Q. 高齢だと、交通事故の賠償は少なくなってしまうのですか。
「高齢だから」という理由だけで賠償が大きく下がるわけではありません。保険会社は「もう働いていない」「年齢で素因減額」などと主張してきますが、就労している・家事をしている・年金を受け取っている高齢者には、逸失利益や休業損害が認められます。加齢による体の変化を理由にした減額も、原則として認められません。
Q. 働いていない高齢者でも、逸失利益はもらえますか。
もらえる場合があります。現に働いていれば当然に、働いていなくても就労の意欲と可能性があれば認められることがあります。また、受け取っている年金(老齢年金など)は、死亡事故で逸失利益として評価されます。家事をしている方は家事労働分を請求できます。
Q. 保険会社に「年齢的に素因減額します」と言われました。
鵜呑みにしないでください。加齢による骨や背骨の変化(加齢性変化)は、事故前に治療が必要な「疾患」といえる状態でない限り、素因減額の理由にはならないのが実務です(最判平成8年10月29日の考え方)。高齢者の骨粗しょう症も、減額しない扱いが一般的です。
高齢のご家族が交通事故に遭うと、ケガが重くなりやすいうえ、保険会社から「もう働いていないから」「年齢的に仕方ない」といった説明を受け、賠償が低く抑えられてしまうことがあります。この記事では、高齢の被害者に特有の争点と、保険会社が持ち出す「高齢だから減る」という主張への反論を、大阪の被害者側の弁護士が整理します。
交通事故の死者の半数以上が高齢者
警察庁の交通安全白書(令和7年版)によると、令和6年に交通事故で亡くなった人のうち、65歳以上の高齢者が半数以上を占めています。とくに歩行中に亡くなった高齢者は多く、高齢者が被害に遭う事故は社会全体の大きな課題になっています。
その一方で、高齢の被害者は「働いていないから損害が小さい」と見られがちで、本来受け取れるはずの賠償を取りこぼしやすい立場にあります。だからこそ、どの損害が認められるのかを正しく知っておくことが大切です。
「高齢だから賠償は少ない」という誤解を切り分ける
交通事故の賠償は、治療費・入通院慰謝料・休業損害・逸失利益・後遺障害慰謝料など、項目ごとに計算します。このうち年齢が主に影響するのは、逸失利益・休業損害・年金・素因減額・過失割合です。入通院慰謝料は入通院の期間に応じて、後遺障害慰謝料は認定された等級に応じて決まります。
保険会社が「高齢だから」と減額を主張しやすいのは、次の3つの場面です。この記事では、それぞれに対する被害者側の反論を見ていきます。
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| 保険会社の主張 | 被害者側の反論の起点 |
|---|---|
| もう働いていないから逸失利益はない | 就労・家事・年金があれば認められる |
| 年齢(加齢性変化)で素因減額する | 加齢性変化は原則として減額の理由にならない |
| 余命が短いから損害は小さい | 就労可能年数は平均余命の2分の1などで評価する |
逸失利益|就労可能年数と年金の扱い
逸失利益は、後遺障害や死亡で将来の収入が減る分の賠償です。高齢者では「何年分を計算できるか(就労可能年数)」と「年金を収入に含められるか」が争点になります。
就労可能年数は「67歳まで」か「平均余命の2分の1」
働ける年数は、原則として67歳までとします。ただし高齢者では、次のように調整します。
- 事故の時点ですでに67歳を超えている、またはまもなく67歳になる場合 … その年齢の平均余命の2分の1を就労可能年数とします。
- 50〜60代の場合 … 「67歳までの年数」と「平均余命の2分の1」の、どちらか長いほうを使います。
つまり、67歳を超えていても就労可能年数がゼロになるわけではなく、平均余命をもとに一定の年数が認められます。「もう高齢だから数年分だけ」と機械的に短くするのは誤りです。
年金は逸失利益として評価される
受け取っていた年金も、死亡事故では逸失利益として計算に含めます。老齢年金(老齢・退職年金)や障害年金の基本部分は、逸失利益性が認められるのが裁判実務です。年金を基礎にする場合は、就労と違って2分の1にせず、平均余命までの年数で計算します。
ただし、遺族年金や、障害年金のうち加給(加算)部分については、逸失利益性が否定される傾向です。どの年金のどの部分が認められるかは専門的な判断が必要なので、年金受給者の死亡事故では弁護士に確認することをおすすめします。逸失利益の計算の考え方は交通事故の逸失利益で解説しています。
素因減額|加齢による体の変化は、原則として減額されない
高齢者の事故でもっとも争いになりやすいのが、素因減額です。保険会社は「背骨や関節に加齢による変化があるから、損害の一部は事故のせいではない」として、賠償の減額(素因減額)を主張してきます。
しかし、これを鵜呑みにする必要はありません。最高裁は、平均的な体格や通常の体質と異なる身体的特徴があっても、それが治療を要する「疾患」にあたらなければ、原則として賠償額の算定で考慮しない(減額しない)と判断しています(最判平成8年10月29日)。
