事故のあと警察官に呼ばれて現場に立ち、「このあたりで相手に気づきましたか」と聞かれた——そのときに作られているのが実況見分調書です。
この書類は、過失割合が争いになったときに、事故の状況を裏づけるいちばん重要な資料になります。ところが、その中身を見たことがある方はほとんどいません。
そして、よくある誤解があります。「調書にこう書かれているから、過失割合は動かない」というものです。そうではありません。
この記事の結論
実況見分調書に、過失の有無の判断は書かれていません。警察が調書を作るときの決まりで、そう定められています。
そして調書は、警察官が自分で測って確かめた部分と、立ち会った人の説明をそのまま書き写した部分の二層でできています。争えるのは、後者です。
取り寄せは、不起訴になったか、起訴されて裁判が確定したかで、たどる制度が変わります。どちらにも期限があります。
実況見分調書に、過失の判断は書かれていません
まず、いちばん大事なところからお伝えします。
ご相談でよくある質問
「相手の保険会社から『実況見分調書ではこうなっています』と言われました。調書に書いてあることは、もう変えられないのでしょうか。」
調書を作る側の決まりに、書かないと定められています
実況見分調書は、警察官が決まった要領にしたがって作成します。その作成要領には、調書に書いてはいけないことが明記されています。
調書作成上の留意事項
「実況見分調書には過失の有無の判断は、記載しないで下さい。」
つまり調書は、そもそも過失割合を決めるための書類ではありません。現場がどうなっていたか、当事者がどこで何をしたと説明したか、という事実を記録するための書類です。
交通事故証明書にも、これとよく似た仕組みがあります。証明書には「なお、この証明は、損害の種別とその程度、事故の原因、過失の有無とその程度を明らかにするものではありません」と印刷されています。
公的な書類は、事実を記録する役割と、責任を評価する役割を、意識して切り分けています。詳しくは交通事故証明書の取り方で説明しています。
では、過失割合は何で決まるのか
調書はあくまで材料のひとつです。過失割合は、調書のほかにドライブレコーダー、防犯カメラ、車両の損傷状況、現場の状況を突き合わせて決めていきます。決まり方は交通事故の過失割合は誰が決める?にまとめています。
「調書にこう書いてある」と言われたときに、確認していただきたいことがあります。その記載が、警察官が自分で測って確かめた部分なのか、立ち会った人の説明を書き写した部分なのかです。
この違いが、次の見出しの話です。
実況見分は、令状のいらない任意の捜査です
その前に、実況見分という手続そのものを押さえておきます。
| 手続 | 性質 | 根拠 |
|---|---|---|
| 検証 | 強制処分 裁判官の令状が必要 |
刑事訴訟法218条・220条 |
| 実況見分 | 任意処分 令状は不要 |
刑事訴訟法197条(必要な取調) |
やっていることは同じで、裁判官の令状にもとづいて行えば検証、相手の承諾を得て任意で行えば実況見分です。交通事故の現場で行われるのは、ほとんどが実況見分のほうです。
任意ということは、立会いを断ることもできる、ということになります。ただし、立ち会わなければ、あなたの側から見た事故の状況が調書に残りません。相手の説明だけで調書が作られることになります。
体調が許すのであれば、立ち会って説明しておくことをおすすめします。
証拠として使えるのは、正確に作られていることが前提です
実況見分調書が刑事裁判で証拠として使えることは、最高裁判所昭和35年9月8日判決が認めています。捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載した実況見分調書も、刑事訴訟法321条3項の書面に含まれる、という判断です。
ただしこれは、調書が検証調書と同じくらい信頼できる方法と内容で作られていることを前提にしています。作り方が要領どおりでなければ、その前提が崩れます。
図面と写真は、できる限り添付することとされています。犯罪捜査規範104条3項・157条1項に定めがあります。見取図も写真も付いていない調書は、それ自体が不自然です。
調書は「見たこと」と「聞いたこと」の二層でできています
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。
実況見分調書には、性質のまったく違う二種類の記載が混ざっています。
