駐車場に戻ったら車がへこんでいた、走行中にぶつけられたのに相手がそのまま走り去った――このような「当て逃げ」にあうと、修理費を誰に請求すればよいのか、警察に届けても意味があるのかと迷う方が少なくありません。この記事では、当て逃げの被害にあった方に向けて、直後にすべきこと、相手が分からないときと見つかったときの修理費の扱い、保険の使い方と注意点を、大阪・なんばで交通事故の被害者側を扱う弁護士が整理します。
Q. 当て逃げされたら、まず何をすればよいですか。
すぐに110番して警察に届け出てください。あわせて、相手の車のナンバー・車種・色、時刻と場所、ドライブレコーダーの映像、車の傷の写真を残します。警察への届出は、相手を探してもらうためだけでなく、保険を使うときや後で相手に請求するときの前提にもなります。
Q. 相手が分からないままだと、修理費はどうなりますか。
国の保障制度(政府保障事業)や自賠責保険は、けがなど人身の損害だけが対象で、車の修理費は出ません。修理費は、ご自分が入っている自動車保険の車両保険で補えることがありますが、補償の範囲や、使った後に等級が下がるかどうかは契約によって違います。
Q. 相手が後で見つかったら、何を請求できますか。
修理費を中心に、事情によっては代車費用や、修理しても価値が下がった分(評価損)なども、相手やその保険会社に請求できます。請求の期限(時効)は、損害と加害者を知った時から3年です。相手が分からない間はこの3年は進みませんが、修理費の額が決まっていなくても、相手が分かった時から進み始めます。
当て逃げとは|ひき逃げとの違い
当て逃げとは、車やバイクで他人の車・建物・塀などにぶつかって物を壊したのに、警察に知らせず、必要な措置もとらずにその場を立ち去ることをいいます。法律上の正式な名前ではなく、けが人が出た事故で立ち去る「ひき逃げ」と区別するための呼び方です。
道路交通法72条1項は、交通事故を起こした運転者に、すぐに運転をやめて、負傷者を救護し、道路の危険を防ぐ措置をとること(前段)と、警察官に事故の日時・場所や壊した物とその程度などを報告すること(後段)を義務づけています。物を壊しただけの事故でも、損壊が軽い場合でも、この義務はなくなりません。
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| 区分 | 当て逃げ(物損のみ) | ひき逃げ(けが人あり) |
|---|---|---|
| 被害 | 車・建物などの物だけが壊れた | 人がけがをした、または亡くなった |
| 加害者の刑事責任 | 危険を防ぐ措置をとらなかった:1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金(道路交通法117条の5第1号) 警察に報告しなかった:3月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金(同法119条1項17号) | 救護義務違反として、当て逃げよりはるかに重い刑罰の対象 |
| 加害者の違反点数 | 安全運転義務違反2点+措置義務違反(物損)5点=7点。前歴がなければ免許停止30日の対象 | 救護義務違反だけで35点。免許取消の対象 |
| 相手不明のときの国の保障 | なし(政府保障事業は人身の損害だけが対象) | 政府保障事業に請求できる(支払いに上限あり) |
後から痛みが出たら、人身事故として扱い直してもらえることがあります。物損事故として届け出た後に首や腰の痛みが出て医師の診断を受けた場合は、警察に人身事故として扱い直してもらえることがあります。相手が分からないままでも、けがの損害については政府保障事業に請求できる場合があります(支払いには上限があり、ほかから受けた支払いは差し引かれます。請求できる時から3年以内。自動車損害賠償保障法72条・75条)。切り替えの手続きは物損事故から人身事故への切り替えで解説しています。
当て逃げされた直後にすること
当て逃げの被害は、直後の対応で、相手が見つかるかどうかも、修理費を回収できるかどうかも大きく変わります。次の順に進めてください。
安全な場所に車を止めて、110番する
相手が立ち去っても、事故があったことに変わりはありません。走行中にぶつけられた場合は、被害を受けた側の運転者にも、警察に事故を報告する義務があります(道路交通法72条1項後段)。駐車中に傷つけられていたことに後で気づいた場合も、気づいた時点で届け出てください。警察に届け出ていない事故については、交通事故証明書を申請することができません。
相手の手がかりを記録する
相手の車のナンバー(一部でも)、車種、色、特徴、立ち去った方向、事故の時刻と場所をメモします。ドライブレコーダーの映像は上書きされる前に保存し、車の傷や周りの状況(ぶつかった位置、破片の散らばり方など)を、修理や移動の前にスマートフォンで撮影しておきます。ドライブレコーダーの映像には撮影範囲などの限界があるので、写真や目撃者の話もあわせて残すことが大切です。見ていた人がいれば、名前と連絡先、見た内容を聞いておきます。
防犯カメラの映像を早めに押さえる
駐車場や店舗、近くの建物の防犯カメラは、数日から数週間で自動的に上書きされることが多いです。管理者に事故の日時を伝えて、映像を消さずに残してほしいと早めに頼んでください。個人の求めには映像を見せてもらえないことも多いため、警察にカメラの場所を伝えておくことが大切です。
