コラム
更新日: 2026.08.22

交通事故で労災は使わない方がいい?自賠責との違い

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

通勤中や仕事中に交通事故に遭ったとき、多くの方がまず検索するのが「交通事故 労災 使わない方がいい」という言葉です。会社に迷惑がかかる、手続きが面倒だ、相手の保険で足りるはずだ——そう考えて労災を使わない方がいます。

ですが、通勤中の事故であれば、私たちは労災を使うことが多いです。理由は単純で、相手の任意保険会社による一括対応では、早い段階で治療の打ち切りを求められるからです。労災は被災した労働者を守るための制度なので、比較的長い治療が実現しやすいという実感があります。

この記事では、労災と自賠責・任意保険をどう使い分けるのかを、損害の項目ごとに整理します。そのうえで、示談する前に必ず知っておかなければならない落とし穴までお伝えします。

結論から

Q. 交通事故で労災は使わない方がいいのですか?

そんなことはありません。とくに①治療が長引きそうなとき ②自分にも過失があるとき ③相手が無保険のときは、労災を使う意味が大きくなります。労災を使うのは労働者の権利です。

Q. 労災と相手の保険は、どちらか一方しか使えないのですか?

どちらか一方ではありません。労災には慰謝料がなく、相手の保険には特別支給金がありません。損害の項目ごとに、両方を組み合わせて使います。

Q. いちばん気をつけることは何ですか?

労働基準監督署に相談しないまま、加害者と示談してしまわないことです。示談の内容によっては、その後の労災給付が受けられなくなります(労災保険法12条の4)。

目次
  1. 「労災は使わない方がいい」と言われるのは、なぜか
  2. 労災と自賠責は、どちらか一方を選ぶものではありません
  3. 労災を使う最大の理由は、治療を打ち切られにくいことです
  4. 自分にも過失があるときは、労災が決定的に効きます
  5. 特別支給金は、賠償額から差し引かれません
  6. 会社が「労災は使わないでほしい」と言ってきたら
  7. 通勤災害として認められる範囲
  8. 示談する前に、必ず労働基準監督署に相談してください
  9. 後遺障害は、労災と自賠責のどちらから進めるか
  10. 労災を使うことに、リスクはないのか
  11. 間違えて健康保険を使ってしまったとき
  12. 労災の請求権は、2年で消えます
  13. よくある質問

「労災は使わない方がいい」と言われるのは、なぜか

この言葉が広まっている理由は、だいたい次の3つに整理できます。そして、いずれも交通事故の場面では当てはまらないか、誤解を含んでいます。

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よく言われること実際はどうか
会社に迷惑がかかる通勤災害なら、会社の労災保険料は上がりません。保険料が上下する「メリット制」は業務災害だけを対象としており、通勤災害はその対象から外れています
相手の保険が対応してくれるから不要相手の保険は治療費の打ち切りを求めてきます。また、あなたに過失があれば、その分だけ減額されます
手続きが面倒たしかに書類は増えます。ただし特別支給金は賠償額から差し引かれないため、手続きに見合うだけの上乗せがあります
労災保険は、労働者を1人でも雇っている事業所であれば加入が義務づけられています。正社員かどうか、アルバイトかどうかは関係ありません。労災を使うかどうかを決めるのは、会社ではなく労働者本人です。

弁護士から

通勤災害であれば、労災は使うことが多いです。相手方の任意保険会社の一括対応であれば早期に治療の打ち切りを求められますが、労災であれば、被災者保護のために比較的長期の治療が実現しやすいという印象があります。

労災と自賠責は、どちらか一方を選ぶものではありません

ここがいちばん誤解されている点です。労災保険と自賠責・任意保険は、カバーしている損害の範囲がそもそも違います。

労災保険は、労働者が業務上の事由または通勤が原因で負傷した場合などに、必要な給付を行う制度です。給付の中心は療養(補償)給付(治療費)休業(補償)給付(休業損害にあたるもの)、そして後遺障害の等級に応じた障害(補償)給付です。

労災保険には、慰謝料がありません。入通院慰謝料も後遺障害慰謝料も、労災からは1円も出ません。入院雑費や通院交通費も同じです。これらは加害者(相手の保険会社)に請求するしかありません。

