コラム
公開日: 2026.10.17

交通事故の素因減額|既往症で減らされないための反論

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回、15回、75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコム、ココナラ、弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

交通事故, 難波みなみ法律事務所, 素因減額・既往症 減らされない反論

交通事故の示談交渉で、保険会社から「もともと持病があったから」「元の体質が影響しているから」と言われ、賠償額を減らされそうになることがあります。これを素因減額といいます。ただし、減額が認められる場面は法律上かぎられています。どんなときに減らされ、どう反論できるのかを、大阪の被害者側の弁護士が整理します。

結論から

Q. 素因減額とは何ですか。

被害者側のもともとの事情——既往症(持病)・身体的特徴・心理的な要因——が、ケガや症状の悪化に影響した場合に、公平の見地から民法722条2項(過失相殺)を類推して賠償額を減らすという考え方です。被害者に「落ち度」がなくても問題になる点が、過失相殺とは違います。

Q. 持病があると必ず減らされますか。

いいえ。事故の前に症状が出ていなかった(無症状だった)のなら、持病があるというだけで当然に減額されるわけではありません。減らすには、その素因が結果に影響したことを保険会社の側が示す必要があり、ここは争えます。

Q. どう反論すればよいですか。

①それは「病気」ではなく個人差の範囲の身体的特徴にすぎない、②事故前は無症状だった、③素因の影響の程度(寄与度)が過大だ——という3点を、事故前のカルテ・画像・就労状況などで示していきます。

素因減額とは——「被害者側の事情」で賠償が減ること

交通事故の賠償では、被害者に落ち度(信号無視や前方不注意など)があれば、その分を差し引く過失相殺が行われます。これとは別に、被害者が落ち度とはいえないもともとの体質や持病、心理的な要因を持っていて、それがケガや症状の悪化に影響したときにも、賠償額が減らされることがあります。これが素因減額です。

素因減額には専用の条文はなく、裁判所は民法722条2項(過失相殺の規定)を類推適用し、「損害の公平な分担」という考え方から減額を認めています。ただし、被害者に落ち度がないのに減らす以上、どんな場合でも認められるわけではなく、裁判例は適用場面をしぼっています。

素因減額の3つの型

素因減額が問題になる「素因」は、大きく次の3つに分けて考えられています。型によって、減額が認められるかどうかの扱いが異なります。

素因の型 内容 裁判所の基本的な扱い
心因的素因 被害者の心理的・性格的な要因が、治療の長期化などに影響した 影響した場合は減額されることがある(最高裁昭和63年4月21日判決)
身体的素因(疾患) 被害者がもともと持っていた「病気」が、損害の拡大に影響した 公平の見地から減額(斟酌)できる(最高裁平成4年6月25日判決)
身体的特徴(疾患でない) 病気とはいえない体格・体質(首が長いなど、個人差の範囲) 特段の事情がないかぎり減額しない(最高裁平成8年10月29日判決)

心因的素因

被害者の性格や心理的な反応が、治療の長期化や症状の固定化に影響したと認められる場合、賠償額が減らされることがあります(最高裁昭和63年4月21日判決)。ただし、ケガをした人なら通常生じ得る範囲の不安や落ち込みまで減額の理由にされるわけではありません。「通常の範囲を超える特別な心理的要因が影響した」といえるかが分かれ目です。

身体的素因(疾患)

被害者がもともと持っていた疾患(病気)が、ケガの程度や症状の長期化に影響した場合には、公平の見地から賠償額を減らすこと(斟酌)が認められています(最高裁平成4年6月25日判決)。ヘルニアや骨の変性、骨粗しょう症などが、後遺障害や治療の長期化に影響したと主張されることがあります。

身体的特徴(疾患に至らないもの)

一方で、病気とまではいえない身体的特徴——たとえば平均的な体格から外れている、首が長く頸椎が不安定といった程度——は、原則として減額の理由になりません(最高裁平成8年10月29日判決)。個人差の範囲の体質は、誰もが多少は持っているものであり、それを理由に被害者に不利益を負わせるのは公平でないと考えられているためです。例外として減額が問題になるのは、極端な肥満のように平均から著しくかけ離れ、日常生活で人一倍慎重な行動を求められるような「特段の事情」がある場合にかぎられ、通常の個人差の範囲ならあてはまりません。「それは病気ではなく身体的特徴にすぎない」といえれば、減額に反論できます。

既往症(持病)があるとどうなるか

既往症があると、保険会社から「持病のせいで症状が重くなった」として減額を主張されることがあります。しかし、ここで大切なのは次の点です。

事故の前に症状が出ていなかった(無症状だった)既往症は、「あるというだけ」で当然に減額されるわけではありません。画像に加齢による変性が写っていても、それがすぐに減額に直結するものではなく、事故が症状を生じさせた引き金であれば、事故とケガとの関係を正面から主張できます。

減額するには、保険会社の側で「その既往症が実際に結果へ影響したこと」と「どの程度影響したか(寄与度)」を示す必要があります。加齢性の変化は多くの人に見られるものですから、画像所見があることだけを根拠にした減額主張には、反論の余地があります。