自分の保険会社に連絡し、体に異変があれば受診する
車両保険を使うかどうかは後で決められますが、事故の連絡は早めにしておきます。ぶつけられた衝撃で首や腰に違和感がある場合は、その日のうちか遅くとも数日以内に整形外科を受診してください。国土交通省も、事故の後すぐに受診しないと、事故とけがの因果関係が認められないことがあると案内しています。
相手を追いかけたり、自分で問い詰めたりしないでください。追跡中の事故や、相手とのトラブルにつながるおそれがあります。手がかりを記録して、警察に任せるのが安全です。
相手が分からないとき|修理費は誰が負担するか
相手が見つからない間は、相手に修理費を請求することができません。そのとき頼れるのは、主にご自分の自動車保険です。
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| 補償の出どころ | 車の修理費 | けがの損害 |
|---|---|---|
| 自賠責保険 | 出ない(人身の損害だけが対象) | 相手が分からないと請求先がない |
| 政府保障事業(国) | 出ない | 相手が分からない「ひき逃げ」なら請求できる |
| 自分の車両保険 | 契約の種類によっては出る | ― |
| 自分の人身傷害保険 | ― | 契約していれば出る |
国土交通省は、自賠責保険の補償の対象は人身事故による損害だけで、車などの物の損害は対象にならないと説明しています。政府保障事業は、ひき逃げや無保険の事故で自賠責保険に請求できない被害者に、自賠責保険と同じ範囲の損害を国が補う制度なので、車の修理費は対象外です。
車両保険を使うときの注意点
- 契約の種類を確かめる。補償範囲の広い型(一般型)では当て逃げも対象になるのが一般的ですが、補償を絞った型(いわゆるエコノミー型)では、相手の車が確認できることが条件になっていて、相手が分からない当て逃げは対象になりません。後で警察の捜査などで相手の車が確認できれば、支払いの対象になると説明されています。
- 使うと翌年から保険料が上がることがある。車両保険を使うと、多くの契約で等級が下がり(原則3等級)、数年にわたって保険料が上がります。修理費が小さい場合は、使わずに自分で払った方が総額は安くなることもあるので、保険会社に試算してもらってから決めてください。なお、車両保険を使って上がった保険料の分は、後で相手が見つかっても、事故による損害としては認められないとした裁判例があります(東京地判平成13年12月26日、東京地判平成27年9月29日)。
- 警察への届出が前提になる。交通事故証明書は、警察に届け出た事故についてだけ、自動車安全運転センターが発行します。保険金の請求ではこの証明書を求められるのが一般的です。取り方は交通事故証明書の取り方をご覧ください。
- 補償されるのは車そのものの損害が中心。車両保険は修理費など車自体の損害を補償するもので、評価損などは特約がない限り対象外とされます。レッカー代や代車費用は、約款によって補償されることがあります。
車両保険で修理した後に相手が見つかった場合は、保険会社が支払った分について相手に請求する(保険代位)のが一般的です。保険で補われなかった自己負担分(免責金額など)は、ご自分で相手に請求できます。なお、車両保険金は車の損害に充てられるもので代車費用には充てられないとして、代車費用を加害者に請求することを認めた裁判例があります(大阪地判令和4年2月25日)。
相手が見つかったとき|請求できるもの
警察の捜査やドライブレコーダーの映像、後日相手が名乗り出たことなどで加害者が分かった場合は、加害者本人やその保険会社に損害の賠償を求めます。加害者の刑事処分とは別に、民事上の請求として進めます。どの項目がどこまで認められるかは、事故と車の状況によって変わります。
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| 損害の項目 | 内容と注意点 |
|---|---|
| 修理費 | 修理に必要な費用。まだ修理していなくても、損傷があれば修理費相当額を損害と認めた裁判例があります。修理費が車の時価額を超える場合(経済的全損)は、時価額と買い替えの諸費用が上限になるのが原則です |
| 評価損(格落ち損) | 修理しても事故歴によって車の価値が下がった分。新しい車や人気車種などで認められることがある損害で、いつも認められるわけではありません。詳しくは交通事故の評価損 |
| 代車費用 | 修理や買い替えの間、実際に代車を借りて費用を払った場合に、必要な期間と相当な車種の範囲で認められます。借りていない場合の想定額は認められず、電車やタクシーで足りる場合はその料金の範囲にとどまることがあります |
| レッカー代など | 事故車の移動、保管にかかった費用など。事故との関係や必要性を説明できるものに限られます |
| 慰謝料 | 物だけが壊れた事故では、原則として認められません。例外については物損事故の慰謝料で解説しています |
駐車場に止めていた車にぶつけられた場合のように、被害者が動いていなかった事故では、被害者側に過失がない(過失割合が0)とされるのが通常です。走行中の事故では、事故の状況によって被害者側にも過失がつくことがあります。過失割合の考え方は交通事故の過失割合は誰が決める?をご覧ください。
請求の期限(時効)
