Q. 歩行者が横断歩道を信号どおりに渡っていてはねられたら、過失はつきますか。
原則として歩行者側の過失はゼロで考えます。横断歩道を渡る歩行者は道路交通法で手厚く守られており、信号に従って横断していれば、基本的に損害の全額を請求できます。保険会社が「歩行者にも不注意があった」と主張しても、鵜呑みにする必要はありません。
Q. どんなときに歩行者にも過失がつきますか。
赤信号での横断、横断歩道のない場所や横断歩道から離れた場所での横断、走ってくる車のすぐ前やすぐ後ろを横断したとき(直前直後横断)などです。幹線道路や夜間も、歩行者に不利に働くことがあります。
Q. 過失割合は慰謝料にも関係しますか。
関係します。歩行者に過失がつくと、その割合の分だけ受け取れる賠償(治療費・慰謝料・休業損害など)が減らされます(過失相殺)。だからこそ、つけられた過失割合が妥当かどうかの確認が大切です。
歩行者として交通事故に遭うと、ケガが重くなりやすいうえ、保険会社から「あなたにも過失がある」と言われて不安になることがあります。この記事では、歩行者の過失割合がどう決まるのか、どんなときに減らされるのかを、大阪の被害者側の弁護士が整理します。
数字で見る:歩行者の死亡事故は「横断中」に集中している
まず、歩行者の事故がどんな場面で起きているかを公的な統計で確認します。警察庁の交通安全白書(令和7年版)によると、令和6年中の交通事故で亡くなった歩行者のうち、約7割(68.7%)が65歳以上の高齢者でした。
さらに、自動車と歩行中の高齢者の死亡事故を類型別にみると、横断中が75.1%を占めています。そして、その横断中の事故のうち56.0%には、走ってくる車のすぐ前やすぐ後ろを渡るなど、歩行者側にも何らかの法令違反が認められた、とされています。
つまり、歩行者の重大事故は「どこを・どう渡っていたか」で性質が大きく変わります。横断歩道を信号どおりに渡っていた事故と、横断歩道のない場所を渡っていた事故とでは、過失割合の出発点がまったく違う、ということです。
大前提:横断歩道の歩行者は、法律で手厚く守られている
過失割合を考える前に、歩行者がどれだけ保護されているかを押さえておきます。根拠は道路交通法38条です。
道路交通法38条は、車に対して、横断歩道に近づくときは横断する歩行者が明らかにいない場合を除いて横断歩道の直前で停止できる速度に落とすこと、そして横断している歩行者や横断しようとしている歩行者がいるときは一時停止して進路を譲ることを義務づけています。横断歩道は、歩行者が優先される場所なのです。
そのため、歩行者が横断歩道を信号に従って渡っていたのにはねられたケースでは、過失割合は原則として歩行者0・車100から考えます。車の側に「横断歩道の歩行者を保護する」という強い義務があるからです。
過失割合はこう決まる|「場所」と「信号」で出発点が変わる
歩行者の過失割合は、裁判実務で使われている事故類型ごとの認定基準をもとに、個別の事情を加えて決められます。ここでは、裁判例や実務でみられる目安を整理します(実際の割合は事故ごとに変わります)。
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| 場所・状況 | 歩行者の過失の目安 | 考え方 |
|---|---|---|
| 横断歩道上を、信号に従って横断 | 0 | 歩行者が最も手厚く守られる場面。原則として全額を請求できる |
| 信号機のない横断歩道上を横断 | 0 が基本 | 横断歩道は歩行者優先(道交法38条)。車の義務が重い |
| 青で渡り始め、横断中に赤に変わった(安全地帯なし) | 20 前後 | 渡りきれなかった事情が考慮され、歩行者の過失は小さめ |
| 横断歩道のすぐ近くを、横断歩道を使わずに横断 | 10〜30 | 横断歩道があるのに使わなかった分の過失(道交法12条)。信号が黄・赤ならさらに加算 |
| 赤信号で横断を開始(車は青) | 50〜70 | 信号無視は歩行者の過失が重い。ただし車に速度超過・見落としがあると、歩行者側は小さくなる |
| 横断歩道から離れた場所(信号なし)を横断 | 30 前後 | 車が歩行者を予測しにくい。ただし車にも前方注意義務は残る |
