コラム
公開日: 2026.08.28

医療事故で死亡したとき|遺族が請求できる損害賠償

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

医療過誤, 遺族の損害賠償, 医療事故で 亡くなったとき
結論

Q. 医療事故で家族が亡くなったとき、誰が損害賠償を請求できますか?
亡くなった方の相続人が、本人の慰謝料や逸失利益を相続して請求できます。あわせて、父母・配偶者・子は、民法711条により自分自身の慰謝料(遺族固有の慰謝料)も請求できます。

Q. 何を、いくらぐらい請求できますか?
死亡慰謝料(一家の支柱で2,800万円程度が目安)、亡くならなければ得られたはずの収入である逸失利益、葬儀費用(150万円程度が目安)などです。金額は立場や収入で変わります。

Q. まず何をすべきですか?
カルテが失われたり書き換えられたりしないうちに、証拠を確保することが最優先です。カルテ開示や証拠保全を検討し、死亡診断書・死体検案書も保管してください。時効もあるため、早めに弁護士へご相談ください。

ご家族が入院や手術のあとに亡くなり、「医療のミスがあったのではないか」「遺族として何を請求できるのか」と考えるのは、当然のことです。医療事故で人が亡くなった場合の損害賠償は、ご本人が生きている場合とは、請求する人・請求できる中身・立証のポイントが変わります。この記事では、誰が損害賠償を請求できるのか、どのような損害をいくら請求できるのか、そして遺族がまずすべきことを、患者側の立場から弁護士が解説します。

医療事故で亡くなったとき、遺族が直面すること

亡くなった方は、もう自分で請求できません。そこで損害賠償は、遺された家族が「相続人」や「近親者」の立場で請求することになります。ここでまず整理しておきたいのが、遺族の請求には2つの性質の異なる請求が含まれる、という点です。ひとつは亡くなった本人の請求権を相続して行うもの、もうひとつは遺族自身が固有に持つ慰謝料です。この2つを分けて理解すると、誰が原告になり、何を請求できるのかが見えてきます。

誰が損害賠償を請求できるのか

① 相続人が引き継ぐ請求権(相続構成)

亡くなった本人が加害者(病院)に対して持っていた損害賠償請求権は、消えてなくなるのではなく、相続人が相続して行使します。ここには、本人が受けた精神的苦痛に対する慰謝料と、亡くならなければ得られたはずの収入である逸失利益が含まれます。

慰謝料請求権については、「本人が生前に請求する意思を示していなかったら相続できないのではないか」が争われた時期がありましたが、最高裁は、被害者本人が請求の意思を表明していなくても、相続人が当然に慰謝料請求権を相続すると判断しました(最高裁大法廷判決 昭和42年11月1日)。誰が相続人になるかは、配偶者・子・親・兄弟姉妹といった順位を定める民法のルール(法定相続)によります。

② 遺族が自分自身の慰謝料を請求できる(民法711条)

相続とは別に、亡くなった方の父母・配偶者・子は、自分自身が受けた精神的苦痛について、固有の慰謝料を請求できます(民法711条)。これは「近親者固有の慰謝料」と呼ばれ、本人の慰謝料を相続する請求とは別枠で認められます。

条文に挙げられているのは父母・配偶者・子ですが、最高裁は、条文の文言に当てはまらない親族でも、これらの人と実質的に同じといえる身分関係があり、被害者の死亡で甚大な精神的苦痛を受けた場合には、民法711条の類推適用によって固有の慰謝料を請求できるとしています(最高裁判決 昭和49年12月17日。長年同居し被害者に扶養されていた事案)。たとえば内縁の配偶者や、事実上その人に養われていた親族などが問題になります。

整理すると。遺族の請求は「本人の請求権を相続して行う分(逸失利益+本人の慰謝料)」と「遺族が固有に持つ慰謝料(民法711条)」の二本立てです。相続人が複数いる場合は、相続分に応じて分け合うことになります。誰がどの立場で請求するかは、戸籍で相続関係を確認したうえで組み立てます。

遺族が請求できる損害の費目

医療事故で亡くなった場合に請求できる主な損害は、次のとおりです。金額は、亡くなった方の立場・年齢・収入によって大きく変わります。

死亡慰謝料

亡くなったこと自体に対する慰謝料です。実務では、交通事故で使われる算定基準(大阪の緑本、東京の赤い本など)が参考にされ、亡くなった方の家庭内での立場に応じて、おおむね次の金額が目安とされています。

