Q. 分娩監視(CTG)の見落としで、損害賠償できますか?
CTG(胎児心拍数モニタリング)に胎児の異常を示すサインが出ていたのに、それを見落としたり、必要な対応が遅れたりして赤ちゃんに被害が生じた場合、分娩監視義務違反として損害賠償が認められることがあります。ただし、異常への対応と結果との因果関係の立証が必要です。
Q. どんな場合に過失が問われますか?
連続的な監視が必要な場面で監視を怠った、一過性徐脈などの異常波形を見落とした、CTGが異常なのに陣痛促進剤を続けて帝王切開などの決断が遅れた――といった場合です。
Q. まず何をすべきですか?
CTGの記録(原本)を証拠保全で確保することが最優先です。産科ではCTGの内容で結論が大きく変わるため、早めに弁護士へご相談ください。
「お産のとき、赤ちゃんの心拍の異常に気づいてもらえなかったのではないか」「もっと早く帝王切開をしてくれていれば」――分娩中の胎児の状態は、CTG(胎児心拍数モニタリング)という装置で見守られています。このCTGの波形の読み取り(判読)を誤ったり、異常が出ているのに対応が遅れたりすると、赤ちゃんに重い被害が生じることがあります。この記事では、分娩監視(CTG)の見落としや分娩監視義務違反で、どのような場合に損害賠償が認められるのか、過失が問われる場面と立証のポイントを、患者側の立場から弁護士が解説します。
CTG(胎児心拍数モニタリング)とは
CTG(胎児心拍数陣痛図)とは、分娩監視装置を使って、赤ちゃんの心拍数とお母さんの子宮収縮(陣痛)を同時に記録し、波形として表したものです。陣痛のたびに赤ちゃんがどう反応しているかを見ることで、胎児が元気か、酸素が足りない状態(胎児機能不全)に陥っていないかを推し量ります。判読は、日本産科婦人科学会などが示す用語・基準や、「胎児心拍数波形の分類に基づく分娩時胎児管理の指針」に沿って行うのが標準的で、波形のパターンごとに、どの程度の対応が必要かが整理されています。
具体的には、CTGの波形は、心拍数の基線・一過性徐脈・基線細変動といった要素の組み合わせから、胎児の低酸素などのリスクの程度に応じて、レベル1(正常)からレベル5(高度異常)の5段階に分類されます。一般にレベル3以上が「胎児機能不全」を疑う波形とされ、レベルが上がるほど、監視の強化や急速遂娩といった、より積極的な対応が必要になると整理されています。
| 波形のレベル | 一般的に必要とされる対応(医師) |
|---|---|
| レベル1(正常) | 経過観察。 |
| レベル2(亜正常) | 経過観察、または監視の強化・保存的処置。 |
| レベル3(異常・軽度) | 監視の強化・保存的処置、または原因検索と急速遂娩の準備。 |
| レベル4(異常・中等度) | 原因検索と急速遂娩の準備、または急速遂娩の実行・新生児蘇生の準備。 |
| レベル5(異常・高度) | 急速遂娩の実行・新生児蘇生の準備。 |
※保存的処置とは、体位変換・酸素投与・輸液・子宮収縮薬の調節や中止などをいいます(日本産科婦人科学会の「胎児心拍数波形分類に基づく対応と処置」に基づく)。レベルが高いのに、それに見合った監視の強化や急速遂娩がとられなかった場合には、分娩監視義務違反が問題になります。
なお、こうした学会の指針やガイドラインは、医療水準を判断するうえで重要な手がかりになりますが、それ自体が法的な責任の基準を定めたものではありません。指針どおりでなかったことが、ただちに過失になるわけではなく、逆に、指針を形式的に守っていても、その時々の状況に応じた対応を怠れば過失が問われることがあります。あくまで診療当時の医療水準に照らして判断されます。
分娩監視義務とは
分娩監視義務とは、分娩の経過中に、赤ちゃんの状態を適切に監視し、異常があれば早期に発見して必要な対応をとる義務のことです。監視の方法には、分娩監視装置で連続的に監視する方法と、一定の間隔で心音を確認する間欠的な方法があります。ハイリスクの場合や分娩が進んだ段階、陣痛促進剤を使う場合などは、連続的な監視が必要とされます。どこまでの監視が求められるかは、診療当時の医療水準に照らして判断されます。「異常が早く分かっていれば、対応が間に合ったのではないか」という点が、産科の事案では繰り返し問題になります。