青信号で横断を始めた歩行者が、渡りきれないうちに赤へ変わったケースでは、「途中で避難できたか」が重視されます。道路の中央に安全地帯があり、そこへ退避できた場合は歩行者20〜30、安全地帯がなく逃げ場がなかった場合は歩行者20が一つの目安です。横断を始めた時点では青だったことは、歩行者に有利な事情として考慮されます(道路交通法施行令2条)。
これに対し、最初から赤信号で渡り始めた場合は、歩行者の過失が重くなります。歩行者が赤・車が青で進入した事案で歩行者70・車30とされた例(東京地判平成13年1月30日)がある一方、同じ赤信号横断でも、車に大幅な速度超過と歩行者の見落としがあった事案では、双方の落ち度を同程度とみて歩行者50・車50とされた例(名古屋地判平成20年11月26日)もあります。赤になった後も横断を続けた歩行者と、前方をよく見ていなかった車とがぶつかった事案でも、歩行者50・車50とされています(東京地判平成29年11月7日)。「赤だから歩行者が全部悪い」ではなく、車の過失の大きさで割合は動くのです。
なお、信号機のない横断歩道では、車に重い注意義務があり歩行者は強く保護されるとして、原則として歩行者に過失を認められないと判断した裁判例もあります(神戸地判平成18年12月22日)。
自転車に乗って横断歩道を渡っていた場合は、歩行者と同じ扱いにはなりません。自転車は法律上「軽車両」で、歩行者ほど手厚くは保護されないため、横断歩道上でも一定の過失がつくことがあります(高等裁判所で自転車に1割・3割の過失を認めた例があります)。くわしくは自転車事故の過失割合をご覧ください。
割合を動かす「修正要素」|あなたに有利・不利に働く事情
基本の割合は、次のような事情で上下します。被害者である歩行者にとって、有利に働く(過失が減る)事情を見落とさないことが大切です。
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| 歩行者に有利(過失が減る方向) | 歩行者に不利(過失が増える方向) |
|---|---|
| 幼児・児童・高齢者だった | 幹線道路での横断(目安として+5) |
| 住宅街・商店街など、歩行者が多い場所 | 夜間の横断 |
| 集団で横断していた | 車のすぐ前・すぐ後ろを横断(直前直後横断) |
| 車に著しい過失・重過失があった(速度超過・わき見など) | 横断が禁止されている場所での横断 |
たとえば、青が点滅してから横断を始めた歩行者の事案で、夜間・雨天や幹線道路といった事情を踏まえて歩行者30・車70とされた例(神戸地判平成25年9月5日)があります。逆に、商店街であることを歩行者に有利な事情として5%分割合を修正した例(京都地判平成25年3月19日)もあります。同じ「赤で渡った」でも、場所・時間帯・年齢で結論は変わるのです。
とくに年齢による修正は重要です。法律上、高齢者はおおむね65歳以上、幼児は6歳未満、児童は6歳以上13歳未満を指します。車の運転者には、こうした人が車の接近に気づかないまま渡り始めることまで予測して運転する義務があると考えられているため、歩行者側の過失を有利に見直す理由になります。目安は5〜10%程度ですが、幼児など特に保護の必要が高い場合はさらに大きく修正されることもあります。横断歩道のない場所を渡っていた場合でも、この年齢の修正は考慮されます。たとえば、夜間に横断歩道のない場所を渡っていた80歳の歩行者について、車に速度超過があったことなども踏まえ、歩行者の過失を15とした例があります(名古屋地判平成27年8月28日)。
弁護士からひとこと
保険会社が最初に示す過失割合は、修正要素のうち「歩行者に不利な事情」だけを拾っていることが少なくありません。幼児・高齢者であること、車の速度超過やわき見といった事情は、こちらから主張して初めて考慮されます。当事務所には元裁判官の弁護士が在籍し、損害算定や立証の見立てもお伝えできます。
保険会社の「歩行者にも過失がある」に、どう向き合うか
