コラム
公開日: 2026.09.07

院内感染で損害賠償できる条件|弁護士が解説

難波みなみ法律事務所代表弁護士・中小企業診断士。大阪弁護士会所属(登録番号49544)、大阪中小企業診断士会所属(登録番号 420113)、幻冬舎「GOLDONLINE」連載第1回15回75回執筆担当。法的な問題には、法律の専門家である弁護士の助けが必要です。弁護士ドットコムココナラ弁護士ナビに掲載中。いつでもお気軽にご相談ください。初回相談無料(30分)。

結論

Q. 院内感染にかかったら、損害賠償できますか?
院内感染は誰にでも一定の確率で起こり得るため、感染したこと自体では過誤になりません。損害賠償が認められるのは、病院が標準的な感染対策を怠った場合や、感染の発見・診断・治療が遅れた場合など、注意義務違反があり、それによって被害が生じたといえるときです。

Q. どんな場合に責任が問われますか?
大きく2つです。①手指衛生・隔離・器具の消毒滅菌・抗菌薬の適正使用など、標準的な感染対策を怠った場合と、②感染の兆候があるのに早期の発見・診断・治療を怠って重症化させた場合です。裁判では②が争点になることが多いといえます。

Q. まず何をすべきですか?
カルテ・検査結果・細菌培養の結果・感染対策の記録を確保することが最優先です。時効もあります。早めに弁護士へご相談ください。

「入院や手術のあとに感染症にかかって重症化した」「病院の対応が遅れて手遅れになった」――院内感染は、患者や家族にとって納得のいかない結果につながることがあります。もっとも、院内感染は完全には防ぎきれない面があり、「感染した=病院の責任」とは限りません。この記事では、院内感染でどのような場合に損害賠償が認められるのか、責任が問われる場面と立証のポイントを、患者側の立場から弁護士が解説します。

院内感染とは

院内感染とは、入院や治療の過程で新たに病原体に感染することをいいます。原因となる菌はMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などが多く、手術を受けた患者や免疫が低下した患者で起こりやすいとされます。医療の現場では一定の確率で発生を避けられない面があるため、感染が起きたこと自体で当然に医療過誤になるわけではありません。損害賠償が認められるには、感染対策や感染後の対応に注意義務の違反(過失)があり、それによって被害が生じたこと(因果関係)が必要です。

責任が問われる2つの場面

院内感染で病院の責任が問われるのは、大きく次の2つの場面です。

場面内容の例
① 感染対策の懈怠手指衛生(消毒)、患者の隔離、医療器具の消毒・滅菌、抗菌薬の適正な使用など、標準的とされる感染対策を怠ったために感染が起きた・広がった。
② 発見・治療の遅れ発熱や炎症反応などの感染の兆候があるのに、検査や診断が遅れ、適切な抗菌薬治療などの対応が遅れて重症化させた。

裁判では、感染の発生そのものについて病院の過失を認めるのは容易ではなく、むしろ②の「発見・治療の遅れ」が責任の争点になることが多いといえます。感染は避けられなかったとしても、その後の対応が適切であれば重症化を防げたのではないか、という観点から検討されます。

「感染は防げなくても、その後の対応は問える」。院内感染の事案では、感染の発生よりも、発熱や検査値の異常に気づきながら対応が遅れた点に過失が認められることが少なくありません。カルテに感染の兆候がいつ現れ、いつ対応されたかを確認する価値があります。

感染源・感染経路と因果関係

院内感染の事案では、どこで・どの経路で感染したのか(感染源・感染経路)の特定が難しいという壁があります。患者がもともと菌を保有していた可能性や、入院前からの感染(市中感染)との区別がつきにくいこともあり、「病院内で・病院の落ち度によって感染した」という因果関係の立証が難しい場合があります。こうした事情もあって、実務では感染の発生そのものより、標準的な対策の懈怠や発見・治療の遅れが主たる争点になりやすいのです。因果関係の証明の考え方(高度の蓋然性や「相当程度の可能性」)は、誤診・がんの見落としの記事で解説しています。

過失の判断基準

感染対策や感染後の対応に過失があったかは、診療当時の医療水準を基準に判断されます。手指衛生や器具の消毒滅菌、感染の疑いがあるときの検査・治療などは、厚生労働省などが示す感染対策の指針や各医療機関の実情を踏まえて、「その時点で行うべきだった対応がとられていたか」で評価されます。「感染は避けられないものだ」という一般論だけでは、対応の遅れや基本的な対策の欠如を正当化することはできません。

とくに病院や入院設備のある診療所には、医療法(6条の12)にもとづき、①院内感染対策の指針を定めること、②院内感染対策のための委員会を開くこと、③職員への研修を行うこと、④感染の発生状況を把握して改善につなげることといった、感染対策の体制づくりが義務づけられています。こうした基本的な体制を欠いていたことは、過失を基礎づける事情になり得ます。