実況見分調書の構成と、記載の性質を色分けしたものです。
警察官が自分で測って確かめた部分
位置と現場の模様は、警察官が現場で自分の目で見て、測った結果です。
位置は、単に住所を書くのではなく、現場に近接していて表示しやすい施設や設備、たとえば駅や学校などを選び、そこからの距離を記入して示します。
警察官が記載するのは、測れば決まる事実です。
道路の幅が何メートルか。信号や標識がどこにあるか。後で出てくる①から②までが何メートルか。そして、見通しが良いか悪いか。
評価にわたる書き方は、あまりされません。調書の作成では、外形的な事実をありのままに記載することとされ、「やや」「おおむね」といった抽象的な表現も避けることになっています。まして「不注意だった」といった判断は書きません。
この部分は、警察官が実際に測って確かめた事実です。ここを覆すのは簡単ではありません。
立ち会った人の説明を書き写した部分
これに対して事故発生時の状況は、性質がまったく違います。
ここが決定的です
事故発生時の状況については、見分責任者が実験認識していないので、関係者の指示説明により判断をして記載することとなります。
つまり、「どこで相手に気づいたか」「どこで危険を感じてブレーキを踏んだか」といった部分は、警察官が見たものではありません。立ち会った人がその場で指し示した内容を、警察官が書き取ったものです。
調書の文面も、「立会人の指示説明によると、事故発生当時の天候は小雨であった」のように、説明にもとづくことがわかる書き方になります。
相手の言い分だけで作られた調書は、めずらしくありません。けがで入院していて立ち会えなかった場合、加害者だけが立ち会って説明した内容が、そのまま調書に残ります。
この部分は、事実と違えば争えます。「調書にこう書いてあるから」で引き下がる必要はありません。
実際の調書は、見取図の番号が中心です
ここまでを踏まえて、実際の調書がどう見えるかをお伝えします。
本文はごく短く、中身のほとんどが見取図に入っています。比較的単純な事故で見取図に表現できるものは、事故発生時の状況の欄に「別添見取図のとおり」とだけ書かれることもあります。
見取図には、車の動きに沿って①②③④と番号が振られ、次のような形で記載されます。
よくある記載の形
①の地点で信号を見た
②の地点でブレーキを踏んだ
③の地点で衝突した
④の地点で停止した
見取図の模式図です。番号の位置は説明、番号の間の数字は実測です。
この①②③④の位置そのものは、立ち会った人が指し示したものです。警察官が見ていたわけではありません。
そして警察官が測るのは、その間の距離です。①から②までが何メートル、③から④までが何メートル、という数字が見取図に書き込まれます。あわせて、その地点から相手方が見えたかどうか、見通しが良いか悪いかが記載されます。
番号の位置が動けば、距離も意味も変わります。「②でブレーキを踏んだ」という記載は、その人が「ここで踏んだ」と指し示した位置です。
実際にはもっと手前だったのか、もっと直前だったのか。①から②までの距離が変われば、そこから逆算される速度も、避けられたかどうかの評価も変わります。
距離の数字そのものは動かせません。動くのは、その距離を測る両端の位置です。
「やや」「おおむね」は使わない決まりです
調書の読み方として、知っておくと差がつくことがあります。
調書作成上の留意事項
ありのままを記載する。見分責任者が五官の作用によって見分(実験)認識した事実を、誰が読んでもその内容が分かるように、ありのまま秩序正しく、正確に記載します。
文飾を避ける。美辞麗句にとらわれず、平易にして正確な用語を用います。「やや」、「おおむね」、「くらい」、「ほぼ」などの抽象的な表現方法を避けます。
抽象的な表現を避けるという決まりがあるということは、逆に言えば、調書に曖昧な記載が残っているなら、そこには理由があるということです。測れなかったのか、説明が曖昧だったのか、確認する価値があります。
調書に書かれなかったことが、消えているとは限りません。作成要領には、調書に記載しない事項であっても、後刻必要となることも考えられるので、メモとして保管しておくという運用が示されています。
様式は、都道府県ごとに違います
調書の様式そのものは、国が定めています。平成12年3月30日付け最高検企第54号指示「司法警察職員捜査書類基本書式例」の様式第46号が、実況見分調書の様式です。
ただし、交通事故現場の実況見分については、様式の細部事項を各都道府県警察が各地方検察庁と協議して定めています。