損害の項目ごとに、どちらから受け取るのか

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損害の項目労災保険自賠責・任意保険
治療費療養(補償)給付一括対応で支払われる
休業による減収給付基礎日額の60%
+特別支給金20%
実際の減収額の全額
後遺障害の逸失利益等級に応じた一時金・年金
+障害特別支給金
基礎収入×労働能力喪失率×期間
入通院慰謝料なしあり
後遺障害慰謝料なしあり
入院雑費・通院交通費なしあり
過失があるときの減額原則として減額されない過失割合の分だけ減額
整理すると、こうなります。
①治療費と休業の当面の資金は、打ち切られにくい労災から確保する。
②慰謝料は、加害者側にしかないので加害者に請求する。
③特別支給金は、賠償額から差し引かれないので、そのまま上乗せで受け取る。

労災を使う最大の理由は、治療を打ち切られにくいことです

交通事故の被害者が最初に抱く不安は、ほとんどの場合これです。「まだ痛いのに、保険会社から治療費を止めると言われた」

一括対応は、保険会社の判断で終わります

相手の任意保険会社が病院に直接治療費を払ってくれる仕組みを一括対応といいます。便利な制度ですが、これは法律上の義務ではなく、保険会社のサービスとして行われているものです。

だから、保険会社の判断でいつでも終わります。むち打ちであれば3か月、6か月といった目安で打ち切りを告げられることが珍しくありません。まだ症状が残っていても、です。

労災は、主治医が必要と認めている限り続きます

これに対して労災保険は、被災した労働者を保護するために設けられた制度です。そのため、主治医が治療の必要性を認めている限り、療養(補償)給付や休業(補償)給付が簡単に打ち切られることはありません。

この違いが、実務ではいちばん大きく効きます。治療を続けられるかどうかは、そのまま後遺障害の等級が認められるかどうかに直結します。通院の実績が足りないまま症状固定にされてしまうと、後遺障害の申請そのものが不利になります。

治療費そのものが安くなります

あまり知られていませんが、どの制度を使うかで、同じ治療でも病院に支払われる金額が変わります。診療報酬は「点数」で計算され、1点あたりの単価が制度ごとに違うためです。

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使う制度1点あたりの単価備考
自由診療(一括対応)20円程度病院が自由に決められる
労災保険12円固定
健康保険10円固定
労災を使えば、治療費の総額が自由診療の半分程度に抑えられます。後で述べるとおり、この差はあなたに過失があるときに決定的な意味を持ちます。
なお、労災から給付を受けられる事故に健康保険は使えません。同じけがについて労災保険から相当する給付を受けられる場合、健康保険からの給付は行われないと定められています(健康保険法55条1項)。通勤中や仕事中の事故で健康保険証を出してしまうと、あとで返還を求められることがあります。これについては後の章で説明します。

自分にも過失があるときは、労災が決定的に効きます

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。あなたに過失がある事故では、労災を使うかどうかで最終的な手取り額が大きく変わります。

労災給付は、過失割合で減らされません

相手の保険会社に請求する賠償金は、あなたの過失割合の分だけ減額されます。過失が3割あれば、賠償額は7割になります。

ところが労災保険の給付は、原則として過失割合による減額を受けません。減額されるのは、労働者が故意または重大な過失によって事故を起こした場合など、法律が定めた例外に限られます(労災保険法12条の2の2)。

つまり、あなたに3割の過失があっても、労災の治療費は10割出ます。相手の保険会社に治療費を払ってもらう場合は、最終的に3割が自己負担になるのと、決定的に違います。

一括対応の治療費は、示談のときに過失分が差し引かれます

一括対応では、相手の保険会社が治療費の全額を病院に払ってくれます。そのため、多くの方が「治療費はタダだった」と誤解されます。

そうではありません。払われた治療費は、示談のときにあなたが受け取る賠償金から差し引かれます。そして、その治療費にもあなたの過失割合が適用されます。
結果として、治療が長引いたり、手術や入院をして治療費が高額になったケースほど、最後に受け取れる金額が減ります。本来もらえるはずの慰謝料がほとんど残らない、ということも珍しくありません。