亡くなった方の立場緑本(大阪基準)赤い本(東京)青本(全国)
一家の支柱2,800万円2,800万円2,800万〜3,100万円
母親・配偶者2,000万〜2,500万円2,500万円2,500万〜2,800万円
その他(独身者・子・高齢者など)2,000万〜2,500万円2,000万〜2,500万円2,000万〜2,500万円

※ 緑本(大阪基準)は「母親・配偶者」を独立させず「その他」に含めて2,000万〜2,500万円で扱います。これらはあくまで目安で、事案の内容によって増減します。慰謝料の考え方の詳細は医療事故の慰謝料相場の記事で解説しています。

死亡による逸失利益

亡くならなければ将来得られたはずの収入です。次の式で計算します。

基礎収入 ×(1 − 生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

「生活費控除率」は、生きていれば本人が使ったはずの生活費を差し引く割合です。亡くなった方の立場によって、次の割合が目安とされています。

亡くなった方の立場生活費控除率の目安
一家の支柱(被扶養者1人)40%
一家の支柱(被扶養者2人以上)30%
女性(主婦・独身・子を含む)30%
男性(独身・子を含む)50%

「ライプニッツ係数」は、将来受け取るはずのお金を今の価値に引き直すための係数で、就労可能年数(原則として67歳まで)に対応します。2020年の民法改正により、この引き直しに使う法定利率は年3%とされています。なお、年金収入については、老齢年金や障害年金は逸失利益として認められますが、遺族年金は認められないとされています。

葬儀費用など、死亡に固有の費用

葬儀関係費は、実際にかかった額のうち相当な範囲が損害として認められ、150万円程度が目安とされています(自賠責保険では100万円)。このほか、遺体の搬送費用や、死体検案書の作成費用などが、事案に応じて別途認められることがあります。

「死亡は医療行為が原因」といえるか ―― 因果関係の壁

死亡事案で最大の争点になりやすいのが、医師の過失と死亡との因果関係です。もともと重い病気で治療を受けていたケースでは、病院側から「亡くなったのは元の病気が原因で、医療とは関係ない」と反論されることが少なくありません。

裁判で因果関係が認められるために必要な証明の程度について、最高裁は「通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうる」ことを要し、それで足りるとしました(最高裁判決 昭和50年10月24日・ルンバール事件)。これは「高度の蓋然性」と呼ばれ、心証の程度としてはおおむね80%程度とされ、100%の科学的証明までは求められません。

とくに「適切な処置をしていれば助かったはずだ」という不作為が問題になる事案について、最高裁は、適切な医療行為が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認しうる高度の蓋然性が証明されれば、医療行為と死亡との間の因果関係は肯定されると判断しています(最高裁判決 平成11年2月25日)。救命率や治癒率などの医学統計・文献を使って、「適切な医療があれば救えた」といえるかを立証していきます。

助かった「相当程度の可能性」。死亡を避けられたとまで言い切れない場合でも、適切な医療を受けていれば生存していた相当程度の可能性があったのにそれが侵害されたときは、その可能性の侵害について損害賠償が認められることがあります(最高裁判決 平成12年9月22日)。ただし、この場合に認められる賠償は、慰謝料などにとどまるとされています。因果関係の立証が難しいからといって、すぐにあきらめる必要はありません。この考え方の詳細は手術ミスの記事で解説しています。

遺族がまずすべきこと

大切なご家族を亡くされた直後に、冷静に動くのは簡単ではありません。それでも、あとから振り返って後悔しないために、早い段階で押さえておきたいことがあります。

1. 証拠を確保する(カルテ開示・証拠保全)

診療記録は病院が保管しています。時間が経つと、失われたり書き換えられたりするおそれがあります。カルテ開示を請求し、必要に応じて裁判所の手続である証拠保全を検討してください。手順は証拠収集・カルテ開示の記事にまとめています。

2. 死亡診断書・死体検案書を保管する

死因が何と記載されているかは、その後の検討の出発点になります。死亡診断書や死体検案書は必ず控えを保管してください。死因に疑問がある場合は、解剖や死亡時画像診断(Ai)が行われることもあります。

3. 相続人を確認し、時効に注意する

誰が相続人として請求するのかを、戸籍で確認します。損害賠償請求権には時効があり、時間の経過は立証の面でも不利に働きます。「気持ちが落ち着いてから」と待つうちに権利が消えてしまうこともあるため、時効の起算点や期間は医療過誤の時効の記事で確認し、早めにご相談ください。