ここでいう医療水準は、全国一律に決まるものではなく、その医療機関の性格や地域の医療環境などの事情を踏まえて判断されるとされています(最高裁平成7年6月9日判決)。そのため、規模の大きな総合病院と、設備や人員の限られた小規模な産院とで、求められる対応が異なる場合があります。もっとも、自院で十分な対応ができないときは、より高度な医療機関へ移す転送義務を負うと考えられており、設備が乏しいことだけを理由に責任を免れられるわけではありません。
連続監視が必要な場面で監視を怠っていないか。前期破水や常位胎盤早期剝離などは急に悪化することがあり、連続的な監視をしていれば異常を早く見つけられた、という経過が記録から見えてくることがあります。
過失が問われる主な場面
もっとも、連続的な監視が常に義務づけられるわけではありません。陣痛促進剤の添付文書に連続的な監視の記載があっても、その時点で胎児の心拍が安定していたと評価される場合には、連続監視をしなかったことが義務違反にあたらないと判断された裁判例もあります。どこまでの監視が必要かは、その時々の胎児の状態や分娩の経過に応じて個別に判断されるため、記録に基づく検討が欠かせません。
分娩監視をめぐって過失が問われる場面は、大きく次の3つに整理できます。
| 類型 | 内容の例 |
|---|---|
| ① 陣痛促進剤の投与方法 | 陣痛促進剤(子宮収縮剤)を、添付文書に沿って少量から始めて一定時間ごとに増量する・母体と胎児を連続的に監視するといった手順を守らないまま、または過剰に使用して、子宮が過度に収縮し、胎児に負担がかかった。 |
| ② 急速遂娩・帝王切開の決断の遅れ | 胎児の低酸素が疑われるのに、子宮収縮剤の中止・体位変換などの措置や、帝王切開・吸引・鉗子などの急速遂娩の決断・実施が遅れた。遂娩の方法の選択を誤った。 |
| ③ 分娩監視が不十分 | 連続的な監視が必要な場面で監視を怠った。一過性徐脈などの異常に気づかなかった。CTGが異常波形を示しているのに陣痛促進剤の投与を続けた。 |
実際の裁判でも、CTGの判読を誤って常位胎盤早期剝離の発見や高次医療機関への転送が遅れたケースについて、医師の過失を認めた例があります(徳島地裁平成30年7月11日)。自院で対応が難しいときに、より高度な医療機関へ送る判断の遅れ(転送・転院義務)とあわせて争点になることも少なくありません。
CTGの異常サインと、とるべき対応
CTGの波形には、胎児の状態が心配される「サイン」があります。代表的なものと、一般に必要とされる対応の考え方は次のとおりです(実際の判断は個別の状況によります)。
| CTGのサイン | 意味・考え方 |
|---|---|
| 基線細変動の減少・消失 | 元気な胎児に見られる心拍の細かなゆらぎが乏しくなる。胎児の状態が悪化しているサインのことがある。 |
| 遅発一過性徐脈 | 陣痛のあとに遅れて心拍が下がるパターン。胎盤を通じた酸素の供給が不足していることを疑わせるとされる。 |
| 遷延一過性徐脈・高度徐脈 | 心拍の低下が長く続く、または大きく下がる。緊急の対応が必要な場面がある。 |
| とるべき対応の例 | 陣痛促進剤の中止、母体の体位変換、酸素投与、輸液などで改善を図り、改善しなければ帝王切開などの急速遂娩を検討する。 |
ポイントは、サインに気づいてから、どれだけ速く適切に動けたかです。分娩の場面では、状態が急変してから赤ちゃんが生まれるまでの時間が結果を大きく左右するため、「異常波形が出ていたのに、対応や決断が遅れた」という点が過失として問題になりやすいのです。
脳性麻痺と「因果関係」
分娩監視の過失が疑われる場合でも、大きな壁になるのが因果関係です。かつては、脳性麻痺の多くが分娩時の低酸素によるものと考えられていましたが、近年は、分娩のときに生じた低酸素が原因とされるのは全体の一部にとどまるとの知見が有力になっています。脳性麻痺には、出生前の要因(子宮内感染、胎盤・臍帯の異常、胎児自身の要因など)も多く関わるため、「分娩の対応が適切であれば障害を避けられた」といえるかどうかの判断が難しい場合があります。
