コラム
公開日: 2026.10.25

交通事故のPTSD・うつ病|精神的後遺障害の等級と慰謝料

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回、15回、75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコム、ココナラ、弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

交通事故, 難波みなみ法律事務所, PTSD・うつ病の後遺障害 等級と慰謝料のポイント
結論から

Q. 交通事故でPTSDやうつ病になったら、後遺障害として認められますか。

認められることがあります。交通事故によるPTSDやうつ病は、脳の器質的な損傷を伴わない「非器質性精神障害」として、後遺障害等級の対象になります。抑うつなどの精神症状と、仕事や日常生活に関する能力の低下の程度に応じて、原則として第9級・第12級・第14級のいずれかで認定されます。

Q. 認定を受けるために大切なことは何ですか。

事故後できるだけ早く精神科・心療内科を受診し、症状が続いている間は通院を続けて、症状の内容と経過を診断書やカルテに残すことです。非器質性精神障害は治療で軽快しやすいため、症状固定を急がず、必要な治療を続けることも大切です。事故とのつながり(因果関係)を示すことも重要になります。

Q. 注意すべき点はありますか。

精神的な後遺障害は、画像などの他覚的所見が乏しく、立証が難しい類型です。保険会社から「もともとの性格や心の弱さが原因」として賠償額を減らす「素因減額」を主張されることもあります。また、PTSD・うつ病は回復が見込まれるとされるため、第9級を超える重い等級は認められにくい傾向があります。

交通事故の強い恐怖やケガの経験から、事故のことを繰り返し思い出す、気分が落ち込んで何もできない、眠れない、車に乗れない、といった症状が続くことがあります。これらが一定の程度に達すると、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病として、交通事故の後遺障害に当たる場合があります。この記事では、精神的な後遺障害の等級とその基準、慰謝料、認定を受けるためのポイントを、大阪・なんばの被害者側の弁護士が整理します。

交通事故で起こる精神的な後遺障害とは

交通事故による精神の障害には、大きく分けて2つの種類があります。評価の基準が異なるため、まず区別が大切です。

種類内容
非器質性精神障害脳そのものに器質的な損傷はないのに、事故の強い心理的ストレスから生じる精神障害。PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病などがこれにあたります。
高次脳機能障害頭部を強く打つなどして脳が器質的に損傷し、記憶力・判断力・感情のコントロールなどに障害が残るもの。脳の損傷が前提で、別の基準で評価されます。

この記事で扱うのは、脳の器質的損傷を伴わない「非器質性精神障害」です。うつ病やPTSDの後遺障害については、平成15年の改正であらためて認定基準が設けられました。代表的な症状には、抑うつ・不安・意欲の低下、不眠、事故を繰り返し思い出す(再体験)、事故を連想するもの(車や事故現場など)を避ける、気分が張りつめて落ち着かない、といったものがあります。

認定されうる後遺障害等級

非器質性精神障害は、「抑うつ状態」などの精神症状が認められることを前提に、仕事や日常生活に関する能力の障害の程度に応じて、原則として次の3段階で後遺障害等級が認定されます。

等級就労への影響の例
第9級10号対人業務につけないなど、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
第12級13号職種の制限は認められないが、就労にあたりかなりの配慮が必要であるもの
第14級9号職種の制限は認められないが、就労にあたり多少の配慮が必要であるもの

非器質性精神障害は、治療によって改善しやすい障害とされているため、第9級を超える重い等級が認められるのは容易ではなく、認められても労働能力を失う期間を限定して評価される傾向があります。

認定で評価される「8つの能力」

等級は、抑うつなどの精神症状があることに加え、次の8つの能力がどの程度損なわれているかを総合して判断されます。

評価される能力
身辺の日常生活(入浴・更衣・食事など)
仕事や生活に積極性・関心を持つこと
通勤・勤務時間を守ること
普通に作業を続けること(集中力・持続力)
他人との意思の伝達(コミュニケーション)
対人関係・協調性
身辺の安全保持・危機の回避
困難・失敗への対応(ストレスへの対処)

これらの能力のうち、複数が大きく損なわれているなど重い症状がある場合は、改善が見込まれるとして、症状がいったん落ち着いたように見えても原則として治療を続けることとされています。症状固定の時期を急ぐと、実態より軽く評価されるおそれがあるため注意が必要です。

精神的な後遺障害の慰謝料

後遺障害慰謝料は、認定された等級が重いほど高くなります。金額の基準には、自賠責保険の支払基準と、裁判で用いられる弁護士基準(裁判基準)があり、一般に弁護士基準のほうが高くなります。自賠責保険の後遺障害に対する慰謝料は、等級ごとに次のように定められています(別表第2)。

等級自賠責基準の後遺障害慰謝料
第9級10号249万円
第12級13号94万円
第14級9号32万円

弁護士基準(裁判基準)による具体的な金額は、症状の内容や等級、個別の事情によって異なります。裁判所は自賠責の等級認定に拘束されるわけではなく、事案に応じて慰謝料額を判断します。弁護士基準を含む慰謝料の考え方は交通事故の慰謝料計算、増額の考え方は交通事故の慰謝料を増額する方法で解説しています。この後遺障害慰謝料は、入院・通院に対する入通院慰謝料や、労働能力の低下による逸失利益とは別に請求できます。