車の修理費などの物の損害は、損害と加害者を知った時から3年で時効にかかります(民法724条1号)。この3年は加害者が分かった時から数えるので、相手が分からない間は進みません。ただし、事故の時から20年がたつと請求できなくなります(同条2号)。また、修理費の額が決まっていないことや、示談交渉が続いていることだけでは、時効は止まりません。物の損害とけがの損害は、それぞれ別に時効が進みます。けがの損害は、損害と加害者を知った時から5年です(民法724条の2)。詳しくは交通事故の時効で解説しています。
当て逃げで弁護士に相談した方がよいケース
物の損害だけの当て逃げは、請求額が小さく、弁護士に頼むと費用の方が高くつくこともあります。一方で、次のような場合は相談する価値があります。
- ぶつけられた衝撃で首や腰を痛め、通院している
- 相手が見つかったのに、支払いに応じない、連絡がとれない
- 相手の保険会社が評価損や代車費用を認めない、修理費を低く見積もっている、「その傷は事故前からあった」と言われた
- 新しい車・高額な車で、評価損が大きくなりそう
- 防犯カメラの映像など、手がかりの集め方が分からない
ご自分の自動車保険に弁護士費用特約がついていれば、弁護士費用は保険でまかなえることが多く、物損だけの事故でも費用倒れの心配が小さくなります。当て逃げの被害でも使えるかどうかは契約によるので、保険会社に確認してください。特約の使い方は弁護士費用特約とはで解説しています。
弁護士が依頼を受けた場合、弁護士会を通じて、防犯カメラを管理する店舗などに情報の提供を求める方法(弁護士会照会)もあります。ただし、回答が得られるとは限りません。また、物損事故では警察が簡単な図面(物件事故報告書)を作るのが通常で、これも弁護士会照会などで取り寄せられる場合があります。修理費を請求する側は、その傷が今回の事故によるものだと示す必要があるため、事故直後の車と現場の写真が大切になります。
よくある質問
Q. 駐車中の当て逃げに、時間がたってから気づきました。今からでも警察に届けるべきですか。
届けるべきです。気づいた時点で110番するか、最寄りの警察署に届け出てください。いつ、どこに止めていたか、最後に車を見た時刻などを伝えると、捜査や防犯カメラの確認に役立ちます。
Q. 警察に届けないと、保険は使えませんか。
警察に届け出ていない事故については、交通事故証明書を申請できません。保険金の請求ではこの証明書を求められるのが一般的なので、必ず警察に届け出てください。
Q. 当て逃げの加害者は見つかりますか。
手がかりの多さによります。ナンバー、ドライブレコーダーの映像、防犯カメラ、目撃者の証言があると、加害者が分かる可能性が高まります。防犯カメラの映像は短い期間で上書きされることが多いので、早めの届出が大切です。
Q. 相手が分からない当て逃げで、国から補償は受けられますか。
車の修理費は受けられません。国の政府保障事業は、自賠責保険と同じく人身の損害だけが対象です。けがをした場合は人身事故として扱い直してもらうことで、けがの損害を政府保障事業に請求できることがあります。
Q. 当て逃げで車両保険を使うと、等級は下がりますか。
多くの契約では、車両保険を使うと等級が下がり(原則3等級)、翌年から保険料が上がります。補償を絞った型の車両保険では、当て逃げがそもそも対象外のこともあります。使う前に、ご自分の契約内容と保険料の試算を保険会社に確認してください。
Q. 加害者が見つかったら、慰謝料も請求できますか。
物だけが壊れた事故では、慰謝料は原則として認められません。請求の中心は修理費で、事情によっては代車費用や評価損なども認められます。けがをした場合は、けがの慰謝料を請求できます。
Q. 当て逃げをした加害者には、どのような罰則がありますか。
危険を防ぐ措置をとらずに立ち去ったことについて1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金、警察に報告しなかったことについて3月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金が定められています(道路交通法117条の5第1号、119条1項17号)。違反点数は合計7点で、前歴がなければ免許停止30日の対象です。
Q. 修理費の請求に期限はありますか。
あります。物の損害は、損害と加害者を知った時から3年で時効にかかります。相手が分からない間はこの3年は進みませんが、事故の時から20年がたつと請求できなくなります。修理費の額が決まっていなくても、時効は進みます。
当て逃げの被害でお困りの方へ
相手が見つかったのに払ってもらえない、保険会社の提示に納得できない、ぶつけられて体を痛めた――そのようなときはご相談ください。難波みなみ法律事務所は大阪・なんばの事務所で、交通事故の被害者側を数多く扱ってきました。元裁判官の弁護士が在籍し、損害の見立てもお伝えできます。初回相談30分無料、着手金無料で対応します。弁護士費用特約があれば、費用は保険でまかなえることが多いです。
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監修:難波みなみ法律事務所/代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号49544)。大阪市中央区西心斎橋2-4-2 難波日興ビル403。初回相談30分無料(電話 06-6786-8103/受付9:00〜22:00)。