この点、分娩時の低酸素が脳性麻痺の原因かどうかを判断する手がかりとして、米国の産科・小児科の学会が共同で示した診断基準(1999年に策定され、2003年に改訂されたもの)が用いられることがあります。もっとも、裁判所はこの基準を機械的に当てはめて結論を出すのではなく、ほかの所見もあわせて、分娩時の低酸素が脳性麻痺の原因として合理的に説明できるかを法的な観点から評価します。また、CTGで胎児機能不全が疑われても、それが必ずしも新生児仮死やその後の障害に直結するとは限りません(実際、波形に異常が出ても赤ちゃんが元気なことは少なくなく、逆に異常がなければ元気であることはほぼ確実とされます)。因果関係が完全には証明しきれない場合でも、適切な医療で救えた「相当程度の可能性」があったといえるときには、損害賠償が認められることがあります(最高裁平成12年9月22日判決)。因果関係の考え方は、誤診・がんの見落としの記事や産科医療過誤の総論でもくわしく解説しています。
実際の裁判例(認められた例・認められなかった例)
分娩監視やCTGの判読をめぐっては、近年も損害賠償を認めた裁判例が相次いでいます。主なものは次のとおりです(いずれも裁判所名と判決の年月日で示します)。
| 裁判例 | 概要 |
|---|---|
| 東京地裁 令和7年3月31日 | 子宮の収縮が過度に頻回で胎児機能不全もあったのに、陣痛促進剤(オキシトシン)の投与を中止せず続けた過失を認めた。 |
| 静岡地裁浜松支部 令和6年12月9日 | 異常波形が長く続くなどしていたのに、緊急帝王切開への切替えが遅れた過失を認めた。 |
| 東京地裁 令和5年2月20日 | CTGに異常波形が出たのに、助産師が医師に報告せず、陣痛促進剤の中止・減量もしなかった過失を認めた(お母さんが子宮破裂で亡くなった事案)。 |
| 広島高裁岡山支部 平成30年7月26日 | 心拍が大きく下がる高度の徐脈が出た時点で、急速遂娩(帝王切開)をすべきだったのに遅れた過失を認めた。 |
一方で、責任が否定された例もあります。波形の異常が軽い段階(レベル3程度)にとどまる場合には、監視を強化すれば足り、ただちに急速遂娩まで行う義務はないとして請求が退けられた例(大阪高裁令和5年10月13日。最高裁でも確定)や、CTGに現れた速い心拍が、実は赤ちゃんではなくお母さん(母体)の心拍を拾ったものだったと判断されて責任が否定された例(東京地裁平成27年10月9日)もあります。波形をどう読むか、どの時点で何をすべきだったかが結論を大きく左右するため、CTGの記録の確保と、産科にくわしい協力医による精査が欠かせません。
立証と、まずすべきこと
CTGの事案は、記録そのものが決定的な証拠になります。まずは記録の確保が出発点です。
CTGは、いつ異常のサインが出て、いつ対応がなされたかを示す中心的な資料です。産科は小規模な個人医院も多く、CTGの内容しだいで結論が左右されるため、実務では、カルテ開示を待つよりも、裁判所を通じてその場で記録を保全する「証拠保全」(民事訴訟法234条)を第一に検討します。手順は証拠収集・カルテ開示の記事にまとめています。
カルテ、分娩経過の記録、看護・助産記録、新生児の記録などを確保し、CTGの波形と、その時々の対応(薬剤の投与、体位変換、医師への報告、帝王切開の決定など)を時系列で突き合わせます。
確保した記録を、産科にくわしい協力医とともに精査し、CTGの判読が適切だったか、異常に対して行うべき対応がとられていたか、適切に対応していれば結果を避けられたか(因果関係)を検討します。
産科の事案は、「赤ちゃんに障害が残った」という結果だけを見ると、防ぎようがなかったと片づけられがちです。しかしCTGの波形は、その時々の胎児の状態と、医療者がどう対応したかを、あとから客観的に検証できる貴重な記録です。だからこそ、原本をいち早く証拠保全でおさえることが何より大切だと考えています。当事務所には元裁判官の弁護士が在籍し、看護を学んだ協力弁護士とも連携して、記録から過失と因果をどう組み立てるかの見立てをお伝えできます。
よくある質問(FAQ)
CTGに異常があれば、必ず損害賠償できますか?