ですので、他県の事故と大阪の事故とで、調書の見た目や欄の作りが違うことがあります。インターネットで見つけた見本と自分の調書が違っていても、おかしなことではありません。
立会いのとき、何を伝えるか
ここまでの話から、実際にすることが決まります。
立ち会うときに意識していただきたいこと
あなたが説明した内容が、そのまま「事故発生時の状況」になります。後から争えるのはこの部分ですが、最初から正確に残っているに越したことはありません。
- 覚えていないことは、覚えていないと言ってください。「だいたいこのあたりだったと思う」と曖昧に答えると、その位置が確定した事実のように記録されます。
- 指し示す位置は、実際に立って確かめてください。相手に気づいた地点、危険を感じた地点、ブレーキを踏んだ地点は、後で速度や距離の計算に使われます。
- 見通しをさえぎるものがあったなら、その場で伝えてください。駐車車両、街路樹、看板などは、時間が経つとなくなります。
- できあがった調書の内容を、その場で確認させてもらってください。読み聞かせや閲覧を求めることができます。違っていれば、その場で申し出てください。
- スマートフォンで現場を撮っておいてください。その日の明るさや路面の状態は、後から再現できません。
けがで立ち会えないときは、無理をしないでください。体調が落ち着いてから、あらためて実況見分を行ってもらえることがあります。警察署に相談してみてください。
物件事故だと、調書は作られません
大前提として、実況見分調書は人身事故として処理された場合に作成されるものです。
けがをしているのに物件事故として処理されていると、作成されるのは物件事故報告書です。これは事故があったことを記録するだけの書類で、事故態様の記載は簡略です。過失割合を争うときの資料としては、実況見分調書と比べものになりません。
心当たりがあれば、人身事故への切り替えを検討してください。診断書を添えて警察署に申告して行います。ただし事故から数か月が経過していると、捜査が開始されないことがあります。手続は物件事故から人身事故への切り替えで説明しています。
いまどちらの扱いになっているかは、交通事故証明書の最下段にある照合記録簿の種別の欄でわかります。
取り寄せ方は、事件がどの段階かで変わります
ここから、実際に手に入れる話です。
インターネットの解説は、この分岐を混ぜて書いているものが少なくありません。刑事事件がいまどの段階にあるかで、記録の置き場所も、取り寄せの方法も変わります。
段階ごとの取り寄せ方です。交通事故では、不起訴で終わることが多いところです。
まず、記録がどこにあるかを確かめてください。照会をする前に、担当者に対して記録の所在の有無を確認しておくほうが効率的です。空振りの照会をせずに済みます。
捜査中は、まだ出てきません
事故から間もない時期は、まだ捜査が続いています。この段階では、記録の開示には応じてもらえません。送致や処分が決まるのを待つことになります。
不起訴のとき|弁護士会照会か、文書送付嘱託で取り寄せます
交通事故の刑事事件は、不起訴で終わることが多いところです。
不起訴になった事件の記録は検察庁にあります。取り寄せの方法は3つです。
- 検察庁に、弁護士法23条の2にもとづく弁護士会照会をする。弁護士が所属する弁護士会を通じて、検察庁に記録の写しの送付を求めます。訴訟を起こしていなくても使えます。
- 民事裁判所に、文書送付嘱託の申出をする。すでに損害賠償請求訴訟を起こしている場合の方法です。
- 被害者等またはその弁護士として、検察庁に閲覧・謄写を申請する。法務省が全国の検察庁に示した運用指針にもとづくものです。
不起訴記録は、原則として公にできないものです
前提として、不起訴になった事件の記録は、刑事訴訟法47条により、原則として公にしてはならないとされています。関係者の名誉やプライバシーを侵害するおそれ、捜査や公判に支障を生じるおそれがあるためです。
それでも開示される仕組みがあります
法務省は、被害者等に対する不起訴記録の開示について、全国の検察庁に指針を示しています。平成12年と平成16年の指針に加え、平成20年11月19日付けの通達が同年12月1日から実施されています。
実況見分調書は「客観的証拠」に分類されます
この指針で決定的なのは、実況見分調書が「客観的証拠」として扱われていることです。
| 事件の種類 | 実況見分調書の扱い |
|---|---|