弁護士の視点

死亡事案は、ご遺族の「なぜ亡くなったのか知りたい」という思いが出発点になることが多いです。当事務所には元裁判官の弁護士が在籍し、証拠から死因と過失をどう組み立てれば裁判所に伝わるかという見立てもお伝えできます。また、看護を学んだ協力弁護士と連携し、医療現場の実際の動きを踏まえて検討します。まずは記録を確保することから始めましょう。

病院側の反論と、その限界

死亡事案では、病院側から「もともとの病気が重かった」「高齢で余命が短かった」といった、賠償を減らす方向の反論が出ることがあります。ただし、これらの反論には限界があります。

病院側の反論反論の限界・検討すべき点
「もともとの病気(素因)が原因」素因による減額には限界があります。診療の対象そのものである病的状態は、素因減額の対象になりません。素因として考慮されるのは「疾患」であり、単なる体質・身体的特徴は含まないと理解されています。
「高齢で余命が短かった」余命が短いことの扱いは、逸失利益と死亡慰謝料で異なります。逸失利益では就労可能年数などで考慮されることがありますが、死亡慰謝料を、高齢であることを理由に当然に減額すべきではないと考えられています。

これらの反論に「そういうものか」と引き下がると、本来認められるべき賠償が得られないことになりかねません。反論の当否は、記録と医学的根拠に基づいて検討します。減額の主張の詳しい扱いは、慰謝料相場の記事もあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

医療事故で家族が亡くなりました。誰が損害賠償を請求できますか?

亡くなった方の相続人が、本人の慰謝料や逸失利益を相続して請求できます。あわせて、父母・配偶者・子は、民法711条により自分自身の慰謝料(近親者固有の慰謝料)を請求できます。条文に挙がっていない親族でも、これらの人と実質的に同視できる身分関係があれば、711条の類推適用で請求できる場合があります。

死亡した本人の慰謝料も、遺族が請求できますか?

できます。亡くなった本人が持っていた慰謝料請求権は、本人が生前に請求の意思を示していなくても、相続人が当然に相続すると判断されています(最高裁大法廷判決 昭和42年11月1日)。この相続した慰謝料と、遺族固有の慰謝料(民法711条)は、別枠で請求できます。

死亡慰謝料はいくらくらいですか?

亡くなった方の立場によって異なり、一家の支柱で2,800万円程度、母親・配偶者で2,500万円程度、その他の方で2,000万〜2,500万円程度が目安とされています(交通事故の算定基準を参考にした場合)。あくまで目安で、事案の内容により増減します。

逸失利益はどう計算しますか?

「基礎収入 ×(1 − 生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数」で計算します。生活費控除率は、一家の支柱で30〜40%、女性で30%、男性で50%程度が目安です。将来の収入を今の価値に引き直す際の法定利率は、2020年の民法改正により年3%とされています。

亡くなったのが高齢者や無職でも、賠償を請求できますか?

できます。死亡慰謝料は、高齢であることを理由に当然に減額されるべきではないと考えられています。逸失利益についても、年金収入(老齢年金・障害年金)は認められます(ただし遺族年金は認められません)。主婦など収入のない方も、家事労働を評価して逸失利益が認められます。

葬儀費用も請求できますか?

できます。葬儀関係費は、実際にかかった額のうち相当な範囲が損害として認められ、150万円程度が目安とされています。このほか、遺体の搬送費用や死体検案書の作成費用などが、事案に応じて別途認められることがあります。

「持病が原因で、医療とは関係ない」と病院に言われました。あきらめるしかないですか?

あきらめる必要はありません。因果関係の証明は「高度の蓋然性」で足り、適切な医療があれば死亡の時点でなお生存していたといえるかを、救命率などの医学的根拠で立証します。死亡を避けられたとまで言えない場合でも、生存していた「相当程度の可能性」が侵害されたとして賠償が認められることがあります。まず記録を確保して検討する価値があります。

医療事故で家族が亡くなったら、まず何をすべきですか?

カルテが失われたり書き換えられたりしないうちに、証拠を確保することが最優先です。カルテ開示を請求し、必要に応じて証拠保全を検討してください。死亡診断書・死体検案書は必ず控えを保管し、死因に疑問があれば解剖や死亡時画像診断(Ai)も検討します。時効もあるため、早めに弁護士へご相談ください。

ご家族を医療事故で亡くされた方へ

なぜ亡くなったのかを明らかにするには、まず記録の確保が欠かせません。初回無料で、証拠保全の要否と見通しをお伝えします。大阪・なんばの弁護士が、お電話・メール・LINEでご相談を承ります。

監修:難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号 49544/中小企業診断士)。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。初回相談30分無料。本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。金額はいずれも目安で、事案により異なります。

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