歩行者の事故で保険会社がよく持ち出すのが、「歩行者も飛び出した」「よく見ていなかった」という過失の主張です。ここで知っておきたいのは、歩行者の過失を基礎づける事実は、それを主張する側(加害者・保険会社)が証拠で示す必要があるということです。「歩行者にも落ち度があったはずだ」という決めつけだけで割合が決まるわけではありません。
そこで重要になるのが、事故直後に作られる客観的な記録です。人身事故として扱われると、警察が実況見分調書を作成します。横断歩道の位置、信号の表示、車の速度やブレーキ痕、歩行者と車の位置関係といった記録は、あとから過失割合を争うときの土台になります。
- 事故直後は必ず警察を呼び、人身事故として届け出る(物損のままにしない)
- 横断歩道・信号・道路の幅など、現場の状況を写真に残しておく
- 目撃者がいれば連絡先を聞き、ドライブレコーダーの有無を確認する
- 提示された過失割合は鵜呑みにせず、根拠(どの事実をどう評価したか)を確認する
すでに物損事故として処理されていても、ケガがあるなら、医師の診断書を警察に提出して人身事故への切替えを求めることができます。時間がたつほど現場の状況が分かりにくくなり切替えが難しくなるため、早めの対応が大切です。あわせて、ドライブレコーダーや防犯カメラの映像は上書きで消えることがあるので、早い段階で確保しておきます。
過失割合は、慰謝料など受け取る金額に直結する
過失割合が重要なのは、それが最終的に受け取る金額を左右するからです。歩行者に過失がつくと、その割合の分だけ、治療費・休業損害・慰謝料などの損害全体が減額されます。これを過失相殺といい、民法722条2項が根拠です。
過失相殺でいう歩行者の「過失」は、加害者が責任を負うかどうかを決める過失(民法709条)とは違い、損害の公平な分担のための軽い落ち度・不注意で足りると理解されています。つまり、歩行者側のわずかな不注意でも減額の対象になりうる一方、その評価が妥当かどうかは個別に検討する余地がある、ということです。
慰謝料そのものの金額の決まり方や計算の目安は、別の記事でくわしく説明しています。まずは、提示された過失割合が適正かどうかを確認することが、受け取る金額を守る出発点になります。
よくある誤解と注意点
「横断歩道の外を渡ったら、もう請求できない」は誤り
横断歩道の外で渡った場合でも、請求できなくなるわけではありません。歩行者に一定の過失がつくことはありますが、車にも前方をよく見る義務があり、全額が否定されるものではありません。
「物損のままでいい」と言われても、人身で届け出る
ケガをしているのに物損事故として処理すると、実況見分調書が作られず、あとで事故の状況や過失割合を争いにくくなります。痛みがあれば必ず病院を受診し、人身事故として届け出ることが大切です。
示談を急がない
過失割合や後遺障害の見通しがはっきりしないうちに示談すると、あとから上乗せを求めるのが難しくなります。内容に納得できないときは、署名する前に相談してください。
よくある質問
横断歩道を青信号で渡っていてはねられました。過失はつきますか。
赤信号で渡ってしまいました。もう賠償は受けられませんか。
横断歩道のない場所で渡っていました。過失割合はどうなりますか。
高齢者や子どもが被害者の場合、過失割合は変わりますか。
保険会社が示した過失割合に納得できません。
過失割合は、慰謝料にどう影響しますか。
過失割合はいつ決まりますか。
弁護士に頼むと過失割合は変わりますか。
歩行者の交通事故で「過失」を主張されてお困りの方へ
提示された過失割合が妥当か、慰謝料がいくら見込めるかを、大阪市・なんば・心斎橋の難波みなみ法律事務所が被害者側の立場で検討します。初回相談は30分無料、LINE・Zoom相談や土日祝・夜間にも対応しています。弁護士費用特約にも対応しています。
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【監修】難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会)。交通事故の被害者側の代理人として、過失割合・損害算定・示談交渉に対応しています。元裁判官の弁護士が在籍し、損害算定や立証の見立てもお伝えできます。