| 被害者参加の対象事件 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪、刑法211条の罪など |
原則として、代替性の有無にかかわらず、相当でないと認められる場合を除き閲覧を認める |
| それ以外の事件 | 代替性に乏しく、その証拠なくしては立証が困難であるという事情が認められるものについて閲覧・謄写の対象とする。代替性がないとまではいえないものも、必要性が認められ弊害が少なければ認める |
閲覧を請求できるのは、被害者等、被害者の法定代理人、そしてそれらの代理人である弁護士です。被害者が亡くなった場合や心身に重大な故障がある場合は、その配偶者、直系の親族、兄弟姉妹も含まれます。
目的の縛りも、以前より緩やかになっています。従来は損害賠償請求権などの権利を行使する目的である場合に限られていましたが、被害者参加の対象事件については、「事件の内容を知ること」などを目的とする場合であっても、原則として閲覧を認めることとされています。
不起訴では、実況見分調書しか取れないのが実情です
ここは誤解されやすいところです。「刑事記録一式が取れる」わけではありません。
押さえておくこと
不起訴となった事件については、原則として、実況見分調書しか入手できないのが現状です。供述調書の開示の運用は、かなり厳しいものになっています。
相手や目撃者の供述調書について民事裁判所から文書送付嘱託がされた場合、開示されるのは次の4つをすべて満たすときとされています。
- 民事裁判所から、特定の者の供述調書について文書送付嘱託がされたこと。
- その内容が、民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点に関するものであり、かつ、その争点に関するほぼ唯一の証拠であるなど、証明に欠くことができないこと。
- 供述者が死亡、所在不明、心身の故障、深刻な記憶喪失などで供述を出せないこと、または供述調書の内容が法廷での証言と実質的に相反すること。
- 開示によって捜査・公判への具体的な支障や、関係者の生命・身体の安全を侵害するおそれがなく、名誉やプライバシーを侵害するおそれもないこと。
被害者側から検察庁に閲覧・謄写を申請する場合も、供述調書の扱いは同じです。関係者の名誉・プライバシー、今後の捜査一般の円滑な遂行を害するおそれが高いため、原則として閲覧を認めるべきではないとされています。
ただし、損害賠償請求等をする場合において、閲覧請求に係る供述調書等が代替性のないものであるときは、相当でないと認められる場合を除き、例外的に閲覧を認めることができるとされています。
相手が何を説明したかを知りたいときは、実況見分調書を見てください。事故発生時の状況の欄に、立ち会った人が現場で説明した内容が記載されています。相手が立ち会っていれば、その説明はここから読み取れます。
起訴されたとき|公判中と確定後で、窓口が違います
相手が起訴された場合は、記録の置き場所が動きます。
公判に係属している間は、刑事裁判所です
刑事事件が係属している刑事裁判所に対し、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(犯罪被害者保護法)3条による閲覧・謄写の申請をします。
犯罪被害者保護法3条
第1回の公判期日後、当該被告事件の終結までの間において、被害者、その法定代理人や弁護士から、当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは、原則として、閲覧又は謄写を認めることとなっています。
第1回公判期日の前は、請求できる人が限られます。被害者参加の申出をした被害者(被害者参加人)だけです。
確定した後は、検察庁に戻ります
刑事事件が確定すると、記録は検察庁で保管されます。方法は3つです。
- 検察庁に、刑事訴訟法53条による閲覧申請をする。
- 検察庁に、弁護士法23条の2による弁護士会照会をする。
- 民事裁判所に、文書送付嘱託の申出をする。
実際の進み方
確定した事件の記録を取り寄せるときは、まず検察庁の記録係に電話をして、事件の「検番」を伝え、閲覧申請が可能かどうかを確認します。閲覧できるようであれば、記録係に閲覧の申請をします。
2〜3週間ほどで、記録係から「閲覧可能になった」という連絡が入ります。そこで閲覧に行きます。謄写を希望する場合は、別途、謄写の申請が必要です。
物損事故のときは、警察署が窓口です
物損事故として処理されていると、警察官は実況見分調書を作成せず、簡単な図面(物件事故報告書)だけを作成しています。
