信号待ちで止まっているところに追突された、対向車がセンターラインをはみ出してきた――こうした自分にまったく落ち度のない事故を「もらい事故」といいます。ところが、いざ相手方と交渉しようとすると「ご自身の保険会社では対応できません」と言われて戸惑う被害者が少なくありません。このページでは、なぜそうなるのか、過失0だと何が有利で、どう進めればよいのかを、被害者側の弁護士の視点で整理します。
Q. もらい事故だと、自分の保険会社は示談交渉を代行してくれないのですか?
A. そのとおりです。被害者に過失が0だと、被害者側の任意保険会社は相手方との示談交渉を代行できません。自分で交渉するか、弁護士に依頼することになります。
Q. なぜ代行できないのですか?
A. 弁護士法72条(非弁行為の禁止)との関係です。保険会社が示談を代行できるのは、自社が賠償金を支払う立場にある場合に限られ、支払いのないもらい事故では代行が認められません。
Q. もらい事故は損をしますか、得をしますか?
A. 過失が0なら過失相殺による減額がなく、賠償は満額が原則です。あとは弁護士基準で算定できるかどうかで金額が変わります。交渉を任せられる弁護士費用特約が有効です。
もらい事故とは――被害者の過失が0の事故
もらい事故に法律上の定義があるわけではありませんが、実務では被害者側の過失割合が0(10対0)の事故を指します。避けようがなかった、こちらは交通ルールを守っていた、という事故です。代表的な類型は次のとおりです。
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| 類型 | 典型例 | 被害者の過失 |
|---|---|---|
| 停止中の追突 | 信号待ち・渋滞での停止中に後ろから追突された | 原則0 |
| センターオーバー | 対向車が中央線をはみ出して正面から衝突した | 原則0 |
| 信号無視(出会い頭) | 青信号で直進中、赤信号で交差点に進入した車に衝突された | 0が基本(修正あり) |
| 駐車中の被害 | 適法に駐車・停車していた車にぶつけられた | 原則0 |
| 後退・発進の誤り | 相手の一方的な後退やドア開放でぶつけられた | 原則0 |
停止中の追突・センターオーバー・駐車中の被害などは、被害者に落ち度がなく、過失0が原則です。
一方、信号のある交差点の出会い頭(赤信号無視の車との衝突)は、青信号側が0対100を基本としつつも、そのまま0で確定するとは限りません。青信号で進入する側にも、速度を守り、交差点に進入する際に左右の安全を確認する義務があるためです。相手の赤信号無視が明らかでも、被害者側の速度違反や、避けられたはずの状況があったと主張されれば、被害者にも過失が修正的に加算されることがあります。0か否かは事故態様によって変わりうるため、出会い頭の事故ほど事故状況の裏づけが重要になります。
なぜ自分の保険会社は示談交渉を代行できないのか
ふだんの事故では、加入している任意保険(対人・対物賠償)の保険会社が、相手方との示談交渉を代わりに行ってくれます。これを示談代行サービスといいます。ところが、もらい事故ではこのサービスが使えません。理由は弁護士法72条にあります。
弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で他人の法律事務(示談交渉を含む)を業として行うことを禁じています。これを非弁行為といい、違反には2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が定められています(弁護士法77条)。
示談代行が認められる仕組みと、もらい事故で認められない理由
では、通常の事故で保険会社が示談交渉できるのはなぜでしょうか。それは、加入者(被保険者)に過失があり、保険会社が加入者に代わって賠償金を支払う立場にあるからです。この場合、示談交渉は「保険会社自身の支払いに関わる自社の事務」といえるため、非弁行為にはあたりません。
もらい事故では、この前提が崩れます。被害者に過失が0であれば、被害者側の保険会社が相手方に支払う賠償金はありません。支払いがない以上、相手方との交渉は「保険会社の事務」ではなく「被害者(他人)の事務」の代行になってしまい、非弁行為に該当します。だから、被害者側の保険会社は示談交渉を代行できないのです。
「保険会社に断られた=見捨てられた」ではありません。これは各社共通の法律上の制約であって、担当者の対応が悪いわけでも、あなたの契約に問題があるわけでもありません。車両保険を使う場面など、自分の保険会社が関与することは残りますが、相手方との示談交渉の代行だけはできない、という整理です。
交渉相手は相手方の代理人
自分の保険会社が代行できない結果、被害者は相手方の任意保険会社と直接やり取りすることになります。ここで見落とされがちなのが、相手方の保険会社は加害者の側に立つ当事者だという点です。被害者の味方ではありません。
