ある日、契約しているプロバイダやSNS事業者から「発信者情報開示に係る意見照会書」が届いて驚かれたかもしれません。これは、あなたの過去の書き込みについて「投稿した人を教えてほしい」という開示請求が来ているという通知です。まだ情報は開示されていません。ここでどう回答するかが、その後の損害賠償・示談・刑事のリスクを大きく左右します。この記事では、意見照会書の意味と、同意・拒否・無視それぞれの結果、そして取るべき対応を弁護士がわかりやすく解説します。
意見照会書が届いたら、まず何をすればいいですか?
回答期限(通常2週間程度)を確認し、安易に同意も無視もせず、期限内に弁護士へ相談してください。意見照会書は、あなたを特定しようとする開示請求が来た合図です。まだ開示されていない今の段階が、対応の分かれ目です。
「同意する」と「拒否する」はどちらが有利ですか?
投稿に正当な理由があるなら、理由を付けて不同意(開示に応じるべきでない旨)を回答するのが基本です。同意すればそのまま開示されます。無回答は開示への同意とはみなされませんが、「意見なし」として扱われ、あなたの言い分が判断に反映されないまま開示要件の検討が進みます。安易な同意も、反論の機会を手放す無回答も避けるのが得策です。
拒否すれば絶対に開示されませんか?
いいえ。不同意でも、権利侵害が明らかで開示を受ける正当な理由があると判断されれば、裁判所の発信者情報開示命令などで開示されえます。ただし、真実性や正当な論評といった法的な反論をきちんと示せば、開示が止まる余地があります。
1「発信者情報開示に係る意見照会書」とは
意見照会書とは、誰かがあなたの投稿について発信者情報の開示を請求してきたため、プロバイダ(サイト運営者や通信会社)が「開示に応じてよいか」をあなた(発信者)に尋ねる書面です。根拠は、情報流通プラットフォーム対処法(旧・プロバイダ責任制限法)6条1項です。同項は、開示関係役務提供者が開示請求を受けたとき、発信者と連絡できない場合などを除き、開示に応じるかどうかについて発信者の意見を聴かなければならないと定めています。開示に応じるべきでないという意見のときは、その理由も聴く対象になります。
この手続きが設けられているのは、発信者情報がプライバシー・表現の自由・通信の秘密に関わり、いったん開示されると取り消せないためです。安易な開示で発信者の権利が不当に害されないよう、開示の前に本人の言い分を聴く仕組みになっています。つまり意見照会書が届いた時点では、まだ誰にもあなたの情報は渡っていません。
2なぜ届いたのか──発信者特定は「2段階」
ネットの投稿者を特定する手続きは、通常2段階で進みます。あなたに意見照会が届いたということは、相手がこの手続きを進めている途中だということです。
- コンテンツプロバイダ(CP)への請求:まず、投稿先のサイトやSNSに対して、投稿時のIPアドレスなどの開示を求めます。掲示板のように運営者が投稿者の連絡先を持たない場合、この段階では意見照会が来ないこともあります。
- アクセスプロバイダ(AP)への請求:IPアドレスから使われた通信会社(携帯会社・プロバイダ)が判明すると、その通信会社に契約者情報(氏名・住所)の開示を求めます。通信会社は契約者の氏名・住所を持っているため、この段階で意見照会が実施されることが多いです。あなたに書面が届いたのは、多くがこの場面です。
開示の要件は同法5条にあり、①権利侵害が明らかであること(権利侵害の明白性)と、②損害賠償請求などのために開示を受ける正当な理由があることの両方が必要です。ログイン時などの「特定発信者情報」には、さらに補充的な要件(5条1項3号)が加わります。なお、プロバイダが保有していない情報は開示できず、ログの保存期間にも限りがあります。
開示されても「投稿した人」に直結するとは限りません。意見照会や開示の対象になるのは、多くの場合回線の契約者です。家族や同居人と回線を共用している場合など、契約者と実際に投稿した人が別人のこともあります。その場合、判明するのは契約者であるあなたの情報にとどまり、請求者は契約者が本当に投稿者本人かどうかを別途調査・立証しなければなりません。身に覚えのない投稿で照会が届いたときは、その事情を回答で伝えてください。
3同意・不同意・無回答で結果はこう変わる
意見照会への回答は、その後を大きく分けます。それぞれの効果を整理します。
| 回答 | その後の扱い | 発信者への影響 |
|---|---|---|
| 同意する | プロバイダはガイドラインに従いそのまま開示する | 氏名・住所が相手に渡り、損害賠償請求などに直結する |
| 不同意(理由あり) | 直ちに開示はされない。請求者の資料と発信者の意見をもとに権利侵害の明白性が改めて検討される。疑義があればプロバイダは任意開示せず、裁判所の判断に委ねる運用が一般的 | 反論次第で開示が止まる余地。最終的に開示命令で開示されることもある |
| 無回答(放置) | 「意見なし」として扱われ、請求者の資料をもとに開示要件の検討が始まる。同意とはみなされず、期限経過だけで開示が確定するわけではない | あなたの反論が判断に入らない。反論できる投稿でも開示を止める機会を自ら手放すことになる |