同じ事故で、どれだけ違うのか

簡略化した例で見てみます。治療費(自由診療)200万円、慰謝料100万円、あなたの過失30%のケースです。

最終的に手元に残る金額 一括対応 (自由診療) 10万円 労災を利用 70万円 0 50万円 100万円

治療費(自由診療)200万円・慰謝料100万円・被害者の過失30%として計算した場合の比較です。実際の金額は事案により異なります。

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手順一括対応で治療した場合労災で治療した場合
病院に支払われた治療費200万円
(自由診療・1点20円)
120万円
(労災・1点12円)
損害の合計治療費200万円+慰謝料100万円
300万円
治療費120万円+慰謝料100万円
220万円
過失30%を引く300万円×0.7=210万円治療費 120万円×0.7=84万円
慰謝料 100万円×0.7=70万円
すでに支払われた分を引く210万円-200万円
10万円
治療費分は労災給付120万円で埋まる
(慰謝料からは引かれない)
手元に残る額10万円70万円
労災を使った場合に慰謝料が丸ごと残るのは、労災の給付が「対応する損害の費目からしか差し引かれない」という考え方によります。治療費として支給された療養(補償)給付は治療費から差し引かれ、慰謝料からは差し引かれません。これを費目間拘束といいます。
相手が任意保険に入っていない事故でも、同じことがいえます。加害者本人に資力がなければ、治療費を回収できません。加害者が無保険であるとき、被害者の過失が大きいときは、まず労災の利用を検討してください。

特別支給金は、賠償額から差し引かれません

ここは、労災を使うかどうかを判断するうえで最も見落とされている点です。

労災の給付は、二階建てになっています

休業したときに労災から出るお金は、実は2種類あります。

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名称金額根拠
休業(補償)給付給付基礎日額の60%労災保険法14条1項・22条の2第2項
休業特別支給金給付基礎日額の20%労災保険法29条1項
特別支給金支給規則3条1項
合計80%

厚生労働省が公表している労災保険Q&Aにも、休業1日につき給付基礎日額の80%(休業(補償)等給付60%+休業特別支給金20%)が支給されると明記されています。なお、休業について労災から給付が出るのは4日目からです(最初の3日間は待期期間)。

このうち20%は、加害者への請求額から引かれません

労災から給付を受けると、その分は加害者に対する賠償請求額から差し引かれるのが原則です。二重取りを防ぐためです。

ところが、特別支給金は違います。

最高裁 平成8年2月23日判決

労災保険の特別支給金を、加害者に対する損害賠償額から差し引けるかが争われました。

最高裁は、特別支給金の支給は労働者の福祉の増進を図るために行われるものであり、保険給付とは性質が異なるとしたうえで、「特別支給金が被災労働者の損害を填補する性質を有するということはできず、被災労働者が労災保険から受領した特別支給金をその損害額から控除することはできない」と判断しました。

つまり、休業特別支給金(20%)は、そのまま上乗せで手元に残ります。後遺障害が残った場合に支給される障害特別支給金(特別支給金支給規則4条)も同じです。
したがって理屈のうえでは、休業損害や逸失利益は相手の保険会社から全額を受け取り、そのうえで特別支給金を労災から受け取るのが、被害者にとって最も有利な形になります。
後遺障害が残った場合の労災給付は、等級に応じた一時金または年金です(労災保険法15条・22条の3)。労災7級以上では年金として支給されるため、訴訟になったときは、口頭弁論が終結する時点までに支給が確定した分だけが差し引きの対象になります。この点は計算がやや複雑になります。

会社が「労災は使わないでほしい」と言ってきたら

実際によくあるご相談です。「健康保険で通ってほしいと言われた」「うちは労災を使わないと言われた」——こうした場面での考え方を整理します。

労災を使うかどうかを決めるのは、労働者です

労災保険を使うのは、労働者の権利です。会社の許可は要りません。労働者が労災の利用を選んだ場合、会社はこれに協力しなければなりません。

会社が申請書への証明を拒む場合でも、手続きが止まるわけではありません。労働基準監督署に直接相談すれば、監督署の側で手続きを進めてくれます。

通勤災害では、会社の保険料は上がりません

会社が労災を渋る最大の理由は、「労災を使うと保険料が上がる」という認識です。ここは正確に理解しておく価値があります。

労災保険には、事故の多い事業所の保険料を上げ、少ない事業所の保険料を下げるメリット制という仕組みがあります。ただし、メリット制の対象は業務災害だけです。

通勤災害は、メリット制の増減の対象から外れています。通勤災害や二次健康診断等にあてる保険料率は「非業務災害率」として業種を問わず一律に設定されており、事故の有無で上下しません。
つまり、通勤途中の交通事故で労災を使っても、会社の労災保険料は上がりません。会社が心配しているのであれば、この点を伝えてみてください。
もっとも、これはあくまで法律上・制度上の話です。会社との関係を何より大事にしたいというお気持ちがあれば、それを無視して労災の利用を勧めることはしません。ご事情をうかがったうえで、どの制度をどう組み合わせるかを一緒に考えます。