相手方の担当者は示談交渉のプロで、支払う賠償金はできるだけ抑えようとします。提示される金額は、自賠責の水準や各社の内部基準(任意保険基準)にとどまることが多く、裁判所が用いる弁護士基準を下回るのが通常です。交渉に不慣れな被害者が一人で対峙すると、本来受け取れる額より低い金額で示談してしまいがちです。
もらい事故は「過失0だから何もしなくても満額もらえる」と思われがちですが、実際には金額の根拠を主張しなければ弁護士基準の額は出てきません。過失が0であることと、損害額を適正に算定してもらえることは、別の問題です。交渉のテーブルに一人で座らないことが、そのまま結果に表れます。
加害者に賠償を求める根拠――自賠法3条は被害者に有利
自動車の運行によって人の生命・身体を害した場合、加害者(運行供用者)は自動車損害賠償保障法3条により損害賠償責任を負います。この規定は、被害者にとって立証の面で有利にできています。
民法709条の不法行為責任では、被害者が加害者の故意・過失を立証しなければなりません。これに対し自賠法3条では、被害者が加害者の過失を立証する必要はなく、加害者側が①自分と運転者が運行に関し注意を怠らなかったこと、②被害者または運転者以外の第三者に故意・過失があったこと、③自動車に構造上の欠陥・機能の障害がなかったこと、の3つをすべて立証できない限り、責任を免れません。人身の被害では、この枠組みが被害者を後押しします。
自賠責保険は、被害者の過失が7割以上でなければ減額されません。過失0のもらい事故では、当然ながら減額はありません。なお、自賠責は加害者に法律上の賠償責任がある人身損害が対象で、責任のない事故や自損事故は対象外です。
「もらい事故でも過失がつく」ことがある
相手方から「そちらにも少し過失がありますよね」と持ちかけられることがあります。過失割合が0から動くと、その分だけ賠償が減る(過失相殺)ため、ここは慎重に見極める必要があります。過失が例外的につきうる場面には、次のようなものがあります。
- 停止中ではなく走行中で、被害者側にも理由のない急ブレーキや不用意な進路変更があった場合
- 故障などで停車した際に、ハザードや停止表示など必要な措置を怠った場合
- センターオーバーでも、被害者側が容易に危険を回避できた特段の事情があった場合
もっとも、これらは相手方が主張・立証すべき事柄です。「過失がある」と言われても、その根拠が示されない限り、被害者が受け入れる必要はありません。停止中の追突のように類型上0が原則の事故では、0を維持できる場面が多くあります。
逆に、過失は事故の外形ではなく実質的な原因で判断されます。たとえば、あおり運転で前を走る車が急に割り込んで急ブレーキをかけ、後ろの車が追突した事案で、形式的には「追突した側」であっても、危険な運転をした前車を主たる原因として、追突した側の過失を0とした裁判例があります。「追突した=過失あり」と決めつけず、事故に至る経緯全体を見て主張することが大切です。
過失0を守る鍵は証拠です。ドライブレコーダーの映像、警察が作成する実況見分調書、事故直後の写真などで事故態様を裏づけられれば、相手方の減額主張に反論できます。示談を急がず、まず事故の状況を固めることが大切です。
過失0のメリット=過失相殺されない
被害者の過失が0であることには、金額面で大きな意味があります。過失相殺による減額がないからです。過失相殺は、被害者にも落ち度がある場合に、その割合だけ賠償額を減らす制度です(民法722条2項)。過失が0であれば、この減額は行われません。
たとえば損害の総額が同じでも、被害者に2割の過失があれば受取額は8割に減ります。過失が0なら、算定された損害をそのまま請求できます。だからこそ、0を維持することと、損害額そのものを弁護士基準で適正に算定することの両方が、最終的な受取額を左右します。具体的な慰謝料の水準は、慰謝料計算のページで確認できます。
もらい事故の進め方
- 治療に専念し、記録を残す。通院を継続し、症状や経過を医師に正確に伝えます。ドライブレコーダーや事故現場の写真は保存しておきます。
- 症状固定・後遺障害を見極める。これ以上よくならない段階(症状固定)まで治療したうえで、後遺障害が残れば等級認定を検討します。ここで示談を急がないことが重要です。
- 示談交渉。相手方の提示は弁護士基準と照らす。自分で交渉するか、弁護士費用特約を使って弁護士に依頼します。特約があれば自己負担なく依頼できることが多く、もらい事故こそ特約が活きる場面です。
デメリット・よくある誤解
- 「過失0なら弁護士は不要」ではありません。過失の有無と、損害額を適正に算定できるかは別です。弁護士が入ると弁護士基準で交渉でき、増額が見込めます。
- 「自分の保険会社が代行できない=保険料が無駄」ではありません。弁護士費用特約や車両保険など、使える補償は残っています。まず契約内容を確認してください。
- 示談は一度成立すると、あとからの上乗せが困難です。相手方の提示額をその場で受け入れず、根拠を確認してから判断してください。
よくある質問
もらい事故とは、どんな事故ですか?