誰が責任を負うのか

院内感染では、診療にあたった主治医や、処置・ケアを担う看護師の対応が問題になり、雇用する病院が使用者として責任を負います。とくに院内感染は、個々の医療者の問題にとどまらず、院内の感染対策の体制(マニュアルの整備・手指衛生の徹底・感染の監視)が十分だったかという、病院の組織的な問題としても評価されます。手術に関連する感染では、手術そのものの手技の問題と重なることもあります(手術ミスの記事もあわせてご覧ください)。

立証と、まずすべきこと

院内感染は、記録から経過を追うことが出発点です。まずは記録を確保しましょう。

1. カルテ・検査結果・培養結果を確保する

カルテ、体温や炎症反応(血液検査)の推移、細菌培養・感受性検査の結果、抗菌薬の投与記録、手術記録、看護記録などを、カルテ開示を請求して入手します。とくに、感染の兆候がいつ現れ、いつ検査・治療がなされたかの時系列が重要です。手順は証拠収集・カルテ開示の記事にまとめています。改変のおそれがあるときは証拠保全を検討します。

2. 協力医とともに、対策と対応を検討する

入手した記録を、同じ分野の協力医とともに精査し、標準的な感染対策がとられていたか、感染の兆候に対して適時に検査・治療がなされたか、対応していれば重症化を避けられたか(因果関係)を検討します。

弁護士の視点

院内感染は「感染したこと」だけを見ると、防ぎようがなかったと片づけられがちです。しかし記録をていねいに追うと、発熱や検査値の異常というサインが出ていたのに対応が遅れた、という経過が見えてくることが少なくありません。大切なのは、結果ではなく、その時々の記録から「すべき対応がとられていたか」を評価することです。当事務所には元裁判官の弁護士が在籍し、記録から過失をどう組み立てるかの見立てもお伝えできます。

よくある質問(FAQ)

院内感染にかかれば、必ず損害賠償できますか?

いいえ。院内感染は誰にでも一定の確率で起こり得るため、感染したこと自体では過誤になりません。病院が標準的な感染対策を怠った、または感染の発見・治療が遅れたなどの注意義務違反があり、それによって被害が生じたこと(因果関係)を立証できて、はじめて損害賠償が認められます。

どんな場合に病院の責任が問われますか?

大きく2つです。①手指衛生・隔離・器具の消毒滅菌・抗菌薬の適正使用など、標準的な感染対策を怠った場合。②発熱や炎症反応などの感染の兆候があるのに、検査・診断・治療が遅れて重症化させた場合です。裁判では②の「発見・治療の遅れ」が争点になることが多いといえます。

「感染は避けられなかった」と言われました。あきらめるしかないですか?

あきらめる必要はありません。感染の発生自体は避けられなかったとしても、その後の発見・治療が適切であれば重症化を防げたのではないか、という観点から検討します。記録から、感染の兆候にいつ気づき、いつ対応したかを確認する価値があります。

どこで感染したか分からなくても、請求できますか?

感染源・感染経路の特定は難しく、因果関係の立証が壁になることがあります。もともとの保菌や入院前からの感染(市中感染)との区別がつきにくいためです。だからこそ実務では、感染の発生そのものより、標準的な対策の懈怠や発見・治療の遅れを中心に検討することが多くなります。記録に基づく検討が重要です。

責任は誰が負いますか?

診療にあたった主治医や、処置・ケアを担う看護師の対応が問題になり、雇用する病院も使用者として責任を負います。院内感染は、院内の感染対策の体制(マニュアル整備・手指衛生の徹底・感染の監視)が十分だったかという、病院の組織的な問題としても評価されます。

過失があったかは、何を基準に判断されますか?

診療当時の医療水準を基準に判断されます。手指衛生や器具の消毒滅菌、感染が疑われるときの検査・治療などについて、厚生労働省などが示す感染対策の指針や医療機関の実情を踏まえ、「その時点で行うべきだった対応がとられていたか」で評価されます。

院内感染を証明するには、何が必要ですか?

カルテ、体温・炎症反応(血液検査)の推移、細菌培養・感受性検査の結果、抗菌薬の投与記録、手術記録、看護記録が重要です。とくに、感染の兆候がいつ現れ、いつ検査・治療がなされたかの時系列を確保し、協力医とともに検討します。これらはカルテ開示や証拠保全で確保します。

院内感染を疑ったら、まず何をすべきですか?

カルテ・検査結果・培養結果・感染対策の記録が失われたり書き換えられたりしないうちに、カルテ開示や証拠保全を検討して確保することが最優先です。時効もあるため、早めに弁護士へご相談ください。

院内感染でお悩みの方へ

「感染は避けられなかった」と言われても、その後の対応の遅れは記録から検討できます。まずはカルテと検査・培養結果の確保が第一歩です。初回無料で、過失の可能性と見通しをお伝えします。大阪・なんばの弁護士が、お電話・メール・LINEで承ります。

監修:難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号 49544/中小企業診断士)。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。初回相談30分無料。本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。

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