回答期限は通常2週間程度です。法律上の明確な期限はありませんが、総務省ガイドラインの書式は受領から2週間以内の回答を求めています。無回答でも「同意」とはみなされず、期限経過だけで開示が確定するわけではありませんが、あなたの言い分が判断に反映されないまま検討が進みます。反論できる投稿ならその機会を失うので、同意も無視も避け、理由を添えた回答を期限内に出すのが基本です。
4不同意で「主張できること」と、明白性のハードル
不同意を選ぶ場合、ただ「開示に反対」と書くだけでは弱く、なぜ違法な投稿ではないのかを法的に示すことが重要です。名誉毀損の場面では、次のような反論が問題になります。どこからが違法な投稿になるのかは誹謗中傷はどこから?違法になる基準で解説しています。
反論として主張しうること
- 事実を示した投稿:内容が真実である/真実と信じる相当な理由があり、公共性・公益目的があった
- 意見・論評の投稿:前提とした事実が重要な部分で真実で、人身攻撃など論評の域を逸脱していない
- そもそも権利侵害が生じていない(社会的評価を下げていない、特定の個人と分からない 等)
開示に傾きやすい事情
- 虚偽の事実を、事実であるかのように書いた
- 公益目的がなく、私的な攻撃・嫌がらせが目的
- 人格を否定する侮辱的表現に踏み込んでいる
ポイントは、この「権利侵害が明らか(明白性)」は、簡単には認められないことです。5条の「明らか」というためには、権利侵害があることに加えて、真実性や正当な論評といった違法性を打ち消す事情が見当たらないことまで必要だからです。
この判断は、裁判所ではないプロバイダにとって簡単ではありません。実際に最高裁も、掲示板に書かれた侮辱的な表現について、その言葉だけを見て違法と言い切ることはできず、スレッドの流れや前後のやりとりまで見なければ判断できないと述べました。そのうえで、判断が難しいことを理由に、開示に応じなかったプロバイダに落ち度(重大な過失)はなかったと認めています(最高裁 平成22年4月13日)。裏を返せば、あなたの投稿にも反論の余地があるなら、明白性が否定されて任意開示が止まる可能性があるということです。
さらに、プロバイダは開示を拒んでも、故意または重大な過失がなければ賠償責任を負いません(同法6条4項)。そのため、判断に迷う事案では任意開示を避け、裁判所の判断に委ねる傾向があります。的確な反論を出せば、任意開示を止められる可能性は十分にあるということです。
5放置・拒否のあとはどうなる(開示命令の流れ)
あなたが不同意でも、請求者は裁判手続きで開示を求めることができます。とくにアクセスプロバイダ(通信会社)への開示では、判決まで時間のかかる開示訴訟ではなく、手続きを短縮できる発信者情報開示命令(同法8条)が使われるのが一般的です。これは、裁判所が一つの手続きの中で開示の可否を判断する制度です。流れは次のとおりです。
- 開示命令の申立て:請求者が裁判所に発信者情報開示命令を申し立てます。
- 審理(陳述の聴取):裁判所は、申立てが不適法・理由なしと明らかな場合を除き、申立書の写しを相手方(プロバイダ)に送り、当事者の陳述を聴きます(同法11条)。あなたが意見照会で述べた反論は、プロバイダを通じて審理に反映されえます(発信者本人を裁判所が直接尋問するわけではありません)。
- 決定:要件を満たせば開示命令が出ます。不服がある側は、決定の告知から1か月以内に異議の訴えを起こせます(同法14条)。期間内に異議がなければ、決定は確定します。
- 通知と開示:あなたが不同意意見を述べていた場合、プロバイダは開示命令を受けた旨を遅滞なくあなたに通知します(同法6条2項)。その後、氏名・住所などが請求者に開示されます。
開示された後は、請求者から損害賠償(慰謝料)請求が来るのが通常で、悪質な場合は名誉毀損罪(刑法230条)や侮辱罪(刑法231条)で刑事の問題になることもあります。損害賠償の請求権は、被害者が損害と加害者を知った時から3年で時効にかかります(民法724条)が、開示によって加害者が判明した時点から進むため、開示後に請求が来るのが一般的です。
知っておきたい点:この開示命令などの手続きで請求者の相手方になるのは、あなたではなくプロバイダです。あなたが意見照会で述べた反論や資料は、プロバイダを通じてしか審理に反映されません。プロバイダはあなたの代理人ではないため、どの資料を証拠として出すか、どう争うかはプロバイダが判断し、あなたの資料を必ず全部提出するとは限りません(あなたがプロバイダに裁判のやり方を指示することもできません)。反論を確実に反映させ、開示後の示談・損害賠償まで見据えるなら、発信者自身が弁護士に依頼しておくのが安全です。
6開示される前・された後にできること
開示される前(意見照会の段階)
まだ相手にあなたの情報は渡っていません。この段階でできる最善は、期限内に、法的な理由を添えた回答書を出すことです。投稿のスクリーンショットや、投稿に至った経緯・根拠資料を保全しておくと、反論の裏づけになります。回答書に何をどう書くかで結論が変わるため、弁護士に依頼して回答を作成する方が安全です。