いいえ。CTGに異常のサインが出ていたこと自体では過誤になりません。その異常を見落とした、または必要な対応が遅れたという注意義務違反があり、適切に対応していれば結果を避けられた(因果関係)といえて、はじめて損害賠償が認められます。
分娩監視義務違反とは、どういうことですか?
分娩中に赤ちゃんの状態を適切に監視し、異常があれば早期に発見して必要な対応をとる義務に反することです。連続的な監視が必要な場面で監視を怠った、異常波形を見落とした、異常があるのに帝王切開などの決断が遅れた、といった場合に問題になります。求められる監視の程度は診療当時の医療水準で判断されます。
どんな場合に過失が問われますか?
大きく3つです。①陣痛促進剤(子宮収縮剤)を連続監視や説明をしないまま、または過剰に使用した場合。②胎児の低酸素が疑われるのに帝王切開などの急速遂娩の決断・実施が遅れた、遂娩方法の選択を誤った場合。③連続監視を怠った、一過性徐脈などの異常を見落とした、異常波形なのに促進剤を続けた場合です。
「CTGに問題はなかった」と説明されました。あきらめるしかないですか?
あきらめる必要はありません。CTGの波形は客観的な記録なので、産科にくわしい協力医とともに精査すると、実際には異常のサインが出ていたのに対応が遅れていた、という経過が見えてくることがあります。まずは記録を確保して検討することが大切です。
脳性麻痺は、分娩監視の問題が原因といえますか?
必ずしもそうとは限りません。近年は、脳性麻痺のうち分娩のときの低酸素が原因とされるのは一部にとどまるとの知見が有力で、出生前の要因も多く関わります。分娩時の低酸素が原因かどうかは、学会が示す診断基準なども手がかりに、ほかの所見もあわせて総合的に検討されます。
CTGの記録は、あとから入手できますか?
カルテ開示や証拠保全で入手できます。とくに産科では、CTGの内容で結論が左右されるうえ、小規模な医院も多いことから、記録が失われたり書き換えられたりしないよう、実務ではカルテ開示より先に、裁判所を通じた証拠保全を第一に検討します。
証明には何が必要ですか?
CTGの記録(原本)を中心に、カルテ、分娩経過の記録、看護・助産記録、新生児の記録が重要です。波形と、その時々の対応(薬剤の投与、体位変換、医師への報告、帝王切開の決定など)を時系列で突き合わせ、産科にくわしい協力医とともに判読と対応の適否、因果関係を検討します。
お産の事故を疑ったら、まず何をすべきですか?
CTGや分娩経過の記録が失われたり書き換えられたりしないうちに確保することが最優先です。産科では、カルテ開示より先に証拠保全を第一に検討します。時効もあるため、早めに弁護士へご相談ください。
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監修:難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝(大阪弁護士会・登録番号 49544/中小企業診断士)。大阪市中央区西心斎橋2-4-3 難波御堂筋ビル403。初回相談30分無料。本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。CTGの判読や医療水準の評価は個別の事情により異なります。