通勤災害として認められる範囲

労災が使えるのは、業務中の事故(業務災害)通勤中の事故(通勤災害)です。交通事故で問題になりやすいのは、通勤災害のほうです。

通勤とは、就業に関して、住居と就業場所との間などを、合理的な経路および方法で往復することをいいます(労災保険法7条2項)。

寄り道をすると、原則として通勤ではなくなります

移動の経路を逸脱したり、移動を中断したりすると、その間とその後の移動は通勤とされません(労災保険法7条3項)。

ただし、大きな例外があります。逸脱や中断が、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものを、やむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱・中断している間を除いて、その後の移動は通勤に戻ります(労災保険法7条3項ただし書)。
日用品の購入、病院での診察、選挙権の行使、家族の介護などがこれにあたります。

通勤災害として認められるかどうかで迷っている方へ

示談する前に、必ず労働基準監督署に相談してください

この章が、この記事でいちばん重要です。ここを知らずに示談してしまうと、取り返しがつきません。

交通事故の労災は「第三者行為災害」です

加害者という第三者がいる労災を、第三者行為災害といいます。交通事故はその典型です。この場合、労災を請求するときに第三者行為災害届を労働基準監督署に提出します。

本来、事故の損害を負担すべきなのは加害者です。そこで法律は、労災が先に給付をしたときに、その分を政府が加害者に請求できる仕組みを置いています。

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仕組み内容根拠
求償労災が先に給付したとき、政府がその給付額の限度で、加害者に対する損害賠償請求権を取得する労災保険法
12条の4第1項
控除被災者が先に加害者から賠償を受けたとき、政府はその価額の限度で労災給付を行わないことができる労災保険法
12条の4第2項

示談の内容によって、労災給付が止まります

被災者が加害者と示談し、示談額を超える損害賠償請求権を放棄した場合、示談が成立したあとは、原則として労災保険の給付が行われません。
放棄されてしまうと、政府が加害者に求償する対象がなくなるためです。

示談書には、たいてい「本件に関し、当事者間に本示談書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった清算条項が入ります。この一文が、放棄にあたります。

だから、示談する前に労働基準監督署に相談してください。示談が成立したときは、速やかに労働基準監督署へ示談書の写しを提出する必要もあります。
とくに、治療がまだ続いている段階で相手の保険会社から示談を提案されたときは要注意です。目先の金額に納得しても、その後の治療費や休業補償が受けられなくなることがあります。

示談そのものの進め方はこちらで解説しています

後遺障害は、労災と自賠責のどちらから進めるか

症状が残った場合、労災と自賠責の両方に後遺障害の申請ができます。ただし、進める順番に実務上のコツがあります。

どちらを先にするかは、あなたが決められます

労働基準監督署の担当者から「先に自賠責を進めてください」と言われることがあります。ですが、労災を先行させるか自賠責を先行させるかは、最終的に被害者本人が決められます。労災を先に進めたい場合は、その旨をはっきり伝えて手続きを進めてもらってください。

画像が返ってくるタイミングが違います

この違いが、順番を決めるうえで効いてきます。

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項目労災(障害補償給付)自賠責(被害者請求)
誰が診るか労働基準監督署の嘱託医の診察を受ける書面審査(面談はない)
画像の扱いその場でコピーされ、当日返却される審査が終わるまで返ってこない
もう一方が審査中のとき自賠責が審査中だと手続きが進まない労災が審査中でも止まらない
したがって、最短で両方の結果を得るには次の順番になります。
①労災に障害(補償)給付を申請する②嘱託医の診察を受け、画像が返却される③労災の結果を待たずに、自賠責へ被害者請求をする