回答書の書き方に注意:意見照会で書いた不同意の理由や添付した証拠は、原則としてそのまま相手方(開示を求めている人)に伝わる取扱いです。開示を拒む理由は具体的に示す必要がある一方で、あなた自身を特定させる情報(氏名・住所・勤務先など)は書かない、または黒塗りにする配慮が欠かせません。この加減を誤ると、かえって身元の手がかりを与えてしまうおそれがあります。だからこそ、回答書の作成は弁護士に任せるのが安全です。
開示された後・請求が来たとき
すでに開示され、相手から請求や通知が届いた場合も、放置は禁物です。早い段階で削除・謝罪・示談を検討すると、拡散や損害の拡大を抑え、賠償額を抑えられることがあります。慰謝料の相場観は誹謗中傷の慰謝料相場を、刑事に発展しうる場合は名誉毀損罪・侮辱罪で刑事告訴するにはもご覧ください。
弁護士からのひとこと
意見照会書が届くと「もう特定された」と慌ててしまいがちですが、届いた時点ではまだ開示されていません。逆に、焦って全面的に同意したり、怖くて放置したりすると、反論できる投稿でも言い分が判断に反映されません。投稿に正当な理由があるなら、その理由を法的にきちんと書く。理由が乏しいなら、開示前提で示談の準備に切り替える。どちらにせよ、期限内に方針を決めることが最も大切です。判断に迷ったら、回答期限が来る前にご相談ください。
7よくある質問
意見照会書が届いた時点で、もう情報は開示されていますか?
いいえ。意見照会は開示の前にあなたの意見を聴く手続きで、届いた時点では氏名・住所は相手に渡っていません。ここでの回答が結論を左右します。
回答しないで放置するとどうなりますか?
無回答は開示への同意とはみなされませんが、「意見なし」として扱われ、あなたの言い分が判断に反映されないまま、請求者の資料をもとに開示要件の検討が進みます。期限経過だけで開示が確定するわけではないものの、反論できる投稿ではその機会を失うため、放置は避けるべきです。
回答期限はどのくらいですか?
法律上の明確な期限はありませんが、総務省ガイドラインの書式は受領から2週間以内の回答を求めており、実務上も2週間程度が一般的です。難しい場合は理由を添えて早めに連絡します。
「不同意」と回答すれば開示されませんか?
不同意でも、権利侵害が明らかで開示を受ける正当な理由があると判断されれば、裁判所の開示命令などで開示されえます。ただし真実性や正当な論評などの反論を示せば、開示が止まる余地があります。
同意すると必ず不利になりますか?
投稿に正当な理由がなく、開示が避けられない事案では、早期の同意と示談が損害の拡大を抑えることもあります。有利・不利は投稿内容次第なので、回答前に見立てを確認するのが安全です。
身に覚えのない投稿でも意見照会が来ることはありますか?
あります。家族や同居人が同じ回線を使った場合などです。その場合は、真の発信者に回答してもらう案内がされることがあり、本人が判明して連絡できれば契約者情報を開示する必要がなくなるのが通常です。心当たりがなければ、その事情も回答で伝えます。
開示されたら必ず裁判になりますか?
なりません。多くは開示後に損害賠償の請求や通知が届き、示談で解決する例が多数です。早めに削除・謝罪・示談を検討すると、訴訟や賠償額の拡大を避けやすくなります。
意見照会への回答は自分で書いてもよいですか?
可能ですが、回答書に法的な反論をどう書くかで開示の可否が変わります。真実性・公益目的・正当な論評などの主張は組み立て方が重要なので、弁護士に依頼して作成するほうが安全です。
費用や相談はどうすればいいですか?
難波みなみ法律事務所(大阪なんば・心斎橋)が、意見照会への回答書作成から、開示後の示談交渉までワンストップで対応します。回答期限がある手続きですので、届いたら早めに電話・メール・LINEでご相談ください。初回相談30分無料です。
意見照会書が届いたら、回答期限が来る前にご相談ください
開示に応じるべきか、どんな理由を書くべきかは、投稿内容によって変わります。難波みなみ法律事務所が、回答書の作成から開示後の示談・損害賠償対応までワンストップでサポートします。初回相談30分無料。大阪なんば・心斎橋。夜間・土日祝も電話・メール・LINEで受け付けています。
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監修:難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会)
大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403/電話 06-6786-8103。ネット誹謗中傷について、発信者側の意見照会対応・示談交渉から、被害者側の削除・発信者情報開示・損害賠償まで対応しています。本記事は一般的な情報提供を目的とするもので、個別の事案の結論を保証するものではありません。