その図面は、管轄の警察署に対して弁護士法23条の2による照会をするか、訴訟提起後に文書送付嘱託の申立て(民事訴訟法226条)をして取り寄せることになります。
保管期間を過ぎると、記録そのものが消えます
起訴されて裁判が確定した場合、記録は第一審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官(保管検察官)が保管します。保管期間は、終結した裁判の重さで決まります。
| 終結した裁判 | 裁判書以外の記録の保管期間 |
|---|---|
| 20年を超える有期拘禁刑 | 30年 |
| 10年以上20年以下の拘禁刑 | 20年 |
| 5年以上10年未満の拘禁刑 | 10年 |
| 刑の一部の執行猶予 | 8年 |
| 5年未満の拘禁刑 | 5年 |
| 罰金、拘留又は科料 | 3年 |
交通事故で多い略式命令の罰金は、いちばん短い3年の区分です。実況見分調書は「裁判書以外の記録」にあたります。
なお、保管検察官は必要があると認めるときは保管期間を延長することができるとされていますが、延長を前提にするのは危険です。
閲覧にも、別の期限があります
刑事確定訴訟記録法4条2項
保管検察官は、保管記録に係る被告事件が終結した後3年を経過したときは、保管記録を閲覧させないものとする。ただし、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があった場合については、この限りでない。
つまり、記録がまだ廃棄されていなくても、事件終結から3年を過ぎると原則として閲覧できません。損害賠償請求のために必要という事情があれば「正当な理由があると認められる者」にあたりますが、その説明をしなければならない状態になります。
当事務所がお伝えしていること
過失割合が争いになりそうな事案では、早い段階で取り寄せてください。示談交渉が長引いてから動くと、すでに手に入らないということが起こります。
加害者側も、紛争処理センターも取り寄せられます
加害者側からの請求。被害者等以外の者からの請求でも、過失相殺事由の有無等を把握するため加害者側が閲覧・謄写を求めるような場合には、正当に被害回復が行われることに資する場合も少なくないため、相当と認められるときには応じることとされています。
機関からの照会。損害保険料率算出機構、交通事故紛争処理センター、全国共済農業協同組合連合会、自賠責保険・共済紛争処理機構からの照会については、民事裁判所からの文書送付嘱託と同様に取り扱われます。
ですので、紛争処理センターに申し立てれば、センターから照会してもらえるという道もあります。訴訟を起こさずに調書を出させたい場合の選択肢になります。
加害者側の弁護人が持っている刑事記録は、そのままでは使えません。加害者側の弁護人として刑事裁判に関わっていて手元に刑事記録があるとしても、目的外使用となるため、その刑事記録を当然に民事訴訟に流用することはできません。
調書が届いたら、日付と立会人を見てください
取り寄せた調書を開いたとき、真っ先に確認していただきたいことがあります。
読むときの2つの視点
誰が立会人として作成したものか。加害者だけが立ち会ったものなのか、あなたも立ち会ったものなのか。両方あるなら、内容が食い違っていないか。
実況見分がされた日時。事故からどの程度経ってからされたのか。事故発生と同じ時間帯に行われたのか。
この二つが、調書の重みを決めます。
夜間の事故なのに、昼間に実況見分がされていることがあります。見通しの評価は、明るさで変わります。「見えたはずだ」という主張の前提が崩れることもあります。
また、事故から日が経ってからの見分では、記憶があいまいになっています。指し示した位置の正確さは、そのぶん落ちます。
調書に、すべてが書かれているわけではありません
当事務所が現場を見に行く理由
事故状況のもっとも重要な証拠は実況見分調書ですが、そこに参考となる事情がすべて記載されているわけではありません。見取図の正確さだけでなく、見通し(障害物)、交通量、道路の形状(カーブ、起伏)、周囲の環境(明るさ)など、現場に行って初めてわかることは多いところです。
調書は、決まった様式の欄を埋めていく書類です。欄がないことは、書かれません。
調書がない場合や、事故態様がわかりにくい場合は、こちらで作ります。当事者が撮影した事故現場の写真や、独自に作成した図面を証拠として提出することもあります。事後であっても現場の写真があると、状況が把握しやすくなります。