この考え方から、実務では加齢による骨や背骨の変化(加齢性変化・経年性変化)は、事故前に治療が必要な疾患といえる状態でない限り、素因減額の対象にしないとされています。高齢者の骨粗しょう症についても、高齢であることを踏まえておおむね減額しない扱いが一般的です。
実際に、77歳の被害者の頚椎症・変形性脊椎症について、年齢相応の加齢性変化や個体差の範囲内だとして素因減額を否定した裁判例があります(岡山地判平成24年5月17日)。老人性の骨粗しょう症を、既往症や身体的特徴とは認めず減額を否定した例もあります。もっとも、加齢性の変化であっても、それが通常の程度を著しく超え、損害の拡大に大きく寄与したと認められる場合には、一定の減額がなされることもあります。だからこそ、単なる加齢変化にとどまることを、事故前のカルテや画像で示すことが大切です。
弁護士からひとこと
「高齢だから加齢性変化がある、だから素因減額」という主張は、保険会社が機械的に持ち出してくることが多いものです。減額が認められるのは、事故前からその部位に治療や自覚症状があり、損害への寄与が明らかな「疾患」といえる場合に限られます。診断書や事故前のカルテを精査し、単なる加齢変化にすぎないことを示せば、減額をくつがえせる余地があります。くわしくは交通事故の素因減額をご覧ください。
高齢者に特有の損害|家事・休業損害・将来の介護費
高齢者でも、次のような損害は見落とさずに請求できます。
- 家事労働分(主婦・主夫の休業損害・逸失利益)。高齢でも、家族のために家事を担っていれば、家事労働を金銭に換算して休業損害や逸失利益を請求できます。自分一人のためだけの家事は認められにくい一方、同居家族の世話や介護などは評価されます。賃金の統計(賃金センサス)をもとに計算します。
- 無職でも就労の見込みがある場合。働く意欲と能力があり、実際に就労する可能性が認められれば、無職の高齢者でも逸失利益が認められることがあります。
- 将来の介護費・付添費。重い後遺障害が残り介護が必要になった場合は、職業介護人の費用や、家族が介護する場合の近親者介護費を請求できます。重い後遺障害の論点は高次脳機能障害でも解説しています。
実際の裁判でも、68歳で無職だった方について、自治会の役員やボランティア、長年家計を支えてきたことなどから働く意欲と能力を認め、逸失利益を認めた例があります(大阪地判平成25年10月17日)。一方で、79歳で就労しておらず年金で生活していた方については、新たに収入を得る見込みは乏しいとして認めなかった例もあります(東京地判平成30年1月17日)。無職の高齢者では、年齢だけでなく、それまでの就労歴や求職活動、生活の実態をどれだけ具体的に示せるかが分かれ目になります。
過失割合|高齢者は「要保護者」として有利に修正されることがある
高齢の歩行者が被害に遭った場合、過失割合で「要保護者修正」が働くことがあります。車の運転者には、高齢者が車の接近に気づかず動き出すことまで予測して運転する義務があると考えられているため、歩行者側の過失を有利に見直す理由になります。目安は5〜10%程度で、横断歩道のない場所を渡っていた場合でも考慮されます。
保険会社の提示する過失割合は、高齢であることを十分に反映していないことがあります。歩行中の事故の過失割合は歩行者の交通事故でくわしく解説しています。
慰謝料|入通院・後遺障害・死亡
入通院慰謝料は入院・通院の期間に応じて、後遺障害慰謝料は認定された等級に応じて決まります。具体的な金額は交通事故の慰謝料計算のページで確認できます。
死亡事故の場合、本人と遺族の慰謝料として、大阪基準では一家の支柱なら2800万円、それ以外では2000万〜2500万円が目安とされています。高齢であっても、家計を支えていた・家事の中心だったなどの事情は、金額を考えるうえで考慮されることがあります。死亡事故の慰謝料は交通事故の死亡慰謝料で解説しています。
よくある質問
高齢だと、交通事故の賠償は必ず少なくなりますか。
67歳を超えていても逸失利益は認められますか。
年金は逸失利益として請求できますか。
保険会社に「加齢で素因減額」と言われました。応じるべきですか。
働いていない高齢者でも逸失利益はもらえますか。
高齢の歩行者がはねられた場合、過失割合は変わりますか。
高齢の家族が亡くなりました。慰謝料はどのくらいですか。
高齢者の交通事故を弁護士に頼むメリットはありますか。
高齢のご家族が交通事故に遭われた方へ
高齢者の事故は、逸失利益・素因減額・将来介護費など、保険会社と争いになりやすい論点が多くあります。難波みなみ法律事務所は大阪・なんばの事務所で、交通事故の被害者側を数多く扱ってきました。元裁判官の弁護士が在籍し、損害算定や立証の見立てもお伝えできます。初回相談30分無料、着手金無料で対応します。弁護士費用特約があれば、費用は保険でまかなえることが多いです。
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監修:難波みなみ法律事務所/代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号49544)。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。初回相談30分無料(電話 06-6786-8103/受付9:00〜22:00)。