被害者側の過失割合が0(10対0)の事故を指します。停止中の追突、対向車のセンターオーバー、駐車・停車中の被害などが典型例です。信号のある交差点の出会い頭のように、事故態様によっては被害者にも過失が修正的につくことがあり、その場合は0とは限りません。
なぜ自分の保険会社は示談交渉を代行してくれないのですか?
弁護士法72条(非弁行為の禁止)との関係です。保険会社の示談代行は、自社が賠償金を支払う立場にある場合に認められます。過失0のもらい事故では被害者側の保険会社に支払いがなく、他人の交渉を代行する形になるため、代行できません。各社共通の制約です。
相手方の保険会社と直接交渉して大丈夫ですか?
できますが、相手方の保険会社は加害者側の当事者で、被害者の味方ではありません。提示額は自賠責や任意保険基準にとどまり、弁護士基準を下回ることが多いため、金額の妥当性を必ず確認してください。不安があれば弁護士にご相談ください。
「あなたにも過失がある」と言われました。応じるべきですか?
過失があると主張・立証する責任は相手方にあります。根拠が示されない限り受け入れる必要はありません。停止中の追突など類型上0が原則の事故では、ドライブレコーダーや実況見分調書で0を維持できる場面が多くあります。
過失が0だと、賠償金は増えますか?
過失0では過失相殺による減額がなく、算定された損害を満額請求できます。そのうえで、慰謝料などを自賠責・任意保険基準ではなく弁護士基準で算定できれば、受取額はさらに変わります。0の維持と適正な算定の両方が重要です。
弁護士費用特約はもらい事故で使えますか?
使えることが多いです。自分の保険会社が交渉を代行できないもらい事故こそ、弁護士費用特約を使って弁護士に依頼する価値があります。ご自身や家族の自動車保険・火災保険の契約を確認してください。特約があれば自己負担なく依頼できる場合が多いです。
弁護士に頼むと費用倒れになりませんか?
弁護士費用特約があれば費用は保険でまかなわれ、自己負担なく依頼できることが多いです。特約がない場合も、当事務所は交通事故(被害者側)を着手金無料でお受けしており、増額分で費用をまかなえるかを事前にお見積りします。
もらい事故の相談はいつすればよいですか?
早いほど有利です。示談を提示された後よりも、治療中や事故直後に方針を相談しておくと、過失0の証拠を残し、治療の打ち切りや示談のタイミングで不利にならずに進められます。初回相談は30分無料です。
もらい事故は、自分の保険会社が交渉を代行できず、被害者が相手方の保険会社と一人で向き合わされがちです。難波みなみ法律事務所は交通事故(被害者側)を着手金無料でお受けし、元裁判官の弁護士が過失0の維持から慰謝料の増額まで対応します。弁護士費用特約が使える場合は自己負担なく依頼できます。初回相談30分無料、電話・メール・LINEで対応します。
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監修:難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会)。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。交通事故(被害者側)を着手金無料でお受けしています。初回相談30分無料、電話・メール・LINEで対応します。