被害者側の反論のポイント

① 「病気」か「身体的特徴」かを分ける…疾患に至らない個人差の範囲の体質であれば、原則として減額されません(最高裁平成8年10月29日判決)。まず、保険会社がいう素因が本当に「疾患」なのかを確認します。
② 事故前は無症状だったことを示す…事故前のカルテや健康診断の記録などで、事故の前には痛みや支障がなかったことを裏づけます。無症状だった既往症は、事故が発症の引き金になったと主張できます。
③ 寄与度の過大評価に反論する…仮に素因の影響があるとしても、その程度(寄与度)が過大に見積もられていないかを争います。事故の態様、症状の経過、画像の読み方などから、影響はもっと小さい、またはないと主張します。

こうした反論は、医学的な評価と法的な評価が入り組むため、争点になりやすいところです。症状の経過や後遺障害の認定とも関わるので、後遺障害認定の見通しとあわせて検討するのが有効です。

反論の立証に役立つ資料

素因減額を争うときは、次のような資料が手がかりになります。

資料 役割
事故前の医療記録 事故前は無症状だった/通院していなかったことを示す
画像(レントゲン・MRI・CT) 変性が事故によるものか、もとからあったものかを検討する
就労・生活の状況 事故前は支障なく働き、生活できていたことを示す
医師の意見 素因の有無・影響の程度について医学的な見解を得る

むちうちのように、画像で異常が出にくいケガでは、素因減額や症状の説明が特に争いになりやすい傾向があります。むちうちの後遺障害や、通院の続け方もあわせてご確認ください。

減額は損害項目ごとに判断される

素因減額は、慰謝料だけにかかるものではなく、治療費・通院交通費・休業損害・逸失利益・慰謝料など、幅広い損害に関わります。ただし、すべての損害に当然に同じ割合を掛けるとは限りません。損害項目ごとに、その素因がその損害の発生・拡大にどう関わったかを個別に検討して判断されるのが実務の傾向です。たとえば、治療費では「素因が治療の必要性や長期化に影響したか」が、逸失利益では「もともとの障害がすでに計算に反映されていて、同じ事情を二重に差し引いていないか」が問題になります。

また、減額の割合は、医学的な寄与の割合をそのまま当てはめるものではなく、「損害の公平な分担」という観点から決められます。医学的な影響の有無・程度と、法的にどれだけ減額するかは分けて考える必要があります。だからこそ、安易に素因減額を受け入れず、損害項目ごとに争うべきところは争う意味があります。

最終的な金額の見通しは、慰謝料の自動計算(大阪基準)で全体像をつかんだうえで、減額主張の当否を個別に検討していくことになります。

「持病があるから減らす」と言われてお困りの方へ。素因減額の主張が妥当かどうか、どう反論できるかを、大阪市・なんば・心斎橋の難波みなみ法律事務所が被害者側の立場で検討します。初回相談は30分無料、LINE・Zoom相談や土日祝・夜間にも対応しています。

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よくある質問

素因減額とは何ですか。

被害者側のもともとの事情(既往症・身体的特徴・心理的要因)が、ケガや症状の悪化に影響した場合に、公平の見地から民法722条2項(過失相殺)を類推して賠償額を減らす考え方です。被害者に落ち度がなくても問題になる点が、過失相殺とは異なります。

持病があると必ず慰謝料は減りますか。

いいえ。事故の前に症状が出ていなかった持病は、あるというだけで当然に減額されるわけではありません。減額するには、その持病が結果に影響したことと影響の程度を示す必要があり、被害者側から反論できます。

加齢による変性が画像に写っていると減額されますか。

写っていること自体がただちに減額に直結するわけではありません。加齢性の変化は多くの人に見られるもので、事故が症状の引き金になったのであれば、事故とケガとの関係を主張できます。画像所見だけを根拠にした減額には反論の余地があります。

身体的特徴があると減額されますか。

病気とはいえない個人差の範囲の身体的特徴は、特段の事情がないかぎり減額の理由になりません(最高裁平成8年10月29日判決)。首が長い、平均より外れた体格といった程度は、原則として斟酌されません。

心因的素因による減額とはどういうものですか。

被害者の心理的・性格的な要因が、治療の長期化などに影響したと認められる場合に減額されることがあります(最高裁昭和63年4月21日判決)。ただし、ケガをした人なら通常生じ得る範囲の不安や落ち込みまでが減額の理由になるわけではありません。

素因減額に反論するにはどうすればよいですか。

①それは疾患ではなく身体的特徴にすぎない、②事故前は無症状だった、③影響の程度が過大だ——という点を、事故前のカルテ・画像・就労状況・医師の意見などで示していきます。医学と法律が入り組む争点なので、早めに弁護士へ相談するのが有効です。

素因減額は慰謝料だけにかかりますか。

いいえ。慰謝料だけでなく治療費・休業損害・逸失利益などにも関わります。ただし、すべてに当然に同じ割合がかかるとは限らず、損害項目ごとに素因の関わり方を検討して判断されます。たとえば、もともとの障害をすでに逸失利益の計算に反映した場合は、同じ事情でさらに重ねて減額しない、という扱いもあります。

弁護士に頼むと素因減額の主張に対応できますか。

できます。素因が疾患か身体的特徴かの切り分け、事故前の無症状の立証、寄与度への反論などを、資料にもとづいて組み立てます。保険会社の提示をそのまま受け入れる前に、減額主張が妥当かを検討することをおすすめします。

本記事は一般的な解説です。素因減額が認められるかどうかや減額の割合は、既往症の内容・事故との関係・症状の経過によって異なります。具体的な事案は弁護士にご相談ください。

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