Q. 電子カルテなら、改ざんの心配はないのでしょうか?
いいえ。電子カルテは、更新履歴やアクセスログ(監査証跡)を残す設計が求められており、後からの修正は「いつ・誰が・どの端末で・何を」変えたかが記録され得ます。「改ざんされない」のではなく、「改ざんの痕跡が残りやすい」というのが正確です。
Q. カルテが改ざんされていたら、裁判に勝てますか?
改ざんは、病院側に不利な事実認定の材料になり得ます(証明妨害)。ただし「改ざんがあれば自動的に勝訴」ではなく、立証責任が当然に相手方へ移るわけでもありません。改ざんの発覚は、過失や因果関係の推認を後押しする、という位置づけです。
Q. 改ざんを疑ったら、まず役所に通報すればよいですか?
医療安全支援センターなどの通報窓口は、苦情相談や再発防止のための機関で、個別の紛争を裁定したり賠償を命じたりする窓口ではありません。まずは原本を動かさせないこと、証拠保全を急ぐことが大切です。早めに弁護士へご相談ください。
カルテ(診療録)は、医療過誤を立証するうえで最も重要な証拠です。だからこそ、病院側に不利な事実が、後から書き換えられたり消されたりする「改ざん」が疑われる場面があります。この記事では、改ざんの見抜き方、電子カルテの更新履歴やアクセスログで分かること、改ざんが裁判でどう扱われるか、そして問われる責任と、疑ったときにまずすべきことを、患者側の立場から弁護士が解説します。カルテ開示や証拠保全の具体的な手続きは、別記事にまとめています。
カルテ改ざんとは — 「正当な訂正」との違い
診療録(カルテ)は、医師法24条により、診療のたびに遅滞なく記載し、原則として5年間保存することが義務づけられた、医療の事実を時系列で残す公式の記録です。この記録に手を加える行為には、認められる「訂正」と、許されない「改ざん」があります。
まず、記載を後から直すこと自体は、正当な訂正として認められています。ポイントは、元の記載が分かる形で直すことです。紙カルテなら、元の文字を塗りつぶさず二重線で消し、訂正した人と訂正日時を残します。電子カルテなら、更新の履歴が自動的に残ります。
これに対して改ざんとは、元の記載を消して見えなくする、後から不利な事実に合わせて書き換える・付け足す、記載の日付をさかのぼらせるなど、直したことを隠して内容を変える行為です。つまり、あとから書き足すこと自体が問題なのではなく、「後から書いたのに、その時点で書いたように見せかける」ことが問題なのです。
正当な訂正と改ざんの分かれ目は、訂正の跡が残っているか、いつ誰が直したのかが分かるかにあります。痕跡を消していれば、それ自体が不自然さのサインになります。
改ざんを疑うサイン・見抜き方
改ざんは、紙カルテと電子カルテで現れ方が違います。次のような点が、疑いのきっかけになります。ただし、患者側だけで断定するのは難しく、原本や更新履歴と突き合わせて初めて分かることが多いという前提で見てください。
| 種類 | 改ざんを疑うサイン |
|---|---|
| 紙カルテ | 筆跡や筆記具(ペン・インクの色)が周囲と違う/行間や欄外への詰め込み書き/用紙やページの差し替えを疑わせる違和感/不自然な空白や余白/後から分かったはずの検査結果を、まるで先に知っていたかのような記述など、時系列の矛盾。 |
| 電子カルテ | 記載した日時と、実際に保存・確定した日時のずれ/更新履歴(改訂履歴)に事故の後の修正が残っている/アクセスログに、事故発生後の不自然なアクセスや修正がある/看護記録・検査データ・レセプト・お薬手帳など、他の記録との食い違い。 |
これらは、あくまで「疑いのきっかけ」です。実際に改ざんを裏づけるには、カルテの原本や電子データの更新履歴を確保して照合する必要があります。原本や履歴を安全に押さえる手続き(カルテ開示・証拠保全)は、医療過誤の証拠収集・カルテ開示の記事で詳しく解説しています。
電子カルテの更新履歴・アクセスログで分かること
「電子カルテだから改ざんの心配はない」と説明されることがありますが、これは正確ではありません。厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」は、診療情報を電子的に保存する際の要件として、真正性・見読性・保存性という電子保存の三原則を求めています。
| 三原則 | 意味 |
|---|---|
| 真正性 | 誰が記録・確認したかという作成責任の所在が明確で、かつ、故意・過失による虚偽入力・書換え・消去・混同が防止されていること。 |
| 見読性 | 保存された内容を、必要に応じて肉眼で読み取れる状態にできること。 |
| 保存性 | 記録が、法令で定められた期間、真正性を保ち読める状態で保存されること。 |
この真正性を確保するため、電子カルテには、記録を確定する操作の記録、確定後の更新履歴、そして誰がいつアクセス・修正したかを残すアクセスログ(監査証跡)を保持する仕組みが求められます。そのため、後から記載を変えても、次のようなことが分かる場合があります。
- その記載が、いつ確定されたのか。
- 確定した後で、いつ・誰が・どの端末から修正したのか。
- 事故が起きた後になって、カルテにアクセス・修正した形跡がないか。
