告訴状の法的な組み立て、警察との折衝までを一貫して行えます。犯罪の成立を証拠で示せる状態で臨むことで、受理・立件の可能性が高まります。当事務所では無料相談で進め方の見通しをご説明します。

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※本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。掲載した条文・判例は公表されたものに基づきますが、事案の詳細や個別の当てはめは弁護士にご相談ください。監修:難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南宜孝(大阪弁護士会)。

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