労災の等級が高くても、自賠責はそれに従いません

ここは誤解が多いところです。一般に、労災のほうが高い等級が認定されやすい傾向があります。しかし自賠責は独自の調査と評価で等級を決めるため、労災の等級に左右されません。自賠責の認定理由書に、その旨がはっきり書かれることもあります。
裁判所も、労災の等級より自賠責の判断を重視する傾向にあります。「労災では○級だったのだから自賠責でも同じはずだ」とは考えないでください。

認定の物差しそのものが違うためです。たとえば高次脳機能障害では、労災は意思疎通・問題解決・作業負荷に対する持続力および持久力・社会行動という4つの能力がどの程度失われたかで判断しますが、自賠責は画像所見・意識障害の有無・症状から判断します。

顔や手足に傷あとが残った場合の露出面の範囲も違います。

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制度露出面とされる範囲
労災肘関節から先、膝関節から先
自賠責肩関節から先、股関節から先(労災より広い)

労災の認定理由を知るには、開示請求が必要です

自賠責は認定の理由を書面で示してくれますが、労災の決定通知には、等級の数字と金額しか書かれていません。

理由を確認したい場合は、支給決定をした労働基準監督署を管轄する労働局に対して、保有個人情報の開示請求を行います。開示されるのが補償給付実地調査復命書で、ここに等級認定の判断過程が記載されています。
診療報酬明細書なども病院から労災に提出されているため、同じく労働局への開示請求で取り寄せます。取り寄せには時間がかかるので、早めに動いてください。

労災を使うことに、リスクはないのか

公平にお伝えします。労災の利用には、注意しておくべき点もあります。

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注意点内容
相手の保険会社と対立することがある労災で治療が長期化したのに、相手の保険会社は数か月分しか事故との関係を認めない、というずれが生じます。労災からの求償を相手の保険会社が拒むこともあり、解決が長引くことがあります
治療終了日の判断が重くなる相手の保険会社から債務不存在確認訴訟を起こされると、自賠責が認定を止めることがあります。労災で治療する場合でも、いつ治療を終えるかは事前によく相談してください
書類が増える労災で治療すると、自賠責の様式による経過診断書が作られません。主治医に別途作成してもらう必要があります
資料の取り寄せに時間がかかる労災に提出された資料は、労働局への開示請求で取り寄せます。すぐには手元に来ません
受けられる治療に制限がある保険適用が認められる治療に限られるため、先進的な治療が受けられないことがあります

間違えて健康保険を使ってしまったとき

通勤中の事故だと気づかず、病院で健康保険証を出してしまう方がいます。同じけがについて労災保険から相当する給付を受けられる場合、健康保険からの給付は行われません(健康保険法55条1項)。そもそも健康保険は、業務災害以外のけがや病気を対象とする制度です(同法1条)。

健康保険組合が「これは労災だった」と把握すると、いったん支払った保険給付分の返還を求めてきます。この返還額は数十万円に上ることがあり、被害者にとって大きな負担になっていました。
近年、この救済のための制度が整備されました。一括での返還が難しい場合には、労働基準監督署へ申請することで、労働基準監督署から健康保険組合へ直接支払う取扱いができるようになっています。
すでに健康保険で通院してしまった方も、あきらめずに労働基準監督署に相談してください。

労災の請求権は、2年で消えます

見落とされやすい点です。労災の給付を受ける権利には時効があり、加害者への損害賠償請求権より短いものがあります。

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権利期間起算点根拠
療養(補償)給付
休業(補償)給付
2年費用が発生した日ごと
/休業した日ごと
労災保険法42条
障害(補償)給付5年治ゆした日(症状固定日)の翌日労災保険法42条
遺族(補償)給付5年被災者が亡くなった日の翌日労災保険法42条
加害者への損害賠償請求
(人身損害)
5年損害と加害者を知った時民法724条の2
加害者への損害賠償請求
(物の損害)
3年損害と加害者を知った時民法724条1号
療養(補償)給付と休業(補償)給付の2年は、日ごとに進行します。「治療が全部終わってから、まとめて請求すればよい」と考えていると、古い分から順に時効にかかっていきます。治療中であっても、その都度請求してください。

労災を使うべきか、迷っている段階でご相談ください

難波みなみ法律事務所では、交通事故の被害者側のご相談を初回30分無料でお受けしています。「相手の保険会社から治療費を打ち切ると言われた」「会社が労災に協力してくれない」「示談してよいか分からない」といった段階でのご相談で構いません。示談する前であれば、まだ選べる手が残っています。弁護士費用特約をお使いいただけます。