ただし、ログがどこまで残るかは、システムの設定・ログの保存期間・病院の運用によって変わり、残っていないこともあります。とくに、上記の三原則を満たさないタイプの電子カルテでは、更新の履歴が残らず、後から自由に書き換えられてしまうこともあります。更新履歴やアクセスログは、病院に任意で出してもらえるとは限らないため、証拠保全や文書提出命令といった手続きで確保し、あわせて運用管理規程なども押さえておくことが重要になります。
電子カルテだから安心、ではありません。電子カルテだからこそ、本文だけでなく更新履歴とアクセスログを押さえます。「いつ直したか」の記録は、本文以上に多くを語ることがあります。
改ざんは裁判でどう扱われるか
民事裁判では、裁判官が証拠を総合して事実を認定します(自由心証主義。民事訴訟法247条)。カルテの改ざんは、この判断のなかで病院側に不利に働き得るほか、次の2つの形で問題になります。
ひとつは、証拠保全の必要性を基礎づける事情としての扱いです。改ざんのおそれは、裁判所を通じて事前にカルテを保全する手続き(証拠保全。民事訴訟法234条)の理由になります。もうひとつは、改ざんそのものが患者側に対する独立の不法行為と評価されることがある点です。診療記録の改ざん行為自体を独立の不法行為と認めて慰謝料を認めた裁判例(東京地判令和3年4月30日)や、経過の説明を求める遺族に対して改ざんや偽証の教唆といった証明妨害を行ったことについて説明義務違反の不法行為を認めた裁判例(甲府地判平成16年1月20日)があります。
ただし、注意すべき点があります。改ざんがあったからといって、立証責任が当然に相手方へ移るわけではなく、それだけで必ず勝てるわけでもありません。医療過誤で過失や因果関係を認めてもらうには、患者側が「高度の蓋然性」を証明する必要があり、実務では、経験則によって一つの事実から他の事実を推認する「事実上の推定(一応の推定)」という自由心証の枠組みで判断されています。改ざんの発覚は、こうした判断や、示談・和解の交渉で、患者側に有利に働き得る、という位置づけです。
改ざんの立証そのものが、決して容易ではありません。だからこそ、疑いを持った段階で原本と電子データの履歴を確保することが最優先になります。改ざんが実際に認められた例・否定された例といった立証面の裁判例は、証拠収集・カルテ開示の記事で紹介しています。
カルテ改ざんに問われる責任
「カルテを改ざんしたら犯罪だ」と考えられがちですが、法的な責任は民事・刑事・行政で扱いが異なり、刑事責任については成立する範囲が限られます。ここは誤解が多いところなので、正確に整理します。
| 責任の種類 | 内容 |
|---|---|
| 民事 | 損害賠償請求の中で、病院側に不利な事実認定の材料になり得る(証明妨害)。さらに、改ざん行為そのものが患者側への独立の不法行為と評価され、慰謝料が認められた裁判例もある(常に認められるわけではない)。 |
| 刑事 | カルテ改ざんを一律・直接に処罰する規定はない。自分の刑事事件(業務上過失致死傷など)の証拠を隠す行為は、証拠隠滅罪(刑法104条が対象とするのは「他人の」刑事事件の証拠)にあたらず、原則として不可罰。自分の名前で書いた診療録の虚偽記載も、私文書では原則として処罰されない。成立する犯罪があるかは事案による。 |
| 行政 | 医師法7条により、医師としての品位を損する行為などとして、医道審議会の意見を経て、戒告・3年以内の医業停止・免許取消の対象になり得る。 |
| 医師法上の義務 | 診療録の記載・保存の義務(医師法24条)に違反したものとして、50万円以下の罰金の対象になり得る(医師法33条の2)。ただし改ざんそのものを直接罰する規定ではない。 |
「改ざんは必ず犯罪になる」とは言えない点に注意が必要です。刑事責任は限定的でも、民事の立証や行政処分の場面では、改ざんは強く不利に働きます。
改ざんを疑ったら、すぐにすべきこと
改ざんが疑われるときに大切なのは、感情的に病院と対立することではなく、証拠を失わないうちに確保することです。次の順番で動いてください。
病院に「改ざんしましたね」と直接迫るのは避けてください。かえって相手に、記録を整える時間や口裏合わせの機会を与えてしまうおそれがあります。まずは冷静に、手元にある資料(お薬手帳・検査結果・領収書・録音・メモ)を保管します。
裁判所を通じて、事前に病院へ知らせずにカルテの原本・電子データ・アクセスログを保全する「証拠保全」という手続きがあります。時間が経つほど不利になるため、早い判断が重要です。具体的な手順は、証拠収集・カルテ開示の記事にまとめています。
医療に関する苦情相談は医療安全支援センター(医療法6条の13。都道府県・保健所を設置する市などが設置)や保健所が窓口です。予期しなかった死亡などについては、医療事故調査制度(院内調査を中心とする再発防止の仕組み)があります。ただし、これらは個別の賠償を解決してくれる窓口ではありません。賠償を求めるなら、弁護士への相談が近道です。
改ざんを疑ったとき、いちばんやってはいけないのは「時間をかけて自分で証拠を集めてから相談する」ことです。その間に履歴の保存期間が過ぎることもあります。疑った時点が、動くべきタイミングです。
よくある質問(FAQ)
正当なカルテの訂正と、改ざんはどう違いますか?