認定を受けるためのポイント

精神的な後遺障害は、客観的な所見が乏しく、立証が難しい類型です。適正な等級認定を受けるためのポイントは次のとおりです。

  • 事故後できるだけ早く精神科・心療内科を受診し、事故との関係を含めて症状を医師に伝える。
  • 症状が続いている間は通院を継続し、抑うつ・不眠・再体験などの具体的な症状と、仕事や生活への支障を診断書・カルテに残す。
  • 症状固定を急がない。非器質性精神障害は改善が見込まれるため、必要な治療を続けたうえで症状固定の時期を判断する。
  • 就労状況や日常生活の変化(休職・配置転換・家事への支障など)を記録しておく。

反対に、受診が事故から大きく遅れている、通院が途切れている、事故以外の原因(既往の精神疾患や事故と無関係のストレス)が疑われる、といった場合には、事故との因果関係が争われ、認定が難しくなります。後遺障害等級の手続の全体像は交通事故の後遺障害認定、認定結果に納得できないときは後遺障害の異議申立てをご覧ください。

「心の弱さが原因」という素因減額に注意

精神的な後遺障害では、保険会社が「もともとの性格傾向や精神的な弱さ(心因的素因)が症状を重くした」と主張し、賠償額の減額(素因減額)を求めてくることがあります。心因的な素因による減額は、民法722条2項の過失相殺の規定を類推して行われるものですが、被害者の性格が通常想定される範囲内のものであれば、減額の理由にはならないのが実務の考え方です。事故の態様やケガの程度、治療経過などから、症状が事故によって生じたことを示すことが大切です。素因減額への反論は交通事故の素因減額で解説しています。

弁護士からひとこと

精神的な後遺障害は、目に見えないだけに、保険会社から「気のせい」「性格の問題」と軽く扱われがちです。しかし、継続した通院記録と具体的な症状の記載、そして仕事や生活にどのような支障が出ているかを丁寧に示すことで、等級が認められる余地は十分にあります。つらい症状を我慢して通院をやめてしまうと、かえって立証が難しくなります。治療と記録を続けながら、早めに弁護士にご相談ください。

高次脳機能障害との違い

PTSDやうつ病などの非器質性精神障害は、脳の器質的な損傷を伴わない点が特徴です。これに対し、頭部外傷によって脳が器質的に損傷し、記憶力・判断力・感情のコントロールなどに障害が残るものは「高次脳機能障害」として、4つの能力の喪失の程度に応じて別の基準(要介護の第1級・第2級を含む、より広い等級)で評価されます。症状が似て見えても評価の枠組みが異なるため、画像所見や神経心理学的検査を踏まえた区別が必要です。高次脳機能障害については交通事故の高次脳機能障害で解説しています。

よくある質問

交通事故のPTSD・うつ病は後遺障害になりますか。

なることがあります。脳の器質的損傷を伴わない非器質性精神障害として、抑うつなどの精神症状と仕事・日常生活に関する能力の低下の程度に応じて、原則として第9級・第12級・第14級のいずれかで認定されます。

PTSDと診断されれば必ず後遺障害になりますか。

診断名だけで決まるわけではありません。認定は、精神症状があることに加え、通勤・勤務時間の遵守や対人関係・協調性など8つの能力がどの程度損なわれているかで判断されます。継続した通院と、症状・支障の具体的な記録が重要です。

精神的な後遺障害の慰謝料はいくらですか。

等級によって変わります。自賠責基準の後遺障害慰謝料は、第9級10号で249万円、第12級13号で94万円、第14級9号で32万円です。裁判で用いる弁護士基準は一般にこれより高くなりますが、具体的な金額は事案によって異なります。入通院慰謝料や逸失利益は別に請求できます。

症状固定はいつ決めればよいですか。

非器質性精神障害は治療で改善しやすいとされ、重い症状があるときは一時的に落ち着いても原則として治療を続けることとされています。固定を急ぐと実態より軽く評価されるおそれがあるため、主治医とよく相談して時期を判断することが大切です。

「性格の問題」と言われて減額されそうです。

鵜呑みにしないでください。心因的素因による減額(民法722条2項の類推)は、被害者の性格が通常想定される範囲内であれば理由になりません。事故の態様やケガの程度、治療経過から、症状が事故によって生じたことを示すことが大切です。

高次脳機能障害とは違うのですか。

違います。PTSD・うつ病は脳の器質的損傷を伴わない非器質性精神障害で、原則9級・12級・14級で評価されます。高次脳機能障害は脳の器質的損傷が前提で、4つの能力の喪失の程度に応じて、要介護の等級を含むより広い等級で評価されます。

精神的な後遺障害を弁護士に頼むメリットはありますか。

精神的な後遺障害は立証が難しく、保険会社に軽く扱われがちです。弁護士が通院記録や症状の経過、仕事・生活への支障を整理して等級を主張し、素因減額に反論することで、認定や賠償額が見直される場合があります。弁護士費用特約があれば、費用は保険でまかなえることが多いです。

交通事故で心の不調が続いている方へ

PTSDやうつ病などの精神的な後遺障害は、等級認定・因果関係・素因減額など、保険会社と争いになりやすい論点が多くあります。難波みなみ法律事務所は大阪・なんばの事務所で、交通事故の被害者側を数多く扱ってきました。元裁判官の弁護士が在籍し、立証の見立てもお伝えできます。初回相談30分無料、着手金無料で対応します。弁護士費用特約があれば、費用は保険でまかなえることが多いです。

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監修:難波みなみ法律事務所/代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号49544)。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。初回相談30分無料(電話 06-6786-8103/受付9:00〜22:00)。

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