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よくある質問

Q. 交通事故で労災は使わない方がいいのですか?

そんなことはありません。とくに治療が長引きそうなとき、自分にも過失があるとき、相手が任意保険に入っていないときは、労災を使う意味が大きくなります。労災を使うかどうかを決めるのは労働者本人であり、会社の許可は必要ありません。

Q. 労災と相手の任意保険は、どちらを使うべきですか?

どちらか一方を選ぶものではありません。労災には慰謝料がなく、相手の保険には特別支給金がありません。治療費と当面の休業分は打ち切られにくい労災から確保し、慰謝料は加害者に請求する、という組み合わせが基本になります。

Q. 労災を使うと、会社の保険料は上がりますか?

通勤災害であれば上がりません。保険料が増減するメリット制の対象は業務災害だけで、通勤災害は対象から外れています。業務中の事故であれば、メリット制の対象になります。

Q. 会社が労災の手続きに協力してくれません。

労働基準監督署に直接相談してください。会社の証明がなくても、労働基準監督署の側で手続きを進めてくれます。労災を使うのは労働者の権利です。

Q. 休業補償はいくらもらえますか?

休業4日目から、給付基礎日額の60%が休業(補償)給付として、20%が休業特別支給金として支給され、合わせて80%になります。最初の3日間は待期期間です。給付基礎日額は、原則として事故直前3か月の賃金総額をその期間の日数で割った額です。

Q. 特別支給金は、賠償額から差し引かれますか?

差し引かれません。最高裁平成8年2月23日判決は、特別支給金は被災労働者の損害を填補する性質を有するものではないとして、損害額から控除することはできないと判断しました。休業特別支給金も障害特別支給金も同じです。

Q. 労災の治療費は、過失があると減らされますか?

原則として減らされません。労災の給付が制限されるのは、労働者が故意または重大な過失によって事故を起こした場合など、法律が定めた例外に限られます(労災保険法12条の2の2)。相手の保険会社に請求する賠償金が過失割合の分だけ減額されるのと、決定的に違います。

Q. 加害者と示談してもよいですか?

示談する前に労働基準監督署に相談してください。示談で示談額を超える損害賠償請求権を放棄すると、示談成立後は原則として労災給付が受けられなくなります。示談が成立したときは、速やかに示談書の写しを労働基準監督署に提出する必要もあります。

Q. 後遺障害は、労災と自賠責のどちらから申請すべきですか?

労災を先に申請するほうが早く進みます。労災では労働基準監督署の嘱託医の診察を受け、画像はその日のうちに返却されます。自賠責は審査が終わるまで画像が返ってきません。しかも自賠責の審査中は労災の手続きが進まないため、労災を先に申請し、画像が返ってきたら自賠責に被害者請求をする、という順番が最短になります。

Q. 労災で認定された等級は、自賠責でも同じになりますか?

同じになるとは限りません。自賠責は独自の調査と評価で等級を決めるため、労災の等級には左右されません。一般に労災のほうが高い等級が出やすい傾向がありますが、裁判所も労災の等級より自賠責の判断を重視する傾向にあります。

Q. 通勤中の事故なのに、健康保険を使ってしまいました。

労災が使える事故に健康保険は使えません(健康保険法1条)。健康保険組合から保険給付分の返還を求められることがありますが、一括返還が難しい場合には、労働基準監督署へ申請することで、労働基準監督署から健康保険組合へ直接支払う取扱いができるようになっています。労働基準監督署に相談してください。

Q. 労災の請求に期限はありますか?

あります。療養(補償)給付と休業(補償)給付は2年、障害(補償)給付と遺族(補償)給付は5年で時効にかかります(労災保険法42条)。とくに療養と休業の2年は日ごとに進行するため、治療中であってもその都度請求してください。

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この記事は、労働者災害補償保険法、同法施行規則、労働者災害補償保険特別支給金支給規則、健康保険法、民法および厚生労働省・都道府県労働局が公表している資料にもとづいて作成しています。個別の事案では、事故の態様、就業形態、保険の加入状況によって結論が変わります。ご自身のケースについては弁護士にご相談ください。

執筆:弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号49544)/難波みなみ法律事務所(大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403)

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