記載を後から直すこと自体は認められています。違いは、直した跡が分かるかどうかです。元の記載を二重線で残し、訂正した人と日時を残す(電子カルテなら更新履歴が残る)のが正当な訂正です。元の記載を消して見えなくしたり、後から書いたのにその時点で書いたように見せかけたりするのが改ざんです。
電子カルテでも改ざんはできますか?
技術的に修正はできますが、電子カルテは更新履歴やアクセスログ(監査証跡)を残す設計が求められているため、後からの修正は「いつ・誰が・どの端末で」行ったかが記録され得ます。「改ざんされない」のではなく「痕跡が残りやすい」というのが正確です。ただし、ログの保存期間や運用によっては残らないこともあります。
カルテが改ざんされていると、患者側で証明できますか?
患者側だけで断定するのは容易ではありません。改ざんを裏づけるには、カルテの原本や電子データの更新履歴・アクセスログを確保し、看護記録や検査データなど他の記録と照合する必要があります。これらを安全に押さえるための証拠保全という手続きがあるため、早めに弁護士へご相談ください。
カルテの改ざんは犯罪ですか?
カルテ改ざんを一律・直接に処罰する規定はなく、犯罪が成立するかは事案によります。自分の刑事事件の証拠を隠す行為は証拠隠滅罪(刑法104条が対象とするのは「他人の」刑事事件の証拠)にあたらず原則不可罰で、自分の名前で書いた診療録の虚偽記載も私文書では原則処罰されません。もっとも、民事の立証や、医師法7条による行政処分(医業停止・免許取消など)の場面では、改ざんは強く不利に働きます。
改ざんが見つかれば、裁判に必ず勝てますか?
いいえ。改ざんは病院側に不利な事実認定の材料になり得ますが(証明妨害)、立証責任が当然に相手方へ移るわけではなく、それだけで必ず勝てるわけでもありません。改ざんの発覚は、過失や因果関係の推認を後押しし、交渉を有利に進める要素になる、という位置づけです。
改ざんを疑ったら、まず病院に問い合わせるべきですか?
直接「改ざんしましたね」と迫るのは避けてください。相手に記録を整える時間を与えてしまうおそれがあります。まずは手元の資料を保管し、原本や電子データの履歴を証拠保全で確保することを優先してください。
改ざんを役所に通報すれば、賠償してもらえますか?
医療安全支援センターや保健所は苦情相談の窓口で、医療事故調査制度は再発防止のための仕組みです。いずれも個別の賠償を命じる窓口ではありません。賠償を求める場合は、弁護士に相談し、示談交渉や訴訟という手続きで進める必要があります。
改ざんが疑われる場合、いつ弁護士に相談すべきですか?
疑いを持った時点が相談のタイミングです。時間が経つほど、原本の差し替えやログの保存期間切れなどで証拠が失われ、不利になります。当事務所は初回相談無料で、証拠保全の要否や見通しをお伝えします。
カルテの改ざんを疑ったら、お早めに
改ざんの立証は時間との勝負です。原本や電子データの履歴を確保できるかで結果が変わります。初回無料で、証拠保全の要否と見通しをお伝えします。お電話・メール・LINEのいずれでもご相談ください。
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監修:難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号 49544/中小企業診断士)。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。初回相談無料。本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。具体的な対応は、ご相談時に事情を伺ったうえでご説明します。