ドライブレコーダーは、代替性のない証拠です
調書と並ぶ、もうひとつの柱です。
ドライブレコーダーの記録は、代替性のない資料であり、客観的な証拠のひとつとして有用です。記録情報が証拠として提出されることにより、当事者の間で争いがなくなることも少なくありません。
ただし、映像がすべてを決めるわけではありません。
カメラの取付位置と、運転席から見える視界は違います。位置関係によっては、カメラに写っていても運転者が気づかない場合があります。
広角レンズが用いられている場合は、ゆがみが大きくなります。直線であるべきところが、直線に写らないこともあります。
表示される速度も、正確でないことがあります。GPSによる速度表示は実際より遅れますし、低速や停止している場合も正確ではありません。
ですので、映像だけで判断できない場合は、実況見分調書や車両の損傷状況を含めて総合的に評価することになります。調書と映像は、競合するものではなく、補い合うものです。
動画と合わせて、要点をコマ落としの形で写真化したものを出すと効果的なことがあります。動画は再生しなければ見られませんが、写真なら書面の中で示せます。
なお、データは上書きされます。SDカードを抜いて保存しておいてください。
| 資料 | わかること | 限界 |
|---|---|---|
| 実況見分調書 | 道路の幅、番号の間の距離、見通しは実測。番号の位置は立会人の説明 | 過失の有無と程度は書かれない。参考となる事情がすべて記載されているわけではない |
| ドライブレコーダー | 代替性のない客観的な証拠。信号の表示や相手方の動きを直接確認できる | データは上書きされる。広角レンズのゆがみ、速度表示の不正確さ、視界との違い |
| 物件事故報告書 | 物件事故として処理された場合に作成される | 事故態様の記載は簡略 |
| 事故発生状況報告書 | 被害者から保険会社に提出するもので、事故発生状況が簡単に図示される | 当事者が作成したもの |
謄写費用は、相手に請求できます
取り寄せにかかった費用は、自分で負担して終わりではありません。
刑事記録の謄写費用が、損害として認められることもあります。交通事故証明書料や診断書料等の文書料と同じく、必要かつ相当な範囲で認められる費目です。
示談交渉や訴訟のときに、損害の一項目として計上します。領収書は保管しておいてください。
「調書にこう書いてある」と言われたら
実況見分調書は、警察官が測って確かめた部分と、立ち会った人の説明を書き写した部分でできています。相手の説明だけで作られた記載であれば、それは争える部分です。
難波みなみ法律事務所では、交通事故のご相談を承っています。調書をお持ちでなくても構いません。弁護士会照会や閲覧謄写申請による取り寄せから対応します。弁護士費用特約が使えれば、ご自身の負担なくご依頼いただける場合があります。特約を使っても等級は下がりません。
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よくある質問
Q. 実況見分調書とは、どういう書類ですか。
A. 警察官が事故現場を見分した結果を記録した書類です。現場の位置、道路の幅、信号や標識の位置、見通しといった事実が記載され、見取図と写真が添付されます。事故状況を裏づけるもっとも重要な資料になります。
Q. 実況見分調書に、過失割合は書かれていますか。
A. 書かれていません。調書を作成するときの留意事項として、実況見分調書には過失の有無の判断は記載しないこととされています。調書は事実を記録するための書類で、責任を評価するための書類ではありません。
Q. 相手の保険会社に「調書ではこうなっている」と言われました。もう争えませんか。
A. 争える部分があります。調書のうち現場の位置や模様は警察官が自分で測った結果ですが、事故発生時の状況は立ち会った人の指示説明にもとづいて記載されています。相手の説明だけで作られた記載であれば、事実と違うと主張できます。
Q. 実況見分と検証は、何が違いますか。
A. 内容は同じで、手続の性質が違います。裁判官の令状にもとづいて行う強制処分が検証で、刑事訴訟法218条・220条が根拠です。相手の承諾を得て任意で行うのが実況見分で、刑事訴訟法197条の必要な取調として行われます。交通事故の現場で行われるのは、ほとんどが実況見分です。
Q. 実況見分の立会いは、断れますか。
A. 任意の手続ですので、断ることはできます。ただし立ち会わなければ、あなたの側から見た事故の状況が調書に残りません。相手の説明だけで調書が作られることになりますので、体調が許すのであれば立ち会って説明しておくことをおすすめします。
Q. 実況見分のとき、何に気をつければよいですか。
A. 覚えていないことは覚えていないと伝えてください。曖昧に答えると、その位置が確定した事実のように記録されます。相手に気づいた地点や危険を感じた地点は実際に立って確かめ、見通しをさえぎるものがあればその場で伝えてください。できあがった調書の内容も、その場で確認させてもらってください。
Q. 調書のどこを見れば、争点がわかりますか。
A. 見取図に振られた番号の位置です。①で信号を見た、②でブレーキを踏んだ、といった地点は、立ち会った人が指し示したものです。番号の間の距離、道路の幅、見通しは警察官が測って確かめた事実ですので、覆すのは簡単ではありません。
Q. 実況見分調書はないと言われました。
A. 物件事故として処理されている可能性があります。このときは実況見分調書ではなく物件事故報告書が作成されます。いまどちらの扱いになっているかは、交通事故証明書の最下段にある照合記録簿の種別の欄でわかります。
Q. 実況見分調書は、どうすれば手に入りますか。
A. 事件がどの段階かで変わります。捜査中は開示に応じてもらえません。不起訴なら記録は検察庁にあり、弁護士法23条の2による弁護士会照会、民事裁判所への文書送付嘱託の申出、被害者等またはその弁護士による閲覧・謄写申請の3つの方法があります。起訴されて公判中は刑事裁判所、確定後は検察庁が窓口です。照会の前に、担当者に記録の所在の有無を確認しておくほうが効率的です。
Q. 不起訴になっても、取り寄せられますか。
A. 取り寄せられます。記録は検察庁にありますので、弁護士法23条の2による弁護士会照会をするか、民事裁判所に文書送付嘱託の申出をするか、被害者等またはその弁護士として閲覧・謄写を申請します。不起訴記録は刑事訴訟法47条により原則として公にしてはならないとされていますが、法務省が全国の検察庁に指針を示しており、実況見分調書は客観的証拠として扱われます。
Q. 相手の供述調書も取れますか。
A. かなり厳しい条件があります。不起訴となった事件については、原則として実況見分調書しか入手できないのが現状です。民事裁判所から特定の者の供述調書について文書送付嘱託がされ、その内容が結論を直接左右する重要な争点についてほぼ唯一の証拠であるなど、4つの要件をすべて満たす場合に限られます。
Q. 刑事記録は、いつまで残っていますか。
A. 起訴されて確定した事件では、裁判書以外の記録の保管期間は終結した裁判の重さで決まります。罰金、拘留又は科料なら3年、5年未満の拘禁刑なら5年です。交通事故で多い略式命令の罰金は、いちばん短い3年の区分にあたります。
Q. 訴訟を起こさずに取り寄せる方法はありますか。
A. 交通事故紛争処理センターに申し立てる方法があります。損害保険料率算出機構、交通事故紛争処理センター、全国共済農業協同組合連合会、自賠責保険・共済紛争処理機構からの照会については、民事裁判所からの文書送付嘱託と同様に取り扱われます。
Q. ドライブレコーダーがあれば、調書は要りませんか。
A. 両方あるに越したことはありません。ドライブレコーダーの記録は代替性のない資料で、客観的な証拠のひとつとして有用です。ただしカメラの取付位置と運転席から見える視界は違い、広角レンズではゆがみが大きくなります。表示される速度も、GPSによるものは実際より遅れ、低速や停止している場合は正確ではありません。映像だけで判断できない場合は、実況見分調書や車両の損傷状況を含めて総合的に評価することになります。
Q. 調書が届いたら、まずどこを見ればよいですか。
A. 誰が立会人として作成したものかと、実況見分がされた日時です。加害者だけが立ち会ったものなのか、事故からどの程度経ってからされたのか、事故発生と同じ時間帯に行われたのかを確認してください。夜間の事故なのに昼間に見分がされていれば、見通しの評価の前提が変わります。
この記事は、法令および法務省の公表資料、交通事故の捜査実務および被害者側の賠償実務に関する文献をもとに、難波みなみ法律事務所の弁護士が作成しました。個別の事案については、具体的な事情によって結論が変わることがあります。
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